死ぬなよ愛する人よ
不意に風景が変わり暗い部屋で寝転がっていた。寝てたのか、そう言えばこの後保健室登校だったけど頑張って学校に行って頑張って勉強して高校に受かったんだったな。川宮くん元気にしてるのかな。そうボヤきながら暗くなった部屋の電気をつけようと立ち上がると、携帯に着信が来ていることに気が付いた。電気を付け、誰だろうと思い履歴を見るとアキだった。高2の時自分の親から聞いたアキの電話番号だが1度もかけたことがなかった。心臓がドクンと高鳴る。中学卒業以来あっていなかったアキがどうして4年も経ったこの日にかけて来るのだろう。少し不安な気持ちに駆られたが折り返しかけてみることにした。数回のコールの後留守電に繋がり機械の声が喋りだす。何かあったらまた電話をかけてくるだろうと思い、立ち上がりタバコを咥えキッチンへ向かう。初めてタバコを吸ったあの時からずっと吸っている。身体に悪いとは思っているがやめる気はなかった。換気扇を回しタバコに火をつける。微妙に明るい1LDKの部屋に向かって「あー。」と気力のないため息を吐く。ため息と同時に煙も出ていった。「どうしてこうなってしまったんだろう。」現在大学2年生の僕、誰もが知ってるような有名大学へ現役合格したのだがイマイチ行く気力が起きない。専攻科目以外の勉強に対してやる気が出ないのだ。1年はだましだましで単位を取る事が出来たが今年は取れる気配がない。教授も応援してくれているのに講義を受ける気が起きない。ただただ申し訳ないという気持ちしかないと思うががヤル気が起きないのだ、行きたくない訳では無いんだがどうしても行けないのだ。身体が鉛のように重くダルいのだ。俺の人生やっぱりこうなる運命だったのか。負の感情が負の感情を呼んで負のスパイラルに陥っていく。鬱とは1度発症すれば死ぬまで治ることは無いという言葉事実だったんだな、明るく生きたいな。そう考えていると再び携帯が光る。画面を見るとアキだった。タバコを吸っている途中だったので咥えたまま電話に出てみる。「はい、もしもし。」それに対してかえってきたのは嗚咽と強い風の音だった。しばらく何も言わず待つと「ごめんね田山くん。最後に話しておきたくて、ね。ありがと。」そう言うとアキは黙る。風の音が響く。意味がわからなかった。「は?どういうことだよ」とういうと風の音が突然強くなる。長い長い風の音の後突然電話が切れる。「おい!アキ!おい!」そう叫んでも帰ってくるのはツーツーという電子音だった。怖かったがもう一度電話をかけた。出ろ出ろと唱えながらかけたが1度も繋がることは無かった。胸騒ぎが止まらなかった。冷蔵庫に入れて置いた朝ごはんのおにぎりを頬張っても喉を通らず一口だけ食べて再び冷蔵庫にいれた。そうだ、実家へ行こう。ここからなら電車で2時間ほどだ。始発まで3時間ほど待つが仕方がない。走って駅まで行き、ひたすら始発を待った。その間落ち着いて座ることが出来ず、ずっとホームのベンチ付近をうろついていた。日もまだ上らぬ頃始発の電車がくる。それに乗り込み出入口横の座席に座る。そのまま2時間ほど揺られ空が明るくなった頃に実家の最寄り駅で降り、全力でアキの家まで走る。駅からはそう遠くなく走り始めて直ぐに着く、のだがこの時俺は見誤った。動揺と不注意が重なったのだ。信号を走って渡り始めた時ブオーンという凄い音が鳴る。思わず音の方を振り向くと目の前にトラックが迫ってきていた。その瞬間世界がスローに見えた。走馬灯が見えたがつまらないものが現れては消えるの繰り返しだった。最後にアキにあいたかったな。心配だな。ふと気がつくと横断歩道からかなり飛ばされた所だった。目から血が出ているのか真っ赤に染った世界を眺めながら、声にならない声で「なんでおれが」と呟き再び目を瞑った。
数分後、母親と救急隊員に看取られながら絶命した。