表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもそこにいる、式神さま  作者: かくわ詩
18/34

第18話 おかっぱ美少女との再会

 やべ。これ、リンチになる。

 嫌だが、もう覚悟を決めなくちゃいけないのかもしれない。やられることはそうだとして、如何にダメージを軽くできるかを考える。しかし、相手はまともな思考状態ではないし、数十人単位の人数で叩かれると、本気で死にそうな気がする。

 これ、ニュースになるよな。昨日のコンビニ強盗と同じくらい報道されるのかな。あ、高校がもみ消しそうな気もする。新作アイス食いたかったな。

 まるで他人事のようにそんなことを考えて、これから起こり得るであろう事象から現実逃避した。

 そして、諦めの思いで、曇り空を見上げたとき、

 ―――とん

 目の前に何かが降り立った。

 あの、着物の少女が俺の目の前に現れた。

 俺の部屋で化け物から俺を助けてくれた幽霊。

 絶体絶命のピンチのときに、漫画のようなことが起きた。

 いつからいたのだろう。彼女はモヤ集団の正面に、真っ直ぐと凛とした姿でいた。

 彼女は、俺を集団から守るようにこちらに背を向けていた。傍から見れば、普通の女子よりも小柄で着物を着こんでも尚、華奢な体付きの女の子が、黒い靄を纏った集団に襲われ目も当てられない事態になると見るだろう。まあ、幽霊だから視えないと思うが。しかし、彼女の自信とも高圧的でもない、存在するだけで周囲全体が浄化されていくようなオーラがそう感じさせない。

 人形のように整った涼しげな顔を、目元だけ怒りに歪ませて。

 突如、彼女は物凄い速さで動いた。

 俺が取り囲んでいた奴らを、面白いように殴り、蹴り、時には投げて、蹂躙していく。そう、一時期流行っていたチート系のゲームのように、一人で周りの人間たちを吹き飛ばしていく。1人を空中に打ち上げている間に、襲ってくる奴らの相手をし、落ちてくるころには片づけ、落下人を受け止めて、それを次の集団に投げつけている。実際、お手玉をしているようで、ある意味、人間を手玉に取っており、遊び心すら感じる。見た目からは想像できないような怪力。いや、そんな言葉じゃ言い表せない、彼女の前では全てが重力を失った物体と化しているようだった。幽霊だから、霊力だの霊圧だの魔法みたいな力を使うと思いきや、彼女は、幽霊にしては、意外と現実的で物理的な攻撃方法をするんのだなと思った。

 それを俺は、呆然と見ていたが、殴られているのがうちの学校の奴らだと思い出し、ハッとなる。

 「やりすぎんな!えっと・・」

 俺は、少女に声をかけていた。名前を呼びたかったが、知らないのだから当然出てこない。だが、何故だかもどかしい。

 そして、その人は、そんな様子の俺に、切れ長の眼をわずかに見開き、こちらを見た後、微笑んだ。

 「わかった。ほどほどに、ね」

 驚いた。こちらの言うことが通じたのだ。てっきり、幽霊とは話ができないもの、意思の疎通が難しいものと考えていたので、彼女と会話でき、小さな感動が生まれた。そして、意外に低めの声にもドキリとした。

 わかった、言いながらも、彼女の桁違いの蹴りの威力や優美な突きなどの攻撃手段が変わっていないように見えるけど。それよりも更に、さっきよりも動きが激しくなっている。てか、この前もそうだったが、幽霊って透明なのに、人間とか触ることができるのな。こっちは、逆に触れることもできないから、鼻から勝ち目などあるわけがない。

 着物の裾がうまく開かないのに、よくあれだけ動き回れるな、などと、俺は考えながら彼女の華麗なる無限ガトリング技に見とれていた。当然、着物なので足は開かないから、キックするときは、片手を地面について、一瞬、片手倒立みたいになって、その手をバネにして勢いをつけて、両足を揃えて相手に繰り出す。・・これは喰らったら相当痛いぞ。パンツ見えるなら食らっても許すけど。って昔の人ってパンツ穿いてるものなのか?

 俺は、こんなときでもどうしようもないことを考える、俺のどうかしている脳みそに自分ながら呆れた。

 危機の直前になって、出待ちをしていたか、と思えるほどいいタイミングでこの少女が来てくれた。あの部屋の出来事以降も見守っていてくれたかのように。

 そんなことを考えていると、俺と美少女幽霊の他に立っている人がいなくなっていた。

 あら。

 もう、片づけたんだ。

 死屍累々とは言わないが、みんな、地面に倒れている。

 「大丈夫。骨折すらしてない。捻挫や、打ち身程度はあるかも知れないけど」

 そういいながら、こっちを振り向く。

 やっぱり、ドキッとするけれど凍り付きそうなくらい端正な美貌。

 俺と彼女は、しばらく見つめ合っていた。

 そのうちに、その彼女はまた前のように顔に影を落として、

 ふっと、消えてしまった。

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 俺の周りには、気を失っている生徒たちが俺を中心にして放射状に倒れている。

時刻が、4時限目の授業が始まる頃であることに気づき、教室に戻ろうと県ケ丘公園から、複雑な気持ちで学校へ戻った。

 え?襲ってきた奴ら?知らん。放置だ、放置。

 あの、おかっぱ少女に殴られて、全然意識を取り戻しそうになかったし。トラックでもあれば別だが、あんな何十人と連れて帰れないし。あと、一応高校の規則だと、下校時まで原則校外に出ちゃいけないし。だから先生たちに、あそこに生徒が倒れている、なんてとてもじゃないが言えない。逆に、どうして俺がそれを知っているのか理由を詰問されそうだ。

 ま、言い訳いっぱいしてるが、俺が黙っていた方が、丸く収まるということだ。

何はともあれ、腹が減った。

毎日16:00頃、更新しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ