第四話 異世界の少女
チートキャラ、カザハギを加えた俺たちは絶賛魔物の群れと戦闘中だった。
街道を抜けた途端、魔物の群れとエンカウント。雑魚ばかりの混成ではあるが、数が多く苦戦ーーはしないだろう。
何故なら、現在進行形でカザハギが無双しているからだ。
斧を一振りすれば、木々を薙ぎ倒しながら魔物が吹き飛んでいく。
更にもう一振りすれば、大地が裂け魔物がその割れ目に落ちていく。
次々と魔物が枯れ葉のように舞い散って行く様を見てると、不憫と言うか憐れと言うか何とも言えない気分になるな。
「こりゃ…………俺達の出番ねぇな」
「そうですね」
フィネがむくれていた。
まだ、機嫌直してなかったのね…………。
「ふぃーーいい汗掻いたぁ!」
一頻り暴れまわったカザハギが満面の笑みを携え戻ってきた。
カザハギの背後を見ると、暴れた影響で地形が変わり更地へ変貌していた。規格外の力を振るうとこんなことになるのか。
「ん? 嬢ちゃんどうしたい? そんな膨れっ面して」
「いえ、なんでもないですぅ」
コイツ、コロッと態度替えやがった。
まさしく“猫”被ってやがる。
そんなに、朝の事怒ってるのか?
「にしても、最近やたらと魔物が増えてきたな」
カザハギが魔物の残骸の山を見ながら呟く。
「そうなのか?」
「ああ、街道を抜けた途端、魔物の群れと遭遇なんて。
したとしても、一匹や二匹程度だ。何十匹の群れで現れる事などそうそうねぇよ」
この世界の住人であるカザハギがそう言うなら異常なんだろうな。
でも、カザハギには関係無いだろ。
相手にすらならない雑魚の群れだったし。レベルも25~30程度で滅茶苦茶弱い。成り立ての新人ハンターでも楽に倒せるレベルだ。
カザハギのレベルは560。どんなに雑魚が集まろうとも敵うわけがない。
ちなみに俺のレベルは72だ。そして、フィネは150。
…………師匠より弟子の方が強いってどう言う事?
カザハギが西の方を遠くい目で見つめていた。
「何か気になるのか?」
「あ、いや…………何でもねぇ。
早いとこハタゴ洞窟に向かおうぜ」
一人先行するカザハギ。
何かはぐらかされた気もするが…………。
途中、何度も魔物の群れと遭遇。
その度にカザハギが無双し俺達の出番一切無かった。
「手伝いで来て貰ってるのに、カザハギさんばかり戦わせて師匠は申し訳ないと思わないのですか?」
フィネが白い目を向けてくる。
「だって、カザハギが戦いたいって言うから…………」
「師匠…………情けないですね」
「さっきから何だ! その態度! 今朝の事まだ引き摺ってんのか?」
「…………フンッ!」
鬱陶しい。
妙に突っ掛かった物言いはするし、蔑む目で見てくるわで。
俺にどうしろってんだ!
「お腹空きましたぁ」
腹を擦りながらフィネが呟く。
「あーもう、わぁーったよ! 後で飯奢ってやるから!
機嫌直せって」
言った瞬間、フィネの瞳が怪しく光った。
「言いましたね? 奢るって…………」
「あ、ああ…………言ったぞ」
「嘘じゃないですよねぇ?」
にじり寄ってくるフィネの威圧感に後退る。
俺は吃りながらも言葉を返した。
「あ、あったり前だ。おおお、男に二言はねぇ!」
「やったぁ!! 師匠大好きですぅ!!」
表情を明るくさせ抱き付いてくるフィネ。
調子の良い奴。
鬱蒼と生い茂る森林を抜け渓谷に差し掛かる。
岩肌だらけで緑が一切ない。先程までの光景とは180度変わった。
殺風景な道のりを終え、俺達はハタゴ洞窟の前に辿り着いた。
「ここが、ハタゴ洞窟ですかぁ?」
フィネが小首を傾げながら訊いてくる。
「そうだ。フィネ、ここからは俺達も戦闘に参加する。
良いな、カザハギ。一人先行し過ぎるなよ」
「あいよぅ!」
一応カザハギに釘を指しておく。
カザハギに関しては心配もないが、こうもカザハギ一人に任せっきりってのは気が引ける。
それに、せっかく手に入れた武器を試したいて本音もある。
下手したらカザハギ一人で魔物を全部掃討しちまうかも知れない。
そうなったら、武器を試す機会が無くなってしまう。
「師匠…………おかしいですぅ」
フィネが俺の服の裾を掴みながら周囲を警戒する。
ハタゴ洞窟に入ってそれなりの距離を進んだが、魔物一匹も出会さない。
何処かに隠れているのかと、スキル【索摘】を執行する。
…………反応なし。
魔物の巣窟となっていると言う情報だったが…………。
「あの豚…………ガセネタ掴ませやがったか」
洞窟内は、俺達の足音と天井から染み出した水が滴となって地に落ちる音しか聞こえない。
魔物…………と言うよりも生き物の気配がなかった。
洞窟の中腹辺りまで行き、俺達は小休憩を取ることにした。
この洞窟に辿り着くまで休憩なしで歩き続けた。それも魔物との戦闘を繰り返してだ。
だと言うのに、カザハギは全く疲れた様子が見えない。
HP=体力と言うわけでは無いんだが。体力までチートかコイツは。
「獣一匹いないってのは変だな」
「確かに、不気味な位静かだ…………」
キュルルゥ…………。
顔を赤らめフィネが俯いていた。
「お腹…………空きましたぁ」
そろそろ、昼時だ。
俺も何だか腹減ってきた。
「飯にすっか」
「はいっ!」
目を輝かせフィネが立ち上がる。
飯の事となると元気になるなぁ。飯で頭の中半分以上占められているんじゃねぇか?
腰袋からパンを取り出す。
フィネにも手渡すと不機嫌面になった。
「これだけ…………ですか?」
「文句あんなら食うな」
フィネの言い分には同意だ。味気無い昼食。
でも、仕方ないだろ。俺もフィネも料理出来ないんだから。
食材手に入れても謎の物体Xが出来上がるだけだし。
「ん?」
カザハギの方を見ると、なんとサンドイッチを食べてるではないか!
「カ、カザハギ…………おま、それ…………」
「おう? サンドイッチだが、それがどうした?」
心底不思議そうにしているカザハギ。
「そのサンドイッチどこで手に入れた!」
「ん? ミネルヴァに作って貰ったんだ」
くっ、リア充が!
嫁さんに弁当見繕って貰ってますてか?
けっ、股間の棒腐ってもげろ!
つーか、いつの間に作った! もしかして、こうなること予期してた?
あんな美人な嫁さん貰って、その上自分はチートキャラとか世の中理不尽だろう。オッサン顔なのによ!
怨嗟の念を籠め睨み付ける。
「…………その…………なんだ、一つ食べるか?」
気まずそうにサンドイッチを差し出してくるカザハギ。
「え、いやぁ~悪いね。催促したみたいで」
「あ、師匠だけずるい!」
フィネもご相伴に預かろうと身を乗り出す。
意地汚く口端から涎を滴ながらフィネはサンドイッチをかっさらいガッツく。そして、あっという間にサンドイッチを平らげた。
大食らいのフィネだ。サンドイッチ一つでは満足しないだろ。
案の定、俺が頂いたのを除き、あと一つ残ったサンドイッチに目が行く。
その目は既に、獲物を捉えた狩人の目だった。
「んふぅ~美味しいでふぅ!」
結局、残りの一つまでフィネに食されカザハギは四つあったサンドイッチの内一つしか食べれなかった。
心なしか、カザハギの目尻に涙が見える。
カザハギ…………南無三。
「ふぅ…………腹も膨れたことだし、そろそろ行くか」
「えー、もうちょっと休みましょうよぅ。
てか、眠いんで動きたくありませーん」
「グダグダ言うな、行くぞ!」
「ぐみゃ!?」
フィネを無理矢理立たせ洞窟の奥へ出発。
奥の方へ行けば魔物の一匹でも居るかと思ったが…………。
ここまで何も居ないと逆にこれから何か起きるんじゃないかと身構えてしまうな。
周囲の警戒をしつつ前へ。
「キャーーーーーーーーーー!!」
洞窟の奥の方から悲鳴が響いてくる。
誰も居ない筈の洞窟に悲鳴。ただ事じゃない!
「おい!」
「ああ、急ごう!」
俺達は駆け出し悲鳴がした洞窟の奥へ向かう。
そこは、天井に大きな穴が空いており外の光が射し込む場所だった。
何かの影が見えた。
子供──いや、肌の色が緑で身震いする凶暴な双眸。鋭利に尖った牙。手にした棍棒。低級魔物“小鬼”だ。
無数の小鬼が何かを取り囲んでいる。その中央には屈み込み震えている少女の姿が見えた。
少女は怯えきっているのか、抵抗もせず小鬼共に棍棒で突っつかれている。小鬼は興味深い物を見つけたと言った感じでチョッカイしているだけだろ。あれだけの数だ、襲われれば相手がたかが小鬼とは言え無事では済まない。俺達が駆け付けるまで無事だったってことは、小鬼共には敵意はないのかもしれないが…………。
怖がっている女の子を無視するのは、男の隅にも置けねぇ。
俺の中にある警鈴が鳴り響く。
俺は即座に手に入れたばかりの『怪銃・リバイブ』をホルダーから抜く。
まずは、右側の奴等から…………。
銃身に魔力を充填させ、軽く引き金を絞る。
狙いを定め俺は引き金を引いた。
収縮された魔力が弾となり、禍々しい光を放ち地面を抉りながら小鬼を一掃していく。二三匹のつもりが、小鬼共の半数を消し炭にしちまった。
あまりの威力に後ろにいたフィネも唖然としている。
対してカザハギは誇らしげにしていた。
「か、…………火力半端無さすぎだろっ!」
おいおい、さっきのに巻き込まれ女の子も消し炭になってるんじゃねぇの!?
「うぅ…………」
あ、いた! 良かった!
全身砂埃だらけになってるけど無事だ!
急ぎ女の子に駆け寄る。
「おい、大丈夫か?!」
「痛っつ…………な、なんとか」
砂埃を払いながら女の子が立ち上がる。
腰まで掛かる程の艶やかな黒髪、純粋で真っ直ぐな眼差し、筋の通った小さい鼻、薄い唇。その端整な顔立ちは美少女と言っても過言ではなかった。
紺色の上着に純白のシャツに赤いネクタイ、チェック柄のスカート。
この世界では見掛けない服装。
それは、俺が元いた世界の国ーー“日本”の学生服だ。
この娘、日本から召喚されたのか?
だとしたら、何処かに召喚者がいるはず。
だが、それらしい人物はこの洞窟内にはいない。居るのは、俺とフィネ、カザハギ、小鬼とこの美少女だけ。
では、召喚ではなく“転移”させられたのか。何者かの手により。
出来るとしたら、この世界の神或いは女神位だろう。
神や女神が自ら呼び寄せたとしたら、この娘は何らかの使命を帯びている。大方、魔王の討伐か神や女神と敵対する勢力を殲滅するとか、か。
「おい、何ぼさっとしてんだ! そっちに数匹行ったぞ!」
カザハギの声にハッとし、リバイブに魔力を再充填させる。
先程より、魔力を少なめに込め威力を絞り小鬼共を撃ち落とす。
「カザハギ、フィネ! 一気に終わらせる!
小鬼共を一ヶ所に集めてくれ!」
「あいよ!」
「了解ですぅ! ハァアッ!」
フィネが妖術で灼熱の焔を作り、小鬼共を囲う。
焔の外に居た小鬼共はカザハギの手によって、強制的に焔の円の中に放り込まれた。
全ての小鬼が円の中に入ったのを確認し、銃口を焔の円に向ける。
魔力を充填して引き金を引いた。
轟音と共に高密度に圧縮された魔力が小鬼共に襲いかかる。
数秒の魔力放射が終わると、小鬼共がいた場所には跡形も何もなくなっていた。
威力が強すぎた所為で、大きな横穴が出来上がっている。
「ま、師匠凄いですぅ!」
「いや、凄いのは俺じゃなくて、コイツ」
リバイブに目線を向ける。
通常なら魔力を充填して、そのまま発射するがコイツは充填した魔力を圧縮して濃密度にした上威力を上げて放ちやがる。貯めれば貯めるほど威力が上がるなんて使い様によっては星その物を壊すこと位容易に出来てしまう。
恐ろしい武器だ。
「ガハハハッ! どうでい! オラが造った武器の威力は!」
「予想外過ぎて腰抜かしてしまいそうだ」
正直、腰が抜けかけた。
これからは魔力弾ではなく、実弾メインで使うか。
戦闘の度に金が減っていく。矢より銃弾のほうが価格が高い、その点を見れば弓にしとけば良かった。どちらにしてもコスパ悪いけど。
パラパラと上から石が降ってくる。
「ま、師匠! 先程の衝撃で洞窟が崩れ掛けていますぅ!
早く外に出ないと!」
「なに!?」
「おい、てめぇら! あの天井の穴から外に出るぞ!」
「よし!」
状況に付いていけず呆然としている美少女を抱え、俺は天井の穴へ飛び上がった。
「え、ちょっと…………ウソ、ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
落ちてくる岩を足場にしながら外へ飛び出る。
全員出たところで、洞窟は完全に崩落。俺達が飛び出てきた穴も塞がってしまった。
こりゃ、魔物掃討どころか、洞窟その物が無くなっちまったから依頼失敗か?
帰ってどうあの豚に説明するか…………。
「うっ…………きゅうぅ…………」
「ん?」
俺の腕の中にいた美少女が可愛らしい呻き声を上げた。
しまった、すっかりこの娘のこと忘れてた。
目を回し気絶している。
美少女なのに気絶してる顔は残念な感じだ。