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023.悪役令嬢は悪役令嬢と邂逅する

昨日は更新できず申し訳ありませんでした。

 あれからリリィさんは本当に元気になり、これまであまりできなかった貴族令嬢としての教育が急ピッチで行われていた。

 その理由は翌年に控えたデビュタントの為、そして再来年の学園入学をも考えてのことだとか。

 なので彼女も一生懸命なのだが、これまでまともに動くこともできなかったので、今の状況がたまらなく楽しいらしい。私とアリスさんもその後会いにいったのだが、本当に元気で驚いたものだ。

 そんな幸先明るい感じの学園生活を送っていたのだけれど……。


「あの、アルト様? 一体どんなご用件でしょうか?」


 放課後──どうしてか私は、アルト様に生徒会室へと連れてこられてしまった。幸いにも他の方はいらっしゃらず、私の目の前にはアルト様おひとりだけ。

 そんなアルト様だが、浮かべる笑みの中にどうにも影がさしているように見える。つまりは、ちょいとご機嫌斜め状態だ。

 私の質問に軽く息を吐くと、ゆっくりと話し始めた。


「……マリア、君は最近シューデルン先生の家によくお邪魔しているそうだね」

「へ? ……あっ、それはその、そうなんですけど、違うっていうか、アルト様が思っているのとは──」

「安心していいよ。シューデルン先生の妹さん──リリィ嬢に会いにいってるのだろう?」

「──えっ! な、なぜアルト様がそのことを!?」


 驚く私を見てアルト様は、少しばかり溜飲が下がったらしい。先ほどよりこちらに向ける視線が、多少穏やかになった。


「私の情報網を甘くみないで欲しいかな。でも、そのことを知っているのは学園では私とカイルだけだよ」

「そ、そうですか……」


 私の反応に満足したのか、さらに表情を和らげて言葉をつづける。


「それで……リリィ嬢とは仲良くなれたのかな?」

「あ、はいっ。初めて会った時はとてもか弱い感じでしたが、今では私とアリスさんをぐいぐい引っ張る元気っぷりで……」


 ちょっと嬉しくなったので、リリイさんと仲良くなりどんな感じなのかをアルト様に話した。

 女三人よれば、姦しいやかましいという感じだが、華やかな情景を聞き笑みを浮かべているアルト様だったが。


「マリア、君とアリス嬢は……リリィ嬢に聖女の力を使ったんだね?」


 先ほどまでと違い、どこか恐れおののいてしまいそうな声がした。

 声の主は目の前のアルト様。その表情は先ほどと違い、細めた目でこちらをしっかりにらんでいる。その迫力に私は言葉が詰まってしまう。


「病に苦しむ者を助ける事……それは正しいのかもしれない。しかし、その『奇跡』の力を妬み狙うものがいるのも事実だろう」

「あ…………はい、そう……ですね」


 アルト様の言葉に思わず気落ちしてしまう。私やアリスさんの力が特異なのは理解しているが、それを必ずしも万人が良い事に感じないのも事実だろう。


「できる事ならば、その力はしばらく使用を控えてもらいたいと思うのだが…………」


 言いながらアルト様が私を見ると言葉を止めてしまう。それが何故かはなんとなくわかる。

 今私は悲しみと悔しさが合わさった表情をしているからだろう。軽率な行動についてもだが、それでも人を助けられる力をもっているのに、それを上手に使えないことが悔しいと思った。

 私の心情が理解できたのだろう、アルト様は暫し何もいわずにじっとこちらを見ていた。何か考えているようにも思えたが、私はアルト様ほど他人への察しが鋭くない。


「……仕方ない。それならば……聖女の正式な公表を早めるか?」

「えっ…………」


 今日は何度アルト様の言葉に驚かされるのか。

 だが今アルト様が発した事は、いよいよ私がそういった目で見られる日が始めるぞという意味だ。いや、私だけじゃない。おそらくはアリスさんも一緒だ。むしろ彼女の方こそ、この国の正式な聖女なのだから。

 どうしたらいいか迷うが、何よりこれは一人では決められない問題だ。ううん、私やアリスさんだけじゃんく、きっと国王陛下や王妃殿下にも関わってくる問題だろう。

 私が悩んでいるのがわかったのだろう。アルト様は、そっと私の手をとってくださった。


「少し急な話だったな、すまなかった」

「い、いえ、もとはといえば私が……」


 私がまいた種だ──と言おうとしたが、そっとアルト様が視線で止める。


「今日はもう遅い。寮の前まで送っていこう。……遅らせてくれ」

「…………はい」


 アルト様の手にひかれて立ち上がり、そのまま生徒会室を出る。そこで施錠のために離された手が、どこか残念に感じてしまったのは自分でも驚いた。

 ただ……悪い気はしなかった。だからこそ、アルト殿下から申し込まれた婚約の話も少しの罪悪感が生まれる。

 でも今の私には、まだそれにこたえられる気がしなかった。

 そんな、どこかあやふやな感情のまま、この日は寮へと戻ったのだった。






 ──翌日、昨日のことがまだ少しひっかかるけど普通に学園生活を送っていたら、私を呼び止める方がいた。

 見たことがない方だな……と思っていると先方から挨拶された。


「私はエルテリウム公爵家の長女、ヴァニス・エルテリーバスですわ。この学園の生徒会役員を務めている三年生ですわ」

「これはどうもご丁寧に。私はセルフライム伯爵家の長女、マリア・セルフライム、一年生です。それでヴァニス様、どのようなご用件でしょうか?」

「……どのような、ですって?」


 何か気に障ったのか、わかりやすく頬をひくつかせられた。


「貴女……昨日の放課後に、アルト殿下と二人で何をしていらしたの?」


 キッと強い目に睨みつけられた。その質問の意図はまだわからないけど、少なくとも私はヴァニス様からあまりよろしくない印象をもたれているようだ。

 だけどどうしようか……昨日アルト様と話した内容は、まだおいそれと話していいことじゃない気がする。なのでここは、仕方ないけど曖昧にするしかないか。


「いえ、特に何かしていた訳ではありませ──」

「当たり前です! アルト殿下があなたのような人と、何かあるわけないでしょう」

「それなら──」

「ですが、昨日あなたとアルト殿下が一緒の時間を過ごしていたことは知っています。いったい殿下と何をしていたのですか?」


 うっわぁ……自分主観でしか世界を見れない人だぁ……。

 少し前にもユアンナさんに絡まれたことあったけど、彼女の場合は“聖女”という(おおやけ)にして問題たる話だから聞いてきたのだ。なのでその後すぐに和解して、すっかりお友達になれましたが。


「そもそも、何故あなたのような人とアルト殿下が放課後に二人で。あなた入学式の後でなにやら騒いでいた人ですわよね? まったく──」


 ダメっぽいです。ヴァニス様(このひと)は全然違うタイプね。ユアンナさんが、“出会いは悪いけど友達になるタイプ”だとするなら、ヴァニス様は“出会いも悪くてその後も変化なし”って感じだと思う。

 そういうのって、乙女ゲームだったら……そう! “悪役令嬢”って言うんじゃないかしら! って、悪役令嬢って私じゃないの!

 チラリと穿ったようね視線を向けてみる。すると、何故だかそれにしっかり反応してきた。


「……何かしらその目は。あなた、もしや何か隠してはいませんかしら?」


 あ、ハイ。わたしが『聖女』だって隠してます……なんて事は当然言えるわけない。

 あ~もう! 誰でもいいから何とかしてーッ!



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