碧の道へ続く青い影
古都ナハトバの東の山奥に住む少年イトゥサが、国同士の争いに巻き込まれながら様々な国を旅することになる話しです。
子供のイトゥサの目線から苦労し、揉まれる事で徐々に少年から青年、大人へと成長を遂げる中で様々な国の色んな思惑とそこに生きる人々の想いを感じ、考え、迷い、悩みながらも真実に近づいていく成長物語です。
夕闇が迫る中、山道を転びそうになりながら必死で走るイトゥサは何度も願っていた。これは悪い夢に違いないと。
きっと目覚めれば、いつもの母グアネラの優しい笑顔とガモジャオのスープのいい匂いでイトゥサの朝が始まるはずなのだ。
イトゥサの住む村は山奥にあった。街からも大都市からも随分遠くにあったので旅人が訪れるのも年に数回あるか無いかの静かな村だった。
数ヶ月に一度は行商のキャラバンが村に物を売りに来ていたので、村の人達は生活に必要な物と村で収穫した新鮮な野菜や樹の実や野生動物の肉を物々交換して生計を立てていた。
この村の長テオラロは、古き戦友であるキャラバン隊長ジョラスに街や都市の話しを聞き表情を曇らせた。
「もうすぐ戦になるかもしれない。北部マヒュメラでキャラバン隊が何人も掴まって殺されたらしい。何とか逃げ出せた数人がナハトバまで辿り着いたがその後、首の無い遺体がナハトバの道沿いに転がっていた。防壁の衛兵達が居眠りしてたんだよ。」ジョラスが白い顎髭を触りながら眉間に皺を寄せて言った。
「たった十年でまた戦か。前の戦で若者を失ったばかりなのに。儂らが戦に出た頃はそんな事は無かったな。」
「今回は長い戦になるやもしれない。ナハトバの税金も軒並み上がっている。東のカシュトゥムが攻めて来なければ良いが。」そうやって戦友の二人は東の山々を見つめた。
二十数年前に東のカシュトゥムと大きな戦になり、国中から歩兵が集められた。
この小さな村からも例外なく徴兵され、その時若かったテオラロは戦場で刀傷を負ったジョラスを担いで命からがら部隊に戻った。
テオラロより10才若い将軍が騎馬でカシュトゥムの将軍と対峙し、一歩も譲らず戦い抜いた事からカシュトゥムが兵を収め和平交渉に合意することになった。
多くの兵士達の血が流れたが、「ナハトバに猛将ネモスあり。」とカシュトゥムの人々は恐れ以来、東の山脈沿いの地域は平和が保たれていたのだった。