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いつもそこにいる、式神さま  作者: かくわ詩
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第21話 変人幼馴染のユミ

 週明けの月曜日。ここのところ、天気が良くていいな。日を追うごとに、気温も上がってきている。日差しも、キラキラからギラギラに変わりつつある。だが、雨よりかはマシだ。

 バイクだと傘を差すこともできねぇしな。そう言いながらも、俺は例え雨が降ろうと、バイクで行くだろう。そのくらいこのバイクを愛している。キーを回すと、今日もエンジンのいい音が聞こえる。これだけでテンションが上がる。

 学校から一番近い信号機で止まる。

 止まった交差点に、同じ高校の猫背の生徒がいた。

 よく見ると、同じクラスメイトだ。もっと言うと、幼稚園からの幼馴染だ。

 ユミだった。田中 弓。身長普通、見た目地味、性格暗い。髪も今時、珍しく全く染めていないから、真っ黒だ。その髪も色気もなく、後ろで無造作にひとまとめにしてあるだけで、およそ青春真っ只中の高校生とは思えない。話すと、おとなしそうな外見から打って変わって、ゴーイングマイウェイで、合理性を最優先したがる。典型的なB型、それも暗いときてるもんだから、友達がいないんだな。昔は、こんなんじゃなくて普通に明るかった気がする。まあ、彼女も成長過程でいろいろあったのだろう。

 久しぶりに、意識した、という感じだ。もちろん、クラスメイトでもあるから、常に近くにはいる状態ではある。あ、そう言えば昨日の俺を襲ってきた奴らの中にいなかったな。

 薄情なわけでもないが、成長するにつれ、自然と距離が開いた感じがする。普通に接してもいいかもしれないが、別に話題もないし、からかって冗談言ってもこいつ通じねぇんだよな。白けて重い空気になるのも何だし、要するにめんどくさい。

 なんてことを考えていたら、ユミも俺に気が付いたらしい。

 「・・おはよ、トウシさん」

 「おう」

 「そのバイクうるさいね」

 開口一番がこれである。

 「何言ってんだよ。この排気音がいいんじゃねぇか」

 「でも何かおならみたいだし、そこの穴になんか詰めたほうがいいんじゃないですか」

 「そんなんしたら壊れるわ!」

 「バイク好きなんですね。ただの移動手段なのに」

 「移動するにしたって、スリルとか興奮とか、かっけーほうがいいだろ?」

 「いや、私は移動くらい普通にしたいけど」

 いまいち、ユミがバイクの良さを理解していないので、俺も少しムキになった。

 「ユミだって、どっか行くとき、そこに着くまでただ、ぼーっ、としてたらつまらねぇじゃんか。だから例えば、女だったらその最中、菓子とか食って楽しむだろ?」

 「つまり、私で言うところのお菓子が、トウシさんは排気ガスなんですね」

 それじゃ、俺が排気ガス吸って喜んでるヤバい奴みたいじゃねぇか。

 「不良は煙が好きなんだね」

 「俺は、タバコはやってない」

 「ふーん・・」

 それで、会話が途切れた。

 ま、こんなもんだよな。幼馴染なんてそんなもんだ。逆に、俺に慕ってこられても困る。うん。

 俺は納得しながら、信号機が青に変わる瞬間を見計らって、レースのスタートの如くグリップを握る。

 この走る瞬間、重力で後ろに引っ張られる感じが好きだ。


 何事もなく教室につき、また今日一日が始まる。

 2時限目の休み時間。

 朝、会話をしたせいもあるのかユミが視界の隅に入った。

 当たり前だけど、いつもこのクラスにいたんだよな。

 そう言いながら、視線を向けた時に違和感を感じた。そんな大したものじゃない。ペンケースを開けたら、何か一本だけ足りないような、というそんな程度。

 ユミ本人は、友人がいないから無論、話し相手もいないので、手持ち無沙汰なのか教科書に目を通していた。ときどき、憂鬱そうに窓の外に目を遣る。・・なんか見ていて痛々しいな。

 ふと、そんなユミを見ていると、違和感の正体がわかった。

 靄だ。

 またかよ!?と思いながらも、少しビビる。ユミが襲ってきたら、速攻で逃げる。こいつ髪真っ黒だし、性格暗いし、憑りつかれたら、サダコ級になるんじゃねぇかな。想像しただけでトラウマになりそうだ。

 戦慄しながらも、注意深く観察していると、それは足元に集中していた。

 昨日とはちょっと違う。昨日のは、身体全体にうっすらと纏う感じだったが、ユミの場合は、靄が灰色で、足元にだけ猫のように纏わりついていた。

 不思議に思って視線だけじゃなく、顔を机から乗り出して見てみる。

 後ろでは、ノブとマコが何かの話題で盛り上がっている。集中して視ようとしているときに、時折上がる笑い声が気に障って「うっせぇな!」と怒鳴ってしまった。ノブとマコは当然として、クラス全員もアホみたいな顔で驚いてこっちを一斉に見る。だが、俺は気にせず、視続ける。

 「あれ。・・あっと、チャチャ?だっけか」

 その靄にチャンネルを合わせる感じで視ると、犬がいた。ユミの家で飼っている犬だ。ちなみに、スムースチワワの赤茶色。ひゃんひゃんと甲高い耳に残る鳴き声が特徴的で、媚びているみたいに、いつも目がウルウルさせて、怯えているのか、寒いのか、妙に身体を震わせているあの犬種だ。

 俺の小さい呟き、というか独り言を聞きこえたのか、ユミがぶんっ、と音がするほどの勢いで、意を決したような目でこっちを見つめてきた。

 こいつ、比較的、目が大きめだから睨まれると、こえーんだよ。まあ、あのおかっぱ美少女ほどじゃないが。

 「おい、なんかお前を呪いそうな目で見てるぞ」

毎日16:00頃、更新しています。

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