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鬼=鈴の音+ミコト

〈・・リン・・〉


(ん?)


〈・・リン・・リン・・〉


(なんだ?この音は・・鈴?)


 その音はだんだんと大きくなり間隔も次第に短くなっていく。

 それに鈴の音と同時に感じたなんとも言えない纏わりつくような嫌な感覚がまるで音と同調するかのように強く色濃くなっていき、俺の体を締め付けられるような感覚に変わっていく。


〈リィィィン、リィィィン、リィィィン〉


(うっ!また強く!!?体が・・・)


 その嫌悪感に必死に堪えていた俺だったが、姉さんとの対峙にミコトの桁違いな妖気に当てられていたせいか、いつの間にか地面に膝を付き(うずくま)ってしまっていた。

 そんな俺の異変に姉さんとミコトは気付き近くにいた姉さんが一目散で駆け寄ってくる。


「雪兎っ!?雪兎っ!?大丈夫っ!?」


「ゆ、ゆきとっ!?大丈夫かっ!?どうしたのだっ!?」


 姉さんの声に続きミコトの声が聞こえてきた。

 俺は、姉さんに肩を抱きかかえられながら、少しずつ上体をお越していった。


「ハァ、ハァ、ハァ、分からない、んだ。何処からか音が聞こえて・・・音が大きく早くなって・・・・それと同時に変な嫌悪感が・・・音が大きくなるたび強くっ、ゲホッ!ゲホッ!」


「音?・・・まさか・・」


「ゆきとっ!?無理に喋るでないっ!?」


「大丈夫だよ、ミコト。少し気が弛んでいた所に不意討ちを食らったようなものだから、気を引き締め直せば問題無いから」


 とは言う物の正直今は立って歩くので精一杯で満身創痍になりかけていた。

 そんな俺に対して姉さんが話し掛けてきた直後だった。


「雪兎、さっきの音の事だけど、もしや鈴」


〈〈リリィィィィン!リィィィン!リリィィィィン!〉〉


「ウグッ!!またっ!!?」


「ゆきとっ!?」


「もしかしたらと思ったけど、やっぱり、この音だったのね。こんなに大きく鳴るまで気付かないなんて私とした事がっ!!」


「ね、ねえ・・さん。この音は一体?」


「この音は、神社の周りに張り巡らしてある結界の鈴の音よ」


「け、結界?なんでそんな物が・・・?」


「ごめんね、雪兎。その質問は後にさせて、じゃないと招かれざる客が結界を突破してこないとも限らないからね」


(招かれざる客?)


 姉さんはそう言うと、ミコトの方へと目線を移した。


「ん?なんじゃ?」


「・・・・・」


「娘よ。言いたい事があるならハッキリと申せ!」


 姉さんは不満げな顔で大きなため息をつきながらミコトに話しかける。


「はぁ~~~・・・最初にハッキリと言わせてもらうわ。私はあなたの事を認めた訳ではないし、ましてや見逃す訳でも無いわ。これは状況的判断と言うヤツよ。だから、渋々、嫌々、しょうがなくっ!この場は、あなたに雪兎を任せるしかないのっ!分かったわね!?」


 まるで吐き捨てるような言い方でミコトに俺の事を頼み心配そうな表情を見せチラリと俺の方を見た姉さんは、すぐに背を向けて音の方へと歩を進めようとする。

 そうな姉さんの後ろ姿にミコトが声をかける。


「待たんか」


 そのミコトの呼掛けに、姉さんの進みかけた足が止まる。


「おぬし、それが人に物を頼む態度だと思ぉておるのか?」


 ミコトの質問に姉さんは、半身の姿勢で少しこちらに向き直る。


「失礼しました。私とした事が言い忘れていました。もし、私が離れている間・・・雪兎の身に何かあれば例え地の底だろうと、あなたを追い詰めて・・・・コロス!!」


〈〈ゾクンッ!!!〉〉


((ッ!!!!))


 この時、俺は姉さんの顔が髪等で見えなかった。

でも、確かに感じた。

 ミコトに匹敵するような姉さんの圧倒的な威圧感。

 その瞬間氷漬けにでもされたかのような見た事も感じた事も無い・・・本物の殺気と言うものを。

 そんな殺気を直に受けたミコトが心配になり様子を(うかが)おうとしたが殺気の影響か、緊張して顔はおろか目線すら動かせないでいた。

 だが、そんな俺の心配もミコトの言葉により、すぐに徒労だと気付かされた。


「ふんっ、上等じゃ!要らぬ心配なぞせんで、はよぉ客とやらをもてなして来い」


「ふっ・・・お願いします」


 そう言いながら姉さんは少しだけ口元に笑みを浮かべながら足早にその場を去って行った。


(お願いします・・か、なんだかんだ言いながら、ミコトの事を認めてくれているのかな?)


 

ようやく体の緊張が解け動けるようになり姉さんの背中を見送りながら、そんな事を思っていた俺にミコトは疑問を投げ掛けてくる。


「のぉ、ゆきとよ。おぬしの姉はあれか?俗に言うブラコンとゆうやつなのか?」


「えっ!?なんで!?」


「なんでって、説明なぞ要らぬであろう。あやつの言動や態度を見ていれば一目瞭然ではないか!?ゆきとに対してあの熱の入れようは単なる弟思いの姉ではすまんぞ?」


(そうなのかな?確かに昔から俺の事となるとムキになるところはあったかもしれないけど・・・)


「まぁよい。別にゆきとがブラコンの姉を持っていようが、そんなブラコンの姉が妾の事を認めようとしなくともゆきとが妾の主であることに変わりは無いからのぉ」


 そう言いながらミコトは自信満々な顔をしていた。


「そういえばミコト?さっきの姉さ」


〈リ、リン・・・リリン・・〉


 ミコトに話しをしかけた時だった。

 また鈴の音が鳴り出すと同時に後ろの木々が生い茂る林の中から何者かの声が聞こえてきた。


「これは驚いた。魔力を感じて来てみれば人間と妖怪が仲良くお喋りをしているとはな」


(っ!!?)


 俺とミコトはすぐに声の方へと振り向くと、そこには5mはあろう背丈に見ただけでもわかる赤黒く光る筋肉質な巨体、手足の指から伸びる鋭く堅そうな爪に額からは角のような物が2本生えた人では無い何かが立っていた。


(なっ!?で、でかいっ!しかも・・ひ・・額から角って・・・まっ)


「まさか、お・・おに・・・!?」


「うむ、そのまさかじゃな」


 自分でも気づかない内に考えていた事が口から出ていたことにミコトの返答によって俺は気付く。


「どうやら、あの娘が言うておった結界は・・・()()()()に反応したようじゃな」


 そう言いながらミコトの目線は鬼の足元へと移っていく。

 するとその目線の先に居たのは木々の影に潜み月の明かりで照らされ浮かび上がるように姿を表す小さな鬼達であった。

 しかし、小さいと言ってもそれは5m級の大鬼と比べたらの話しであってその小鬼ですら人間よりも大きく2mはありそうだった。


「でも、結界の鈴の音は姉さんが向かった方角から聞こえてたはず・・・」


「おそらくそっちは、この大鬼の手下の子鬼や餓鬼どもじゃろ。まぁ、差して変わらぬ小さな鬼どもじゃがな。この大鬼よりも強い殀力の反応が無いところから考えると囮か陽動じゃな。ふっ、脳筋な鬼の割には多少頭が回るようじゃ」


「なんだとっ!!」


(ちょっ、ミコトっ!?なんでそんな挑発するような事っ!?)


 その状況にびくびくしていた俺をよそにミコトの挑発的な言動に大鬼が反応し声を荒げる。


「大きな口を叩くなよ!狐風情がっ!!」


「ほぉ、これはこれは失礼したのぉ。先程の言葉は訂正するぞ鬼よ」


 ミコトは訂正すると言いながら、何故か失笑ぎみに言葉を続ける。


「多少頭が回ると評したが、少し挑発されただけでそれほど声を荒げるとは、やはり貴様は図体がでかいだけの脳筋な鬼だったようじゃな。妾の貴様に対しての過大評価、平に謝るぞ。許して、た・も・れっ」


 ミコトはそう言いながら袖を口元に当てクスッと笑ってみせる。


(わぁぁ!!そんな火に油を注ぐような発言なんてしたらっ!!)


〈ブチッ!!〉


(あっ、今、聞こえた。聞こえないはずの鬼の堪忍袋の緒が切れる音が確かに聞こえた)


 大鬼はプルプルと震えていた体の怒りを爆発させるように腕を顔を天に向け、まるで火山の噴火のような怒号を口から吐き出した。


「貴様ぁぁぁぁぁ!!!」


(ですよねぇぇぇ!!!)


 大鬼は振り上げていた腕を勢いよく地面に叩きつける。

 叩きつけられた地面は石と砂ぼこりの津波となって俺とミコトに襲いかかってきた。


(あっ足がっ、動かな)


「ゆきとっ!」


 足が竦み動けなかった俺はミコトに押される形で難を逃れた。


「イテテッ」


「ゆきとっ、大丈夫か!?」


「あぁ、大丈夫。ありがとうミコト」


 軽い擦り傷を負った俺、そんな俺を見ながらミコトは腰に手を当てる。


「まったく、ゆきとよ。あんな目に見えて怒り狂い攻撃してくるヤツを目の前に、ぼぉーとしておったら危ないぞ?」


「いやぁ、足が竦んじゃって動こうにも動けなかったんだ。ゴメン、ごめ・・ん・・・?」


「ん?どうしたのじゃ?」


「いや、元はと言えばあの鬼が怒り狂ったのはミコトが煽ったのが原因だよね?」


「うっ!」


 ミコトは肩をビクッと震わせ顔はプイッとそっぽを向いてしまった。


「いや、つい、その・・じゃな」


「イヤイヤ、つい、その、じゃなくて」


 俺は誤魔化そうとするミコトの横顔をジィーっと凝視する。


「ええい!仕方なかろぉ。つい昔の癖であの様な力だけの木偶の坊を見ているとムシャクシャと言うか、からかわずにはおれんのじゃ・・・」





(・・・・・はい?)





 そんな俺の凝視に耐えきれずに出たミコトの変な癖?理由?言い訳?に対して俺は数秒間フリーズを余儀なくされた。


 そしてミコトの「そんなことはどうでもよいじゃろ!それに今はそれ所では無い!」と言う正論?で[ミコトの変な癖のせいで俺が危ない目にあった事]は強引に流されたのだ。


(正論だけど、ここまで説得力の無い正論も珍しいよね)と思ったのは俺だけ?だとはとても思えなかったのは言うまでもない。


 当然ながら怒った大鬼はこちらの状況等お構い無しに襲ってくる。

 しかも、ミコトの木偶の坊と言う先程の発言を聞かれていたらしく尚も怒りの沸点をあげていた。


「貴様らどうやら本当に死にたいようだな。ここまで俺様を怒らせた事後悔させてやる!!」


 そう言う大鬼は自らの手を口に突っ込む。

 俺が(なにをっ!?)と思った次の瞬間、大鬼の口の奥からはなんと大きな金棒が出てきたのだ。


「お前ら等コイツでミンチにして食らってやるわっ!!」


 大鬼は金棒を片手で振り上げ肩に背負う姿勢で、その巨体からは考えられない程の速さで突進、その勢いのまま俺とミコトに金棒を振り下ろしてきた。

 ミコトはともかく俺はすぐに反応出来ずギリギリの所で直撃を避けたのだが金棒が地面に叩きつけられた衝撃は、まるで爆弾が爆発したかのような音を立て衝撃で抉られた地面からは石や固い土塊の弾丸が第二撃として容赦なく俺に襲いかかってきた。

 一撃目の衝撃で不安定な体勢になり飛んでくる石や土を避ける余裕が無かった俺は咄嗟に腕でガードする姿勢をとった。

 すぐに衝撃や痛みがやって来ると思った俺の体は硬直し目も瞑ってしまっていた。

だが・・・


(あれっ?)


 来るはずの衝撃、襲って来るであろう痛みが一向に来ない事を不思議に思った俺は恐る恐る瞑っていた目を開いてゆく。

 するとそこにはミコトが封印されていた物とは別の刀を振るい石や土塊を弾き落とす姉さんの後ろ姿であった。


「ふぅ、間一髪だったわね。大丈夫?怪我は無い?雪兎」


間一髪と言った割には余裕が見える姉さん。


「あ、ありがとう姉さん。でも、その刀は・・・?」


「ごめんね、雪兎。説明は後で・・・あの大きな鬼が親玉みたいね」


 姉さんは大鬼を見遣り刀を構える。

 その大鬼は一度ならず二度までも自分の攻撃を交わされた事に不満を募らせていた。


「お、俺様の攻撃を狐風情に交わされただけでなく、下等な人間なんぞに・・弾かれた、だと!!?・・・ふ、ふ、ふざけるなぁぁぁ!!!」


 正に鬼の形相で怒号を発する大鬼。

 だが、そんな大鬼を手下である小鬼達が宥め始めた。


「ア、アニキ落ち着いてくだせぇ!こんな下等な人間や狐なんか相手にしちゃいけやせん!」


「そ、そうでやすよ!アニキ!」


 必死に大鬼を宥めようとする小鬼達に対し、大鬼はギロッ!と小鬼達を見下ろす。


「貴様ら、手下である小鬼どもが俺様に意見するつもりか!」


「ひっ!」


 大鬼の言葉と圧力により萎縮する小鬼達だが、萎縮し弱々しくもなんとか宥めようと食い下がる。


「い、意見だなんて・・め、滅相も・・・でやすが・・アニキを始めあっしらは、【あのお方】の命でここにいやす」


「ムッ!」


 一瞬、小鬼の【あのお方】と言う言葉に大鬼の体はビクッと反応する。


「ですから・・・その・・」


 小鬼は恐る恐る大鬼の様子を窺う

 大鬼は見下ろしていた目を瞑りながら一度大きく深呼吸をする。

 そして瞑っていた目を開く大鬼。

 その目には先程までの怒りのドス黒い炎では無く、まるで広がっていた波紋が段々と小さくなっていく水面のような静寂と冷徹、だがその奥底には確かな闘志を映した目へと変わっていた。


「ふぅ~、頭に血が上りすぎていたようだ。我を忘れて怒りに身を支配されそうになるとはな」


「ア、アニキ?」


「失態を取り返し、あのお方の命を遂行するぞ!!」


「ヘイ!アニキ!」

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