表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

簡易落語【バレンタイン】(投稿練習)

作者: 紅之模糊

 最近は「ヘルシズム」なんていう言葉が出てきまして、これは簡単に言えば「人間誰しも健康に気を配るものだよ」というものです。これじゃあまるで、不健康な輩は人間じゃねえ! と言ってるようなものでございます。「平家にあらずんば人にあらず」とは、平時忠が豪語したものでございますが、私はこれがどうも健康優生思想、つまりヘルシズムと重なってしまうんです。時代錯誤もいいところですが、実際のところ私も健康に気を配っているのですよ。

 19歳の男盛りなお年頃、9時就寝の6時起き。朝食にはナポリタン、昼食にはいつも通りステーキにかぶりつき、昼寝をしてはポテチを片手にスプライトを飲む。見る見るうちに実のぎっしり詰まった洋梨体型に成長! とまあ、典型的なデブ活を幼少期から躾けられてきたものですから、30年後、動脈硬化で死にたくはありませんね。誰しも余分な塩分は「用無し」にしたいものです。

 

 「はぁ~。にしても、はっしーの父ちゃんは若ぇなあ。これで52だろ? スラっとしてておまけに髪の毛も真っ黒黒のフッサフサじゃねえか」

 「でも最近ショックだったのは、僕より親父の方が体重が軽かったんだよ。背は同じくらいだし、僕の方が運動してるのにさー」

 チラッ

 「はっ! 別にそんくらいどうってことじゃねえだろ。俺なんか、この前親父と歩いてた時、ふと親父が『はぁ~また太ったかな~』なんて言って俯いたもんだから、太陽が親父の禿げ頭に反射して、向かいの女子高生に『眩しっ!』って言われたんだぞ! その時の悲しさったらねえよ……。とぼとぼ歩く親父の背中がドナドナに見えてさ……。」

 「ん~、それメタボと関係なくない?」

 「いやいやいやいや! 肥満、俯き↓反射↓→『眩しっ』に繋がったんだよ。絶対肥満が原因だね。」

 「そんなもんかな?」

 「そんなもんだよ」

 「でもヨウ君は、ヨウ君の親父さんみたいな体型じゃないじゃん。ガッチリした筋肉隆々のいかにも、漢! って感じの体型してんじゃん。」

 ポッ

 「俺は親父みたいなみすぼらしい体にはなりたくねぇからな。脂肪で猫背になってくると、後ろめたい前傾姿勢になってくるのよ」

 「うーん、矛盾……?」

 ジー……

 「つまりヘコヘコしまくってるわけさ。親父を反面教師にして、俺は健康体になりたいんだよ」

 「なるほどねー。僕もヨウ君を見習わなきゃだね。ヨウ君みたいになるにはどうすりゃいいのかな?」

 ニマニマ

 「ん~……まあ、とりあえず食事制限だな。なるべく炭水化物は抜いてだな……三食のご飯は茶碗一杯分でいいし、最も重要なのはポテチを食わないことだ! あれは油オバケだぞぉ~。」

 「ヒィッ!」

 「それ以外なら、肉でも魚でもなんでも食べて良い。糖質もそうだが、塩分にも気をつけろよ」

 「どうして?」

 「大体うまいものは、脂肪と糖質でできてるだろ。んでもってしょっぱい。たくさん摂ると高血圧、ひいては動脈硬化で死ぬこともあるからな。若いからって甘く見てちゃいかんぞ」

 「うんうん! そうすればヨウ君みたいなたくましくて、セクシーな美体(からだ)になれるんだね?」

 ゴクッ

 「あとは、特に下半身の筋トレを繰り返すことで脂肪が落ち……る。おい、どうした。そんなに息を荒げて」

 「はぁはぁ。……ああ、いやぁごめん。つい見惚れちゃって、ヨウ君は知ってるでしょ? 僕が……」

 「ああ、ホモってことね」

 「そうそう。どうも、さっきからチラチラ見える鎖骨が細くて綺麗で目が離せないんだよ。ははは」

 「いいよいいよ。この会話の始めっからやけに目が合わないなと思ってたし。途中、顔も目の色も変えてたよな、『ポッ』って」

 「バレテーラ」

 「……」

 「……」

 「……」

 「……ねぇ」

 「なに?」

 「ちょっとでいいからさ、胸筋見せ……」

 「ダメ」

 「じゃあ背中を……」

 「無理!」

 「お願い! 5秒! いや10秒! ええい30秒でどうだ!」

 「どんどん延びてってんじゃねえか!」

 「いーじゃんかー。ちょっとくらい。一緒に乗りあった仲じゃないかぁ」

 「……竹馬にな」

 「フゥン……」


 とまあ、こんな収拾のつかないやり取りをしていますと、そこにすーっと一人女子学生がやってきて。

 「ねえ、二人して何話してたの?」

 「あっ、ひまりちゃん! 簡単に言うと、ヨウ君の肉体は女性の妖艶さを凌駕するよねって話!」

 「タシカニー」

 「確かにじゃねえだろ。少なくとも気持ち込めろよ」

 「ヨウの体をチョコでコーティングすれば、もうボディビルダーのソレだよねー」

 「ソレある―! ね、ヨウ君!」

 「ねえよ!」

 「チョコレートまみれのヨウ君が……赤いリボン巻いて……バレンタインに僕の家の前で待っていてくれたら! さすがの俺も! …………引くわ」

 「そこまで想像したお前の脳みそが溶けてんだろ」

 「チョコだけにね!」

 「「…………」」

 「それでさー、チョコと言えばなんだけど―」

 「プリーズフォロー!!!」

 「二人にあげるのは初めてだけどさ、バレンタインにチョコレートクッキー作ってあげようかなって思って雑誌持ってきたんだけどー……」

 「あーそうなのか、でも申し訳ないけど俺は断るよ」

 「ごめん、ひまりちゃん。僕も……」

 「え、どうして? もしかして私の料理が不味いか……ら?」

 「ちがう、ちがうんだひまり! ひまりの料理の腕は一流だし、すごい嬉しいんだけど。……クッキーってバター使うじゃんか?」

 「うん、使うね。美味しくするには当たり前!」

 「だから俺は基本的に料理は……」

 「僕はバレンタインに……」


 「「ムエンだから」」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 上手い。僕も真似させて頂きます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ