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019.知って良かった事と悪かった事

「学園の危機となり、殿下や王家も存続が危うくなります」


 その言葉に驚き硬直する。アリスさんはそんな私を見て、


「でも、そこまで深刻なことじゃないかも──」

「いやいやいや、深刻だってば! 学園……というか国の危機でしょ!?」


 自分で言ったのにアリスさんは、「んー」……と唸っていまいち実感が沸かない様子。いやまあ私だって実感なんて欠片もないど、今のは話はそういうレベルじゃないでしょう?

 どうしたものかと暫し思案していると、「あっ」とアリスさんが何かに気付いたように声をあげた。


「あのですね、先程の話ですが……アレはあくまで“シューデルン先生のルートへ進んだら”の場合の話ですよ? おそらくですが先生ルートへ行かなければ、存亡の危機だとかにはならないと思います」

「……………………ホントにぃ~?」


 言ってることは理解できたけど、いまいちそれを鵜呑みにできない。


「でも先生ルートならば、何か理由があればそれだけの事を“先生は実行する”って事でしょ? それってルート進行が必須なの?「

「……いえ、ルート進行といいますか……ゲームのシナリオ構成上必須なだけで、おそらくはリリィさんの病状が関係していると思います。あくまでゲームシナリオ観点からの話になりますが、よろしいですか?」

「ええ。はっきり言ってそれに関してはアリスさんに頼るしかないから」


 乙女ゲームとかあまり詳しくないし、特にこの世界の基盤となっているらしい『セイント☆クロニクル』はそれ以上にわからない。なのでここはアリスさんの持つ知識が、どうしても必要になってくる。


「まず基本情報のおさらいです。シューデルン先生には少し歳の離れた妹のリリィさんがいます。離れているといっても私達から見て2歳下なので、感じとしては後輩みたいな感覚ですね」

「そうね。もし学園に入学するなら、私達が三年生の時に一年生だからまさに後輩ね」

「はい。そのリリィさんですが、現在は病気を(わずら)って床に伏せています」

「あー……そんな事言ってたわね」


 確か前にも聞いた事あるけど、詳細に関してはまったく知らないわね。


「リリィさんの病気なんですが、実は彼女の中にある魔力と身体のバランスが崩れているのです。それによって体に力が入らず、しかたなく床に臥せている……という状態です」

「そうなのね……それって直ぐに治せるものなの?」

「普通は無理です。これは身体と魔力の成長バランスが崩れて発生する症状で、非常に稀有なものです。少し時間がかかりますが、そのまま安静にしていれば魔力が体に馴染んで(おさ)まります」

「そう、よかったわ……」


 だが、それなら何故先生ルートを選ぶとダメなのかしら。


「それはですね……主人公(アリス)とリリィさんが、とある事がきっかけで出会ってしまいます。それが先生ルートへ進む分岐なのですが、これ以降リリィさんに中途半端な関わり方をしますと、ちょっと……ううん、かなり面倒くさい事態になります」

「えぇ~……」


 それはもう嫌そうな顔をするアリスさんを見て、私もちょっと嫌そうな顔になる。


「そこでなのですが……マリア様! 一つお願いがございます!」

「わ、びっくりした。ぐいぐいくるわね……」

「マリア様のパラメータって乙女ゲームじゃなくて、RPG系なんですよね? その中に強力な治癒魔法もあるじゃないですか。それでリリィさんを治して差し上げることはできませんか?」

「ええ、それはかまわないのだけれど……」


 アリスさんの申し出は、私自身が考えていたことでもあった。なので特に反対する気はない。

 でも、そうなると気になってしまうこともある。


「ちょっと聞きたいんだけど……リリィさんはゲームの中では、安静にしての自然治癒でしか治らないの? もっとこう、例えば聖女の力が影響してとか……」

「………………」

「……アリスさん。なんでそんな分りやすい視線逸らしを?」


 あまりにもあからさますぎて「この話題には触れない!」と体現しているほどに、アリスさんは目線を逸らした。というか顔を逸らした。

 普通なら仕方ないと諦めるが、今私達が話してる内容は普通じゃない。


「えっと……ゲームだと主人公(アリス)はどうやって彼女を癒すの?」

「それは、その…………です……」


 肝心な部分をボソっと呟かれた。って、こういうのって本当にあるのね。


「ごめん、よく聞こえなかった。えっと……何だって?」

「その…………歌……です」

「……歌?」

「はい、歌です。ゲームでのアリス(わたし)は、歌に聖なる力を乗せて癒しを与えることができるのです」


 へぇ……なんか格好いいかも。歌に力を乗せて届けるとか、いかにもっぽい設定じゃない。まさに聖女の歌声が癒しなんて、ちょっと魅力高いじゃないの。

 でも、別にそこまで恥ずかしいことじゃないと思うけど。癒しの力が乗った歌声なんて、ちょっとお披露目したくなっちゃうんじゃないかな。そう思った私だが、次のアリスさんの一言で言葉につまってしまった。


「私…………なんです」

「ん?」

「私、音痴(おんち)なんです!」

「…………はいぃ?」


 予想外のカミングアウトに、私は今日何度目かの硬直をくらい、アリスさんは涙目状態だ。

 ……って、音痴? 歌声に力を乗せて癒しを届ける聖女が……音痴ですって? それって前世から引きずってるってこと? それとも既に何かしでかしちゃった系?


「……聖女の歌声については、ゲームの知識があるから最初から知ってました。それで小さい時、その力を花に使ったことがあるんです。道端の花がちょっと元気無さそうだったから、歌声を聞かせたら元気になるかなぁって……」

「それで、どうだったの?」

「ふふ…………しおれちゃいました。歌声を聞かせたとたん、その花も周りの草も全部一斉にぺたんってなって……」

「うわぁ……」


 アカン……コレはアカンやつだぁ。なんで聖なる力を込めた歌声をきかせたら、そんな事になるの。さっきアリスさんが音痴だと言ったとき、思わず「ホント? ちょっと聞かせて!」って言いそうになったけど、自制した自分を褒めてあげたいわ。


「とまぁ、そんな訳なのでマリア様がリリィさんの病気を治してください」


 言ってスッキリしたのか、アリスさんはやりきったような笑顔を浮かべた。


「そうね……とりあえずリリィさんに会ってみないとわからないけど、多分私の持っている魔法でなんとかなるんじゃないかしら。どんな状態異常でも治す《フルキュア》とか使えるわよ」

「……なんか、本当にマリア様だけ世界が違いますよね。文字通り」

「そうなのよねぇ。私ってば、この世界じゃ伯爵令嬢とかやってるけど、本当は冒険者になって勇者や賢者と共に冒険に出るのが夢だったのよ。別に相手は魔王とかじゃなくてもいいの。町や村の人々を脅かす魔物とかを仲間とともつば津したり、人々を困らせる悪党を懲らしめてみたり」

「なるほど、随分とアクティブな夢ですね」


 久々に口にした冒険者話に、私のテンションがくいっと上がる。


「馬車を襲う盗賊を討伐したり、屋敷に忍び込んだ暗殺者を捕らえたり……本当は私、そういう世界へ行くつもりだったのにー! もぉー!」


 もう何年も経過したけど、やはりこの未練は鉄板だ。少し思い返すだけで、なかなかどうして悔しさがにじみ出てくるわね。

 そんな私を見ていたアリスさんが、思い出したように私に言った。


「……居ますよ? 屋敷に忍び込む……とはちょっと違いますけど、暗殺者」

「…………はああぁッ!?」


 今日だけで、私は何回絶叫したか。もうここまでくれば何を言われても受け切手やる! もちろん驚きますよ!


「えっと、シューデルン先生ことラウディ・シューデルン。彼の裏……というか、本業が暗殺者なんです」


 それを聞いた私は、もう今日はいいや……と仰向けに倒れこむ。そこは私のベッドで、暫しの現実逃避へと旅立つ。

 ……今夜は長い夜になりそうだぜ……こんちくしょうめー。



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