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第二話 チートな鍛冶屋との遭遇

 尻だ。

 いきなり何を言うのかと思うだろが、俺は事実を述べたまで。

 朝起きたら、目の前に尻があった。染み一つないふっくらした尻だ。

 視線を横に反らせば脚が見えた。幼子のような短く細い脚。

 尻で視界が覆われている為、俺の股に向かっているであろう頭が見えない。従って、覆い被さるように俺に尻を向け寝ているこの人物が誰なのか分からない。

 起き抜けの頭では考えが纏まらず、状況が把握出来ていない。

 重くはないが、胸に乗し掛かる圧迫感で息苦しい。

 何なんだ一体…………。


 起きたら見ず知らずの子供(多分)が自分に尻を向け胸の上で寝ていた。なんて訳の分からない状況に混乱していると、子供がモゾモゾと動き出した。

 どうやら、起きたようだ。



「うっ…………んぅ…………」

「おい…………誰だか知らんがどーー」



「プゥウーーーッ」

 


 気の抜けた音により俺の言葉は遮られた。



「!?」



 そして言葉では言い表せれない刺激臭が俺の鼻腔を襲撃した。

 脳細胞が著しく死滅していく感覚がしている…………気がする。

 余りの臭さに俺は子供をはね除け飛び上がった。



「~~~~~~~~~っ! くっっっっさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 い、息が出来ねぇ!! なんだあの屁! 目に滲みる!

 不味い、意識が朦朧と…………。

 急ぎ窓辺に行き窓を開け、新鮮な空気を肺へ送る。



「ゲホ、ゴフッ…………すぅぅぅぅぅ、はぁぁぁぁぁぁぁっ」



 肺に溜まった有毒ガスが浄化されていく。

 何度か深呼吸すると、心も躰も落ち着きを取り戻した。


 あっぶねぇーーーっ! 危うく永遠の眠りに就く所だった。


 目覚まして直あの世行きとか勘弁しろよ!

 俺の顔面に毒ガス喰らわしてくれた張本人は、結構強く投げ飛ばした筈なんだが床で安らかな顔で眠っていた。


 こん野郎ぅ~! ってコイツ、フィネじゃねぇか?


 チャームポイントの猫耳と尻尾が無かったから気付かなかったが、腰ぐらいある黒い長髪に左目の下にある泣き黒子(ほくろ)。どう見ても耳と尻尾を無くしたフィネだった。猫又でもある彼女は、自在に耳や尻尾を消したり出来る。すっかり失念していた。



「おい、起きろ」

「グヒョウ!?」



 フィネを叩き起こす。珍妙な声と共にフィネは起き上がった。

 まだ寝ぼけているのか、周囲を一瞥し頭を掻いている。

 ふと、俺と目が合った。



「あ、師匠(マスター)! おはようございますぅ…………zzzzz」

「寝るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「…………はうっ!?」



 耳元で大声を発したら、フィネは飛び上がり耳を塞いだ。

 目の端に涙を溜めフィネが此方を睨んでくる。

 


「あ、朝っぱらから五月蝿いですよ師匠。落ち着きのない人ですねぇ」

「誰の所為だと思ってんだ! だ れ の!」



 思いっきりフィネの頬を突っついてやった。

 当の本人は訳が分からないと言った顔をしている。



「おい、なぜ俺の上で寝ていた? それよりなぜこの部屋にいる?」



 問い質すとフィネは顔を赤らめ身動ぎし出した。

 ようやく手に入れた資金で部屋をとれたものの、コイツと一緒の部屋だと落ち着いて寝ても居られない。理由は、まぁ先程までの騒ぎを見て察して欲しい。

 そう思い急遽、二部屋借り別々の部屋で休むことにしていた。

 その件については、フィネも素直に了承していたのだが…………。



「あの~、ですねぇ。急に人肌恋しくなりましてねぇ、夜中こっそり師匠の部屋にお邪魔したんですよぅ」

「俺、言ったよな。部屋は別々にするからいいな? って。その問いにお前は『いいですよ』って答えたよな?」

「はいぃ…………」

「そして、俺はこうも言ったよな? 一人で寝れるか? とも。そしたら、お前、『大丈夫、ご心配なく』って言ったよなぁ?」

「うぅ…………」



 語気を荒げすぎた所為かフィネの目端に涙が溜まり始めていた。

 別に、俺は部屋に入ってきた事について怒っているのではない。

 確りしている様に見えてもフィネはまだ十歳だ。夜半時に寂しくなり独り寝が出来なくなる事位あろう。それはいい。

 俺が怒っているのは、俺の胸の上で寝ており尚且つ屁を咬ましてくれた事についてだ。

 少し責めすぎたか…………。

 こう、床に何故か下半身裸と言う半裸状態のフィネが正座し涙ぐんでいると、こちらが悪いことをしている気分になる。

 と言うか、絵図らが不味い。

 傍目に見たら、半裸状態の幼女を辱しめている様にしか見えないからな。



「フィネ、この部屋に入ってきたのは別に良いんだ。

問題は俺の胸の上で寝ていた事についてだ。それと、その格好についてもだ」

「あー、これはですね…………。マ、師匠(マスター)もご存じでしょう?

ボクが寝相悪いの」



 あぁ、知ってるとも。野営した時、テントで寝ていた筈のフィネが翌朝木の枝木の上で寝ている事があった。あれは、寝相が悪いと言うレベルを越えていた。

 だが、人の上で寝ている事や服が脱げている事など無かったと記憶している。

 ジトッとした目線を向けると、フィネは明らかに目を横へ泳がした。

 これは確信犯なのは明白。先程のショボくれた表情も演技だろうな。



「で、本当の所は?」

「朝起きたら、美少女が半裸で自分の上で寝ていたら嬉しいだろうなと思って」



 力一杯頬をつねってやった。



「イダダダッ!?」



 コイツは妙に思考が偏っていると言うか、どこでそんな事覚えてくるんだ。





「痛いですぅ…………」



 年期の入った家屋の飲食店で今俺たちは朝食を摂っている。

 焼きたてのパンに青野菜のスープ、ベーコンエッグが目の前に並べられていた。パンを片手にスープを飲み、ベーコンエッグを口に頬張る。そしてパンもすかさずかぶり付く。

 この世界のパンは、俺が元いた「地球」のとは違ってやや固く弾力もあって食いごたえがあった。

 完食し終えふとフィネの方を見ると、何やらブツブツと呟いていた。

 まぁ、ここに来てからもずっと『痛い』を連呼しているフィネはさておき、今後の予定を決める事にしよう。

 予定と言っても、傷薬や薬草の調達に武具の入手。そのあと、ハタゴ洞窟へ向かうだけ。

 武器は一応『神刀・天羽々斬(あめのはばきり)』ていう刀を持っているが、使用条件が揃わないと鞘から抜けない。その使用条件については追々話すとして、武器もない状態で魔物の群れ相手取るのは正直面倒臭い。

 魔法で戦う手もあるが、生憎と苦手でな。使える攻撃魔法が一種、補助魔法が二種と少ない。

 そこで、武器を手に入れ戦闘を楽にしようと言うわけだ。なるべく遠距離から攻撃出来きる物が良い。

 


「師匠…………全く聞いてませんねぇ。ええい! こうなったらヤケ食いしてやりますぅ!! 店員さぁーん、注文追加お願いしまぁすぅ!」



 不穏な言葉にハッとした。見るとフィネが店員を呼びつけ追加注文をする間際だった。



「うぉい! なに勝手に注文追加しようとしてんだ!!」

「だってぇ、師匠が全然ボクに見向きもしないからぁ」



 俺の気を自分に向けるためにやったってか? おめぇは俺の彼女かっての!

 何でもないと店員を返し、フィネから品書きを取り上げる。



「お前は、何度その無尽蔵な食欲で俺を破産させる気だ!」

「だってぇ…………」



 目を離すと直ぐ暴飲暴食するんだから…………。油断も隙も在ったもんじゃない。

 強制的に食事を終わらせ、俺達は武具屋に向かった。

 途中、フィネの様子を伺うと、一目瞭然で不機嫌だった。

 頬を膨らませ真っ直ぐ余所見をせず、前を見ている。



「あのぅ…………、フィ、フィネ、さん?」

「………………………………フンっ!」



 声かけても無視。これ結構心に来るんだよな。

 確かに食事を強制的に終わらせたのは悪かったと思うけど、あのままでは折角手に入れた資金が瞬く間に消えていきかねなかったんだ。仕方のないことだった。

 拗ねたフィネは厄介だ。特に食べ物の事で拗ねると手の施しようが無くなる。はぁ、本当に面倒臭い。


 そうこうしている内に武具屋へと着いた。

 鍛冶屋も兼業しているらしく、大きい店だ。



「『アドルフ工房』ねぇ…………」

「………………………………」

「うぅ…………」



 妙に突き刺さる視線を隣から感じる。露骨に話題を振ったのが不味かったか。

 店内に入ると、丁度つなぎ服姿の小人族ドワーフの男が店の奥から現れた。

 人族の平均身長の半分しかないのが特徴的な種族で、男は成人すると皆髭を生やし、一貫して同じような厳つい顔そしてガッシリとした体格をしているため見分けがつかない種族としても知られている。男の場合はだ。

 女の場合は見た目十代位の少女にしか見えないそうだ。個体差もはっきりしており美少女も居るみたいだ。見たこと無いけど。個体差がはっきりしていると言うことは美少女の反対も居ると言うこと。

 …………うん、差別する気はないがやっぱり美人の方がいいな。



「おう、お客さんかい。いらっしゃい!」



 威勢の良い声と屈託の無い笑みで出迎える小人族ドワーフ

 髭を生やしてはやしているからして、成人だろう。ガタイも大きく、つなぎ服の上からでも良く鍛えられている躰だとわかる。顔は…………どこぞの戦国武将のような顔だ。



「此処等じゃ見かけねぇ面だな。旅人かい?」

「流れでハンターをしている。ギネットだよろしく」

「オラはカザハギってんだ。この店の店主兼鍛冶職人をしているぜ」



 軽く挨拶を交わし棚に並べられている武具の品定めに入る。

 どれも一級品のように作り込みがよい。

 目についた一本の剣を手にする。汚れの無い白銀の刃、柄元は中央に宝石が埋め込まれており、その回りを金銀綺羅美やかな装飾が施されていた。

 俺の10個ある能力(スキル)の内の1個【鑑定】を執行する。

 すると、驚きの結果が出た。

 一見、玩具の剣のようだが剣そのものに魔力が籠っており、常人が手にしただけでも大岩を一刀のもと両断出来る魔剣だ。

 こんなもの一介の鍛冶職人が作れるものなのか? それとも、迷宮(ダンジョン)で手に入れた?



「お、あんちゃんお目が高いね。そいつはオラの最高傑作の一つだ」

「こ、これをアンタが作ったのか? 手に入れたんじゃなくて…………」

「おうよ!」



 自慢気に言うカザハギ。

 もう一度、剣へ目を向けるが、魔剣級のこの剣を作ったとは信じられない。もし、そうだとしたら、カザハギは魔導鍛冶師と言うことになる。


 【鑑定】


 名前:カザハギ・アドルフ

 年齢:28歳

 種族:小人族(ドワーフ)

 職業:魔導鍛冶師

 LV:560

 HP:156000/156000

 MP:235000/235000

 ATK:680000

 DEF:428000

 INT:86000

 RES:78000

 DEX:1500000

 AGI:98000

能力(スキル)

 【武具製作】【武具強化】【鉄鋼神の加護】【経験値倍増】

 【属性付与】【不死】【死者蘇生】【カリスマ】【威圧】

 【先読み】【千里眼】【幸運】



 …………なんだこのステータス。チート染みてるぞ。

 てか、年齢! 詐欺だろ! この見た目で28とか。

 あ、いや小人族(ドワーフ)だから問題はないのか…………。

 それよりも、この世界の平均レベルが65で最高でも150止まりだ。

 一体何者なんだコイツ。それに加護持ちかよ。てか、【不死】って【死者蘇生】って何でもありか!

 いくら元冒険者だったとしてもこの数値(ステータス)は異常だ。



「なんだ? あんちゃん、オラなんかジッと見つめて…………

ハッ! あ、あんちゃんもしかして“あっち”の気があるのか?」



 カザハギが手を立てその甲を左頬に当てる。

 慌てて“その”否定をする俺。



「なわけあるかぁ!」

「だよなぁ。隣にそんなに可愛らしい嬢ちゃん連れてんだ、なわけないよな」

「…………ふへへへ」ポッ



 先程まで仏頂面だったフィネが褒められた途端、表情を崩した。

 チョロイなフィネ。

 ガハハハと豪快にカザハギが笑う。



「悪かったな、あんちゃん。あんちゃんはゲイじゃなくてロリ…………」

「でもねぇぇぇよっ!」

「えぇ!?」



 これまた否定すると、フィネが「違うのですか」と言いたげな驚愕した表情を浮かべた。

 


「お前は俺をどう言う目で見てたんだ!」



 ロリコンはあの豚だろ。



「ガハハハハ! おもれぇーあんちゃんだ! 見たところ相当腕が立つようだ。佇まいからして風格が駄々もれだぜ。よし、気に入った! そいつ、『魔剣・ラグンド』くれてやる! あぁ、代金は要らねぇよ。そいつは元々展示用でオラが気に入った相手に譲る気だったんだ」



 くれるっつーてもな、俺が欲しいのは遠距離用武器だし。



「悪いが受け取れねぇ。剣なら間に合ってるし、欲しいのは遠距離用武器だ」

「そうか、なら…………」



 言うとカザハギは店の奥に入っていった。

 数分後。全長20㎝位の木箱を持ってきた。

 蓋を開け、中身を見せてくる。

 中に入っていたのは、拳銃。回転式拳銃(リボルバー)ではなく、自動拳銃だ。形状は自動拳銃の代名詞と言えるデザートイーグルに似ている。


 ファンタジー世界に拳銃、ミスマッチのような組み合わせだが、この世界『グラベル』は製鉄技術や科学技術が発展しており往来では馬車ではなく普通の車が走っている。完全に車だけかと言うとそうでもなく、馬車も時々見かける。18世紀後半の世界みたいな世界だ。科学と魔法が融合した世界とも言える。付け加えてレベルと言うRPG要素もある。

 そんな世界のこの拳銃。弾を装填せずとも魔力を充填して弾変わりに発砲出来る代物だ。



「コイツは『怪銃・リバイブ』。前々から銃に興味があってな、去年から何個か作ってたんだが、その中でも力作なのがコイツだ!」



 手に取ってみると、ずっしりとした重量感を感じた。

 試しに【鑑定】を執行する。


 『怪銃・リバイブ』

 希少度 :SS

 構成素材:オリハルコン、ハイド鉱石、魔力結晶

 強度  :S

 攻撃力 :26800

 付属効果:RES+7000 AGI+7000 闇属性魔法付与(ダークマジックエンチャント)  能力(スキル)【状態異常攻撃無効化】 【根性】



 …………何これ。チート過ぎ、ワロタwwww。

 チートキャラが本気で武器作るとこんな出鱈目な物になるのか。

 もう…………ね、チート乙としか言えねぇよ。

      

 

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