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いつもそこにいる、式神さま  作者: かくわ詩
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第1話 夏の夜

はじめまして、です。よろしくお願いします。

 辺り一帯から、虫の大合唱が聞こえてくる。

 じっとりと纏わりつく湿気と、生暖かく漂う風が今は夏だ、とうんざりするほど感じさせる。

 手に持っている懐中電灯が少し手汗で濡れていた。昭和の香りのよくあるプラスチック製のものだ。持ち手が汗のせいで、ぬるっとすべって気持ち悪い。

 俺たち3人は、夜の林の中を歩いていた。それは、ごつごつとした車の轍の跡がある、舗装されていない俗に林道と呼ばれるものだ。真ん中がこんもりしていて、その上に草が生えていて歩きづらい。その上、3人だともっと歩きづらい。俺は真ん中で、まさにその〝こんもり上〟を歩いている。だって一人だけ後ろにいると、なんかハジキにされているような気がするし。これは、完全にポジション取りを誤った。

 「おい、トウシ」

 こんなことは、蒸し暑いから早く終わらせた方がいい。ただ暗いだけで、どうせ何も出ねぇよ。あるとしても、獣のうんこ踏むくらいだろ。

 「ちょっと待てって」

 クラスメイトが何か言っているが、あー、聞こえん。誰だよ、こんなイベント考えた野郎は。シメるぞ。

 「・・おら」

 突然、がつっと結構大きな音を立てて、ケツを盛大に蹴られた。

 「痛てーよ!」

 反撃を喰らわそうと、相手に蹴りだすが暗闇の所為か、間合いが分からず、空振る。

 「返事くらいしろよ」

 そう言いながら、俺のケツをフリーキックしてきたのはノブ。矢崎忍だ。所謂、同級生。

 「はは、なにやってんの」

 笑いながら、俺に話しかけてくるのは、マコ。小林誠。同じく、同級生。

 そして。

 さっき、ケツが割れそうな勢いで蹴られたのが、俺。

 トウシこと、阿部刀獅。

 俺は、この二人と良くつるんでいる。ご覧の通り、思いきり蹴られるくらい仲が良い。

 「どんどん、先に行くなよ。競歩やってんじゃねぇんだから」

 懐中電灯を向けると、眼鏡が光を反射する。むっとした顔をしたノブが俺を睨んでいた。こいつ結構、顔が整っているし、メガネ君だから睨まれるとより冷たい印象を受ける。女子がよく、眼鏡がカッコイイ、とか言ってるけど、そうか?俺には、眼鏡は視力補助以外は、嫌味な顔になるか、間抜けな面になるかの人相判断の道具にしかみえない。俺は、さっき蹴られた腹いせに、ノブの眼鏡を上下逆にしてやった。変な顔。

 「やめろ」

 ノブが、うっとおしそうに眼鏡をかけ直す。 

 「どうしたのかなー?トウシくぅん?」

 にやにやとした声で、マコが肘で俺の背中をつついてきた。こっちの心境を分かっていて言ってるのか、いやらしい言い方をする。こめかみをグーでぐりぐりしたい衝動に駆られるが、マコにはやらない。前に一度、ちょっと小突いたら、十倍返しになって戻ってきて痛い目を見たからだ。世の中には、そういうことをやってはいけないキャラが確実にいる。

 

 俺たちは今、高校の大きなイベントの一つ、夏の林間学校合宿に来ている。目的としては、保護者なしで、皆で協力し合って、カレーを火をおこすところから作ったり、森を探索し自然の偉大さを感じたり、寝食を共にして友情を育んだりし、自立心を高める、といったところだろうか。

 ここのキャンプ場は昔、合併前、奈川と呼ばれていた村の奥まったところにある。常設の大きめの黄色いテントが張ってあり、公衆トイレ、飯ごう炊さんやバーベキューなどができる野外炊事場のほか、管理棟がある。テントは常設の所為か、中に足の長い蜘蛛が5,6匹巣を張っており、虫嫌いの俺は女子と一緒に、「ひぃっ」、と青ざめた。

 ここはキャンプ場ということもあるが、田舎の中でも田舎だ。俺の住む松本市も都会から見れば田舎だが、市の中心部に行けば、多少都会的なところもある。丁度いい都会感と田舎感が併さっており、俺はいい街だと思っている。城下町の名残か、細い通路もあって逃げる時にも使えるしな。その松本市と隣り合わせのこの奈川村は、何年か前に全国的に政府が推し進めた政策により合併した。松本市に生まれ育ったノブとマコは、「奈川は、松本じゃない」、と器の小せぇことを言う。あれか、バラエティ番組の都道府県特集とかでたまに出る地域同士の敵対心。それに通ずるものがあるのか?

 なんにせよ、ここは緑生い茂る田舎、いやむしろ山の中のキャンプ場。連想ゲームで、「林間学校の夜と言えば?」、で恐らく皆が第一に思い浮かべるであろうイベント。その名は―――。


毎日16:00頃、更新しています。

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