第五話 高坂優紀
あたしは高坂優紀、県立飛騨野西高校二年B組。
普通の女子高生として生活している。
容姿は、腰まで掛かる程の黒髪で、友達が言うにはかなりの美少女とのこと。鏡で自分の顔を見るけど美少女とまではいかないけど普通だと自分では思う。スタイルは…………周りにいる娘達が凄すぎて比べるのが馬鹿らしくなっていく程平凡。胸は多き過ぎず小さ過ぎず、腰の括れも僅ながらにある。お尻はそこそこ引き締まっていると思いたい。
友達もそこそこいて、運動に勉強、そして遊びと充実した日々を送っていた。残念ながら彼氏はいない。
そんな、あたしの日常は大音量の目覚まし時計に強制的に起こされる所から始まる。寝惚け眼のままダイニングに行きお母さんに作って貰った朝食を食べ顔を洗い制服に着替え学校に向かう
学校の玄関先で友達の疋島愛華と出会った。
ショートカットヘアで栗色の髪、瞳はドングリの様にクリっとしていて笑顔がとっても良く似合う幼顔。本人はその顔を気にしているようだけど、可愛くて私は結構好き。
体型は小柄の癖にボンッ! キュッ! ボンッ! のナイスバディ。羨ま、けしか…………ウォホンッ!
その容姿と体型で、男子達から人気が高い。
何度か校舎裏で告白されている所を目撃したことがある。勇気のある奴だなと毎回観察…………じゃなかった、見守っていたが告白してきた奴等全員見事に玉砕。愛華の謹選に触れる奴はいなかったらしい。あの娘の好みのタイプって一体どんなのだろう。
愛華とは家がお隣さんで誕生日まで一緒。生まれたときからずっと何をするにも一緒だった。幼馴染みであり大切な親友でもある。
「おはよう、愛華!」
「あ、おはよう優ちゃん」
振り向いたその時、私の視線は無意識にそこへと向かった。
身体の動きに合わせ、たゆんと揺れる乳。着ているシャツをはち切れんばかりに押し上げ自己主張している巨乳。その乳が上下に揺れる度、私の視線も上下に動く。
何を食べたらそんなに立派に育つのか。
その胸の半分でもあたしにあったのなら…………。
「ゆ、優ちゃん? 目が血走ってるけど…………どうしたの?」
「愛華…………アンタ普段なに食べてるの」
「なにって…………特に変わった物は食べてないけど」
「だったら、その胸はなに!? 何か特殊な豊胸剤でも摂取しているんじゃないの!?」
ビシッと指差し指摘する。
愛華の胸が不自然に揺れた。
「そんなの、食べてないよ。優ちゃん? 大きくても良いことないよ? 肩は凝るし、運動するとき邪魔だし」
「巨乳は皆そう言うのよ!」
今の私、漫画とかの表現だと血涙だしてると思う。
乳が欲しい。無い訳じゃないけど、とにかく欲しい。
肩が凝るとか、動くのに邪魔とか言ってみたい!
「優ちゃんだって、それなりに大きいと思うよ?」
「あたしは普通よ! アンタが大き過ぎるの!」
だって、90のGカップよ! トップとアンダーのバランスも良く、見事なお椀型をしている。148㎝の身長と不釣り合いじゃない! ロリ巨乳って言っても程度ってものがあるわ!
「そんなに大きい方が良いかなぁ?」
と言いつつ愛華は自分の胸を寄せ上げる。
まるで「どう? 羨ましい?」と態度で示しているかのよう。
なに? あたしをおちょくってるの? 馬鹿にしたいの?
愛華の悪気の無い行為が私をイラつかせる。
よし、落ち着くんだ高坂優紀。巨乳を恨んでも仕方がない、あれは脂肪の固まり…………。そう、脂肪の固まりよ!
脂肪がある=太っている。つまり、愛華より胸が小さい私は愛華より痩せていると言うこと!
そう考えると、先ほどまでの妬みが嘘のように晴れていった。
「優ちゃん、なにその優越感に浸った顔は…………」
「え、いや、もうね乳の大きさとかどうでも良くなっちゃった」
「えっ!? な、何があったの!? 切り替え早くない!?」
「気付いただけよ…………あたしは愛華より痩せているって」
ああ、胸の大きさが普通で良かった。
愛華のこめかみに青筋が浮かぶ。
「なに、その失礼な悟り。私が優ちゃんより太ってるって言いたいわけ?」
「そうよ! 胸、つまり乳! 乳=脂肪! 乳が大きいと言うことは、脂肪が多く付いていると言うこと。あたしは愛華より胸が小さいからその分愛華より痩せている!」
言ってやった! 胸がちょースカッとする。
愛華が徐に溜め息を吐いた。
「優ちゃん、前体重計ったとき幾つあった?」
「え、48だけど…………」
「私…………37だった」
「…………ワ、ワンモアプリーズ」
「37」
…………パードゥン?
え、ウソでしょ? ウソだと言ってよバー⚫!
じゅ、10㎏以上の差があるだと!? そ、そんなバカな!
「胸が大きいからって体重も重いだろうって言う安直な考え止めなよ」
「あ、あたしの方が脂肪付いてるって言うの!?」
「胸じゃなくて、他の所に付いちゃってるのかもね」
ガガーンっ!
そう言えば、最近腰周りに肉付き始めたかなと…………。
「優ちゃん、私と優ちゃんでは身長が違うんだから気にしない方がいいよ。私からしたら優ちゃんの身長が羨ましいよ」
「あたしの身長なんて平均よ。そう高くもないし」
「私から見たら十分高いよ」
言いながら愛華があたしの顔を見上げてくる。
愛華とあたしの身長差は約10㎝。
確かに、愛華からしたら高いのかも知れない。
「ほら、早く行かないとHR始まっちゃうよ?」
愛華があたしの手を引っ張る。
明るい笑顔を振り撒くその様は、同級生と言うより後輩のようだった。
◇◆◇
「さて、帰りますか」
一日の授業を終え、帰り支度をする。
特に部活に入ってないあたしは、直で家路に就くことが多い。
たまに、仲の良い友達に誘われ繁華街に遊びに出向く事もある。
今日は、誰からも誘われなかった為一人寂しく帰宅することに。
「あ、優ちゃん居た!」
教室の外から愛華の声が聞こえてきた。
「あれ、愛華…………吹奏楽部は?」
「今日はお休み。だから、優ちゃんと帰ろうと思って」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。じゃ、一緒に帰ろうか」
「うん!」
教室を出ようとしたその時、下腹部がむず痒くなった。
もしかしなくても尿意だ。
「ごめん、愛華。あたしちょっとお花摘みに…………」
「ん? ああ、トイレね。分かった、先に玄関で待ってる」
人が言葉を濁したのに、この娘あっさり言ってのけた!
って、まぁ別にトイレと言っても問題ないか。
うぁ、ちょっと上品に言ってみたのが仇となった。恥ずかしい!
待たせるのも悪いし、さっさと用を済ませよう。
トイレのドアを開け、中に入る。
踏みつけた床がタイルではなく、ゴツゴツとした地面に変わっていた。
洗面器もなく、用を足す個室もない。あるのは、湿った岩肌。
あれぇー? トイレと思ったら外に出るドアだったぁ~。
ちょ、な訳ない! 二階のトイレよ!? それがトイレのドアを開けたら外に繋がっているなんて! てか、なんか洞窟ぽいし! 何、ど⚫⚫⚫ドア!?
後ろを振り向くと、そのドア自体無くなっていた。
「う、うそぉーーー!?」
なにこれ、夢? でも、股間に渦巻いている尿意はハッキリ感じるし。
はっ!? たぶんあたしは寝ているんだわ! 尿意を催してトイレに、でもそこにはトイレは無かった。そんなことあり得ない。夢に違いない!
夢の中で尿意を感じると言うことは、現実世界でも確実に尿意を催している。危ない、危ない。あのまま、用を足していたら現実世界でお漏らししていたかも知れない。
さぁー早く目を覚ましてトイレに行こ。
あたしは、地面に横たわって目を瞑った。
………………………………。
数分後。
目を開けても、景色は変わらずじまい。
どうして!? 夢じゃないの!?
そうだ! 夢の中って、痛覚を感じないんだよね。だったら…………。
自分の頬を思いっきり叩いてみた。
パチーン! と爽快な音が鳴り響く。
痛い…………。
自分で叩いといてなんだけど、涙出てきた。
頬に伝わる痛みが現実だと告げる。
痛かった。夢じゃないんだ…………。
「はうっ…………!?」
こんな状況に際しても尿意は容赦なく襲い来る。
そろそろ限界が近い。
状況把握は一旦置いといて、目前に迫る危機(お漏らし)に対処せねば。
幸運にも誰も居ない。緊急事態だ、恥も外聞も忘れこの場でしてしまおう。
「ん?」
洞窟の奥から、人影が現れた。
しまった、人が居たのか。
あたしに人に視姦されながら放尿する趣味はない。
ちょっときついけど、ここは我慢して凌ぐしかないかな。
影から出てきたその人は、小学生低学年位の背丈で肌が緑色だった。
ぎらつく双桙は睨まれただけでも身震いしそうな程、凶悪だ。
一目で人間じゃないと分かった。
⚫ーダに似た生物の後ろから似た奴等がゾロゾロと出てきた。
何コイツら、気持ちワル!
⚫ーダに似た生物達があたしを取り囲む。
完全に逃げ場を失った!
「な、何なのよ! もうっ! こっち来んな!」
じわりと詰め寄ってくる⚫ーダ擬き。
「き、キャーーーーーーーー!!!」
恐怖心が頂点に達し、あたしは叫び声を上げた。
⚫ーダ擬きが手にしていた棍棒で突っついてくる。
痛くはないけど、怖い、気持ち悪い。
恐怖と尿意で精魂尽き果てそうになったその時、禍々しい光が⚫ーダ擬き達を撃ち払った。
爆風で土埃を被るあたし。
「うぅ…………」
「おい、大丈夫か?!」
顔を上げると、金髪でサングラスを掛けた男の人がいた。
黒いコートに身を包み、腰に刀を挿している。
何かのコスプレ?
男の人は心配げにあたしの顔を伺う。
「痛っつ…………な、なんとか」
そう返すと、男の人は安堵した。
そして、直ぐ様考え込んだ。
あたしの事を上から下まで舐め回すように見ている。
なにこの人。
身の危険を感じていると、男の人の背後から声が掛かった。
「おい! なにボサッとしている! 数匹行ったぞ!」
その声に応じ、男の人は銃で迫り来る⚫ーダ擬きを撃ち落としていく。
西部劇に出てくるガンマン顔負けの早撃ち。
銃口から出ている禍々しい光。さっきのはこの人によるものか。
光線を放つ銃。まるでSF世界のようだよ。
「カザハギ、フィネ! 一気に終わらせる!
奴等を一ヶ所に集めてくれ!」
「あいよ!」
「了解ですぅ! ハァアッ!」
フィネと呼ばれた女の子が妖術で灼熱の焔を作り、ヨー●擬き共を囲う。
そして、焔の外に居たヨー●擬き共は戦国武将のようなちっさいオッサンの手によって、強制的に焔の円の中に放り込まれた。
全てのヨー●擬きが円の中に入ったのを確認した金髪グラサンが銃口を焔の円に向ける。
狙いを定めて引き金を引いた。
轟音と共に高密度に圧縮された魔力がヨー●擬き共に襲いかかる。
数秒の放射が終わると、ヨー●擬き共がいた場所には跡形も何もなくなっていた。
威力が強すぎた所為で、大きな横穴が出来上がっている。
「ま、師匠凄いですぅ!」
「いや、凄いのは俺じゃなくて、コイツ」
余りの出来事に、私は唖然としてしまった。
「ガハハハッ! どうでい! オラが造った武器の威力は!」
「予想外過ぎて腰抜かしてしまいそうだ」
私は本当に腰が抜けてしまたよ。
なんなのこの人たち。あのヨー●擬きをなんの躊躇いもなく、一瞬で倒してしまうなんて。これは現実なの?
パラパラと上から石が降ってくる。
「ま、師匠! 先程の衝撃で洞窟が崩れ掛けていますぅ!
早く外に出ないと!」
「なに!?」
「おい、てめぇら! あの天井の穴から外に出るぞ!」
「よし!」
状況に付いていけず呆然としていると、金髪グラサンが私を抱き抱え宙へと飛び上がった。
「え、ちょっと…………ウソ、ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
金髪グラサンは落ちてくる岩を足場にしながら外へ飛び出る。
全員出たところで、洞窟は完全に崩落。私達が飛び出てきた穴も塞がってしまった。
「うっ…………きゅうぅ…………」
「ぅん?」
不甲斐ないにも私は、外に飛び出した後気絶してしまった。