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この髪型はフィッシュボーンというのです

 焚火のある馬車の傍に戻ると、先ほどは姿のなかったルークス、あと名前の分からない青年がいた。

「あっ、昨日の迷子ちゃん。おはよう!」

 にこっと笑いかけてきたのは、見たところ20は超えていないくらいの短い茶髪の男性だ。やはり腰に剣をぶら下げている。少年みたいな無邪気な笑顔は愛嬌満点だ。

「おはようございます。えーと、ロロです」

「うん!俺はザックだ!よろしくな」

「ふわっ!あ、あたま撫でないで!」

「俺にも妹がいるんだよ~困ったことがあったら言ってくれよなぁ」

 ちょっと間延びした話し方のせいで、ザックは見た目以上に幼く見える。というかなんでこいつらやたらと頭撫でるのよ。

 これで自己紹介は全員と済んだはずだ。多分、わたしより年下なのはレオナルド、リカルド、ザック、アリアの4人、ルークスは少し年上だろう。ジークさんは見た目は50代くらいだ。

 みんな、タイプは違えど整った顔してるわね。あれかしら、エルトラド王国は美男美女じゃないと住めないっていう法律でもあるのかしら。ちなみにわたしは地味な顔を頑張って化粧でもりあげてるタイプよ。顔のパーツがぼちぼち悪くないってことを喜ばなきゃダメなのよ、天然な美人なんて少数派なんだから!

 …と、なぜか思考があっちのほうに飛んで行ってしまった。スープ作らなきゃ。

 わたしは集めたハーブをスープに入れる。ベリーは水洗いをした。

「ロロちゃん、働き者なんだなぁ」

「お世話になってますから」

「まあ、そうかもしれないけどそんな気張らなくても大丈夫だぜ。それにあんまり固くならなくても、俺たちのなかに悪いヤツはいないからさ。敬語だっていらないぜ。あ、レオナルド様とアリア様には使ったほうがいいかもしれないけど」

 もしわたしが本当に10歳くらいだったら、ザックは頼れるお兄ちゃんに見えただろう。しかーし!わたしは何度も言うが23歳!ザックは年下の男の子だ。

「このベリー、ロロちゃんが集めてきたの?」

「うん」

「すごいなあ。うん、うまい」

「あっ、つまみ食い!もー…ひとつだけよ」

 へへっと笑うザック。

 …オーリアに聞いたことある、わんこ系だったかしら…こういう、年下の可愛い感じの…。うん…悪くない、かも…。かわいい。


 わたしがぼんやりザックの顔を見ていると、馬車のなかからアリアの声が聞こえた。同じくレオナルドの声も。

 もめている?

 わたしは馬車のなかへ戻る。なかには案の定、レオナルドとアリアがいた。

「髪をちゃんと綺麗にしてくれなきゃ嫌!朝のお茶もないし、馬車なんかで寝たから身体も痛い!お兄様!わたし王都に帰りたい!」

「わがまま言わないでアリア…王都には帰れないんだ。さあ、食事の準備がそろそろできるみたいだよ。早く済ませて出発しないと…」

「朝は焼きたての甘いパンじゃないと嫌なの!」

 なんだ、アリアがごねてたのね。ギャンギャンとわめき、明らかに困っている様子のレオナルドを気に留める様子もない。姪っ子のジュリアもイヤイヤ期はこんな感じだった。ただし、オーリアは意外と厳しいお母さんだから「わがままはやめなさい!おやつなしよ!」と一括していたけれど。

「ど、どうしよう…。あっ、ロロ!」

「えーっと…おはようございます」

「お、おはよう」

 まずは挨拶をしたけれど、ぶすくれたアリアの横でちょっと間抜けなやりとりだ。

 アリアはわたしの姿をみて少し大人しくなる。昨日会ったばかりの人間の前で癇癪を起し続けるほどわがままっぷりが吹っ切れてるわけじゃないみたいだ。おそらく、このままレオナルドに任せていてもアリアのだだは収まらないと判断し、わたしはずかずかと馬車の奥へ進んだ。


「おはよう、アリア!」

 にこっと、おそらくわたしができる一番柔らかい笑顔を見せる。アリアはちょっと恥ずかしそうに「おはようございます…」と返してくれた。うん、顔色は悪くない。わがまま言えるくらいには元気みたいだ。

「あのね、朝ごはん、甘いパンもお茶もないけど、スープと美味しい木の実があるの。スープは、わたしががんばって作ったから食べてほしいな」

「ロロさんが、作りましたの?」

「うん。木の実はね、さっきもぎったばっかりのベリーなの。甘酸っぱくておいしいよ」

「ベリー…」

 ベリーと聞いて、少し心惹かれたみたいだ。よし、機嫌なおってきた!もう一押し!

「あと、髪は…洗ったりはできないけど、結んであげる。ほら、むこう向いて座って」

「う、うん」

 櫛とリボンを貸してもらった。

「髪、すごくきれいね。うわぁ、サラサラ」

 金の髪は、指を通すとまるで水のように滑り落ちる。すごい、どんなヘアオイル使ってるのかな。わたしにも分けてほしい。

 さて、どんなふうに結ぼうか。姪っ子のジュリアも髪が長く、よく結んであげたし、こういうのは得意だ。何本かリボンを持ってるみたいだし、でも旅で髪が邪魔にならないように、まとめ髪にしようかな。

「うわあ、すごいね…編み物みたいだ」

 レオナルドがわたしの手元を覗き込んで言う。

「えへへ、よくちびっ子の髪を結んであげたの。はい、アリア、できたよ」

 アリアに鏡を見せる。ゆるく三つ編みにした髪の毛にリボンを編み込んだ、簡単だけど可愛らしさが引き立つ感じ。これなら王族っぽさはなく、平民の女の子って感じ。

 鏡を見せる。

 すると、ほんの少し不機嫌さの残った表情が、ぱっと花が咲いたように明るくなる。

「…わぁ!可愛い!」

 わぁ~と歓声をあげながら、鏡の前で顔の角度を変えて、新しい髪型を堪能するアリア。こんなに嬉しそうにしてくれるなら、がんばって悪い気はしない。

「ロロさんってすごく器用なのね…ありがとう!」

「どういたしまして。さ、ご飯食べに行こう。きっとみんな可愛いって褒めてくれるよ」

 アリアの手を握ると、元気よく「はい!」と返事をし、ぎゅっと握り返してくる。

 根は素直でいい子なんだろうな。まだ確定はしていないけど、おそらく王族であるアリアなら、いつもは温かい場所できちんとした食事を食べる身分だからストレスもあるだろうな…。


「おお、可愛いくしてるなあ」

 機嫌を直して出てきたアリアに真っ先に気付いたのはルークスだった。そして褒める。

「えへへっ、ロロさんに結ってもらいましたの」

「へぇ、器用なもんだ」

 ジークやリカルド、ザックも褒める。アリアはますますにこにこっと、嬉しそうだ。実際に、町娘風のアリアはかなーり可愛い!

 オーリアという美人のお姉さんも素敵だけど、アリアみたいな可愛い妹もいいな…。いや、姪っ子のジュリアも十分可愛いんだけど、あんまり甘やかすとオーリアとジャレッドが怒るから。



「うわ…これ、上手いっすね!まさかリカルドさんが作ったんですか?」

「まさかとはなんです、ザック」

「いや、リカルドさん料理できないじゃないですか」

「ロロのお手製ですよ」

「うわあ、ロロちゃんすごいなあ!しっかり者!」

 スープは結構評判だったみたいで、あっという間になくなった。アリアとレオナルドすらも「おいしい」って食べてくれたんだから、スープに関してはわたしの腕なかなかじゃない!?


 食事がすむと、馬車はすぐに出発した。それも急いでいるように。

 やっぱり、彼らはなにかから逃げてるのかな。森の出口までは、あと1日ほどで着く。


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