第8話 男子高校生は底なし胃袋
「あれ?現国は終わった?」
それは、今日の最終授業だ。既に終わって、今は放課後だ。
「ちょっと、大丈夫!?」
「あー、なんかよく寝たな」
「お前、今しようとしてたこと・・覚えてないのか?」
「?」
ノブは、今、校舎の3階窓から身を投げようとしたことを解っていない。
「ノブ!僕たち友達だよね!」
突然のマコの鬼気迫る物言いに、ノブが唖然とする。
「は?」
「一緒にいて、楽しかったよね!」
「え、ま、まぁ・・」
「だったら何で相談してくれなかったのさ!」
「何を?」
「命にかかわる重大な悩みを、だよ!」
「命・・。健康に関わることならないわけでなないが・・」
「言って!さあ!!」
「ここ数日、うんこが出ない」
「・・」
いつものノブだ。さっきから一変して明るい様子だ。あの飛び降りようとしたノブは、陰鬱とした表情でまるで、憑りつかれているみたいだった。
なんて、考えていると さっきの黒い靄を思い出した。
その瞬間、右手に鈍痛がした。驚いてさっきモヤを掴んだ方の手を見てみる。
「・・!?」
息を詰め、戦慄する俺。
俺の手から腕にかけて、しっかりと、くっきりと、人間の指の痕が残っていた。
それは、手首から肘のあたりまで模様のように赤くうっ血している。
そんなことを他所に、マコはノブを心配していた。
「今日は、家まで送っていくから」
「え、マコの家って反対方向じゃ・・」
「いいから。ね、トウシ」
「あ、おう。そうだな。絶対送ってくから」
「なんだよ。急に気持ち悪いな。女じゃねぇし」
「いいの!あ、それからヨーグルトも買っていこうよ。便秘に効くらしいよ」
「・・まあ、いい。行こう」
◇◆◇◆◇◆
その日の夕飯は、焼きそばだった。
うーん、もうちょっと水気がなくてパサパサしている方が好みなんだけど。なんか、知り合いの奴らはしっとりしてる方が好きらしい。あれって、ぐちゃっとしてると、焼きそばと言うより、ゆでそばみたいで苦手なんだよな。ちなみに、俺は麺が乾いて喉に張り付くくらいが好きだ。
そんなどうでもいいことを考えながら、部屋に戻る。
6畳ほどの俺の部屋は、足の踏み場がないとまでは行かないが、お世辞にも綺麗とは言い難い。趣味のバイク雑誌やら、バイクのエンジン、パーツやらが、そこここに落ちている。ベッドには、部屋着が数着、脱いで放ったままになっている。まあ、一般的な小汚ねぇ男子高校生の部屋だ。バイクは好きだがポスター類は貼らない。一度やったが、夜寝るなど電灯を消したとき、そのポスターがとてつもなく怖いのだ。人間は、点が3つあればなんでも顔に見えるらしい。昼間は超クールなバイクのポスターだったが、寝るときには巨大な顔に見えた。即刻、ポスターは剥いだ。そのポスターは、今は押入れだが、たまに昼間広げて見て、にまにましている。
あー、今日は宿題結構あったんだっけ。めんどくせぇなぁ。
学校帰りにノブたちと購入したシナモンツイストパンでも食いながらやるか。
このパンは、地元に展開するスーパーのベーカリーコーナーに売っているのだが、税抜き百円で幅5センチ、長さ30センチはあり、なかなか食べごたえがある。小腹がすくお年頃ということと、少ない小遣いの節約のため、よくこのスーパーを利用している。
シナモンツイストの他にも、定番のカレーパンや、あんドーナツ、ガーリックパンなど種類も豊富だ。そして、ラインナップの大半がデカくて安い。最高だ。
そういえば、ノブはマコにヨーグルト買わされていたな。あの後、俺は何となくだるくて、ノブを家まで送っていったのは、マコだったけれど、大丈夫だったのか?明日にでも聞いてみよう。
毎日16:00頃、更新しています。