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少年期3 真似をして気を引いてみた

 オレがいつものように魔女の家にいこうとすると、父に引きとめられた。


「こら、今日は畑仕事を手伝う約束だろ」


 怖い顔をする父を見て、オレは仕方がなく畑に向かった。

 鎌で雑草を刈り取っていると、頭には魔女のことが浮かんできた。


 頭の中では、オレが森の家にはいると笑顔で出迎えてくれた。

 そして、オレが近くでつんできた花をプレゼントすると、うれしそうに受け取ってくれて、そして……。


「おーい、ヨハン、手が止まってるぞ」


 父の声によって、妄想の世界から引き戻された。


 オレはため息を吐きながら、またザクザクと雑草を刈っていった。

 日が高く上ってきたころ、作業によって汗をかいて、そろそろ休憩にしたいなと思ったいると、父が声をかけてきた。


「ヨハーン、昼飯にするぞー」


 家からもってきた弁当を広げ、地面に転がっていた木に腰掛けて食べ始めた。

もぐもぐと母がつくってくれた弁当をほおばっていると、隣に腰掛ける父が声をかけてきた。


「おまえ、最近、好きな子ができたろ」


「っ!???」


 父の言葉を聞いて、口の中に入れていた食べ物がのどに詰まりそうになった。

 水筒から水を飲んで落ち着いてから、父の方をみるとニヤニヤといやらしい笑いを浮かべていた。


「そんなことねーよ」


「ヒマがあるとどっかにでかけてるし、さっき草取りしてるときも考え事してるみたいだったしな。いやあ、わかるよ、オレもおまえぐらいの年のときは女の子が気になったもんだ」


 父は訳知り顔で語り始めた。


「いいか、ヨハン。女の子の気を引こうとするなら、相手の真似をしてみるといいぞ。そうすると、自分に興味をもってくれているって思ってくれるからな」


 それから、昼食を食べ終えてから、また畑仕事に戻った。

 作業をしながらも、魔女のしていることを思い出して何を真似てみればいいのかと考えていた。

 

 

 

 次の日、魔女の家を訪ねると、アイツはひとりで静かに本を読んでいた。


「なあなあ、魔女っぽいこととかしないのかよ」


「魔女っぽいことっていわれてもね」


「あやしげな儀式をするとか」


「キミは魔女にどんなイメージをもってるんだい」


 やれやれと魔女は首をふってため息を吐いた。

 それから、また黙って本を読み出した。

 本を読みふける横顔をみながら、なんとかこっちに気を引けないものかと思案した。


「その本おもしろいのか? オレにもみせてくれよ」


「薬に関する本だけど、見たいのかい」


 魔女から革の装丁がされたぶ厚い本を受け取ると、ずしりと重かった。

 中を開くと文字がビッシリとかかれていて、しかもしらない言葉だらけで頭がくらくらした。


「も、もういいや」


「ふむ、それなら、こっちはどうだろうか」


 魔女に本を返すと、代わりに一冊の薄めの本を渡してきた。

 表紙には『森の魔女』とかかれて、あまり上手とはいえない絵が書かれていた。

 ぱらぱらとページをめくっていくと、手書きの文字と絵が書かれていた。

 

 

―――むかしむかしのはなし、森に一人の魔女が住んでいました。

 彼女はいつもひとりぼっちでした。

 近くに住む村人も魔女を恐れて近づきませんでした。

 ある日、一人の男の子が森に迷い込んできました。

 暗い森の中、男の子は不安になり大声で泣きました。


 ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ、近くにいた小鳥たちもビックリして逃げていきました。


「どうしたんだい、こんなところで?」


 優しげな声をかけてきたのは、金色の髪をした少し年上の女の子でした。


「おかあさんが病気になって、薬草をとりにきたの」


「そうかい、えらいね」


 男の子は優しく頭をなでられて、安心して泣き止みました。

 それから、女の子についておいでといわれて歩いていくと、森の中にぽつんとたつ小さな家を見えてきました。

 もしかして、ここは森の魔女の家なのかと思い、女の子を引きとめようとしました。


「大丈夫だよ、ここはわたしのおうちだから」


 男の子はびっくりしました。このお姉さんが魔女なのかと。

 家の中に入ると、暖かいお茶とおいしいお菓子をごちそうしてくれて、男の子は幸せな気分になりました。


「これをもっておいき。それをのませれば、おかあさんの体がよくなるからね」


 女の子は男の子に小さな袋を手渡しました。

 男の子はありがとうとお礼をいい、魔女に村の近くまでおくってもらいました。

 薬を飲ませるとお母さんはみるみるよくなっていき、男の子はとても喜びました。


 男の子は、魔女が薬をくれたことを村人たちに話しました。

 村人たちが恐る恐る魔女の家を訪ねると、家からでてきた小さな魔女が、いらっしゃいと笑顔で出迎えました。

 村人たちと魔女はだんだんと仲良くなり、魔女はもうひとりぼっちではなくなりました。

 

 

 読み終わるのにたいして時間はかからなかった。


「なあ、この本だけど、もしかしておまえのことなのか?」


「そうらしいね。どこぞの酔狂な人間が書いて、わたしに押し付けていった」


 絵本をひっくり返してみると、どこにも作者の名前は書いてなかった。だけど、一部分他の部分よりも白くなっている部分があり、まるでそこだけ抜き取られたような違和感を感じた。


 それよりも、この本の内容で気になることがあった。


「おまえ、いつからここに住んでるの?」


「さあね、いつからだろう。気づいたら君たちの村ができて住み着いていたからねえ。今じゃ、誰もおぼえていないだろうさ」


 そうなると、目の前の少女の年齢は自分より遥か上で、村の長老よりも上ということになる。

 オレは村のばあ様達を思い浮かべ、魔女の顔と見比べた。


「なんだい、そんなにジッと見て」


「おまえ、けっこうババアなんだなと思って」


「失礼な子だね。否定できないのがつらいところだけど」


 魔女は怒ったように眉根を寄せながらにらんできたが、ちっとも怖くなかった。

 むしろ、こちらを見つめられていることに、次第に気恥ずかしくなってきて、焦りながらとりあえずなにかしゃべろうとした。


「わ、悪かったよ。その、おまえはかわいい、と思う」


 思わず口から出てきた言葉に慌てて取り消そうとした。


「そうかい、それはうれしいね」


 慌てるオレを見ながら、魔女は口元に手を当てながらおかしそうに笑っていた。

 その様子をみながら、また、かわいいなと思ってしまい、顔が熱くなった。 

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