3 作詞について
前の章で、曲先の作詞について書いたので、もうちょっと書いておこうと思う。
コレが結構、難しい。
作業としては、まず、宇宙語の元の曲を頭がおかしくなるまで聞く、というところから始まる。
作曲者にもよるんだけれど、メロディーにあたるところを楽器で表現してくる人は私の周りには少ない。なんとなくこんなコード、のギターやらキーボードやらの仮のオケ――というのもおこがましいバックの音楽にのせて、宇宙語のボーカルが入っている、小説で言えばプロットくらいのものを渡される。それを覚えるまで聞く。
そんなの譜面にしちゃえば……という意見もあるかもしれない。第一に私は譜面を書くのがとても苦手で、そんなら覚えちゃったほうが早いし、第二に譜面ではその言葉が「お」行であるべきなのか「あ」行であるべきなのかがわからない。
作曲者の頭の中では、そういうところまで作曲されていることが多い。『この音はどうしても「て」で伸ばして欲しい』であるとか『こことここは韻を踏んで欲しい』であるとかが宇宙語の仮歌詞の中には含まれている場合がある。大体は汲んで書いていくのだが、後から
「ここは『う』で終わる歌詞に差し替えられないかな」
といわれることがある。そういうときには、ちっ、そこもか、と負けた気分になる。
で、その宇宙語に一番しっくりくるサビの言葉か、一番で出しの言葉から世界観を考えていく。たった一言から考えるのって物凄く大変そうなんだけど、実はそこまででもない。全体の曲調やらメロディーやらがあるから、ぼやんとしたイメージはある。それに宇宙語の歌い方で、なんとなくハッピーな曲にしたいのかそうでなくてもいいのかくらいはわかる。三題小説みたいなものかな。
そこまで大変でもないけれど、もちろん簡単でもない。曲調からイメージを――私の場合まずお天気とか、朝か昼かなんてところをさだめ、内容にとりかかる。場合によってはこのときに小説を書いたりする。文字数を無視して詩を書いてみることもあるのだけれど、そうすると軽く大学ノート一冊は埋まる(一行飛ばしね)。あるとき『ai』という韻をふみまくる詞を書こうとなって、辞書から書き出しまくったことがある。『あい』にはじまり『あかい』、『いかい』、『うかい』……三文字が終わったら『あいたい』『かいたい』……大学ノート二冊。ばかばかしくなった私はちょっとした秘密兵器を作った。てっとりばやく説明すると、単語帳に五十音を書いてそれを並べる。そしてめくると、あら不思議。韻をふんだ言葉の出来上がり。これちょっとお勧め。本当は特許とりたいです。
そんなこんなで、設定も内容も決まり、素敵な言葉も集め終わっても、まだまだ作業は続く。音符の数にあわせなくてはいけない。四文字分の音数しかないところに五文字をつめるのは比較的簡単なんだけど、三文字にしたいときなんかが困る。どこで伸ばすべきか。それとも一音休んじゃおうか。悩みに悩んで、たいてい四文字の言葉に置き換える。「もしも」を「たとえば」に変えちゃうかんじ。
文字数はあっていても、どうしてもはまらないときがある。イントネーションが違うときだ。最近は「かれしー」のように語尾上げが認可されているからまだいいかも知れないけれど、私はちょっとそのあたりこだわってしまう。話がそれるけど最近のアナウンサーの「奇跡」のイントネーションが気になってしかたない。私には全部「軌跡」に聞こえる――というのはおいておいて、それも悩みに悩む。一音くらい変えたって大丈夫かな、と思ってしらんぷりでのせていくと、
「そこ音程違うんだよね」といわれてしまうこともある。そう、曲は作曲した人のものだから、勝手に変えちゃいけません。『おふく○さんよ』です。心の中で、ちっ、ばれたか、と思いつつ歌詞を差し替える。
だいたいこんな作業で宇宙語が日本語にかわっていく。
だが、私のイメージしたものが、聞いている人にイメージしたとおりに伝わるとは限らない。私はかなりひねくれた性格なので、直接的な言葉を使うのがきらいだ。たとえば『愛してる』。これは最強の禁じ手。だってそれだけでものすごくつよい言葉だから。さんざん文句をならべても、『愛してる』の一言で、ラブソングになってしまう。あざとい。あざとすぎて使えない。決してそれをうたうのがはずかしいからではなく、とってもずるい気がして使いたくないのだ。
とはいえ、そんなに才能があるわけではないので、強烈な一発を使っていないがために、時になにを歌っているのかを聞いた人任せにしてしまうことになる。私の歌っている曲の中で、とても評判のいい曲は、実は『初エッチをなつかしく思い出す』というテーマで書いたんだけど、評判がよすぎて、それを口にすることができないでいる。
あるとき、カラオケボックスで、その当時のカレシと見解が大きく違ったことがある。私はすっかり『告白したかったのにできなくて、結局手遅れになっちゃいました』ソングだと思っていたのに、彼は『これからプロポーズするけれど、はずかしくて口にできないでいる』ソングだというのだ。
「へぇ〜」
といった私の返事が気に入らなかったらしく、彼は歌詞の内容一言一句について自分の見解を述べた。もちろん私は聞いちゃいなかった。その曲がいい曲なのはわかってる。彼がいいやつなのも。だけど、感覚についてまで押し付けられる必要を微塵も感じなかった。まくし立てている彼の眉毛の間を見ながら『この人には意見を聞いてから自分の意見を言おう。そして二度とこの歌はうたわないでおこう』と誓っていた。
要するに、一ミリでも自分と違う相手に、自分の意見を全くそのまま受け止めてもらおうというのがおこがましいことで、相手がたとえ自らのクローンだったとしても、育った環境の違いで感覚やら感情やら認識やらはかわってくるのだから無理な要求はしないほうがいいと思う、といいたかったけれど、理解してもらえるとは到底思えなかったので、聞いているふりをしてしまいました、ごめんなさい。
話を作詞に戻す。作詞作曲が出来上がった次の作業は、編曲なのだけれど、楽器ができない私はとっても暇な時間になる。自宅録音が主だったので、その間メンバーが奏でる曲をぽやーんと聞いていたり、指の動きをきれいだなぁと見ていたりした。で、だいたいが出来上がったところでボーカルを録り、コーラスを録る。フェイクなんていう歌詞には含まれないようなところも録るのだが、そこには作曲者があとからつけた英語の歌詞がのっていたりする。簡単な英語の歌詞も私の中ではあざとい部類に入るので極力避けたいものなんだけど、そのときはその英語が私の書いた歌詞とは全く反対の意味だったのでさらにむっとしてしまった。まさに『おふ○ろさんよ』状態だった。
「もうすぐかえるから待っててね、って歌なんだけど」といったら、
「あれ? もう遅すぎたって歌じゃないの?」といわれて引き下がった。そう聞こえたか。それじゃあ仕方ない。メインボーカルも録りなおさせてもらったのはいうまでもない。
今でも根には持っているけど、それでよかったと思う。全体的なできはそのフェイクというかコーラスが入っているほうがいいから。
私にとって大切なことは『伝えたいことを伝えきれたか』ではなく、『なにかしらを感じてもらえたか』なんだな、とメロディーがなくなった今でも思う今日この頃です。




