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日記

作者: 三文字

 金曜日の夜中に酒を飲み、翌日の土曜日は何も予定がないと分かっていた割には早く起きた。割と目覚めも悪くなかった。体に酒が回っているという感覚も特にないのだが、しかし文章を書きたいというよく分からない欲求が体の中に、意味もなく巡っているのをかすかに感じていた。

 やりたいことなど大してない。小説をただ書きたい。何でも良いから、とにかく小説を書いて書いて書き続けて、うまい小説が書けるようになりたい。でも習うのは嫌だ。少なくとも今はまだ嫌だ。いかにも作った感じのある小説を書くのも読むのも嫌いだ、上から作者が材料をこねて作った様な小説ではなくて、何か下の方からよく分からないものが霧のように立ち現れてくるような、そんな物語が書きたい。


 そんなことを考えていた。朝食に何を食べるか考えつつも、どこかでそのことを考えていた。いたというよりは、いつも考えている。いつもといったら、いや、嘘になるかもしれない。仕事の時は考えていない。寝ているときもほとんど小説のことが夢に出てくることも不思議なくらいない。でも、テレビを見ていたり、歯を磨いたり、音楽を聴いていたりする時に、そんな、些細な時にふとそんなことが頭によぎることがよくあって、それくらいに書きたいと思っている。


 朝食を終えた後、午前中はずっと色んな学問の本を読んでいた。元からこういうのが好きな性格だったから、コロナ騒動が大きくなり始めた当初は、引きこもり的な自分の行動が正当化される、珍しい世の中がやってきたような感じで、少し楽な気さえした。しかし段々とそうも言ってられなくなってくる。

 でも仕方がない。コロナだ。別にコロナにかかったとか、仕事がないとかではないが、友人と会う機会がゼロとなり、職場での人との接触も、自宅勤務や行事の中止など、感染対策の関係で大幅に減って、人間関係のあり方がすっかり変わってしまった。


 昼食に弁当を買うことにした。ついでに散歩をしようと外に出た。町内会の活動が盛んな地域でも、近所付き合いがあるわけでもないから外に出れば他人ばかりだ。まだ正午には一時間以上あってしかも暇だ、仕方がない、僕は人気のない近所の緑地を闇雲に歩き回った。最近目が疲れていたので、木々が鬱蒼としているのをひたすら目に曝してその疲れを幾分か癒そうと思った。そして足を闇雲に動かして血流を活発にさせ、ほとんど何も考えずにいるうち、自分自身の色々な何かが少しずつほぐれていくのを感じる。


 最近の休日はしばらく小説も書かずに、ずっとそうやって過ごしてきた。そのほうがある意味普通の人間の生活に近いのかも知れない。自分の心の中に何かわだかまりや、あるいは表現したいことがあっても、それだけで小説を書くということには普通ならないだろう。その思いが何なのか正体を確かめもしないだろうし、ましてやそのことについて書きとめることもなく、それこそ昨日の自分のように酒を飲んだりして、大半の人は忘れていくのだろう。

 僕はそういう何も考えない生活が嫌なわけでもなかった。ただ何となくやたらと書いてきただけで、その言葉に大して意味もなくて、書くようになった発端は誰がというわけでもなく、自分の意志もあるにはあるが、書いたというのは要するにただの結果で、それまでに色々なことがあって偶然そうなったのだと思う。


 散歩のついでにコンビニで弁当を買った。家についてシャワーを浴びて弁当を食べ、日記を取り出して午前中の何でもないようなことを長々と綴る。そういえば僕の創作の原体験は子どものころから書いているこの日記じゃないだろうか。こんな日記を書く日々の中から、再びふっと何かが立ち現れるかのように小説の構想が生まれる時がくるかもしれない。そう思うと、日記くらいしか書くことのない日々があってもまあいいか、と思えた。

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