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試練=父+贈り物

 人生何が起こるかわからない。

 今日は良いことがあった。

 だからと言って明日も良いことが有るとは限らない。

 逆に明日は悪い日になるかもしれない。

 いや、もしかしたらそれは明日ではなく今から数分後、数秒後に起こってもなんら不思議はないのだ。

 嬉しいこと、驚くこと、悲しいこと、恐ろしいこと。

 そんな色々な事が一辺に起こった日。


 そう、あの日は、そんな日だった。



     ~   ~   ~



「はぁ~・・」


 寒空の下俺は空を見上げながら無意識にため息をついていた。

 冷たい空気の中、吐いた息は白く出て空へと同化し消えて行く。

 俺、倉橋(くらはし ) 雪兎(ゆきと)北社(きたやしろ)市の高校に通う学生。町から少し離れた小高い丘に立つ倉橋神社が俺の実家である。

 倉橋神社は祖父が宮司(ぐうじ)を勤める歴史ある神社・・・らしい・・。

 他と比べると少し大きめに建てられた社殿(しゃでん)は全体的に黒で統一されていて所々に金や白の模様がはいっている。

 社殿を背にした参道には石畳が10メートル程敷かれていて、その先には階段がある。

 階段の前にある鳥居は完全に黒一色だけど社殿も鳥居も少しくすんだ感じの色合いになっていて歴史を感じさせていた。

 境内は左右正面に木が囲う様に植えてあり広く造られていて、ちょっとしたお祭り位なら出来そうな広さだ。

 そんな広い境内を俺は朝早くから掃除をしていた。

 でも勘違いしないでほしい。

 これは決して自ら率先してやっている訳ではない。

 つまり、()()()()・ではなく。

 ()()()()()()()・と、言う方が正しいのである。

 そう、おそらく家の中でこたつに入りながら朝のワイドショーでも見ているであろう姉さんに。




 倉橋 南巳(なみ)は、6歳年上の俺の姉さん。

 身長は、俺より少し低く170㎝くらいで、腰位まで伸びたサラサラな黒髪と整った顔立ち。

 一見スラッとした体格だけど、ちゃんと出るとこは出てて弟の俺から見ても容姿端麗(ようしたんれい)という言葉が当てはまる人だと思う。

 その上、人を惹き付ける不思議な魅力が姉さんにはある。

そんな姉さんだが高校卒業後いきなり家を出て行って4年間音信不通となっていたかと思えば、何の前触れもなく2年前に帰ってきたのだ。

 4年間もどこで何をしていかを聞いてみると。


「ん?旅に出てたんだよ!?」


 と言う解答が返ってくるような予測不能な―もとい行動力のある人でもあるのだ。

 ちなみに後から聞いた話だが知らないのは俺だけで父さんは姉さんが旅に出る事を知っていたらしい。

教えてよっ!と心の中の叫びとため息が同時に出たのは言うまでもない。

 そんな俺の父さんは昔から仕事で家を空けることが多く滅多に帰って来なかった為、俺たち姉弟を祖父が親代わりとなって育ててくれていた。

 それでも姉さんは祖父に迷惑は掛けまいとして、自分自身に対してもそうだか弟の俺に対しても厳しい一面を持っていた。

 そんな理由で俺は姉さんには頭が上がらず、こうして境内の掃除をしているのだ。


(まぁ、理由はそれだけじゃないんだけど・・・)と思いながら俺は昨日の事を思い出していた。


     ~    ~    ~



         ―昨日―


 ジリリリッ!

 朝5時ベットの棚の上に置いてある目覚まし時計の音で目が覚めた。


「ふぁ~・・寒いなぁ・・」


 やはり冬の朝は寒く俺は眠い目を擦り掛け布団を体に巻いた状態でベットから起き上がり、右側の窓のカーテンにゆっくりと手を伸ばした。

 シャァァーっとカーテンは音を立てながら、ゆっくりと外の朝の光を招き入れる。

 寝起きの目には少し眩しかったが、やがて慣れてくると俺は窓の外に目をやった。

 外は裸の木々が目立ち枯れ葉が風でゆらゆらと流されている境内。

 その先に目をやると、ちょっと離れた町等の風景が一望できた。

 いつも見慣れた風景だけど、やっぱり冬は寂しく感じてしまう。

 2階の自分の部屋から出て一階の洗面台へと向かい顔を洗った後、歯を磨き寝癖になっている髪の毛を濡れた手で撫で付ける。

 まだ少し寝ぼけながら歯を磨いている自分の顔を鏡で見ながら(間抜けな顔)っと自分で思ってしまう。

 歯を磨き終えた俺は2階の自分の部屋に戻りランニング用のジャージに着替えを済ませて家を出た。

 神社から少し離れた場所にある道場までのランニング。

 その後、道場での朝稽古をするのが俺の朝の日課となっていた。

 この道場の師範が小さい頃からの付き合いで同じ学校に通う学友であり幼なじみの一色 夏羊(いしき かよ)の親父さん、正人(まさと)さんだ。

 正人さんは一色流剣術・体術の二代目師範で、その奥さんの真由美(まゆみ)さんも一色流体術の師範代である。

 香羊の両親と俺の父さんが昔からの知り合いらしく、とても仲が良かった。

 そのせいで格闘技に興味があった姉さんは、その道場に入門、当時6歳であった俺も半ば強制的に入門させられ、道場で教わった剣術や体術を姉さんの練習相手として日々、技を掛けられ続ける地獄のような幼少期を過ごしてきたのである。

 まぁ、そのおかげと言うかなんと言うか精神面や肉体面は結構頑丈な男子に成長できたと思うし最初は嫌だった剣術や体術の稽古も今はそれほど嫌ではなくなり、こうして継続できている。

 そういう意味では姉さんには一応感謝している。


 7時半頃に朝稽古は終わり8時に家に着いた。

 いつもなら自分の部屋に一旦戻り学校に持って行く教科書等をカバンに入れ準備をしてからシャワーを浴びるのだが今日は土曜日で学校は休み。

 その上、稽古がいつにも増してハードなせいもあり冬だというのに汗だくになり、家に帰って来るまでに体が冷えてしまったので、自分の部屋に戻らずに風呂場に直行した。

 ガラガラッ!と風呂場のドアに手を掛け勢いよく開ける。

次の瞬間俺の目に飛び込んできたのは―!!?


 湯気の中、まるで天女が羽衣を(まと)っているかのように幻想的に浮かび上がった風呂上がりの姉さんであった。

 その濡れ羽色(ぬればいろ)の髪にシミ一つ無い透き通るような白い肌、肌についた水滴はまるで重力で引き寄せるブラックホールのように首、肩、鎖骨を通り豊満な胸の谷間へと吸い込まれる。

 吸い込まれた水滴は細過ぎず、しかし滑らかな曲線を描くクビレた腰から丁度良い肉付きのお尻、長い足へと落ちていく。

 そんな姉さんの姿に見()れていると、いきなり腹にドスッという鈍い音と衝撃が!?

 気付いたら俺の体は、後ろの壁まで飛ばされていた。


「なんだ、雪兎じゃない。ちゃんと開ける前にノックはしなきゃダメでしょう。いきなりドアが開いたから反射的に蹴っちゃったじゃない」


 後から襲ってきた痛みでその場に座り込んでいた俺は頭上からの悪怯(わるび)れた様子もない姉さんの声により衝撃の正体が姉さんの蹴りだと理解した。


「確かにノックし忘れた事は謝る。け・ど・普通の女性ならお風呂上がりにいきなりドアが開いたら体をタオルで隠したり悲鳴をあげたりする事はあっても真っ先に蹴りが跳んでくることは無いと思うだけど」


 俺は姉さんの言い分に対して、謝罪をした上で反論を試みた。

だが・・・


「なぁ~に?雪兎ぉ。まるで私が普通の()()()()()女性では無いような言い方ねぇ」


「いやいや、どこの世界に反射的に蹴りが跳んでくる華奢でか弱い女性がいるんだよっ!?」


 すると姉さんは自分を指さし、満面の笑みを浮かべ


「ここにいるじゃない!」


 と自信満々に言い切った。


「ハァ~・・」


 俺はため息混じりの息を吐く。


「・・・ところで姉さん」


「ん?なに?」


「早く着替えた方がいいんじゃない?風邪ひくよ?それに・・その、目のやり場が・・・」


 目線を外しながら言うと姉さんはハッとしたように自分がタオル一枚だけの格好であったことを思い出したのか顔を赤くしながら―


「早く言いなさいよっ!このバカ雪兎!」


 次の瞬間、座り込んでいた俺に本日二度目ではあるが最初と違い加減の無い素晴らしい蹴りが腹に跳んできたのだった。

 その後、まだ顔を赤くした姉さんが着替えを終えて風呂場から出てきた。


「罰として明日の朝は雪兎が境内の掃除をやってよね」


「そんなっ!罰なら姉さんの蹴りで充分でっ―!」


 俺は姉さんに対して反論しようとしたが、姉さんは軽く右足を上げ鋭い目を向けて俺の反論を黙殺した後に口にした一言がトドメであった。


()()()()()()っ!」



「・・・はぃ」


 

    ~    ~    ~



 そんな訳で俺の反論は文字通り姉さんの蹴りで一蹴され境内の掃除をしぶしぶやらされていたのである。

掃除も終わり家に戻ろうとすると姉さんの呼ぶ声が聞こえてくる。


「雪兎ぉ~!お父さんから電話きてるよぉー!」


 滅多に連絡等して来ない父さんからの電話に珍しいなと思いながら家に戻り会話中だった姉さんから受話器を受け取る。

 半年ぶりの父さんとの会話だった。


「もしもし、父さん?」


「おぉ!雪兎か!?久しぶりだな。元気にしてたか?」


「うん。なんとか元気にやってるよ。父さんも相変わらず元気そうだね?」


「おう!元気でやってるぞ!南巳も元気そうだしよかった、よかった!」


 10分くらい近況等について話した後、あまり連絡してこない父さんが電話してきた理由を聞いた。

   

「ところで父さん」


「ん?なんだ?」


「何か用事でもあったんじゃないの?」


「おぉ、そうだ!忘れるところだった。明日はお前の誕生日だろ!?」


「そうだけど、覚えてたんだ?」


「当たり前だろ!とは言うものの・・・すまん、まだ家には帰れそうにないんだ」


「別に・・今さら謝らないでよ。いつもの事だし慣れっ子だよ」


「本当にすまん・・・代わりといってはなんだが、お前にプレゼントを送っておいた。

亜巳が預かっているようだから後で受け取ってくれ?」


「別に誕生日プレゼントとかいいのに・・気持ちだけで」


「せっかく送ったんだから、そう言うなって。それにな、これからのお前の人生で役に立つはずだからよ」


 この時、父さんの言葉がなんだか意味深に聞こえたような気がした。


「なんだよ大袈裟だなぁ・・まぁいっか、何かは分からないけど有り難く貰っておくよ。ありがとう」


「おぉ!じゃあ身体に気をつけて、何があってもめげずに元気でやっていけよ!」


「だから大袈裟だって・・でも・・わかった!大丈夫だよ!じゃあ、そろそろ電話切るね」


 電話を切った後、俺は最後の父さんの様子がいつもと違った事が気になっていた。

 タイミングを見計らったように姉さんが話し掛けてくる。


「お父さんとの話しは終わった?」


「うん。最後の方はなんかいつもと様子が違ったような気がするけど、なんかあったのかな?」


「・・・」


(ん?なんか姉さんまで様子がおかしいな)


「そう言えば父さんからのプレゼントを姉さんが預かってるって聞いたけど?」


「・・・」


 姉さんは、まるで俺の声が聞こえていない様子だった。


「姉さん?」


「・・雪兎」


「ッ!!・・・な、なに?」


 俺は、この時姉さんの顔つきが一瞬だけ変わった事に気付き驚き戸惑いながらも言葉を返した。


「今日の23時に社殿の前に来て。父さんから預かってる物渡したいから」


 姉さんはそう言うと俺からの返事も聞かずに自分の部屋へと行ってしまった。


(・・・俺を呼んだ時、一瞬だけど姉さんの顔つきが変わった。しかも、あの顔は・・・あの時の)



    ~   ~   ~



        ―23時前―

 俺は、姉さんに言われた通り社殿の前で待っていた。

 そこへ現れたのは道着姿で手には2本の竹刀と細長い木箱のようなものを抱えた姉さんだった。


「どうしたの姉さん!?道着なんか着てきて、しかも竹刀まで持って!?」


「・・・・・」


 俺の質問に対して無言の姉さん。だけど俺は確信は無かったが姉さんが何をしようとしているかは、なんとなく感じ取っていた。

 姉さんの、あの真剣な顔と眼差しは試合の時に見せる顔だ。

 何度も見てきたし対峙してきたからわかる。

 何故、という疑問は残るけど・・姉さんは本気だ。


(だけど)


「姉さん・・1つだけ答えてくれない?」


「・・・・?」


「この勝負は必要なことなの?」


「・・そうよ。でも私の為だけじゃない。あなたにとっても大事な事よ。雪兎」


(やっぱりか・・・姉さんは昔からそうだった。俺に対して厳しかったりしたけど、なんだかんだ全部俺の為だった。まだ釈然としない感じはある。姉さんに勝てる自信がある訳でもない・・けど、ここで退いたら、きっと姉さんの気持ちを無駄にする。それだけは絶対にしちゃいけない・・イヤ、絶対にしたくない!それに・・・)


 俺は自分の頬を両手で叩いて気持ちに踏ん切りをつける。


「フッ・・雪兎」


 そんな俺の顔を見た姉さんは片方の竹刀を俺に放ってきた。

 浅く弧を描いた竹刀を俺は体で受け止める。

 その時、俺には姉さんの口元が少し緩み笑みを浮かべていたように見えた。

 渡された竹刀の柄を握り構える。

 そして俺の口は覚悟(ことば)を発する。


「それにっ!姉さんの言う事には逆らえないしなっ!!」


最後迄読んで頂きありがとうございます。

自分にとって多くの方の目に触れるような所に出したのはこの作品が初めてなので、ある意味処女作品と言っていいでしょう。

正直、自分は文学と言うのが無いと思っていますので、読んで頂いた方の中には稚拙な文章だと思った方もいると思いますが何卒ご容赦を。

何か気付いた点等がありましたら、教えて頂けたらと思います。

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