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018.災いの予感を感じたら

 明けて翌週も半ばに差し掛かったある日。もはや定番の組み合わせとなった、私とアリスさんとユアンナさんの三人で昼食となった。

 晴れていて気持ちが良いからと、食堂のテラス席で昼食を取ることにした。だが何故か、ユアンナさんの表情がいまいち優れない。私としては心当たりがないので、ちらっとアリスさんを見るがどうやら向こうも同じ様子。

 とりあえず食事を済ませてしまおうと食べ進めるも、ユアンナさんは半分も食べなうちにすっかり食べる手が止まってしまう。


「ユアンナ様、どうかなさいましたか?」

「…………」


 アリスの質問に返事がない。別に無視したとかじゃなく、完全に何か心ここにあらず状態のようだ。


「ユアンナさん? どうかしました?」

「…………」


 やはり返事がない。だからといって引っ叩くわけにもいかないので、優しく揺り動かしてみると流石に気付いてくれた。


「す、すみません、少しよそ事を考えておりましたわ……」

「何か悩み事? 話してみる?」

「よろしければ私もお聞き致します」


 私達の申し出に、どこかすまなそうな表情をうかべるも。


「……あの、それではお話を聞いて下さいますか?」

「ええ、いいですよ」

「勿論です」


 どこかほっとした表情のユアンナさんは、「まずは……ごめんなさい」と謝ってから話を始めた。






 彼女の話はこうだった。


 先日授業が終わった後、学園内の図書館に行ったとの事。この学園は王立であり、蔵書もなかなかのものがあり生徒のみならず、教師や卒業生などもよく利用するらしい。

 そこで彼女は、難しそうな医学書の棚を真剣な顔で見ているシューデルン先生に会ったと。

 いかにも真剣そうだったので、声をかけずに通り過ぎようと思ったのだが、先生の方もユアンナに気づいて挨拶してきた。そうなってしまえば素通りは失礼なので、少しばかり話をしたとの事。

 だがここで彼女は、先生が眺めていた棚の本を見てなんとなくつぶやいてしまう。


「先生のお知り合いの方がご病気なのですか?」

「……なぜ、そう思ったのですか?」

「いえ、先生は何かお悩みを抱えているようですので……」

「………………」


 沈黙した先生を不思議に思い、視線を向けると何かを訝しむような視線を向けられたと。


「あの、先生? どうかなさいました──」

「ユアンナ・マイヤーロイドさん、貴女は何をどこまで知っているのですか?」

「え? な、何を……」

「先ほど貴女が言ったことです。なぜ私が悩みを抱えていることを、貴女が知っているのですか?」

「…………あっ」


 ここまで来てユアンナは、先日マリアに口止めを約束した内容をポロッと漏らしてしまったことに気づく。

 慌ててなんとか取り繕うとするが、さすがに状況的に無理がすぎた。

 結局ごまかす事もできず、マリアが先生を見たときにそう感じたと口にしたことを白状してしまうのだった。






「本当に、本当に申し訳ありません! この償いは──」

「ま、待って待って! いいから! 償いとかいいから!」


 慌ててユアンナさんを止める。あまり派手に騒ぐと注目されてしまので、必死に声を抑えたけど少しばかり視線を集めてしまった。とりあえず小さな声で話を続けることに。

 それにしてもユアンナさんって、そうかもとは思っていたけど結構いろいろやらかすタイプかもしれない。そこに悪意があるなら私も怒るんだろうけど、コレは天然だよなぁ……。


「うう……すみませんマリア様……。アリスさんにも迷惑をかけてしまったわよね……」

「そ、そんな事ないですよ」

「すみません……何と言われようと返す言葉もありません……」


 ユアンナさんの言葉を聞いて思わずピクッとするアリスさん。なんだか表情も楽しいことが思いついたような顔をしている。

 こういう時のアリスさんは厄介だ。多分今の彼女は前世の感覚で物事を考えているっぽい。

 ここは先手をうって止めよう……と思ったのだが。


「ユアンナ様って、時々すごくうっかりさんですよねっ」

「うっ」


 ニコニコ笑顔でざっくりと言うアリスさん。言ってる内容は、私たち基準だとそこまでじゃないけど、同年代にそんな事を言われたことない貴族のお嬢様にはキツイ一言。


「あぁぁ~、ごめんなさい~っ!」

「ちょっ、アリスさん! もうちょっとTPOを弁えて……」

「なんか久々に聞いた! じゃないっ、ごめんなさいユアンナ様~!」


 妙な方向に話が脱線して、ここからユアンナ復活まで10分ほどかかってしまった。




 なんとか落ち着いたユアンナさんは、


「なんだか抱えていたモヤモヤがスッキリしましたわ! お腹がすきましたので、まだ食べ終わってない昼食をいただきますわね」

「あ、うん……」

「どうぞ……」


 反動ですっかり元気になったのか、半分ほど残っていた昼食を勢い良く食べだした。なんだろう……ユアンナさんって、純粋に『思った通りに生きてる』って感じよね。

 学園に入る前も、他所の家との交流はあまりなかったけど、彼女のマイヤーロイド侯爵家ってどんななのかしら。だんだん興味がわいてきましたわ。

 さて、余計なことして少し時間をつぶしてしまったし、お昼休みを考えるとあと少ししかないわね。


「ユアンナさん、食べながらでいいから聞いて下さい」

「…………」


 言葉を発さずコクコク頷くユアンナさん。行儀が良いのか悪いのかわかんねー。


「シューデルン先生の件は、私に一任させてもらえませんか? もちろん、きちんと解決する方向です」

「わかりましたわ」

「もう食べ終わってる!? 早ッ!」


 アリスさんが盛大につっこんでるけど、私も同じ心境だ。……なんかユアンナさん、ちょっと面白いわね。おそらくだけど、学園という立場における侯爵令嬢のプレシャーとかが、だんだんと無くなってきたという感じかしら。

 なんて事を考えているうちに昼休みも僅かとなり、私達は教室へと戻った。

 帰りの道でどことなく視線を感じたけど、相手は想像がついたのであえて気付かないフリをしておいた。





 そして授業が終わり、大半のものが寮への帰路につく。

 私達もそのまま寮へ戻り部屋に入る。実は校舎を出た際にも視線を感じたが、さすがに寮の中まではついてこなかったようだ。

 私とアンリさんは制服から部屋着になって少しだけ肩の力を抜く。そして話題にするのは……やはりシューデルン先生の妹リリィさん。


 というのもこのリリィさん、実はゲーム本編にはあまり登場しないのだが……シューデルン先生ルートのシナリオでは、非常に重要な意味をもってしまうのだ。重要というか……あまり言い方は良くないけど、彼女をそのままにしておくと事態はとんでもないことになってしまうのだ。

 詳しいことは知らないけど、そういう存在だとはアリスさんから聞いていた。だからこれから、それをちゃんと聞いてから、シューデルン先生やリリィさんへの対応を考えようという事になった。


「……よし! それじゃあアリスさん、お願いね」

「はい、わかりました。ではまず……シューデルン先生のルートで、リリィさんに対し十分な処置ができなかった場合ですが──」


 真剣な顔をしたアリスさんが私の目を見てゆっくりと言った。



「学園の危機となり、殿下や王家も存続が危うくなります」



 …………え。

 そ、そんな大事になるのぉおおおっ!?



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