第三話 チート鍛冶屋がパーティに加わった
「どうだあんちゃん、これならあんちゃんの要望にもピッタシだし相応しいと思うんだが」
自信ありげに拳銃を薦めてくるカザハギ。
確かに、こんな強力な武器があれば戦闘も楽になるが…………。
「良い武器なんだが…………ちょいと奮発し過ぎなんじゃないか?」
「気にすんな! オラが認めたあんちゃんだからだ。勿論、代金は要求しねぇよ」
ただでこれが…………。うむむ…………っ。良く「タダほど高い物は無い」と言うし。後で高額請求とかされそうな。
カザハギの方を見ると、真剣な顔付きでリバイブを付きだしていた。
会ったばかりだが、悪い奴では無さそうだ。それに、コイツを見た後じゃ他の武器が廃れて見えるし…………。
「受け取ってくれねぇか?」
カザハギの瞳に断固たる意思が見えた。
これは、そうそう折れそうに無いな。
「分かった。ありがたく頂くぜ」
こちらが折れる形でリバイブを受けとる事にした。
カザハギがパッと表情を明るくさせる。
「そうか! よかった。あんちゃん程の実力者に使って貰えりゃリバイブも喜ぶだろうよ」
「俺には勿体ねぇ銃だと思うけどな」
手にしたリバイブを眺めながら呟く。
銀色の銃身がキラリと輝いた。まるで「よろしく」と言っているかのようだ。
「そうだ、あんちゃん。あんちゃんはハンターって言ったよな?」
ふと、カザハギが訊いてくる。
「ああ」
「この街には依頼で来たのか?」
「まぁ、そんなところだ」
「依頼の内容聞いても良いかい?」
「ん? 別に構わねぇよ。他言無用と言い付けられてるが、端からあの豚の言うこと聞くつもりねぇし」
正確には使用人のベネルに言い付けられた事だけど。
「あの豚? ああ、カーノルド侯爵の事か」
豚で通ずるとか、あの領主、領民の間で豚と認識されているのか。当然と言えば当然だな。
「で、どんな内容なんだい?」
「この街から、西南に5㎞進んだ所に『ハタゴ洞窟』ってのがあるだろ?
その洞窟に巣食っている魔物の掃討だよ。二人だけで」
「はぁー、そりゃまた無謀と言うか無茶振りだな。全くあの豚、人の服を着た家畜だぜ。先代は尊敬に値するお方だったてのに」
カザハギはそう言うと遠い目をした。
「先代と言うと、あの豚の父親か?」
「そうだ、思慮深く温和な方でな領民の事をとても大切に思ってくれていた。統治者としても優秀でここアザフスタン領も住み良い土地だった」
そう語るカザハギの顔は優しさに包まれていた。
コイツの表情を見る限り、それなりに慕われていた領主らしいなあの豚の父親は。
「だが、2年前、病気で亡くなられた先代に代わりあの豚が領主になった途端ーーこの街を含めたアザフスタン領地は荒れ始め治安も悪くなりつつある。どれもこれも、あの無能な親の七光りの豚の所為だ」
そう語るカザハギの表情には、先程の優しさにうって代わり怒りの色が浮かんでいた。
カザハギは先代の事をとても慕っていたんだな。
その分、今の領主ーーアベンツが許せないと。
俺もあの豚が統治者に向いているとは思えない。衣服を纏っただけの家畜に何が出来る。親の威光に頼り、空座となったその座に平然と胡座を掻く豚に。
「本当なら、豚の弟ーーと言うと不憫だな。先代の次男坊グレンツ様が領主となる筈だった。無能な兄と違い、聡明で気配りが出来、武芸に秀でて領民からも人気があったお方だ」
あの豚、弟がいたのか。
「それをあの豚は、グレンツ様を卑劣な罠に掛けこの領地から追い出しやがった」
「その弟ーーグレンツは今どこに?」
「分からん…………風の噂で中央で商いしていると聞いたことがあるが」
「そうか、話だけ聞く限りグレンツが領主になった方が良かっただろうな。居場所を探し出して連れ戻そうとはしなかったのか? この街と言うかこの領地の連中は」
「ああ、初めはそうしようとしたさ。だが、現領主の豚が私兵を用いて領民に圧力を掛けてきたんだ。グレンツ様を探し出す者は容赦なく殺される」
よほど自分の権威が脅かされるのが怖いのか、あの豚は。
民を守る処か、虐げるとは…………よく反乱が起きなかったものだ。
「あの豚、見た目も中身も醜いな。本当に獣ーーいや魔物じゃないのか?」
「はっ、違いねぇ。魔物だった方が嬉しいぜ。魔物なら討伐出来るのにな」
自嘲気味に言うカザハギの顔には、苛立ちと後悔の念が見てとれた。
「まったく、ここまで嫌われている領主ってのは珍しいな」
「あの豚が特に嫌われてるってだけだ。…………あんちゃん、あの豚の手助けする気は更々ねぇが、あんちゃんの手助けがしてぇオラもハタゴ洞窟の魔物掃討に付いていっても良いかい?」
「おいおい、知り合ったばかりのアンタに俺たちの仕事の手伝いさせる訳にはいかねぇよ」
カザハギのようなチートキャラが居れば俺たち戦わずに楽が出来るが、流石に気が引ける。それに、
「店はどうするんだ? 店主どころか店員が店を空けちゃ商売にならねぇだろよ」
俺の問いにカザハギは笑顔で答えた。
「それなら、心配ねぇ。おーーい、ミネルヴァ!」
「はいよぉーー!」
カザハギが店の奥に声掛けると、奥から金髪巨乳の美女が現れた。
太陽のように輝く長い金髪を一束に纏められており、視線を少し下に落とすと透き通ったコバルトブルーの瞳があった。神の手によって造形されたような顔は芸術と言って差し支えない程美しい。肌の色も雪のように白く触れれば一瞬で輝きを失ってしまいそうだ。
そして、何よりも目につくのは2つの山脈。カザハギとは色違いの赤いつなぎ服を上半分だけ脱いでおり、中に着ている白いタンクトップを押し上げこれでもかと自己主張しているお胸様がいた。
完璧な体型と美貌に一瞬、女神が現れたのかと思った。
これぞ女神! 俺の知ってる女神なんざ、ツルペタストーンの幼児体型で色気もヘッタクレもない奴だった。
あぁ、俺はついに真の女神と出会うことが出来た!
「むぅ……………………」
「イダダダダダダァッ!?」
隣にいたフィネが蔑むような目で睨めつけながら、俺の太ももをつねっていた。
「師匠…………鼻の下伸びてます」
そんなバカな!? 咄嗟に俺は口元を手で覆う。
そこで俺は自分の過ちに気付く。今とった俺の仕草。それは鼻の下を伸ばしていたと自分で言っているようなもんだ。
フィネの目が汚物を見るような目になる。
「……………………変態」
「ぐはぁっ!?」
言葉の刃物が俺の心を抉る。
ギネットは精神に1200のダメージを受けた。
「何だい? この子達は…………」
俺とフィネのやり取りを端から見ていた金髪美女が疑問を投げ掛ける。
その疑問にカザハギが答えた。
「コイツらはさっき知り合ったギネットと……………………」
フィネを紹介しようとしたところで言葉が詰まる。
そう言えば、フィネは自己紹介していなかったな。
「自己紹介がまだでしたね。ボクはフィネ・ロフォーラと言いますぅ。
初めましてぇ、綺麗なお姉さん」
「あら、礼儀正しい娘ね。世辞でも綺麗なんて言って貰えると嬉しいわ。
誰かさんは最近めっきり言ってくれなくなったし、ね」
金髪美女がカザハギに冷たい視線を向けた。
「うぅ…………き、綺麗だぜ母ちゃん」
「無理に言われても嬉かないねぇ」
「か、母ちゃん?」
カザハギの一言に自分の耳を疑う。
今「母ちゃん」って言った? え、嘘本当に「母ちゃん」て言った!?
唖然としていると、カザハギが不思議そうに首を傾げた。
「どうしたい、そんな呆けた顔して」
「アンタ今、その美女のこと…………か、母ちゃんって呼ばなかったか?」
「ああ、言ったぞ。オラの嫁さんだからな」
「「え、…………えええええええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
驚愕の事実に俺とフィネは声を張り上げ大声を出してしまった。
「マ、師匠これは結婚詐欺と言う奴では?」
「いや、詐欺ではないだろう。現に結婚していると言うし…………。
あの美女、幻想魔法でも掛けられてるのか?
だとしたら、強ち詐欺って線も有り得なくは…………もしくは偽装夫婦?」
「おいおい、なに失礼な事本人の前で言ってんだ。正真正銘の夫婦だよ!」
俺たちの漫才のようなやり取りを見て、美女がクスクスと笑い出した。
「クススッ…………いやぁ、うちの旦那が人とこんなに楽しげに話してる所久しぶりに見たよ。アタイはミネルヴァ、ミネルヴァ・アドルフ宜しく」
気さくに握手を交わす美女と幼女。俺の方にも手を差し伸べてきた。その綺麗な手に触れる事に若干の戸惑いがあり、ドギマギとした握手になってしまった。
大丈夫か俺。手汗とか掻いて無かったよな?
「で、アンタ、アタイを呼びつけたのはこの二人を紹介するだけの為じゃ無いわよね?」
ミネルヴァが諫めるような目をカザハギに向ける。
「あ、ああ…………実はこのあんちゃんの仕事手伝う事にしたから、暫く店の事頼もうと思って…………」
「………………………………………………………………」
黙り込むミネルヴァ。僅かに眉が小刻みに震え、こめかみに青筋が浮き立っている。
あぁ、怒ってるよ間違いなく。そりゃ、知り合ったばかりの付き合いの極短い奴の仕事を手伝うため、自分の店ほったらかして行こうってんだから。怒るのは仕方ないよな。
急に言われてもミネルヴァも困るだろうし。
俺が原因で夫婦仲が拗れるなんて、気が滅入る。ここは穏便に済ませるため、カザハギには同行を諦めて貰おう。
「おい、カザハーーーーー」
カザハギに声を掛けようとしたその時、
「はぁ…………仕方ないね。アンタのその突飛押しな行動は今に始まった事じゃないし、良いわよ行ってらっしゃい。店は任せなさいな!」
「おお、ミネルヴァ! 済まねぇ! 愛してるぞ!!」
感極まりミネルヴァにカザハギが抱き付いた。
「ちょっと、暑苦しい! もう、調子良いんだから」
と言いつつ、ミネルヴァの顔は満更でもなさそうだった。
姉御肌の妻にやんちゃな夫、か。容姿を除けばお似合いの夫婦だな。
そうとなってはと、カザハギは店の奥に駆け込んでいった。
「慌ただしい奴でごめんなさいねぇ」
ミネルヴァが頭を掻きながら話しかけてくる。
「あ、いや…………俺は気にしてないんだが…………」
どうにも目を合わせられない。今の彼女の姿は薄手のタンクトップという格好だ。特に、目が行くのは自己主張の強いお胸様だ。その薄手の向こう側、目を凝らせばちょっと見えるんじゃないかって思ってしまって。
見えるって何かって? そりゃ、あれだよ、あれ。ちkーーーー。
「ちょい、あんちゃん。大丈夫かい?」
「へ?」
唐突にミネルヴァが心配げな顔を向ける。
「鼻血出てるけど」
「鼻血?」
気付くと鼻から赤い液体がポタポタと滴っていた。
「ドスケベ…………」
フィネさんや、キャラ変わってませんか?
物凄い軽蔑の視線を向けてくるフィネ。
なんだか、フィネの中で俺の株価暴落してねぇ?
師匠の尊厳どこ行った!
数分後ーー
使い込まれた銅の鎧を着込み、柄の長さが50㎝刃渡り60㎝位の大きな斧を携えカザハギが現れた。
めっさ完全武装だなおい。
「いやー待たせたな。馴染みの武具引っ張り出してたら時間食っちまった」
カザハギの顔が爛々と輝いている。
どんだけ楽しみなんだよ。
「んじゃ、さっそく行こうか!」
「はい、行ってらっしゃい」
張り切るカザハギを先頭に俺達はミネルヴァに見送られつつハタゴ洞窟へ向かった。