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014.波乱は期せずしてやって来る

 アリスさんと仲良くなってから初めての春を迎えた。

 それはすなわち、私達が王立の学園へと入学する日が来たということ。


 この国の貴族は、基本的に15歳で学園へ入学する事になる。それは王族だろうが下位貴族だろうが、一切の区別なく執り行われる規則だ。学園への入学に含まれる貴族は男爵家の子息令嬢までとし、準男爵家は希望する場合となるが、大抵の子息令嬢は長男のみ家督手伝いに即入り、次男以下と令嬢は他家へ奉仕に出されることが多い。


 そんな中、私とアリスさんは学園の制服に身を包み、希望と不安に満ちた表情というなんだか“新入生あるある”みたいな感じで学園へやって来た。

 来たといっても、もちろん家の馬車で送ってもらったのだ。ただこの王立学園、広い敷地内には寮をはじめとする多くの施設が立ち並び、学生は入学から卒業するまで一貫してここで生活を送る。もちろん長期休みなどは実家への帰省もあるが、通常の週末などは学園側に予め届けなければ家に戻ることは許可されないとか。


「この学園でどんな事があるのかしらねぇ……アリスさんはゲームをやりこんでるから、そのあたりはバッチリでしょ?」

「いえいえ、そうでもないですよ。というよりも、ゲームの通りに進行するのは怖いんで、極力避けて通りますよ」

「う~ん、そっかー……たしかプロローグが入学式で、いきなりアリス(ヒロイン)と攻略対象の出会いイベントが発生するんだったかしら?」

「はい。校門の所ではカイル殿下、その後入学式が終わり教室へ戻る際にアルト殿下との出会いイベントが発生します。残りの三方は後日になりますね」


 何かを思い出すような感じでゲームの冒頭部分を話すアリスさん。いわゆるネタバレというヤツだが、この世界ではとても大事な情報源だ。

 それを語るアリスさんだが、本日のイベント予定があるお二方は、もう十分な面識があるため落ち着いている様子。


「それじゃあ入りましょうか」

「はい。では──」


 華やかしくも、前世の記憶のせいでどこか懐かしい学園生活への開始だと、正門をくぐろうとした時。


「キャー! き、来ましたわ!」

「ちょっと、そんなに声を上げてはしたないですわよ」

「で、でも! 仕方ないじゃないですか!」


 私達の後方から、主に女性の声が賑やかしく騒ぎ出す。何かあったのだろうかと、私達も振り返ってみて。


「あー……そういう事」

「なるほどですね……」


 視線の先には一際立派な馬車がやってくるのが見える。そして私とアリスさんは、その馬車にしっかりと見覚えがあった。

 その立派な王族の馬車が正門前に停まる。すばやく御者が扉を開き、そこから降りてくる人物は。


「やっぱり! カイル殿下よ!」

「キャ~! カイル殿下~!」

「嬉しい! これから一緒に過ごせますのよね」


 予想通りカイル殿下だ。ちなみにアルト様は一緒ではない。なぜならアルト様は本年度の生徒会長で、既に寮に入っている学生だから。

 それにしても正門はわーわーきゃーきゃーと姦しいく、貴族は淑女はどこよといわんばかりの状態。


「ねぇアリスさん。ここはさっさと行きましょう?」

「で、でも、いいんですか?」

「いいのよ。ここでカイル殿下と顔を合わせると、ゲームと同じ構図が出来てしまうかもしれないでしょ?」

「あ、わかりました……」


 仕方ないと少し残念そうにするアリスさん。まぁ、まだアリスさんは正式に社交界デビューしてないので、そんな彼女にカイル殿下が声をかけたりしたらおかしいですし。

 立ち去り際にちらりとこちらを見たようですが、一応そっと会釈だけして立ち去りました。




「とりあえず教室へ行きましょうか。私とアリスさん、同じクラスですわよ」

「そうでしたね。……これってやっぱりゲームの影響ですか?」

「ん~……ゲームのというよりも、国王陛下からの指示があったんだと思うわよ」

「そうでしたか。では陛下に感謝いたしませんとね」

「ですね」


 楽しく話しながら教室へ到着。そして中へ入ると──ん? なんだか視線がこちらへ集中して、先程までの喧騒がやんでいる気がするんですけど。

 何かしらと思いながらも教室の後ろ側を通って席へ向かうと、皆の視線が私ではなくアリスさんへと向けられていることに気付いた。そうとなった場合、何が考えられているのかおおよそ想像に難くない。

 おそらくこの視線は意味は──


「もしかして、あの方が……」

「ええ。平民出身で急遽リブライト家に入られた……」

「まぁ、一体何のつもりなんでしょうか」


 ……ムカッ。なんだか一瞬でいらっとしたわね。

 予めアリスさんより、ゲームでの主人公(アリス)は当初「平民上がり」と呼ばれ嫌悪されていたと聞いていたけど……そうなのふーん。こんな所はしっかりゲームと同じことしてくれるわけね。

 席についたアリスさんはそのまま俯くようにしてしまう。わかっていたはずなのに、いざ実際に悪意を向けられると来るものがあるのよね。

 自分の荷物を机におき、私はすぐさまアリスさんの傍の席へ腰を下ろす。


「ねぇアリスさん。今日は入学式ですから午後は何も無いそうですわ。何を致しましょうか?」

「あ……えっと、まずは寮の部屋を色々整理しませんか?」

「いいですわね。それじゃ──」

「ちょっと、貴女」


 顔をあげて返事をしてくれたアリスさんの会話を、無粋に話しかけてくる人物がいた。一体誰かしらとそちらを見ると…………知らないわね。


「……どちら様?」

「っ! ……こほん。私はマイヤーロイド侯爵家が長女のユアンナ・マイヤーロイドですわ」


 一瞬顔をしかめると、すぐにきちんと名乗るあたり流石に侯爵家のお嬢様ね。仕方ないので私も席を立ち挨拶をする。


「はじめましてユアンナさん。私はセルフライム伯爵家が長女マリア・セルフライムですわ」

「……はっ! わ、私は──」

「ああ、大丈夫ですわ。貴女は挨拶しておりませんので」

「えっ」


 慌てて立ち上がったアリスさんへ、嫌味をこめた笑みと言葉を向けるユアンナさん。その行いだけで、さっきは抑えた感情がまたムクムクと鎌首をもたげてしまう。


「……ユアンナさん、それは一体どういう意味でしょうか?」

「っ!? ど、どういう意味、とは?」


 少しばかり睨みつけると、思った以上に怯えるユアンナさん。私ってそんなに怖い顔してる? それともこれがゲームの悪役令嬢の風味なのかしら?


「私とアリスさんが話している所に貴女が割り込んできたんですよね? それだけでも随分とマナーを欠いた行為だと想いませんか? ですがその後挨拶をした貴女に対し、こちらも挨拶をと思った所へあの言葉。……一体何のつもりしょうか?」

「なっ……何のつもりとは聞き捨てなりませんわね。そもそもマリアさんはご存知なのですか? そちらの者……元は平民ですってよ?」


 その言葉を聞いて教室内が少しざわつく。ここにいる生徒すべてが、アリスさんが平民だったことを知っていたわけじゃないのか。だがこれで、クラスメイト全員には知れわたってしまっただろう。

 ……でも、そんな事私にはもちろん関係ないけど!


「もちろん知ってますわよ。それで?」

「え? だ、だからそちらの者は──」

「そ・れ・で? まさかそんな事を気にされるのですか? そもそもこの学園、身分による差別を禁止してませんでしたか?」


 私の言葉にぐっと言葉につまるも、ちらりとアリスさんを見てまたこちらに食ってかかってくる。


「でもそちらの者──」

「アリスさんですわ! アリス・リブライトさんです!」

「ア、アリスさんは元平民で──」

「身分差別禁止だと言ったでしょ? それに今の彼女は子爵家の人間です」

「ぐっ…………」


 私の言葉に気おされたユアンアさんが、どう凌ごうかと思案している時だった。


「一体何を騒いでいる」

「「「「!?」」」」


 私とユアンナさん以外の、第三者の声が聞こえた。全員の視線が向いた先……教室の入り口にいたのは、カイル殿下だった。彼も当然同じクラスなのだ。

 カイル殿下の登場で静まり返る教室へ彼は歩いてくる。そして私を見た後──傍にいるアリスさんが困惑した様子を見て少し眉を曲げた。

 瞬間、何だかよくない流れを感じた私は、カイル殿下に向かって声をかけていた。


「カイル殿下、お久しぶりです! アルト様はお元気ですか!?」

「あ、ああ。久しぶりだな。それに兄上も元気だぞ」

「「「「!?」」」」


 教室の皆の視線がこちらに一斉に注がれる。おそらくは私が「アルト殿下」ではなく「アルト様」と呼んだ事、そしてそれをカイル殿下が咎めなかった事に驚いたのだろう。

 そして私はちらりとアリスさんを見ると、私の意図を察したらしきアリスさんが、先程までとは表情を一変してカイル殿下へ笑みを向ける。


「お、お久しぶりでございます……カ、カイル様」

「あ……ああっ、ああ! 久しぶりだねアリス嬢!」

「「「「!!?」」」」


 先程の私に続き、今度は平民出といわれていたアリスさんがカイル殿下を親しげに呼ぶ。おまけにカイル殿下は、それはもう嬉しそうに返事をするもんだから……。


 入学式の朝の教室。

 まだちゃんと入学式をすませてないのに、さっそく波乱万丈な学園生活が始まったのだと感じてしまうのだった。



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