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だい5わ!! 「聞いてないんだけど」

 目覚めると、昨日と同じように隣に青髪の美少女が寝ていた。シェリーである。

 となりに美少女が寝ているとなったら、普通の男性なら気が気じゃないだろう。かなたも例外でなく、昨晩はしばらく寝付けなかった。

 寝付けなかったせいか、かなたは少し寝不足気味だった。


「おいシェリー、起きろ。学校いくぞ」


 シェリーは声になっていないようなうめき声をあげるばかりで、起きる気配がない。このままだと埒が明かなそうなので、かなたは物理的に起こすことに決めた。


「ほら、おきろーー!!」


 かなたはシェリーの頬をつねりながら耳元で叫んだ。


「んんん、いたいたいたいたい!」


 シェリーは、頬を抓っている手をぺしぺしと叩いた。どうやら起きたらしい。


「お前が全然起きないからだろ。勝手に俺の部屋で寝て、朝は起きないって……アホなのか?」

「別にいいじゃん、友達でしょ!? 一緒の部屋で寝るくらい! 朝起きないのはごめん」

「友達って……いつ友達になったんだよ……」

「え!? 友達だと思ってくれてなかったの……?」


 シェリーが本気で悲しそうな顔をするので、かなたは慌てて訂正した。友達だと思ってるよ、とかなたが言うとシェリーはすぐに笑顔を取り戻した。


——こういう無垢な感じを出されると、俺の下心とかもなんか違うなってなるんだよなぁ……。

 シェリーの行動はあまりにも純粋なので、かなたは戸惑うことが多い。昨晩も相当悶々とさせられたものだ。しかし、それを裏切るのも胸が痛いなと思ったのだ。


——俺っていい奴なのかもしれないな。


「まあとりあえず、学校行こうぜシェリー」

「うん!」


 朝の準備を大体終えると、昨日同様二人ともシェリーの着せ替え魔法で制服に着替えた。

 男子寮から二人で外へ出ると、かなたは視線を集めている気がしてならなかった。それもそのはずだろう、男子寮から男女が出てくるのだから。それも朝だ。やましいことがあったのではないかと考えるのが自然なのだ。


「ほら、やっぱりみんなに見られてる。やっぱり男子寮に女子が朝までいるのはまずいって」

「大丈夫大丈夫! 気にしないのが一番だよ。あ、ちなみに今日魔法の練習するから、放課後男子寮と女子寮の間の林に来てね」

「はいよ」


 白蟻の大群のように、同じ服をきた人達が同じ場所へ向かっていた。

 寮からしばらく離れた場所からは、男女で学校へ向かっている生徒もぽつぽつと現れ始めたので、かなたとシェリーは特に浮かなかった。


「シェリー」


 かなた達のうしろから声がした。シェリーが先に後ろを振り向いたので、かなたもつられた。


「あ、なんだっけ。リノ……だっけ?」

「リノ! おはよ!」


 金髪の小動物のような少女が声の主であった。相変わらず眠そうな目をしている。

 リノはかなたのことを一瞥した後、すぐに目を下に逸らした。


「シェリーの……愛人……」

「違うわ!!」

「違うよ!!」


 かなたとシェリーの間髪入れない突っ込みが重なった。

 昨日といい今日といい、必死に否定する様子を見た感じ、シェリーは鈍感というよりはあまりそういうことを気にしない性格なのだろう。男からしたら罪な性格だ、とかなたは思った。


「じゃああなたはシェリーの何なの」


 眠そうな瞳で、かなたのことを凝視した。


「俺は……その……シェリーの……」


 かなたはなんと言ったらいいのかわからなくなった。

 友達というにはまだ関係が足らなすぎるし、ただの知り合いというにはシェリーが世話を焼きすぎている。


 シェリーもリノもかなたの顔をじーっと見つめていた。特にシェリーは何かを求めるような、訴えるような瞳で。


「シェリーの……友達だ」


 シェリーがぱあっと嬉しそうな表情を見せた。リノも納得しているような顔をしている。

 この場は収まったが、かなたはなんとなく気に入らない気分だった

——言わされた感がすごい……。ていうか、リノって子すげぇ不思議なこだなぁ。つかみどころがない感じだ。


「そういや、シェリーとリノは下級部の時から一緒って言ってたけど、他にもそういう奴ら結構いるの?」

「んー、私はリノだけだけど。そういう関係の人同士はいると思うよ。上級部は外部の人とかも多いから、あんまりいなさそうだけどね」

「そーなのか。まあ国に何個かしかない上級部じゃ、そーもなるか」


 リノも交えて三人は、教室に着くまで他愛のない話をしながら登校した。どうやらリノも同じクラスらしい。

 三組の教室に到着すると、かなたはシェリーに自分の席を教えてもらって、席についた。

 かなたの席は、窓際の一番後ろだった。外の景色を眺めながらぼーっとするのが好きなので、かなたは少し胸が躍った。


 まるで城の中のような備品のデザインだが、教室の構造的には、日本の教室となんら変わらなかった。莫大な大きさの教室とかもあるのだろうが、クラスで集まるところは庶民的サイズであった。

 一番後ろに座っていると、教室全体がよく見える。もうほとんど全員の生徒が登校してきていた。


——なんか、思ったよりみんな見た目は普通なんだな。上級部っていうから、どんな奴がいるのかと思ったけど。まあでもシェリーがあんな感じだから似たようなものか。


「編入生の人だよね? よろぴくー」


 かなたの前の席に座っている生徒が、声をかけてきた。

 赤い髪にジャラジャラとしたネックレスやピアス。いわゆるチャラい系だ。かなたが苦手とする人種でもあった。


「お、おうよろしく」

「あ、名前教えてよ。俺はアノン。アノン・ローデス」

「俺は、伊織かなただ」

「かなたね、よろしくぅ!」


 いきなり手を差し出してきたので、かなたは一瞬なんのことかと思ったが、握手をしたかったらしい。

 かなたも手を出し、握手を交わした。

 ほどなくして、担任の教室であろう人物が教室に入ってきた。


「あ」


 かなたは見覚えがあると思った。

 たしか昨日、魔能力測定を担当していたあの爽やかな教師、アラン・ウィルノだ。


「おはよう。じゃあ今月の追加の補習生発表します」


——補習生? そんな制度聞いてないんだけど。


「イオリ・カナタくん。以上! カナタくんは、編入生で制度がよくわかってないだろうから、この後僕のところきてね」


 いきなりの指名に驚きながらも、かなたは頷いた。

 クラスのみんなの視線が集まっている気がして、かなたは少し恥ずかしかった。


★★★★


「はい! じゃあ補習始めますよ」


 机も黒板も椅子もない大きな広場のような教室に、一時限目から三人の生徒が集められていた。

 かなたと赤髪のチャラ男アノン。そして大人しそうな女子生徒だ。


 どうやら、月に一度行われる魔能力測定の結果が悪いと補習というものを受けなければならないらしい。上級部生として標準的な測定値を弾き出さなければ、いつまでたってもみんなと同じ授業は受けれないとのことだ。


——しょっぱなつまづいてんじゃねぇかよ……。


「改めてよろしくねー、かなた。あと、君は……なんて名前?」

「えっあ、えっと……マーリー・サーデラです」

「おれアノン。マリたんね、よろしくぅ」

「は、はい……」


 マーリーはいきなり話を振られて、困っているようだった。

——このアノンとかいうチャラ男は空気読まねぇタイプだな絶対……。

 マーリーの外見は桃色の短い髪に、気弱そうな翠の瞳をしていて身体は少し貧相といった感じだ。


「かなたくんも、よろしくお願いします……」

「よ、よろしく」


 控えめな、今にも消えいりそうな声でマーリーは言った。

——あ、俺にも言ってくれるんだ。それだけでドキッてきちゃう俺はやばいんだろうなぁ。


「さてと、みんないいかな? アノンくんとマーリーさんはやったからいいんだけど、かなたくんは初めてだから、おさらいがてら最初から! 今日は初級魔法から練習するよ」


 二人ともはい、と返事をするとノートになにやら書き始めた。円の様なものだったり、文字だったり星だったり、と言ったものだ。


「魔法陣って……なんですか?」

「簡単に言えば、魔法を発動するための装置だよ。それを最初は書いて覚えるんだ。脳に魔法陣を完全に刻みこめると、いつでもその魔法が発動できる様になるんだ。はじめのほうは難しいから魔法陣を見ながらじゃないと魔法が使えないんだけどね」


 かなたは言われるがままに、持っていた教科書を開き、初級魔法のページに掲載されている魔法陣をノートに何回か書き写した。


——着火魔法……。だいたい覚えられたか?


「じゃあ三人とも。なにも見ないで今書いた魔法陣を頭の中で思い浮かべて」


 かなたは多少曖昧な部分はあるが、今書いた着火魔法の魔法陣の形を大方記憶していた。


「思い浮かべたら次は魔力集中だ。魔法を出したい身体の部位に意識を集中させて。そこだけに全ての意識を」


 すべての意識を手のひらへ。中々簡単なこととは言えないが、かなたはなるべく心を無にするように努力した。


「じゃあ次はそれを破裂させるイメージで! さあ打ってごらんみんな」


——手に集中した魔力を破裂させる!!


 かなたの右手のひらから、小さな火が燃え上がった。

 不完全なのか、すぐに消えてしまったが、確かに魔法というものを発動することができたのだ。

 かなたは、人生初めての魔法に思わずわくわくした。

 かなたが初の魔法発動に酔いしれていると、突然目の前で爆発が起こった。白く何かが光り、容赦のない爆発音が教室に轟いた。

 そう、目の前で。


——え、これ絶対死んだだろ……。

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