クソったれが!
カチャーン。突然の大きな音にふと我に返る。店員が「大丈夫ですか?」心配そうにこちらを見ていたが返しが思いつかず、「平気です」と一言だけ伝え伝票とお金を渡し会計を済ませ外に出た。生ぬるい外の空気が体に染みる。フラフラと危ない足取りで家を目指すが、帰りたくなかった。今は一人でいることがだだただ辛く、誰かと居たかった。なぜか田山くんを思い出し電話帳を漁り電話をかけるが中々でない。涙が溢れて止まらなかった。悲しみとも取れるのか何とも言えない感情が胸と頭を支配し崩れ落ちる。もう辛かった。死んでしまいたかった、彼なら愛してくれるこんな私を、障害者の私を愛してくれると思っていた。現実は違ったのだ現実は。恋とは儚く美しいものだが時として毒となり身体を蝕み、牙を剥くと言っていたが本当だった。「また、か」アレは高校時代だった。あの時は初めての彼氏が出来て浮かれていた。片思いだと思ってた彼に告白されすぐに付き合いはじめた。付き合いはじめて1ヶ月ほどたったある日、彼から言われた。別れようと。ビックリした。頭が真っ白になるのを越えて冷静だった。何故か問いつめたら彼は下を俯きながら話してくれた。私の異常な部分、いや障害者の一面を。よく物を忘れる、ひとつの事に集中して動かない、突然うわの空になる、と。気が緩んでいたのだ、私が嘘の綺麗な私でいれなかったことを後悔した。彼が愛していたのは本当の私ではない、嘘と偽りで塗り固めた自分であることに気付いた時何も言えなかった。私は浮かれていた。好きな人と付き合えたことに、異性と常に一緒にいる感覚に酔っていたのだ。悔やんだ、悔やんで悔やんで悔やんだけど何も得られなかった。その場では「うん。そうだね。」としか言えなかった自分にも、偽りの自分を保っていることも、本当の自分が障害者としての自分が彼にとって嫌なものでしかなかったことに。
フラフラとした足取りでコンビニに入る。レジの前に立ちカレが、いや元カレが好きだったタバコを指さし番号を伝える。お金を出し買うと外に出てタバコに火をつけようとしたが普段タバコを吸わない私はライターを持ち歩いてなかった。彼の匂いを、彼の好きなタバコの匂いを吸いたかったけど叶わなかった。火のついてないタバコをくわえながら帰り道をはずれ歩く。正直こんな世界が憎かった、好きな人に愛されない世界なんて無くてもよかった。「なんでなんでなんで」そう呟きながらマンションの前にたどり着く。部屋に入るのが怖かった、誰もいない暗い甘い芳香剤の匂いのする部屋にはいるのが。躊躇いカレに電話をかけようと電話帳を開くが彼の名前を見た瞬間涙が出た。もう私がこの番号にかけることはない。そしてこの番号から電話が来ることはもうないんだと思えば思うほど涙が止まらなかった。自分の部屋の前、今思えばぼんやりと白く光るケータイの電話帳を眺めながら嗚咽する私はとても異様で滑稽だったろう。ひとしきり泣いた後ふとケータイを見ると懐かしい名前があった。彼なら、彼なら異常な私を好きにはならないけど認めてくれるんじゃないか。という気持ちで通話ボタンを押す。長いコールの後ガチャリと電話に出る音がした。顔をクシャクシャにしたまま返事をする。彼は私を見捨てなかった。「あっあの「オカケニナッタデンワバンゴウハゲンザイ、」」通話口から帰ってきたのは無機質な機械音だった。興奮した顔を冷やすかのようにその言葉は冷たかった。世界で私を見てくれる人なんていない。独りぼっちだ。哀しかったけどもう涙は出なかったけど代わりに活力が、行動力が湧いた。この世界から飛び立とう、もう一度人生をやり直そうという活力が湧いて湧いて止まらなかった。立ち上がり、鍵のかかった部屋に手を振り階段へ歩き始めた。十二階建てのマンションの七階にある部屋に別れを告げ階段を登り始める。階段の途中、誰かが落としたライターを偶然拾い、持ってたタバコのボックスを開け火をつける。周りの迷惑なんて今更気にならなかった。短い階段を長い長い時間をかけタバコを三本消費してたどり着いた屋上は汚かった。また新しい人生を歩むのに相応しい、まるで私のような汚い場所だった。残ったタバコを消費しようと一生懸命吸ってむせて、彼の匂いを感じる。至福だった、時折吹く冷たい風がまるで私を祝福してるようだった。計16本のタバコを吸い終わり体に染み付いた愛を、いやカレの匂いを付けたまま屋上のフェンスを上る。さよなら、私は新しい世界へ行きます。誰かから愛され孤独ではない世界へ、親からも好きな人からも愛される世界へいってきます。そう思い飛び出そうと瞬間不意に携帯電話が震える。咄嗟に取り出し画面を確認すると彼の名前があった、田山くんとディスプレイには映っていた。最後に、最期にという思いで電話に出る。少しの間の後、息遣いの荒い田山くんの声が聞こえる「はい、もしもし。」その声で胸がいっぱいなったが、落ち着いて話す「ごめんね田山くん。最後に話しておきたくて、ね。ありがと。」そういって溢れた涙を拭いた。すると「は?どういうことだよ」と返ってくる。田山くんはいつか分かるさ、ありがとう。その言葉を胸に仕舞う。もう躊躇しなかった、いや出来なかった。さよなら小声でそう呟き飛び降りる。ゴウッと風の音が耳の中で暴れ、徐々に地面が近づいてくる。あぁっ、ここで私は、そう呟き地面に叩きつけられた私は身体がつぶれたトマトのようになり絶命した。
アキのモデルとなった女の子2人。1人は妊娠してから連絡取れてない。もう1人はどこにいるんだろう。分からない。分からないけど会ってお礼が言いたい。