第13話 予感
オートバイに3人乗りという、サーカスの曲芸のような恰好のまま、コンビニへとハンドルを握る。当の3人といえば慣れたものだ。バイク上で呑気にしゃべっている。
「今年は、何味だっけ?マコ」
「えーっと、オレンジチョコ味と、あとバナナドーナツ味かな」
「おっ?結構よさげじゃん!俺よだれでそう」
「おい!俺の背中によだれ垂らすなよ!バイクにもな!」
「そっかぁ。俺オレンジチョコにすっから、マコの味見させてくんね?」
「いいよー。半分こだね」
「・・」
この二人は、飛び降り事件以来、更に仲が良くなった気がする。本当に何があったんだ?知りたいような知りたくないような・・。
バイクの走る風圧を心地よく感じていたそのとき、
―――ぴちゃん
急に、頭の中にある意識が浮かんだ。あの蛇のいる湖に一滴の雫が零れ波紋が広がっていくような不思議な感覚。
「・・あ、俺やっぱやめるわ」
唐突にブレーキをかう。その所為で、ノブとマコが投げ出されそうになった。
「おい、死ぬところだったぞ」
「もう!あっぶないなあー」
二人とも、俺の運転と言動に信じられないという感じで、こっちを見る。
だよな。俺も、自分でもさっきまで行く気だったから驚いている。でも、どういうわけか行きたくない。行っては、いけない気がする。
「なんだよ。お前、アイス食べる気、満々だったじゃんか」
「どうしたの?トウシ。さっきまでノリノリだったじゃない」
「なんか、理由があるのか?」
「いや・・」
不審がる二人に聞かれるが、俺も明確な答えは持っていない。
何故かと聞かれても、別に理由なんてない。行く気が失せた。それだけだ。
「うーん?」
なんて、説明しようか正直困っていると、
「何だよ。違うところって、どこにするんだよ」
「そうだよね。自分から言い出したんだから候補あるよね?」
渋々ながらも俺に、同調してくれる二人。ありがたいねえ。
「じゃ、さ。小松パンでも、どうよ」
俺は、そういいながら二人の反応を見る。
「今度こそ変更なし、な」
ノブがバイクから降りて方向転換を促す。
「・・ま、いっか。あそこのパンも好きだから」
マコも、それ以上聞かず降りる。
そして俺は、2人に感謝しつつ小松パンへバイクを向き直した。
「あ、俺、牛乳パン♪ノブ、約束通り奢れよ」
そう言いながら、俺はトングで持てないほどズシリとする牛乳パンをトレイに乗せた。
「うわ、ほんとにいった。いいけど、吐きそうになっても知らねえからな」
「えーと、僕は、これかな」
マコは、マイペースにアップルペティなるものを選んでいた。形は棒状なのに、リンゴのドーナツらしい。ドーナツは、丸くて穴の開いているものじゃないのか?まあ、ホットケーキを最近はパンケーキとか言うらしいし、よく分かんねぇな。
「んー、どれにするかな」
ノブは、いつもなら総菜パンを選ぶのだが、今のうざい状態だとどうなのだろうか。
「これにするか。ほら、あんぱん2つ並べるとおっぱいみたいだろ」
手近なパンを、目いっぱい無駄口を叩くこの穴に突っ込んでやろうと思ったが、弁償代が頭に浮かび、代わりにトングの柄でゴマをするように脳天をぐりぐりしてやった。それ俺が言おうと思っていたのに。ノブがその場にしゃがんで呻いている。
「なんかさ、ノブってトウシみたいになってきてない?」
「俺ってこんな感じなの?」
「そうだよ。自分のことなのに分かんないの?こんなの2人も要らないよ」
マコはさっさと会計に向かう。
ちなみに、俺の購入したお値段270円ほどの牛乳パンは、厚さが八センチくらいある。上と下にふわふわのパンでクリームをサンドしてあり、間に入っているそのクリームの厚さがなんと五センチほどもある。もう、大半、生クリームを食べているようなもんだ。見た目だけだと絶対食べきれそうにない、と思ってしまうが、意外や意外。口に入れ始めると、するするといけてしまう。しかし、食している最中はいいのだが、食べきって満足した瞬間、一気にあげっぽくなる。前にも、一気に食べ過ぎて吐きそうになったことが何回もある。これは、俺が悪い。3分の1程度ずつ分けて食べれば、胃ももたれないし、本当にうまいのだ。
この小松パンの特徴としては、この前のスーパーのパンに続いてまたしても、たいていでかい。カレーパンにしろ、定番のアンパンにしても、クリームパンにしてもだ。それから、総じてベースが甘い。だから、甘党の俺としては好みでもある。でも、親に言わせると場所が悪いらしい。市役所の近くだけど、駐車場がないし、周りの道も狭いから路駐もできない。おまけに、日曜休みだから、休日にゆっくり来ることもできない。
だが、それを乗り超えてでも来たくなる魅力がある。
俺も会計を済まし、松本城へ向かう。
毎日16:00頃、更新しています。




