人が人であること
おもなとうじょう人ぶつ
とおる:21さい。男。
さかきばら先生:とおるのよきりかいしゃ。いしゃ。名まえがながいので、ポチとよんでもいいとおもう。なぜポチかといえば、となりのポチににているからです。
まなぶ:小学生のときに、とおるを618かいなぐった。ばか。金もち。
しずか:とおるのすきな人。び人でない。中みはすばらしい。
とおる「先生、そうだんがあるのですが」
さかきばら先生「なんだね。ここはせいしんかだよ。なんでもそうだんしたまえ」
とおる「じつは、ぼくは人をころしたいのです」
ポチ「なんだ。そんなことかね。だれでもころしたい人はいるものだよ」
とおる「え! そうなんですか」
ポチ「もちろんだとも。なやむことはないよ」
とおる「ありがとうございます、先生。では、さっそく、ころしにいきましょう」
ポチ「そうだな。ぜんはいそげだ」
とおるとポチはまなぶのいえにきました。
ポチ「ピンポーン」
まなぶのおかあさん「まなぶはいません」
ポチ「どういうことかね。まなぶがいない。これではまなぶをころせないではないか」
とおる「まなぶはとうきょうにいるのです。ばかのくせに、金もちだから、大学にはうらぐちで入ったのです」
ポチ「なんてわるいやつなのだ。では、とうきょうにしんかんせんでいこう」
けいおう大学につきました。
まなぶ「とおるじゃないか。なぜここに?」
とおる「いままでのうらみをはらすためだ。しね」
まなぶはとおるに618かいなぐられて、しにました。
ポチ「これで、きはすんだかね?」
とおる「まだまだです。先生、ここでそうだんがあるのですが」
ポチ「わたしはいしゃだよ。なんでもそうだんしてみたまえ」
とおる「じつはぼくは人をたべたいのです」
ポチ「それはふつうのことだよ。なにもわるいことではない」
とおる「え! そうなんですか」
ポチ「では、まなぶのどこをたべたいのかね」
とおる「レバーとしんぞうとのうみそです」
ポチ「とおるくんはグルメだな」
とおる「えへへ。先生はいしゃだから、かいぼうもできますよね?」
ポチ「ああ、おてのものだよ」
さかきばら先生がまなぶをかいぼうしてくれました。
とおる「まずかったですね」
ポチ「わるいやつは中みもくさっているものだよ」
とおる「それなら、いい人をたべてみたいです」
ポチ「では、とおるくんのすきなしずかさんがいいだろう」
二人はしずかのいえにいきました。
ポチ「ピンポーン」
しずか「はい。あら、だれかしら?」
ポチ(ひそひそごえで)「あれがしずかさんかね。たしかにきれいだな」
とおる(ひそひそごえで)「先生、おせじはいりません。しずかさんはび人ではありません。しかし、中みがりっぱなのです」
ポチ「なるほど。では、しずかさん、かいぼうさせてもらうよ」
しずか「あれー」
しずかはかいぼうされました。
とおる「やっぱり、しずかさんののうみそはおいしいです」
ポチ「そうだろう。しかし、とおるくん。人の中みのいみをかんちがいしていないかね?」
とおる「人の中みとは、その人のかんがえのあつまりです。中みのにくのあじではありません」
ポチ「よくわかっているようだね。せいかくと中みのちがいは、りかいしているかね?」
とおる「先生がなんどもはなしてくれたので、りかいできるようになりました。せいかくは、はなしかたやふるまいで、まだ目で見えます。中みはかんがえのあつまりなので、目で見ることはできません」
ポチ「そのとおりだ。中みではんだんすれば、とおるくんとしずかさんはとてもすてきな人で、まなぶはとてもいやなやつだ」
とおる「先生、きょうはなにからなにまで、ありがとうございます」
ポチ「うむ。ところで、とおるくん、本とうに人をころして、たべるつもりかね?」
とおる「いいえ。ころしたり、たべたりするのは、ものがたりの中だけです。先生がいってくれたとおり、あたまの中では、どんなことをかんがえてもいいのですよね?」
ポチ「いいのだよ。かんがえるだけなら、せかいだってせいふくしてかまわない。それこそ人が人であることなのだから」