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9 弁当地獄

 毎朝、七時前に起こされる弁当地獄が始まって早一ヶ月……

 中学は十月から給食が始まっていたので怠けてしまい、思うように起きられないこともしばしば……申し訳ないかぎりです。

 実は私、弁当を作るのは結構好きだ。料理全般が好きなこともある。低血圧でぐらんぐらんする頭でも、だし巻き卵を焦がさない自信はある。この弁当たるもの中学でも高校でも、

「お忙しいでしょうが、なるべく作ってください」と最初の保護者会でいわれた。

 そんなことまでいうのか、と少々面食らった。なにせ、もう随分大人になってしまった娘にしてやれることといったら、学費を滞りなく払うことと弁当を作ることくらいだからそれくらいはやってやろうと心に決めていたから。

 ちなみに私自身は、中学校のときから自分で弁当を作っていた。高校に入ってからは、バイトして買っていたが、何せ食べ盛り。バイト代が足りるわけがなく、いつもひもじい思いをしていた。弁当つくればいいのだろうが、六時四十五分の電車に乗らないと遅刻、という遠距離輸送だったので起きられなかった。

 自分がしてもらえなかったことはせめてしてやろう、と思っていた。

 弁当を作る利点を、学校はこう説明した。

 一、栄養バランスがとれる

 一、親子の会話が増える

 一、子供が愛情を感じられる

 ううむ。

 お弁当で栄養バランスが優れているものはそうそう作れないし、そればかり考えているとどうしてもおかずが偏ってしまう。さめてもおいしいものなんてそうそうはない。お弁当で偏った栄養バランスは夜または朝の食事で補うべきだと思っている。

 弁当がないと、親子の会話は減るのだろうか。私自身の場合は弁当がなかったことではなく、バイトが忙しかったことで親子の会話はめっきり減った。娘とは年が近いことも、一緒にDVD見たりすることもあって会話は多いと思う。あ、息子だった場合にはいい方法なのかもしれない。

「今日のお弁当、おいしかった?」

「……ああ」

 ふむ。これは会話?

 子供が愛情を感じられる――感じているのだろうか。

 一時、おかずが偏ってしまったことがある。それをあやまったら

「いや、いや。作っていただけるだけありがたいです」といわれてしまった。ああ、そんなことをいわせるなんて私ってやっぱりだめな大人……

 まあ、なんにせよ、地獄なんていっちゃったけど、私は自分の意思で――時には無理矢理になるけれど――お弁当を作る。学校から入れ知恵された、親どものささやかな幸せを満足させる効果をちょっとだけ期待して。さめて味が落ちたとしても、せめて目では楽しめるように彩を考えて。なるべくおかずが偏らないように違う具材を使って。

 だから、たまには「おいしかった」といってやってください。

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