第3話 怖がる俺をからかう2人
「おい、置いてくな!」
慌てて、その木をまたいで、走って距離を詰める。
と、少し走った後―――。
ぐちょ。
嫌な音がして、がくんと視線が下がる。
ドシャァっ。
「ぶぶっ」
ぬかるみに足を取られた俺は、盛大に頭から、すっころんだ。
泥に顔から倒れ込んで、不正解の扉に突っ込んだ芸人みたいになっている。くそっ、着替えあったっけ。 気持ちわりぃ。
「げっ、くそ!」
もう、足首まで埋まっている。靴下まで、ぐっちゃぐちゃ。
・・ん?でも、ぬかるみなんて、あったか?ここのところ雨なんて降ってなかったと思うし。唐突に足元が沼になったような感じがした。同じところを歩いていて、あの2人は、はまらなくて俺だけはまるって意味が分からない。
色々考えてもしょうがない。ぐっちゃ、じゅっぽ、と怖気のする音を立てて足を引き抜きながら、あいつらの後を追いかける。
「馬鹿だな。何やってんだよ。ってうわ」
「わ!トウシ、ゾンビみたいになってるよ」
「うっせー」
ノブとマコが振り向いて、俺の化け物のような様相にギョッとする。懐中電灯で照らさなくても口調でわかる。こっちだって、好きでぬかるみにはまったんじゃない。全身泥べったりの格好まま、それをまき散らしながら歩かざるを得ないのは、不快感この上ない。
「それより、見たか?あの気色悪い木!そおらっ」
顔の泥を手でこそぎ取るついでに、ノブにそれを投げる。
「木?なんだよそれ、ってヤメロ!」
「あの蛇みたいにくねくねしてたヤツだ、っよ!」
なおも、泥を投げる。それを華麗に避けるノブ。クソ、もう泥がねぇ。
「トウシが怖がり過ぎて、視界が歪んで見えただけの産物じゃないの?」
「俺は、視神経に影響を与えるほど怖がりじゃねぇ!」
「俺も気づかなかったな。・・まあ、暗いし何かの見間違いじゃないのか」
そうなのだろうか?いや、懐中電灯で照らし、あれほどハッキリ見たのだ。この現実世界にはあってはいけない異物を・・。
2人の反応には納得できなかったが、やっと追いついて少しだけ落ち着いた。木にこだわっていても仕方ない。
ふーっと、ため息をつく。
また違和感。というか、明らかにおかしい・・。
「・・ありゃ?ほかの組の奴らはどこいった?」
俺はキョロキョロと、辺りを見回す。
夏の夜特有の湿った土と木々の匂いが、森の中でより一層濃縮されている。その匂いが心細さを増幅させる。
「ん?さっきまで、その辺に明かりが見えたが」
ノブが、視線を辺りに配る。やはり俺と同様、周りは真っ暗で、他の奴らの懐中電灯も何も見えないようだ。
山の昏さは、半端ではない。普段、俺らが暮らしているところは、夜は暗いといっても、民家の明かりやら街の街灯やら、何かしら光があり、何となくでも周りが見える。
しかし、山は、別だ。それら一切の光がないから、本当に真っ暗―――。暗すぎて懐中電灯でも頼りないが、それがなければ上下左右の区別すらあやふやになりそうな位の本当の闇だ。
「おかしいな。後ろにもさっきまでいたよ」
マコも不思議そうに後方を見渡す。
確かに、誰もいない。ほかの組がみえない、ということは・・、
「やべ、道をまちがえた、か?」
腕組みをしてノブが俺たちを見返す。
「トウシが遅くて、他の組と離れただけでしょ。そのうちに前の組に追いつくから大丈夫じゃない?」
マコが何でもないように、そう答える。
「そっか・・」
そうだよな、そんなもんだよな。マコの普段と変わらない態度に俺は少し安堵する。
よし、遅くなったし急ごう。こんなところで迷子になって一夜過ごすなんて考えられないからな。そうしよう。
「あっ、トウシ!君の後ろに女の人が!!」
「ギャー!!」
瞬間、俺は、訳が分からなくなってノブに飛びつこうとした。
「むぶっ」
俺は、ノブの手のひらでいとも簡単に顔面を押し退けられていた。
「んだよ!心穏やかでない友に対してこの仕打ちは!?」
「前にもこんなことがあったからな。未然に防げてよかった、よかった」
「よくねぇよ!いてぇし」
「・・まさか、抱き着きたかったとか?」
「そんなわけねぇ!」
「じゃ、結果オーライじゃないか」
その様子を見ているマコが肩を震わせて笑っている。
「あー可笑しい。ホント、からかい甲斐があるよね。トウシは」
うるさいよマコ。
「そうだよなぁ、も少し遊んでいくか。なぁトウシ?」
にやにやしているんじゃない、ノブ。
「いい加減、早く行こう。ほら、少しだけ寒くねぇか?」
俺はそう言って周囲を見回しながら、Tシャツからむき出しになった二の腕をさする。本当に、何か寒いような気がするんだよ。うう、早く帰りたい。
「・・そうするか」
「そだね」
本気で怖がる俺に、二人とも苦笑いをしながら同意した。くそっ、今に見てろ。
と、そのとき。
俺は、不意に温かなものに左腕を掴まれた気がして立ち止まった。
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