第12話 親友の性格異変
そして、2日後の金曜日。
大きな事件は、なかったが、相変わらず霊を見かけることは度々あった。なんだか、あのおかっぱ美少女オバケ事件が強烈だったせいで、道端の霊くらいじゃ驚かないくらい、それこそ視えることが日常の一部になりつつあった。普通になり過ぎて、視えることを楽しんだりもした。オバケにもいろいろいて、道の角に立っている顔の下半分を垂らしたマスク見たいなのをしている修験者みたいなオバケや、2等身の子供みたいなオバケ、あとちょっと驚いたのが馬もいた。道の真ん中を悠々と横切っていったときは、ちょっと笑ってしまった。どうせ見ることができるなら、ありがたい神様も見てみたいものだと思った。
視えることに変わりはなかったが、それには波があり、はっきり見える日もあれば、うっすらとしているときもあった。よく視えないときは、それにピントを合わせるようにすると良く見えた。その日の体調や気分に依るところもありそうだ。
そして、毎日の勉強やら友人と話したり遊んだりで、数日前のあの出来事も、忘れはしなかったが日常に埋もれつつあった。
最近の出来事で変わったことと言えは、強いて言うなら、ノブのことだろうか。
「おはよう、トウシ。今日も楽しい一日が始まるな」
「・・おう、おはよう」
そのノブだ。
「昨日のテレビ、見た?俺、一人で爆笑しちまった。プッ」
「何の番組?」
「えっとな」
妙に、話しかけてくるようになった。
今までだと、俺が話しかけるまで、特に興味ない、というようなクールな感じだったノブが、急に積極的に話しかけてくる。心境の変化と言っても、何か腑に落ちない。まるで性格が変わったかのよう。俺に変な気を起こしたんじゃないかとさえ疑ったくらいだ。
「それでさ」
あと、これだ。話のネタが尽きない。今までと違う点として、長話をしようとする。
「あと、昨日の授業だけど」
よくこれだけ、話すことがあるな、と感心する。まるで家のおかんのようだ。
「トウシには思われたくないと思うよ」
俺の思っていることを見抜いたかのように、マコが話しかけてきた。やべ、態度に出てたか。
「なんだよ、マコ。俺は、寡黙だ」
「冗談よしてよ。ジュウシマツ並みにうるさいじゃん」
まあ、マコは変わりなく、いつもの通り毒舌だ。
そんな便所の百ワットみたいな、場違いに明るいノブといて、楽しいことは楽しいが、ノブに対してほんの少しだけ違和感があるのだ。ふと不安が頭をよぎる。そこだけパラレルワールドみたいな感覚がする。行ったことないが。
俺は、小声でマコに、その疑問を率直に聞いてみる。
「なんかさ、ノブって最近変わったよな?」
「ああ。ノブが妙に馴れ馴れしいって、ってこと?」
マコが俺に非常に分かりやすく言う。
「そうそう!」
マコも同じことを思っていたことに、ホッとする。
「お前ら普通にひどいな。せめて、本人のいない場所で言え。泣いちゃうゾ」
小さい子がやるように、ほっぺを膨らませてノブがいう。普通にきもい。
「だから小さい声で話してたじゃんか」
「本人に聞こえてたら何の意味もない。が、俺は、心がひろーいから許そう」
「許してくれるってさ、トウシ」
「そうかそれはよかったよかった」
俺とマコは同じ気持ちだったのか、適当に答えた。
◇◆◇◆◇◆
相も変わらず、その華の金曜日の授業が終わった。机からやっと解放されるうれしさと、放課後なにして遊ぼうかという期待感が込み上げてくる。俺のこの晴れやかな心持ちを反映しているのか、空はスカッと晴れやかだ。初夏の暑さも今は、心地よく感じる。
また、例のノブが近づいてくる。
「なぁ、コンビニ寄ってかね?放課後を共にエンジョイしようじゃないか」
「やだよ。お前の場合、炎上の間違えじゃねぇか?」
「ひでえな!いや待て。常時、心が燃え上がっている俺だから、強ち間違っていない。流石だ、トウシ」
うざい。やはりノブがおかしい。いつもだったら、こんなにテンションが高く・・、以下略。
「いいじゃん、トウシ。そろそろ新作アイスが出てる頃じゃない?」
マコも来て、おなじみの3人が揃う。
「あ、ゴリゴリくんか!」
俺たちは、「アイスキャンディーと言えばこれ!」と言われるくらい定番の、安価でデカい棒付きのゴリゴリくんという氷菓が大好きだ。毎年、いろいろなフレーバーを出して世間の注目を集めている。時々、その新作が定番になっているところは製菓会社の開拓魂を感じる。だが、いつぞやのカルボナーラ味は、盛大にネタ味だった。冷凍庫に入れたカルボナーラたれの付いた皿をなめている感じがした。一口食べて、やめた。
でも、こういうのって味じゃなくて、そのとき一緒にいた奴らと、それについてあーの、こーの言い合って、実際食べてみて、そのときのアホみたいなリアクションを見るのが楽しいんだよな。
そうだな、買いに行くか。
「よし、行こうぜ。ああ~待っててくれ、アイスちゃん」
ノブがおかしなことを言っているが、俺は「おう」、のたった2文字を発するのも嫌になってそのまま流す。メガネが暑苦しいのって、想像以上に耐えがたい。完全にそういうキャラじゃねぇのに、女子が見たら泣くぞ。
「決まり。学校の一番近いコンビニでいいよね」
「おう。バイク乗ってくか?」
そう言いながら、バイク駐輪所に向かう。俺の愛車は、ヤマハのXJR400。通称「ペケジェイだ。いつもは3人乗りしているが、今日に限ってはノブ乗せるのが嫌になってきた。
「あー、一人定員オーバーだ。ノブ、お前走って行け」
「えー、俺仲間はずれ?イジメはいけないと思いまーす」
ヘルメットで頭突きしたい衝動に駆られる。
「お前、燃えてるんだろ?ガソリンも燃えているし、一緒だよ。きっと速く走れるよ」
俺は、ノブにいい加減イラついてきて、デタラメなことを言った。
「そんなこと言わないでさあ。あっ、アイス奢るからさ」
「乗れ。」
「やったぜー!お邪魔しまーす。トウシくん、安全運転でお願いね」
ノブが、ぎゅっと俺の背中に抱き着く。
「てんめぇ!振り落とすぞ!」
俺は、本気でノブを振り落とそうと出発前のバイクをこれでもかというくらい揺さぶる。
「きゃー、トウシくんこーわーいー」
「おい!変なとこに掴まるな!」
マコが物凄い目で見ている。
「行くよ。早く」
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