表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/31

017.新たな攻略対象は聖女を探す

 学園での生活が始まった。

 ここは全寮制で、基本的に入学から卒業まではずっと学園の敷地内で過ごすことになっている。敷地には校舎のような基本的な学園施設の他、食堂や寮、講堂に図書館といった建物がある。食堂の建物には購買が併設されており、毎日出入りの業者により案外充実した内容となっている。

 それでも何となく物足りなく感じたのは、この世界……といかこの時代には『運動をする』という思考概念が希薄なせいだろう。敷地内に講堂はあるが、決して体育館ではない。また散歩に適した道はあれど、ジョギングコースではない。

 思い返せば前世では、随分と恵まれていたなと実感。でもこちらはこちらで楽しくやれそうだから、気持ちを切り替えていこうと思うけどね。


 そんな学園生活だが、入学早々にお友達が出来た。

 私とアリスさんにとって、この学園で最初のお友達なのだが……


「マリア様アリスさん! 購買に新しいスイーツが増えたの御存知ですか? 私の好きな菓子職人の新作ですが、どうやら学園の購買にも置かれるようになったようですの!」

「そ、そうなの。良かったわね」

「はい! マリア様もアリスさんも是非一緒に食べましょう」

「はい、ありがとうございますユアンナ様」


 マイヤーロイド侯爵令嬢のユアンナさん。入学初日はちょっとした衝突もあったが、その後すぐに仲良くなった。

 仲良くなったのはいいのだが、どうも彼女は私が聖女なんだろうと思い込んでいる。確かに私は『聖女』だが、この世界に受け継がれている聖女はアリスさんだ。でも彼女も私が聖女であると言いふらしたりはしないので、一先ず平和に生活していられる。

 ……いられるんだけど。


「あ、あのユアンナさん? 学園での身分持ち出しは禁止ですが、侯爵令嬢のユアンナさんが伯爵令嬢の私を“様”付けされるのはちょっと……」

「何をおっしゃいますか。私にとってマリア様は、尊敬するに値すると思うからこそそうお呼びしております。身分差がどうとかでなく、私自身の心がそう申しております」

「そ、そうなんだ……」


 という感じで、ちょっとばかり妄信が激しいところがある。なんでもユアンナさんは、この世界でいう恋愛小説にどっぷりはまっているらしい。そうった書物で想像力豊かな感性を培ったのだろうと推測する。

 あと小説内によく登場する、いわゆる“本物のお嬢様”に憧れているとか。自身の信念を貫き、周囲に惑わされず逆に惹きつけてしまう、そんな堂々とした存在……それを私に見たんだとか。見ないで下さい、誤解です。

 ……だがここで、私の援護ではなくユアンナさんを全推しする人物が、


「わかりますユアンナ様! マリア様は気高く強く美しいんです!」

「そうなのよ、わかってくださいますかアリスさん! その美しさは内面から溢れるマリア様の本質そのものなのです!」

「はい! 全くその通りですわ!」


 もし情景を擬音で表せたら、その周囲に『キャッキャッ♪ウフフ♪』という文字が浮かびそうなほどに意気投合する二人。何だか随分と仲良しさんですこと。もしかしてアレかしら、共通の敵を持つと共闘するっていう定番の。……私、敵なのかしら。


 ちなみにここは教室ではなく、食堂にあるテラス席。流石に教室でこんなはしゃぎ方をするのは恥ずかしい。実際のところ、貴族令嬢としては場所を問わず少々はしたないと思われるが、学園へ入ってしまうと半月もしないうちに慣れてしまうものだ。

 もちろん過度にはしたないのは問題だが、年頃の乙女がこうやって歓談するくらいならば教師も何も言わないようだ。

 尚、本日は休日である。だが普通の休日は学園の敷地から出ることはないので、こうして食堂も普通に営業している。もはや小さい町よねコレ。


「お、ユアンナ嬢にマリア嬢、そしてアリス嬢か。こんにちは」

「あら、シューデルン先生こんにちは」

「こんにちは、お仕事ですか?」

「お疲れ様です」


 私達に声をかけてきたのは、クラスの担任であるシューデルン先生だ。年齢はたしか20歳と言っていた。若い先生だがそれもそのはず、この学園の少し前の卒業生なんだとか。昨年から教師になったそうだが、とても優秀なうえ年齢も近いため人気だとか。

 だが、私とアリスさんは彼──ラウディ・シューデルンという人物について、他の人よりも良く知っていた。


 ラウディ・シューデルンは攻略対象だ。


 彼の事は入学したその日の夜に聞いた。私とアリスさんは寮では同室で、内緒話をするにはもってこいの状況だ。

 そこで乙女ゲーム『セイント☆クロニクル』におけるシューデルン先生の設定などを聞いたのだが、色々と考えてしまう内容だった。


「……それでは皆さん、失礼します」


 暫し歓談をした後、先生は立ち去った。変にそっけなくも無いし、かといって過剰に話しかけるでもない。ほどよい距離感を保ち会話も上手。これならば人気が出ても納得というものだ。もし家が子爵家でなければ、もっと人気だったかもしれない。

 そんな事を考えていたせいか、立ち去ろう彼をじっと見つめていた。それに気付いたユアンアさんは、驚きながら聞いてくる。


「も、もしかしてマリア様は、その……シューデルン先生を……?」

「ん? ……ああ、違う違う!」


 一瞬頭がついていかかったが、すぐに言われた事を理解して否定する。確かにゲームの攻略対象だけあって、見た目ももいいとは思うけどそういう気持ちは持ってない。

 というか、内密だがこれでもアルト様から想いを向けられている立場だ。そういう話が出てくると、私もシューデルン先生も困ってしまうと思う。

 とりあえずはユアンナさんに、しっかりと否定しておかないと。


「何となくだけど、先生から困り事……なら? 何か悩みを抱えているような感じがしたのよ」

「まぁ、そんな事が…………ハッ!? もしかしてソレは聖女としての力が……?」

「え、えっと、う~ん……」


 返答に困ってアリスさんを見ると、なんだか期待する目でこっちを見ている。いや、期待というかどうにも楽しんでいるように見える。


「ま、まあ、そういう気がしたというだけなんで、あまり気にしないで下さい」

「はい。マリア様がそうおっしゃるのであれば、私達だけの中にしまっておきますわ」


 特に抗うこともなく素直に話を納めてくれる。この聞き分けの良さが、私に対する信奉心かと思うとちょっと怖くもあるけど。

 こんな感じに、私達の学園生活は賑々しくも楽しくすぎていくのだった。






 攻略対であるラウディ・シューデルンの事は、以前アリスさんから聞いた。


 実は彼には病弱な妹がいるらしい。年齢は私達よりも2つ下で、普通ならば来年デビュタントなのだが、もしかするとその時を迎えることが出来ないかもしれないとか。

 そんな彼女──リリィ・シューデルンさんは、難しい病気を抱えながらも、他人を思いやられるとても優しい子だった。

 だからこそ兄のラウディは、彼女をなんとか治すために勉強をしていた。そんな中、貴族達の中に広がった聖女に関する噂。聖女ならばリリィさんの病気を治せるのではないかと、噂について色々調べた結果来年生徒として入学するのではないかという話を耳にする。

 その時ラウディは、学園の新任教師として赴任したばかりだった。そこで彼は引き続き病気に関して調べると共に、教師として翌年入学するであろう聖女を待っていたのだ。


 だが、私はアリスさんか聞いて知ってしまったが……実はリリィさんの病気は、聖女でも治すことが出来ないらしい。

 この世界で聖女ができるのは、全ての人に平穏をもたらすといった……いわば抽象的な感じでの働きが主となるものらしい。何か特定の人や物に、ピンポイントで効果を及ぼすといった事ではないのだとか。言ってみれば聖女は、神の力……恩恵と人々を繋ぐ役目、巫女みたいなものかもしれない。


 そんな事を教えられた時、私の中で一つの考えが浮かび上がった。

 この世界の聖女には無理かもしれない。でも、もしかして『聖女(わたし)』ならいけるんじゃないのか? という考えに。

 私が使える魔法に《キュア》系のものがある。これは体内の不調原因を取り除く効果があり、単純なものなら解毒や部位痛なんかも解消できる。

 そして今のところ見つけたものには《ハイキュア》と《フルキュア》があり、今の私ならどちらを数回使っても目眩もおきず使用可能だ。


 なのでまずはシューデルン先生と、どうにかリリィさんの病気に関して話をしなくればならないと考えている。

 でもだからと言って、


「私には病気を癒す力があります。リリィさんの病気を治せるかもしれません!」


 なんて言うわけにもいかない。どうしたらスムーズに、不自然なく話をきりだせるかなぁ……と、その時は思っていた。


 だが数日後。

 話は予想外の流れで、私達のところに転がり込んでくるのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ