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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

誤訳:童話・昔話

誤訳:桃太郎

作者: AKIRA SONJO

むかーしむかし、そのまた昔。


これは、とある異世界に伝わる、昔のお話。


そこは自然豊かな辺境の。


江戸時代よりも古いような、田舎が舞台。


そこは、広い丘の、更に向こうにある大きな山。


周りの村民は、丘山と呼ぶ、殆ど人が住んでない山には、お爺さんと、お婆さんが、慎ましく暮らしていました。


ある日、お爺さんは山へ柴刈りに。多少危険な山なので、お手製の鎌と、鋭い刀を携えて出掛けていきました。


お婆さんは、洗濯物を篭に入れ、護身用に長くて軽い棒を背中に装備しながら、出掛けていきました。


家の鍵はかけなくても、そもそも来る人も居らず、居ても盗むものは特にないので、そのままです。

まさに田舎、その暮らしです。



お爺さんが山で柴を狩りながら、トレントを伐採している時、お婆さんは川へ洗濯に行きました。


特に流れも早くない川なので、ゆったりと水を汲み洗濯します。

山の恵みに、洗濯に使える木の実があるので、あまり擦らなくてもいいので、更にゆったりと洗濯します。


そんな折、上流から、大きな桃が流れてきました。

流れは早くないので、少し揺れつつ、下流へ流れていきます。


この辺に桃は生えてたっけねー? と思いつつも、大きな桃なので食いでは有りそうなので確保します。


長くて軽い棒を上手く使いつつ、川岸へと寄せた桃を、腰にこないように、少しずつ持ち上げようとしました。

そしたらびっくり、お婆さんでも楽に持ち上げることが出来ました。


中身が入ってないのかねぇ? とりあえず持って帰ることにしました。

お婆さんは、お婆さんといっても腰も曲がってないし、しゃっきりしたお婆さんです。洗い終わった洗濯物を篭に入れ、その上に、拭いた桃を載せて持ち上げます。

桃の直下にあるのはお爺さんの服なので、特に気にしません。

桃の大きさは、平均的なお婆さんが抱えられる大きさ丁度ほど。

大きいことは確かですが、もっと大きい瓜を見たことあるので、そんなに驚きません。



足下が見にくいので、気を付けながら帰ると、もうお爺さんは帰ってきてました。

時刻も、空が赤みはじめています。


お爺さんは、お婆さんがゆったりした性格をしているのを長年付き合っているので、もちろん了承しています。

なので、遅いのは特に気になりませんでしたが、桃には少し驚きました。


所詮は少しです。魔物が時おりいて、植物が異常に大きくなることもある世の中ですし。



用意してあった夕食を食べ終わった後、桃…………は放置して寝ます。

暗いのに、包丁を扱うのは危ないので。



翌朝、軽く朝食を取ると、二人して桃に向かいあいます。


桃は一応、外で切ることにしました。軽いし、果汁も飛び散っては困ります。


この桃を一刀両断できる包丁はないので、お爺さんの刀を使います。

こんなことに使いたくないという、お爺さんの意見はもちろん却下でした。


とりあえず端を切ります。軽い桃なのに、やけに重い手応えのある実に、少々驚きつつも、業物の刀なのでスイスイ切ります。

魔物も軽く切れる刀でも、手応えのある桃。なのに軽い。

不思議に思いつつも切り分けました。

中身もきちんと有りましたが、桃の大きさに反して小さい種も有りました。


切り分けた桃は、美味しそうな匂いを放っています。

皮も食べられそうです。

桃の寄生虫も無さそうなので、とりあえずお爺さんの口に放り込みました。


普段ゆったりな癖に、大抵毒味はお爺さんなので、諦め半分で受け入れました。


すると…………?


美味い! これはなんと美味い桃か!

お爺さんは口からビームが出そうなほど興奮しました。今は夏なので、風邪も引かないでしょうが、はだけるのはどうかと思いながら、お婆さんも一口。

ちなみに、お爺さんには皮もついたあんまり美味しくないところ。

お婆さんは桃の一番美味しいところを口に入れました。

服がはだけたりとかはなく、美味しいねぇ。と軽い感想。これぞお婆さんクオリティー。


お爺さんは服がビリビリに破ける位なのに。

なんてことを、布は高いのに。と思いつつお婆さんはお爺さんを見ると、そこには。



ムキムキマッチョなミドルがタブルバイセップスしてました。

―――――見なかったことにしたお婆さんは、自分の身体を見ると、少し若返り、身体に張りと艶が。

節々の痛みも有りません。


なんて不思議な桃なのでしょう!

それから二人は、限度を持ちながら桃を食べ、若者と呼ばれるまでに若返りました。お互いに呼んだだけだけども。

勿論美味しいところはお婆さんことお姉さんだけです。



しばらく若い身体を楽しんでいると、お婆さんお姉さんは妊娠しました。

若いので仕方有りません。


驚きおののいたお爺さんと、喜ぶお婆さんお姉さん。二人には子供が居なかったのでたいそう喜びました。対応が違うのは仕様です。


そうして、十月十日、どころか、3週間程で子供は産まれました。

驚き焦り役に立たないお爺さんと、多分桃の力だろうと、ゆったりしてるお婆さんお姉さんは、産まれた男の子に名前をつけることにしました。


かっこいい(頭の悪い)名前をつけようとするお爺さんを無視し、お婆さんお姉さんは、名前を考えました。


前から男の子につけたかった、太郎という名前。

そして、桃の力によって授かったこと。

なので、男の子には『桃太郎』と、そう名付けました。

いじけているお爺さんは無視します。筋肉が暑苦しいし、筋太郎はいくらなんでもないからです。



桃太郎は、産まれるまでの月日どうようスクスク育ちました。

何故か腐らない桃を離乳食に、桃のジュースを水として、どんどんと大きくなりました。


替わりに、なのか。お爺さんとお婆さんお姉さんは、徐々にまた老化し、お爺さんとお婆さんに戻っていきました。

とはいえ、同年代の人よりもかなり動けるのですが。


最近、村や町での情勢が良くなく、魔物の襲撃もあったそうなので、お爺さんと、お婆さんと呼ぶのに差し支えなくなったお婆さんは、桃太郎を鍛え上げることにしました。


お爺さんは、元々自分で刀を打つこともでき、魔物相手でも戦うことが出来る戦人だったので、その知識と技術を教えました。

若い身体の時に、村や町で沢山材料を買い込んだので、しばらく村に行かなくても何も問題ないくらいです。お金は、実際に若かった頃の魔物討伐で得た貯金です。


お婆さんも、棒術を仕込みました。お婆さんは棒術の達人だったりします。

体力の関係で、昔のように戦えなくなった二人ですが、技術を教えるのには支障が有りません。まだ桃の力が続いているからです。

あとお婆さんの方が技術力は高かったりするのです。



そんなこんなで3ヶ月。桃ぱわーが殆ど切れ、元の木の魔物を狩るのが精一杯のお爺さんと、ゆったりしたお婆さんに戻っています。


替わりに、成人となった桃太郎は、背が高く、精悍な男になっていました。

まげはせず、スッキリとした短髪です。戦いに邪魔ですから。お爺さんは白髪です。禿ではないのです。



何時ものように、戦闘訓練をしようとした桃太郎一家に、なんということでしょう。

小柄な鬼が襲ってきました。


ひゃっはー、金よこせー!



しかし桃の力を受け継ぎ、剣聖と呼ばれたお爺さんの手解きを受けた桃太郎の敵ではないのです。


刀を振れば、鬼は切れる。


20匹は居た鬼が、もう3匹。それも虫の息です。

ちなみに刀は、桃を切るのに使った刀で、桃の力を受けたのか、折れない欠けない曲がらない、とんでもない刀になっていました。


銘は桃源郷。お爺さんが土下座でお婆さんに許可を取りました。


3匹を残したのは、理由が有ります。

情報を搾り取るためです。

何故3匹にしたかは、手加減の感覚を掴むのにそれだかかかったからです。

いかに桃太郎といえど、感覚を掴むのは実践が必要でした。


そんなこんなで鬼を血祭に上げた桃太郎。

家に戻って直談判。


鬼を倒し、人々を救いに行きます!


大人といえど、促成栽培の桃太郎の精神は善性一途。

親のお爺さんお婆さんも、善の人なので、善く善く育ちました。


直談判の結果、お爺さんからは予備の刀と革鎧、弓と矢筒。そして鬼ヶ島の情報を。

お婆さんからは、不思議なふくろと、2つの袋に入った、特性桃入りきびだんご。

そして、食料を。

桃のきびだんごを文句を言ったら棒で突かれます。



不思議がる桃太郎に、お爺さんお婆さんは説明します。

桃太郎はきっと鬼退治に行くから、その準備をしといたと。私達のことは気にせず、行ってきなさいと。



感動した桃太郎、しかし時間が悪いので翌日出発することにしました。



装備も万端。気合いも充分。

丘山から出発です。お忘れかも知れませんが、舞台は丘山です。丘の向こうにある山です。



テクテク無理をしない速度で歩く桃太郎。もちろん、旗なんて掲げません。目立つし疲れるし、旅にあんなもの持ちません。

荷物はお婆さんの不思議なふくろに全て入ってます。重さもなく不思議です。

腰につけているのは、2つの袋のきびだんご。

片方は怪我したときに食べること。もう片方は、大事な時に食べること。


大事ってなんだろう? 考えながらも、襲ってくる魔物を切り捨てます。

魔物は主に二種類。現生物が魔化して生まれるもの。

そして、鬼と称される人型の魔物です。

鬼は徒党を組み襲ってきます。人を目の敵にしていて、とにかく人を狙ってきます。

素材にもならず、数も増えたり減ったり、どこからともなくやってくる、厄介なお邪魔な魔物なのです。



次は何の魔物だ! と桃太郎が構えると。犬です。

真っ白な大型犬が、桃太郎を。否、腰を見ています。

お腰に着けたきびだんご、大事な時に食べる方を取り出してみました。

犬は見ています。尻尾をふりふり、よだれだらー。


きびだんごを持って犬に近づきます。

尻尾ぐるんぐるん。目線はずっと、きびだんご。


犬に平気なのか、そう桃太郎は思いつつも、犬に上げました。

犬は味合うように食べたあと、急に震えだしました。


やっぱりダメだったか! 桃太郎はしかし犬を見つめます。

すると…………!


おめでとう! 犬は一回り大きくなり、戌にしんかしました!


知性を感じさせる目で、こちらを仲間にしてほしそうに見ています。

まさかのテイマーの素質? それともお婆さんのきびだんごマジすげー?


そんなわけで、どこからか聴こえてくるような音楽を幻聴しつつ、戌をお供に旅を進めます。


戌は強く、鼻も効くので便利です。魔物との戦いで傷付いた時、もう片方の袋のきびだんごを戌に食べさせてみました。

すると、傷はなくなり元気百倍!更にちょっと強くなりました。


なにこのきびだんご、ポーション? などとお婆さん何者と思いつつ、まあお婆さんだし、と考え直しながら旅を続けると。


猿が現れた!


すかさず戦闘態勢。いきなり襲いかかっては来なかったようです。

すばやさの高い戌からの攻撃…………、しかし桃太郎がそれを止めました。

既視感、いや、これは!

ダメで元々、大事きびだんごを猿に投げました。

ナイスキャッチ! きちんと手で受け止め、頬張ります。


猿は、申に進化し、仲間になりました。可哀想ですがダイジェストです。犬派と猿派の派閥の強さです。


申はなんということでしょう。毛から分身を作り、金色の雲に乗り、幻像を作ります。

妖術が使えるようになりました。

きびだんごって、一応桃の説明を受けている桃太郎ですが、半目で腰の物を見つめます。


申に一応棒術を教えました。不思議なふくろ、から棒を取り出し渡しました。

すると、棒は伸縮自在。重さまで変える始末。

実はこの棒、桃をすりつぶすのに使った棒です。

桃がなかなかすりつぶせないので、お婆さんが若い頃に使っていた棒を無理やり使いました。棒の材質は、しんちんてつ? とかなんとか言ったかねぇ、とお婆さんは気にも止めていませんでした。


戌と申、めっちゃ強くて便利な2匹を連れて旅をします。桃太郎? テイマーにとって、従魔の手柄は主のものなので。


村や町を救いつつ、旅をしていると、また魔物が。

しかし、そこは桃太郎。学習します。


目の前にいるのは、鶏。やけに大きいですが、こちらを見ています。

戌と申は警戒していますが、桃太郎はきびだんごを取り出し、近づきます。


そして、鶏は食べました…………桃太郎を。


桃太郎はバカにするような音楽を幻聴しつつ、すぐさま戦闘態勢。しかし、ダメージは大きい!


その時、空から鶏に攻撃。その隙に戌のこうげき! 会心の一撃!

申のターン! 鶏の死体を処理! 唐揚げを作り始めた!


ポーションきびだんごを使いつつ、助けてくれた存在を見ます。

そこには、雉が。


雉って、美味いよなぁ。そうぼんやりしながら考えていた桃太郎。

何かの危機感にさらされたのか、雉は急いで桃太郎の手にある大事きびだんごを食べました。


そして雉は、酉に進化しました。


みんなで唐揚げを食べながら一休みと反省。調子にのってた桃太郎は油断を戒めます。


唐揚げを食べる酉を、不思議そうに戌と申は見ていました。

淀みなく唐揚げを作り上げた申を、みんな不思議そうに、そして感謝しながら見ていました。


戌、申、酉、3匹揃った桃太郎。パーティーは四人なので、いざ鬼ヶ島へ。


強い戌、器用な申、飛べる酉。桃太郎? 知らない子ではないですが…………、要らない子ですね。

落ち込んだ桃太郎を慰めつつ、一行は村村を解放し、町町を救い、鬼の略奪物を取り返すことを了承しながら、海辺の町につきました。


例のごとく鬼に支配され、前進基地となっていた町を、何かの鬱憤を晴らすかのように桃太郎は解放しました。


強い鬼も居ましたが、一行には誤差のようなものです。

ポーションきびだんごを使う度に全回復。しかも更に強くなった状態で。しかもポーションきびだんごはめっちゃ有ります。残りの桃の殆どをここに費やしたので。

鬼ヶ島の前哨戦、そして実践訓練のように戦えました。

お婆さんには感謝感謝です…………、あっ、お爺さんにも感謝してます。ほんとだよ?



町を解放した桃太郎。しっかりと精神を癒し、船を貰っていざ出陣。


船の動力は戌による加速、申の妖術による船の操作。酉による方向修正。

桃太郎?(ry



体育座りから立ち上がった桃太郎。

鬼ヶ島に到着です。

残った大事きびだんご。数は4。ここで使うべきだろう。只でさえ強いのに、更に強化を実行します。



そして、襲い来る多数の鬼。小柄なのも大柄なのも、特殊なのも、全て撃退しました。

所詮はダイジェストなのです。



そして、ボスの鬼。

その体は、普通の人の大きさ。しかし、太い。否、分厚い。肥満ではなく、筋肉によってはち切れんばかり。

額から伸びる、1対の鋭い角。

意外にもしっかり着込んだ服と鎧、そして手に持つは、棍棒、ではなく巨大も巨大、肉厚でとにかく鋭い大刀を構えていた。


奴こそラスボス! 口上すら無視して攻撃!

アイテムも武器も、全てを駆使して戦います。

なにか話したそうにしたボス鬼ですが、敵なのです。

敵は殺す。それだけなのです。人類の敵ですし。



ポーションきびだんごも使いきり、しかし!


桃太郎はボス鬼の討伐に成功しました。

最後にボスは何かを言い残しましたが、桃太郎には意味が解りませんでした。

そしてボスは、禍禍しい黒い煙となって、世界へと溶けて消えていきました。

想像とは違った最後ですが、気にしても仕方ない。


少し休み身体を回復させると、奪われた物を取り返し始めます。

不思議なふくろ、が有るので、量は関係ないのです。

そもそも周りには、鬼の死体がいっぱい。流石に長居はしたくないのです。



船へととって返し、じっくり休んでから、沖に出ます。動力は正しく動物力なので、休まないと危険ですから。桃(ry



そして桃太郎は、町へと返り英雄となりましたとさ。


おわり
















ならば、勧善懲悪で終わるだろう。しかし、終わりはまだ先。

ここまでは、桃太郎が英雄でいられる時間。

先へ進めば戻れない。

ポイントオブノーリターン、それでもページを進めますか?







ならばいきましょう。


桃太郎の、その先へ。













村村を、町町を巡り、略奪品を返しながら、桃太郎一行は、丘山へと帰ってきた。


そこで見たものは。



うずくまるお婆さんと、



全身に、矢と槍を生やしたお爺さん。



そして、周りにいるは、鬼、ではなく。



はっ、棍神女帝も、剣聖も、老ければ終わりだな!

おいおい、さっさと金目のもの探そうぜ。奴が帰ってきちまう。

役にたったよなあいつ。厄介者の老害から、あんな英雄が出るなんてな。

お陰で儲かったな、きっとまだ溜め込んだ財産あるし。



鬼よりも、悪辣な、ヒト、だった。



桃太郎は、善性だった。

どこまでも純粋な、善だった。


それも当然だ。

世界の悪意を集め、浄化し、果実として実らせ、また世界に果実を流す、とある樹。

その実は、浄化されているため善性しか存在しない。


その実から産まれたものは、人でありながら、善のみしか持たない英雄となる。



あのボスの鬼は最後になんと言っていたか。


今ならわかる。



お前は人の悪意を知らない。

仕方のないことだが、じきにわかるだろう。

そのときにどうなるかが、楽しみだ。



なぜなら、オレはオマエと同じだから。






そして桃太郎は、鬼に非ず、しかし、ただそこにいるヒトの形をした悪意を、切り裂いた。

その刀、桃源郷で。人類の敵を倒したい、その願いをこめられた刀が切ったのは、ヒトである。

正しく、理想は叶わない、桃源郷の結果であった。



よく帰ってきたな、お前は私の誇りだ、桃太郎。そういって、お爺さんはたったまま死に絶えた。その身体は、ただひとつの刃を、お婆さんには届かせなかった。



しかし、お婆さんは。


あなたは、生きなさい、桃太郎。


お婆さんが最後まで守り抜いた、それは。


桃の種。



最後に残った、桃の、桃太郎との絆。



お婆さんは、既に、毒が回っていた。


桃は、不思議な桃は使い果たした。


そして桃の種には、別の役割がある。

癒しは、そこにない。



桃太郎は、思う。思い返す。


あの鬼は、何を襲っていた?



人を傷付けて儲かる、商人や役人、悪人からしか奪っていなかった。

方法は誉められたものではないが、しかしあの鬼は、善人に手は出していなかった。


カレも、オレと、同じ。


元は英雄で、しかし人に絶望し、鬼になったもの。


鬼とは何か。


それは、悪意だ。


ヒトの持つ悪意、それが形になったもの。


鬼はヒトの持つ、悪の感情から産まれる。

そう、世界の樹でさえも、浄化しきれない、悪意。

それが鬼となる。


そして、浄化し実る果実。


この桃には、善のみならず、悪意がある。浄化しきれない、浄化など出来ない恐ろしいくも禍禍しい、悪意。その塊こそが、桃の種。

パンドラの匣とは異なり、最後に、悪のみが残る。


そして、善の英雄が、悪意の種を喰らうことで、産まれる。


鬼の中の鬼が。


善でありながらも、悪にさらされ、悪を知り、世界を呪う、鬼が。


純粋ゆえに、悪にどこまでも染まる、悪鬼。



悪鬼羅刹。それは、人を喰らわず、ヒトの悪意を喰らい、悪に染まりながらなお、善であることを止められぬ、英雄だ。




その種を桃太郎は、喰らう。


その時、戌、申、酉は、桃太郎を見つめていた。

一人にはしないと、一人では背負わせないと。


桃太郎は種に軽く力を入れた。


そして種は、割れた。


大きな1つと、小さな3つの欠片へと。



桃太郎は、嗤う。それが、運命かと。



そして、喰らう。


戌は、白き身体を赤黒く染め、見るもおぞましき犬鬼へと。


申は、更なる知謀を経て、人心を惑わす神猿へと。


酉は、その身に悪意と呪いを携えて、羽ばたく度に病魔をもたらす鳳へと。



そして桃太郎は。


そのからだは赤く染まり、悪意の全ては象徴たる角に込められ、悪辣に捻れ、雄々しく伸びる。


悪意に染められし桃源郷は、その実を、いつかの大刀のように、禍々しく変えていく。



そして彼らは、世界へと、世界の悪意へと、喧嘩をうった。



こんな世界が、こんなヒトがあっていいはずがないと。


それは、世界のシステム。



過ぎた悪意は、悪意を以て英雄をもたらし、鬼を以て悪意を喰らう。






物語の舞台は、広い広い丘の向こうの、高い高い山の中。


むかし人は、丘山と呼んだ。


しかしそれは、変えられた名前。



悪意を生み出し、恥じたヒトの祖先はこう呼んでいた。





(オーガ)のすむ山。オーガ山と。




これは勧善懲悪ではなく、悪意を持って人を傷付ければ、悪意の鬼がやってくる。


これはそういう、戒めの物語。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一番怖いのはヒトってことですね。 お婆さん、お爺さんが最後までかっこよかった。 終わり方がすごく良い。 面白かった!
[良い点]  原典の方な元ネタなところ? あと何かと急がないところ? [一言]  えー柴(雑木の小枝・小さな雑木)どころか結構な木を伐採してるじゃないですかー! これじゃ芝刈りというより木こりじゃない…
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