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小さくなる薬…怪しいわ!

 この大陸には最も大きな国家、エルトラド王国が存在する。エルトラド王国では長きにわたりオルテイシア一族が王族として国王を輩出し、穏やかな統治が続けられた。

 エルトラドの北には、古くから「魔の国」と呼ばれる小さな国がある。魔の国の一族は生まれながらにして魔力を持ち、魔術に慣れ親しんできた。彼らは魔術を正しく、決して世界に悪影響を及ぼさないように用いることを重んじる。

 近年、エルトラド王国と魔の国は和平を結ぶために動き始めていた。その大きな活動の一つがエルトラド王国の王子と魔の国の王女の婚姻だった。

 エルトラドの若き第一王子、ジュリアス・エルトラドは金の髪の青空の瞳を湛えた美しい青年だと聞いている。現国王によく似て、穏やかであり、いずれは王国を統治するにふさわしく賢い人物だ。


「……そんな欠点なし男、いるわけないじゃんねぇ。絵本の王子さまじゃあるまいし、嘘くさくない?」

 そしてその相手となるのはこのわたし、魔の国の第2王女であるロロニア・オズバーンだ。

 顔は、よく言えば化粧映えするが美人というわけではなく、スレンダーというば聞こえはいいが控えめな胸に、そして実践的ではあるがしょぼい魔法を操る、このわたしだ。

「ロロニア様!だらしない恰好をしないでください!椅子に座るならきちんと背筋を伸ばして」

「ふわーい」

「返事もきちんと!」

 侍女のリリーが本格的に怒り出す前に、わたしはぴしりと背筋を伸ばす。リリーの眉間の皺がなくなり、こっそりと安堵の息を吐く。彼女はわたしより3歳年上の26歳、わたしが初めてこの城に来た時からずっとそばにいてくれた女性だ。

 付き合いが長いと遠慮もなくなるせいで、わたしを怒ることに容赦がないリリー。わたしのお姉さんみたいな人。

 今日はもう面倒な御稽古はすべて終わり、わたしは庭に面した部屋でお茶を飲んでいた。リリーの淹れてくれたカモミールのよい香りが鼻腔をくすぐり、今日の疲れを癒してくれる。


 エルトラド王国への輿入れが1週間後に近づいている。あと1週間でわたしは別国の王子の妻になるなんて少しも実感が湧かない。そもそも、自分が「おひめさま」なんて肩書でこの大きな城に我が物顔で座っていることですら可笑しな気持ちになるのだ。

「ねえ、リリーはジュリアス王子のことほかに聞いてないの?」

「ほか、とは?」

 リリーは首をかしげる。

「褒め言葉ばっかりじゃなくて、たとえば女癖が悪いとか、実は足が臭いとか」

「聞いていませんよそんな…」

 リリーは「また妙な事を言い出したな」と言いたげな顔をした後、穏やかに微笑んだ。

「ジュリアス王子は素敵なお方ですよ」

 優しい声はわたしの不安を和らげるためだと分かっている。わたしも情けない気持ちになりながらも微笑み返すと、ほんの少しだけほっとしたようにリリーは顔をやわらげた。

 わたしの結婚が決まったのは一年半ほど前、正式に婚姻の話を進めるために魔の国から使節団を送った際、リリーも使節団に参加していたのだ。本来はわたしの侍女であるリリーが使節団に加わるのはおかしいことだが、わたしがわがままを言ってリリーを行かせたのだ。そしてジュリアス王子についての噂話をかたっぱしからかき集めてきてほしいとお願いした。

 そしてリリーが町返ってきたジュリアス王子の評判は、悪いどころか誰もが賞賛する才色兼備の立派な男性である、とのこと…。

 ええ~、本当にぃ?もちろんリリーが嘘をついてるとは思えないけど、でもみんながみんな褒めるって逆に不安じゃない、胡散臭いっていうか、ただのツボを法外な値段ふっかけて買わせてくるセールスマンのトークと似てるっていうか。

「……不安ですか」

 リリーがそっと尋ねる。

 わたしは言葉に詰まった。


 そしてどう答えようか逡巡しているうちに、部屋をノックする音が聞こえた。

「ロロニア!」

 リリーがさっと頭をさげる。顔をのぞかせた人物は、わたしの義姉であり、魔の国の第一王女オーリアだった。

「オーリア!」

 わたしは椅子を立ち上がり、ほんのちょっとしか離れていないのにオーリアに小走りに近づいて抱きしめた。ぎゅっと抱きしめると、オーリアの華奢な体つきがよくわかった。

「オーリア、もう起きて大丈夫なの?熱下がった?お茶飲む?寒くない?」

「うふふ、もう大丈夫。今日のところは、ね」

 ふわりと笑ったオーリアの顔色は、昨日よりはずいぶんとマシになっている。

「オーリア様、お座りください。すぐにお茶を用意いたします」

「ありがとうリリー」

 オーリアは生まれつき体が弱く、昨日の夜だって熱を出して寝込んでいた。わたしとは違い、大きな瞳に美しい栗色の髪、そしておおきいうらやましいを持つ。正直、オーリアみたいな外見だったらなあと思う。政略結婚に外見はあまり関係ないかもしれないけれど、遠くの国からわざわざ嫁いできた女がこんな地味目な感じかぁ…と思われたくはない。そこは女だから、気にする。

「オーリア、自分のダンナにはもう熱が下がったって教えてあげたの?」

「ええ、大丈夫。ジャレッドは安心したら眠くなったって寝てるわ」


 オーリアは現在24歳、結婚してもう8年になる。彼女の旦那様であるジャレッドはこの魔の国で生まれ育った魔術師のひとりであり、次期国王となる人物だ。特別かっこよくはないけど、頭は結構いいし、なによりもオーリアを大事にしてくれるからわたしは文句ない。

 オーリアが結婚したのは16歳で、この国ではかなり早い方だ。大体20歳に入ってからが一般的ななか、なぜふたりが結婚を急いだかというと、先ほど言ったようにオーリアの生まれつきの病弱さのためだった。20歳までは生きられない、まるで呪いのような言葉に引きずられるように、幼いころから何度も寝込むことがあった。    

 ジャレッドとオーリアは幼馴染であり、ジャレッドがオーリアのことを特別に想ってるのは一目瞭然だった。ジャレッドにプロポーズされたとき、オーリアは長く生きられないということを理由に断り、別れを告げようとした。でもジャレッドはそれを押し切った。国王陛下が大分早い娘の結婚を許したのも、病弱な愛娘に愛する人と結ばれて欲しかったというのもあるんだろう。まあ、今でも「オーリアを最も愛する男はわしだ」と譲らないけど。

 ちなみに、エルトラド王国と違いこの国には王族を頂点とし、それ以外の身分制度は存在しない。ジャレッドはもともと市民の出身だ。

「熱は出ちゃったけど、でもいつもみたいにロロニアの薬草のおかげで元気いっぱいよ!あ、でも、ロロニアの方こそ疲れたりしてない…?本当は花嫁修業で忙しいのに、ごめんなさい…」

「ぜーんぜん大丈夫!花嫁修業よりオーリアのほうが大切に決まってるでしょ!」

 そんなオーリアだが、命の危険からは大分遠ざかることができた。それはわたしの育てた薬草が一役買っている。わたしの得意な魔術のひとつに、植物を育てる魔術がある。オーリアの病に効果のある薬草は育ちにくく、数の確保が難しかったが、わたしの魔術のおかげでそれを助けることができた。今はこの城の倉庫にどっさり、その薬草が保管されている。

 …ぶっちゃけ、植物を育てる魔法は地味だ。もっと炎をボーとか氷をばりーんみたいな派手な魔術を使えたらよかったなあと思うけれど、でも実践的なのはわたしの魔術だ。地味だけど、使える。…地味だけども!

「ふふ…ありがとうわたしの愛する妹。ねえ、今日の花嫁修業はどうだった?」

「うん、それがね…」

 ぽつぽつと今日の出来事をオーリアに話す。リリーはすぐそばに控えながらも、わたしの話を聞いているようでときどき微笑む。オーリアと話すときのわたしは、「ありのまま」だ。貴婦人としての話し方ではない、まるで庶民の娘のように。でもそれをリリーもオーリアも咎めることはない。わたしがこの国で過ごせる最後のときが近づいているからだ。オーリアは第一王女として役目がある傍ら、頻繁にわたしのところに顔を出す。義父である国王陛下、義理の兄となったジャレッドも。

 話の間中、オーリアはわたしの手を握って離さなかった。優しく指を撫でる手は温かい。


 話が途切れ、わたしは乾いた口をお茶で潤した。しばし沈黙が訪れたあと、オーリアはポツリと話す。

「あと、ちょっとね。結婚式まで」

「うん」

 オーリアは暗い顔をし、ため息をはいた。

「不安だわ…」

「なにが?」

「何がって、わたしの可愛い妹が遠い国に嫁いでしまうのよ、簡単には会えなくなるし、エルトラドはこことは生活様式だってずいぶん違うようですし、ロロニアが可愛そうな目に会わないか、すごく心配!」

「まだ言ってる。もう決まったことだし」

「どうしてそんなに落ち着いてるの?わたし、本当に……ロロニアが幸せになってくれなきゃ嫌なのよ」

 オーリアがうるんだ瞳でわたしを覗き込んでくる。初めて会った時は幼くも美しい少女で、いまは立派な一人の女性だ。今も美しく優しく、そしてわたしの大切な姉。

 …本当は遠くの国に嫁ぐなんて、わたしだって不安。すっごく不安!でももう決まったことだし、今まで育ててくれた国王陛下のため、そしてこの国のためになるんだから、断る理由はない。わがままが許されるなら、この国に残って、素敵な人と出会って結婚したい!でもそうはいかないし、もう決意はできてる。

 わたしは最大限に明るく見える笑顔を作った。

「大丈夫!わたし、すごく逞しいし、図太いし、どこだって生きていける!今回の結婚だって、王子様をメロメロにして絶対幸せになるんだから!ね、だから、心配しないで」



 そしてあっという間に時は経ち、魔の国を出発する時が近づいた。

 エルトラド王国までは舟での移動となる。

 今日は晴れ、港には王族や、今まで仕えてくれた皆、国民たちも多く集まった。エルトラド王国との未来の懸け橋となる船出をみんなが期待を込めて見送ろうとしている。

「ロロニア。わたしの娘、別れる前に抱きしめさせてくれ」

「お父さん!」

 わたしが父と呼んで抱き着いたひと、それは他でもない国王陛下だ。偉大なる魔術師でありこの国の父。抱きしめると苦しいほどに抱きしめ返された。

 少し離れて見上げると、皺が目立つようになった顔を優しくほころばせた。

「式には必ず行くよ。旅路ではどうか気を付けて。船も旅も初めてだろうがはしゃぎすぎてはいかんぞ。いつもいい子じゃが、まわりの人のの言うことはよく聞くようにな。辛いことがあればいつでも知らせるようにな。あと…」

 いつまでも私を話そうとしないお父さんに、傍に控えた臣下の一人が咳ばらいをして注意する。

「おっと……いや、長々とすまない。ただひとえにお前が心やすらかであればいい」

 この国を背負う人でありながらも、愛を忘れない陛下は、ただ嫁入りの娘を心配する父として、優しい微笑みを見せた。


 わたしの本当の両親は国王陛下の弟と、魔女だった市平生まれの母親。両親が死んだあと、わたしの存在を知った国王陛下が養子として迎えてくれたのはわたしが7歳のときだ。

 父と母の関係がどんなものだったのかわたしは知らない。ただ、父は若くして病気で死に、城仕えしていた母はその後城から去り、わたしを生み、そして女手一つで育ててくれた。母はわたしの父親が誰かを明らかにしなかった。なぜかというと、母がなくなった今では憶測にしかすぎないけれど、幼くして病弱でいつ命を落とすかわからなかったオーリアがいる傍ら、わたしの存在を公明すれば王の後継者を無闇に増やすことになる。内紛はほとんどなく穏やかなこの国においても、唯一の権力者である王族にとりいろうとする存在がいないわけではない。

 母はいずれはわたしのことを国王陛下に伝えるつもりだったのかもしれないが、それよりも早く、流行り病で死んだ。残されたわたしは、スラム街で薄汚く生き延びていたというわけだ…。生命力強いね。

 わたしのことは死んだ母の手記であきらかになった。同じく白仕えをしていた人物が、身寄りのない母の遺品を整理していて、偶然発見したというわけだ。かくして、薄汚い小娘はこの国の国王陛下の養子となった…。すごいシンデレラストーリーじゃない?わたしがいまいち王族らしからぬのも、生まれ育ちがスラム街のせいだ。オーリアのような気品を身に着けることは一生無理な気がする。

 わたしが養子として迎えられた当時、オーリアは何度も生死の淵を彷徨っていたから、蔭では「ロロニア様がいるから病弱なオーリア様の命の心配をもうしなくてもいい」なんて囁かれていた。でもオーリアが無事に生き延び、結婚し、なんと子供まで生まれた今となってはわたしの存在、そんなに重要じゃなくない?と思った。けれど、エルトラド王国との交流が始まった今、女で結婚適齢期のわたしはとても都合のいい存在だ。

 もちろん、国王陛下をはじめとする王族の人々がただ、オーリアの代わりという理由や、いずれは他国との政略結婚のために利用できるという目的でわたしを養子にむかえたわけじゃない。それは、目の前にいる人々を見ればよく分かる。

「お父さん、行ってきます。大丈夫、なにも心配いりません」

 国王陛下は深く頷いた。

 そして、船は動く。エルトラド王国へ向けて。



 そして迎えられたエルトラド王国で、わたしは予想にもしない出来事に迎えられる。

 婚姻の当日までは王国郊外の屋敷で過ごし、ここの生活に慣れるつもりだった。見慣れない街並みを乗った馬車で走る。不安と期待が入り混じる。仮住まいとなる屋敷は思ったよりはこじんまりとしていたけれど、美しい装飾がほどこされた玄関のアーチを見ると規模に寄らず立派な建物であることがわかる。

 そして、足を踏み入れた。

「ここが、今日からの住まい…」

 しかし、馬車を降りたとき、違和感を覚える。

 魔の国から来てくれた従者たちがひとりもいない…。リリーもだ。

 馬車の周囲にいるのは、剣を携えた男たち。バラバラの装備のせいで兵士には見えない。傭兵、だろうか。目がギラギラとしていて、怖い、と感じた。

「こ、これは?ちょっと、リリーたちはどこ?」

「いませんよ、薄汚い魔術師たちなんて、あなたをのぞいて一人もね」

 冷たい声をとともに、屋敷の中から、ひとりの女性が歩み出てきた。華々しいドレスに、結い上げた藍色の髪、顔立ちは美しいけれども温かみがない笑みを携えていた。

「貴方がロロニア?」

「そ、そうだけど…あっ、そうですけど」

 いけないいけない、気を抜くとすぐ庶民みたいな話し方になっちゃう。いや、この状況では気にしてる場合じゃないかもだけど。

 藍色の髪の女性は冷たい視線っでわたしを上から下まで見た後、鼻で笑う。

「ハッ…こんな地味でしょぼくれた女が…ジュリアス様の結婚相手なんて」

 …こいつ今、堂々と地味って言いやがった。

「なにこの性格悪そうな女。喧嘩するならこんな傭兵ぬきでかかってきなさいよ、殴り合いだって辞さないわよ。てか、そもそも誰!?」

「嫌だわ、殴り合いなんて野蛮ね…捕まえなさい」

「いっ、ちょっと、やめっ、なにするの!?」

 背後から男たちがわたしを捕まえた。両腕を掴まれ、身動きが取れなくなる。

 焦りが浮かぶ。どうしてこうなっているのかわからなかった。殴り合いも野蛮だが、女ひとりを男数人で取り囲んで押さえつけるのも野蛮だろと突っ込む暇はなかった。

 わたしは男たちに引きずられ、屋敷のなかに入れられる。どう考えても、この国の王子の結婚相手を歓迎するムードじゃない。

「ねえって!まず話し合おう!」

「うるさい方ね。辺境の田舎娘ってみんなこんな感じなのかしら…やっぱり同盟なんて間違いよ」

「聞けよ性格ブス!」

 わたしの放ったひとことに女はぴたりと止まった。

 まさか傷ついたのか弱い心ねと思っていると、強烈にけり込まれる。

「ぐっ…い、いたぁ…」

「黙りなさい。…その地味な顔を傷つけられなくてよかったと思いなさい、野蛮人」

 図星かよこいつ、キレんなよと思ったが口に出してもう一度蹴られたくなくてもう黙っていた。というより蹴られたところが痛くて声が出ない。

 屋敷の奥にある部屋につれていかれて、床に投げ出された。お父さんに送られたドレスがほこりまみれになる。マジでこの女…!

 顔を上げると、部屋の床には魔法陣がふたつ書いてある。わたしが寝転がされているところ、そして…藍色の髪の女が立っているところだ。

「では、始めなさい」

 部屋のなかには、魔術師…のようなローブをかぶった性別不明の人物もいた。藍色の髪の女の声に応じて、呪文の詠唱を始める。

 なにがなんだかわからないけれど…危険。

 藍色の髪の女の様子を見ると、ぶつぶつとなにかをつぶやいている。

「これで……結ばれる。わたしが…なるのよ……ジュリアス様の…」

 わたしの周囲には剣を向ける男たち、逃げないように警戒している。でもこのままだったら、わたしはこの謎の魔術にかかってしまう。

 …ええい!なんとかなれ!

「おっ、おい!」

 傭兵が焦った声を上げるが、かまわずわたしは立ち上がる。部屋には扉がふたつ、わたしが入ってきた扉と、そして屋敷のさらに奥につながる扉。入ってきた扉の前には傭兵がいたため、屋敷の奥への扉へと向かう。

 鍵は…よし、かかってない!

「と、止めなさい!」

 ドンドンと扉を叩く音が響く。わたしが飛び込んだのは、どうやら薬品庫のような場所だった。

 魔の国でも見かけない薬草がいくつか棚に並んでいて思わず興味を引かれるが、今はそんな場合じゃない。薬品庫の奥に走ると、小さなのぞき窓のようなものが見つかる。子供くらいなら通れそうな大きさだ。

「えっ、ここ……いや、無理、いくら貧乳でも骨格的に通れない!」

 どうしよう、気持ちが焦る。しかし、後ろの方で扉が壊れる音が聞こえる。捕まえられたら、あの怪しい儀式が続行する。

 それは絶対いや!

 泣きそうになったとき、真横の棚にある薬品が目に入った。

「…小さくなる薬…」

 ラベルの文字を読み上げる。これは、物理的に小さくなるってこと?こんな薬初めてなんだけど、怪しいし、えっ…え~でもこれしかないし…!

 わたしは何も考えないようにして、その薬を飲み干した。

 パサリ、纏っていたドレスが肩や腕をすり抜けて床に落ちる。

 小さくなってる!鏡がないからわからないけど、とにかく小さくなってる。

 わたしは目の前に小さな窓に飛び込んだ。無我夢中で外に飛び出す。見えたのは自分がいる屋敷の裏庭らしきところで、裏庭の奥は森につながっているようだった。靴どころか服も来ていないけれど、そんなのどうでもよかった。逃げないほうが危ないとわたしの本能が叫んでいる。


「あの女!!絶対に捕まえなさい!」

 残された屋敷では、藍色の髪の女…わたしは知る由もないが、この国の公爵令嬢であるアンジェラが金切声で叫んでいた。

「顔も、身体も傷つけるのは許さないわ!でも絶対に見つけなさい!」


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