少年期2 また会いにいきたいな
次の日から、オレの頭の中は魔女のことで一杯だった。
サラサラの金色の髪、やらかそうな白い肌、すいこまれそうな深い緑の瞳、銀鈴のようなキレイな声が頭のなかでぐるんぐるんまわっていた。
そんな思いを悶々と抱えながら過ごしていたが、我慢しきれなくなってきた。
「ね、ねえ、父さん。今日は魔女のところに行く用事とかはないの?」
「いや、ないな。どうしたんだ、前はあんなに嫌がっていたのに?」
「べ、べつに……」
魔女は自分から村に来ることはなく、薬を請いに村人が森の家を訪れると、快く薬を与えてくれていた。
そんな魔女を村の人たちは先生と呼んで尊敬し、なるべく生活をかき乱さないようにという配慮から、代表の人間だけが会いにいくようにという取り決めになっていた。
しかし、頻繁に薬を頼むこともないのでなかなか会いに行く機会が得られなかった。
「そうだ、村の連中から魔女様へのお礼で渡すようにいわれていたものあったな」
「行く行く!! オレ一人でいってくるよ」
「大丈夫か? けっこう重いぞ」
「大丈夫っ!!」
こうして、オレは村でとれた野菜を満載したカゴを背負って、魔女の家にむかっていた。
肩に食い込む重さにひいひい言いながらも、森の道をすすんだ。
やがて、魔女の家が見えてくると、足がはやまった。
コンコンと玄関の扉をノックすると、中から魔女がでてきて、目を丸くした。
「こ、こんにちは」
「どうしたんだい、そんなに疲れた顔をして!?」
一刻でも早く会うために急いだオレは、ぜいぜいと息を荒げていた。
「そんなに大量の荷物もって無茶をして、ほら、とりあえず家にはいって」
魔女にうながされてオレは家にお邪魔した。
重たいカゴを背中から降ろし、ドサリと床に置いた。
そして、食卓の前のイスに深くこしかけて、全身をだらんと弛緩させていた。
「ほら、水でものんで」
オレの前に魔女が水の入ったカップをもってきてくれた。
オレは受け取ると、勢いよくゴクゴクと飲み干した。
水は井戸で汲んできたばかりのもののようで、よく冷えていてとてもおいしかった。
「もう一杯いるかい?」
そうして、もう一杯のみほしたところで、ようやく人心地がついた。
「ふへぇ~」
そんなオレの様子をおなじテーブルに座った魔女がニコニコと見ていた。
視線に気づいたオレは、ほおが赤く染まるのを感じた。
「一人であんな荷物もってこれるなんて、よくがんばったね」
「べ、別に……」
褒められて気恥ずかしくなり、オレはぶっきらぼうに答えた。
だが、そんな態度のオレにも、魔女はニコニコと微笑みながら見ていた。
「さて、今日はとくに薬は頼まれていなかったと思うけど、なにかあったのかな?」
「それ」
オレは言葉少なに、野菜の入った籠を指さした。
「ああ、村の人からか。いつもすまないねぇ」
魔女はうれしそうに目を細めながら、野菜を見ていた。
「あの、さ」
「うん?」
言いよどむオレをみて、魔女が小首をかしげ肩口まで伸ばした髪がサラリと垂れた。
その様子にどぎまぎしながらも、オレは言葉を続けた。
今日帰ったら、次いつこれるかわからなかったから、ここできいておかないといけなかった。
「明日も、きて、いいかな?」
「ああ、いいよ。いつでも歓迎する」
魔女は微笑を浮かべながら了承してくれた。
「そ、それじゃあ、そろそろ帰るよ」
オレは、勢いよくイスから立ち上がり、足早に玄関から出て行った。
森の道を歩きながら、ふと思い出した。
「あ、背負い籠忘れてきた。まあ、明日とりにいけばいっか」
魔女から来てもいいといわれたことを思い出し、口元がニマニマ緩むのをおさえ切れなかった。