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いつもそこにいる、式神さま  作者: かくわ詩
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第22話 RPGのように他人の部屋を物色してはいけません。

 ノブが、ユミの視線で若干表情が引き攣りながら、あながち間違っていないコメントをくれた。

 「どうしたんだよ、トウシ。田中さんと何かあったの?」

 俺たちだけに聞こえる音量で、マコも口に手を添えて言ってくる。

 知らん。まさか、排気口に詰め物していないから怒ってるとか。

 すっ、とユミが立ち上がり、こっちに向かってくる。おいおい、なんだよ。俺は愛車には、絶対詰め物はしねぇぞ。何なら俺が代わりになる。

 「トウシさん、ちょっといいですか?」

 「詰めるなら俺の口にしてください!」

 「・・は?」

 教室中の温度がサーっ、と引いていった後、ひそひそ話が始まる。

 「いや、そうでなくて。ちょっと相談したいことがあるから、放課後、家に来てもらっていいですか?」

 ユミが周囲の目を気にしながら、手短に早口で要件を伝えてきた。注目を早く逃れたいらしい。

 「え・・?あ、はい」

 俺は、ユミの話の内容が、案外普通だったので、拍子抜けしたついでに、了承の返事をしてしまった。

 「じゃあ、お願いします」

 ユミは、そのまま席に戻っていく。

 返事をした後に、一気に後悔が襲ってきた。

相談って何?俺、相談受けるほど、ユミと親しくないし、俺の頭でアドバイスできることなど思い浮かばない。できるといえば、バイク関係か、喧嘩のやり方くらいか。

 ノブとマコがニヤニヤしながら、話しかけてくる。

 「おぉい、ナンだよ?詰め物って」

 「ええー、もしかして、田中サンとそういう関係?」

 おい、マコ。それはひどい。絶対に有りえん。

 「ちげーよ。俺の勘違いだ。かんちがい。そうだとしてもハードルが高すぎる」

 ノブが、うんうん、と納得しかけて、ユミの方を見て慌てて話題を変える。

 「でもさ、トウシって彼女とたまに話とかしてるだろ。仲いいのか?」

 「ただの幼馴染だ」

 「へぇ、そうなんだ。で、詰め物って何さ?」

 「俺のバイクがうるせぇから排気口に何か詰めとけってさ。ヒデェだろ?」

 「あー、それ俺も思ったことあるわ」

 「あ、僕も」

 次々と裏切りの声が挙がった。

 「なんだとぅ!お前ら散々、俺の愛車に乗っておきながら!」

 「俺、ちょっと田中さんに親近感沸いたかも」

 「彼女も案外、考えてることは普通なんだね」

 俺は、ユミのことより、世間のバイクに対する冷たい偏見の方が心配になった。 

 

 

 そして放課後、俺はユミの家の前につっ立っていた。ここへ来るのは、何年ぶりだろうか。ユミの家は、俺の家と徒歩で5分とかからない位置関係にある。某ハウスメーカーの一戸建てで、普通の中流家庭といった感じだ。小学校の低学年くらいまでは、互いの家で遊んでいた記憶がある。そのときと変わらないよく見覚えがある玄関ドアが目の前にある。夕方で西日が当たるこの玄関は、じりじりと俺の肌を焼くが、今はあまり気にならない。

 今朝の約束は、何かの間違えで、本当は何事もなかったのではないか、と俺はどこかに逃げ道がないか探していた。ユミと話をするのは、そこまで嫌という訳でもなかったが、相談される覚えがどこを探してもなかったし、それこそ予想もできなかったので、何を言われるか恐ろしかった。

 いや、待て。

 てか、そもそもアイツに対して、なんにも悪いことしてないのだから、そんな恐がる必要などない。相手は、女だし、大丈夫だ。

 うん、まずインターホンを押そう。俺は、インターホンを押そうとスイッチに触る。だが、いつもなら、非常ベルさえも「ぽちっ」、と気軽におしてしまう俺だが、何故か押せない。こんなボタン、ふらついた拍子に間違えて歯に当たってでも押せそうなのに。もしかしたら、これを押したら爆発するんじゃないか、と一瞬、バカなように思われてしまうが、本気で思ってしまった。

 そんなインターホンを押すか押さないかという一行動をを脳内で繰り返し、行動でも繰り返していた。

 「・・何やってるんですか?」

 「どぉわっ!?」

 振り向くと、普段着姿のユミが立っていた。

Tシャツに七分丈のズボンを穿いていて、色気がないことこの上ない。それに、教室で見たモヤの犬、チワワのチャチャがユミの足元に相変わらずいた。

 「何でここにいるんだよ!?」

 「ここ私の家なんですけど・・」

 「そうじゃなくて、何で後ろから来んだよ!」

 「・・ああ。お菓子が何もなくて。人を呼んでおいて、何もないのもアレかと思って」

 ユミは、手に持っていたコンビニのレジ袋を軽く上げる。

 茶菓子でもてなしてくれるなんて、怒ってはいないようだ。心底、ホッとした。そして、意外にもユミは常識的なところもあったんだなと安心した。

 「じゃ、取りあえず、中へどうぞ」


 ユミの部屋がある2階へ通される。

 「・・」

 何かを期待していたわけではないが、期待外れと言っていいほど、女っ気がなく、面白みのない部屋だった。女子の好むピンク色のものはなく、なにか部屋全体が灰色っぽい。部屋自体は、汚いわけではなく、普通に片づけられている。机、タンス、ベッドがあるだけのある意味、究極の部屋だ。素っ気ないのこの部屋は、ここの住人そのものだ。ユミがいるので、あまりキョロキョロ見物するのもな、と思っていると、

 「お茶持ってくるから」

 「・・おう」

 ユミが部屋を出ていった。クーラーの振動音だけが部屋に響く。残された俺は、今は夏のはずなのに、この部屋の雰囲気にうすら寒くなって落ち着かない。

 俺は、それでもと思い、何か人間味を感じるものが1つでもいいから探してみたくなって、部屋を見回した。お、パソコンの下にゲーム機がある。ゲーム機の下の戸棚を開いてみる。ずらりとゲームソフトの背表紙が並ぶ。有名タイトルからよく知らないもの、RPG、アクション、格闘、シミュレーション、パズルとまんべんなくやっている感じたが、アクション系が多めかな。

 なんだか意外だ。あの地味な外見なら、小説とか本が趣味だろうと予想していたもんだから、武骨な趣味を目の当たりにして、少し面食らった。

 RPGの他人の家の宝箱を開けるような気分になって、俺は調子づいて他も、と物色する。机の上に積まれているものに目を遣る。参考書かな?アイツ真面目そうだし。

 『俺の夜の専属調理人――ゆっくり時間をかけてお前をトロトロにしてやる!――』

 俺は、生まれて初めて見る異物に動揺してその本を取り落としそうになった。普通の料理本でないのは明らかだ。まず、人間を料理の対象としている時点でホラーだが、更にその上を行っている。恐る恐る顔を遠ざけながら表紙を見ると、全体的に桃色で、顎がスコップみたいにこれでもかというくらい尖った人物(おそらく男)2人が、苦し気な顔をし、片方のデカイ野郎が、ちっせぇ奴のはだけたシャツの胸元に手を突っ込んでいる。中身は、イヤな予感がしてとてもじゃないが、ペラ見もできない。

 こんなもの机の上に出しておくなよ。ふと、気になって机の引き出しも一気に4段開ける。

 ・・全部かよ。

 「お待たせ」

 茶を持ってドアを開けたユミと、BL本を持った俺とが目が合う。

 「あっ、わりぃ。これは、その・・あの」

 「興味あるんですか?」

 「あるわけねぇだろ、ボケ!つか、こんなん、出しっぱなしにしとくなよ!」

 「すいません。あるのが当たり前になり過ぎて、仕舞い忘れた」

 すると、ユミは俺に対して恥ずかしがるでもなく押入れを開け、その中にBL本を突っ込んだ。その押入れの中身も言わずもがな、である。

 茶が出される。俺は出されたものを二度見した。湯呑の中身は、お茶なのか?と疑うほど緑色がなく、まるで白湯だ。それに、菓子の方も、コンビニのスナック菓子はいいのだが、それが入っている器が、なんとフライパンだった。

 ポップコーンでも炒ったのかと一瞬思ったが、ポテチだったのでそれはない。

 「なんだよ、これは!」

 「え?お茶とお菓子ですけど」

 「そんなことは分かってるんだよ!なんだ、この白湯みたいな茶と、フライパンは?」

 「これおかしいんですよ。お茶葉入れてお湯入れてちゃんとやったのに」

 「おかしいのはお前だ!すぐ注がないで、1、2分待ってからやればいいだけの話だろ」

 「トウシさん、意外と女子力高いですね」

 「これは、女子力じゃない。常識力だ」

 「フライパンはバカにしたもんじゃないですよ。取っ手が付いてるから、とっても、運びやすい」

 一瞬、ユミの口の端が上がったような気がした。自分で言って、笑っちまったのか。俺は、敢えて突っ込まない。

 「入ればいいってもんじゃねぇだろ!原始人かっつーの」

 「別にちゃんと役割を果たしていれば、それが何であれいいと思いますけどね」

 仕方なく、俺は、夏だというのに出された熱い白湯を飲んだ。

 チャチャが、ポテチを食べようとガジガジしているが、靄だから当然喰えていない。

 「そういえば、チャチャはどこいった?」

 俺は、本物のチャチャが気になって聞いてみた。ユミの肩が微かに震えたのを見た。

 「・・死にました。3日くらい前」

 「え?」

毎日16:00頃、更新しています。

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