恐怖のリバーサイド病院
とてもむし暑い夜だった。
中2の悪ガキ、ケンゴとタカシは、近所のコンビニの駐車場に座り込んでアイスを食べていた。
「なぁ、ケンゴ、前に先輩がなぁ、今はつぶれてやってない病院があるんだけど、そこに入れるって言ってた。」
「はぁ?入って何するん?」
「決まってるよ。肝試し!」
初めは乗り気でなかったケンゴも暇を持て余していたのか、肝試しという言葉の魔力に取りつかれたのか、すっかり乗り気になってしまった。
しかし、2人では怖かったので、同じく悪ガキのユウヤとタツヤを呼ぶことにした。みんな同じ中学校の2年生だ。ユウヤもタツヤも好奇心を抑えられず、自転車でコンビニまでやってきた。
4人はそれぞれの自転車に乗り、川沿いに建っている今は廃墟と化した元病院の前までやってきた。元病院の名前はリバーサイド病院。まったく病院らしからぬ名前である。しかし、まだ外されていない看板にその名が記されているのだから、決して嘘の名前ではない。
元病院の敷地を示す、腰ほどの高さの黒いフェンスが建物を囲っており、何枚も立ち入り禁止の札が掛けられていた。しかし、4人は全く無視してフェンスを越えて敷地内に入って行った。敷地内には簡単に入れたが、建物の中に入るのはそう簡単にはいかない。
元病院の建物は、まるで学校の校舎のような作りをしており、淡いクリーム色の4階建ての、横に長い長方形のビルであった。玄関側も裏側も、1階のすべての出入り口、窓にベニヤ板が打ち付けられており、侵入者を拒んでいた。そのベニヤ板には、美しいとはお世辞でも言えない落書きがいっぱいで、ガラの悪い雰囲気が充満している。
どこから入ったらいいのだろうか・・・。
だが、タカシは先輩から情報を得ていたようで、迷わず1枚のベニヤ板に向かって歩いて行った。他の者はタカシについていく。
右から4番目の大きな唇の落書きがある板。これこれ・・・。
後から来た2人に懐中電灯を持ってくるように頼んでおいたので、2人に照らしてもらいながらタカシはベニヤ板をガタガタと揺らし始めた。タカシが揺らしながらベニヤ板を傾けると、思ったよりも簡単に外すことができた。ベニヤ板を外すと、そこには窓があり、その窓は内側から鍵がかけられている。
しかし、この手の窓は、悪ガキ4人組にはお手の物で、窓枠をつかんでガタガタと動かしながら鍵をずらし、ものの数分で開けてしまった。さすが、普段学校の窓で慣れているだけのことはある。
「おい、懐中電灯貸して。」
タカシはユウヤから懐中電灯を受け取って、窓から元病院内に入る。後の3人もタカシに続く。
タカシとユウヤ、ケンゴとタツヤが組になって、懐中電灯で照らしながら暗い廊下を歩いていく。誰もいないはずなのに、時々、カサッと音がする。そのたびに4人はびくっとする。ネズミでもいるのだろうか。
暗い廊下は、肝試しには十分すぎるほどの威圧感があり、4人はゾクゾクしながら歩いて行った。
歩き始めて5分経った頃に、ケンゴが言った。
「俺、なんか気分悪い。吐きそう・・・」
「おい、こんなところで吐くんじゃないよ。」
一緒に歩いていたタツヤが迷惑そうに言う。前を歩いているタカシとユウヤは聞こえていないのか、そのことには反応せず、ひたすら懐中電灯で回りを照らしながら歩いている。
タカシの足が1つのドアの前で止まった。ドアのプレートには、院長室と書かれていた。
タカシがドアノブを回してみたら、ガチャッと開いた。
「おい、入ろうぜ。」
部屋の中には中学校の職員室で見慣れたような事務机が1台あるだけで、院長室と思って期待していたような豪華な机や調度品は何もなかった。きっと高級な物は運びだされたのだろう。
何となくがっかりした4人は、事務机の前に立ち、引き出しに手をかけて開けようとしたが、残念なことにカギがかかっていて開けることはできなかった。だが、最後の一つだけ、鍵が壊れていたのか引き出しを開けることができた。
中にはファイルが数冊入っていた。タカシが1番手前のファイルを取り出した。ユウヤに懐中電灯で照らしてもらいながら中身を見たが、クリアファイルの1枚1枚の中身は入ってなくて、すべて空のようだった。タカシが何気なくパラパラと空のクリアファイルをめくってみたら、ひらりと1枚の紙が足元に落ちた。何も入っていないと思っていたのに、1枚だけ、ファイルの間に挟まれていたようだった。
タカシがその紙を拾ってユウヤが光を当てる。ケンゴとタツヤは後ろからのぞき込む。
「何これ。死亡診断書って書いてる。」
拾ったその紙には印刷された文字で死亡診断書と書かれ、その下の枠内に、手書きで名前、年齢、住所などが書かれていた。
「鈴木〇〇男って書いてる。死んだのは、60歳の時で、死んだ日は・・・5年前の・・・今日!!」
タカシが驚いて叫ぶと、他のみんなも怖くなって叫び始めた。
「もう帰ろーよー」
「こんなところにいたら呪われる。」
「俺、ますます気分が悪くなってきた。吐きそう・・・。」
ケンゴが手で口を押えた。
さすがに、タカシもこのままここにいることに恐怖を感じ、急いで出ることにした。
死亡診断書とファイルは机に戻して・・・。
4人は走って入った窓にたどり着き、慌てて外に出た。ケンゴはまだ気分が悪そうで顔色がとても青い。
柵を越えて、自転車まで走った。早く家に帰ろう!
4人がそれぞれの自転車にまたがったとき、タカシの顔色が変わった。ゾッとした。
タカシの自転車だけ、パンクしていたのだ。なぜ? もしかして・・・。タカシの心に呪いと言う言葉がよぎった。
結局、タカシだけ自転車を押して帰るはめになり、3人はタカシに合わせてのろのろと自転車を走らせるのだった。
とりあえずはタカシの家で休憩することにした。なんとなく怖くて一人になるのが嫌だったのかもしれない。家について数分たったころ、電話が鳴った。タカシが電話に出ると、男の声が聞こえた。その声は低く、かなり年配のようだった。
「おい、俺は鈴木〇〇男だ。お前ら、俺の死亡診断書を見たな。もう、二度と来るな。」
それだけ言って、電話は切れた。タカシが恐怖の叫び声をあげ、内容を聞いた3人も恐怖で叫び声をあげた。そしてその夜、4人は熱を出し、翌日は動くことができなかったと言う。
追記
この話は実話をもとにしたフィクションです。私が教師をしていたころ、生徒4人が怖かった怖かったと恐怖におびえながら、何があったか話してくれた内容です。生徒の名前、死亡診断書の男性の名前は変えています。実際に行ったのは4人ではなく、5人でした。電話は、当時携帯電話はなく、家電にかかってきたそうです。
生徒は、本当の話だと言ってましたが、本当なのかどうなのか、実のところ、私にはわかりません。
でも、この話がとても面白かったので、本当にリバーサイド病院があるのだろうか・・・と探しに行ってみました。校区外で少し遠かったのですが、車で川沿いを走っていたら、ありました。本当にリバーサイド病院と建物の壁の上方に黒い大きな文字で書かれていました。これなら遠くからでもはっきりとわかります。彼らが言ってたように、外枠のフェンスには立ち入り禁止の札が何枚も貼られており、中の建物には落書きで汚くなったベニヤ板が打ち付けられていました。当時は、バブルがはじけて多くの店がつぶれたけれど、建物を解体する費用もなくて、そのまま打ち捨てられているビルが多かったのでした。この病院も打ち捨てられた一つなのでしょう。私が見たときには、2階の窓が、投石か何かで割られていて、さらにもの悲しさを感じずにはおれませんでした。
この話にはさらに続きがあります。
彼らが卒業した後、生徒たちにこの話をしたところ、好奇心が強い中1年男子数名がリバーサイド病院を探しに行ったのです。
「あったよ、先生が言ってた通りあったよ。やっぱり呪われてるあの病院。絶対に行ったらあかん。」
翌日、行って来たという男子3名が報告しに来てくれました。
話によると、
怖いから昼間に3人で自転車で探しに行った。病院を見つけたら、自転車を降りて、柵の外回りを一周してみた。病院の敷地内には入っていない。一周しているときに、明るいからよくわからなかったけど、2階の窓から火の玉のようなものが見えた。そのうちだんだんと気分が悪くなってきて、3人とも吐きそうになった。一周して自転車の場所に戻ったら、1台パンクしていた。先生の話していたことが、自分たちにも起こったので驚いた。
という内容でした。
さすがに、この病院、今はもうないと思いますが、あったらあったで、現代のいいパワースポットになっていたことでしょう・・・。