少年期4 弟子入りしてみた
次の日の朝、昨日のことを思い出しながら、果たして自分はあの魔女の気を引くことができたのか考えていた。
「ほら、ヨハン、お皿片付けたいから早く食べちゃって」
エプロンをした母がオレを急かしてきた。
「あ、そうそう、アンタ好きな子ができたんだってね」
「っ!????」
またしても、オレは口の中に入れていた食べ物が詰まりそうになり、水をのんで息を整えた。
「なんで、父さんと同じこと聞いて来るんだよっ!!」
「あの人も気づいていたみたいだけど、ヨハンって顔に出てわかりやすいのよね~」
父さんと同じようにニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべていた。この似た者夫婦め。
「母さんも、あなたと同じぐらいの年になったら、村の男の子から熱い視線を送られていたわ」
母は昔を思い出すように遠い目をしながら、赤く染まった頬に手を当てていた。
「でも、男の子の中にはちょっかいかけてきて、気を引こうとする子もいてね。あれはちょっとうっとおしかったなあ。こっちを気遣って優しくしてくれる子は、女の子たちにもててたわよ」
母の昔話を聞きながら、朝食を終えると、オレは魔女の住む森の家に向かった。
魔女の家に行くと、魔女は今日も笑顔で出迎えくれた。
「さて、来てくれてのはうれしいのだけれど、今日はちょっと作業があってね。あまり構ってやれそうもないんだ」
「なにかしてるのか?」
「常備薬の調合をしてるんだ」
痛み止めの薬や傷薬など、村の各家庭に配られていたけど、どうやら、こうしてつくりためしてくれていたのだと知った。
「それ、見ててもいいか?」
「構わないが、みてても面白いものじゃないぞ」
それから、魔女は部屋の一角で、薬に必要なものを並べて順番にすり鉢にいれていき、すりこぎでごりごりとすりおろしたりしていった。
その作業をじっと横で見ていると、魔女がチラリとこちらに視線を送ってきた。
「な、なんだか、じっと見られていると落ち着かないな」
魔女が困ったような顔をしながらこちらを向いてきた。
「よければ、ヨハンのことを話してくれないか?」
「そんなおもしろいことなんてないぞ」
「かまわないよ、村のこととか教えてくれ」
オレは父や母のことや、村で一緒に遊んでいる友達こととかを話した。
オレにとっては代わり映えのないことなのに、魔女は楽しそうに聞いてくれた。
「村のひとたちは親切にしてくれるが、どうも距離を感じてな。こうして、色々きけると楽しいんだ」
そういって、魔女は楽しそうに笑った。
オレもその笑顔をみながら自然に笑顔になっていた。
それから時間がたち、調合が終わった。
すり鉢にのこった薬を小袋に分けていくのをみて、オレは手を差し出した。
「手伝うよ」
「ん、そうか。それじゃあ、このさじで分量をはかって袋にいれていってくれ」
すべての袋を入れ終えると、ありがとうといってくれて誇らしげな気分になれた。
もっと自分のことを見てもらいたい、魔女に自分のことを認めてもらいたいという思いが生まれた。
また別の日も魔女の家にいくと、軒先にその姿を見つけた。
近づいてきたオレの姿に気づいて魔女は笑顔を浮かべた。
「やあ、いらっしゃい」
「今日は何してるの?」
「これは薬草になんだけど、なかには森では取れないものもあるからね。こうして、自分で栽培してるんだ」
魔女の家の軒先にあった草とか花は、どうやら全部薬草だったようなのかと感心しながら眺めた。
「しかし、キミも毎日飽きずにくるね」
「いいだろ、おまえがきてもいいっていったんだから」
「そうかい、だが、あまり来てるとパウルになにかいわれないのか?」
実は、家の手伝いをさぼってきているので、この前も父さんに怒られた。
なので、ここにきてもいい口実をつくらなければならなかった。
「あのさ、頼みがあるんだ」
「なんだい? なにか薬でも必要なのかい」
「ちがう、えっとだな」
オレはなかなか言い出せず口ごもっていたが、魔女は黙って待ってくれた。
オレは仕切りなおすために、咳払いをしてから口を開いた。
「オレを、弟子にしてください!!」
「弟子か……、いいよ」
「やっぱり、魔女の技術は秘密だからダメなのはわかってるけど、それでも……、って、いいのか!? ほんとに?」
意外とあっさりと承諾してくれたことに驚きながらも、すぐに喜びがこみ上げてきた。
「それじゃあ、父さんにいってくるよ!!」
オレは喜び勇んで父の元に走っていった。
「父さん!!」
畑で作業をしていた父を見つけて、オレは声をかけた。
「あ、ヨハン、おまえ、どこいってたんだ」
「そんなことよりも、父さん、オレ、魔女の弟子になりたいんだ!!」
「おまえがか?」
「そうだよ、魔女からは許可もらってきた」
「先生がいいっていったのか……」
父は腕を組みながら悩んでいたが
「あまり先生に迷惑をかけるんじゃないぞ」
「それじゃあ、いいんだね!?」
こうして、オレは魔女の弟子になった。