小柿リサは絶望する。
「あぁ、めんどくさい」
思考が口からこぼれた。
隣の席の男子が顔を上げてチラッとこちらを見たが、またすぐ机に突っ伏した。
小声だったからか、他の人は気づいてないようだ。
あぶないあぶない。
今は授業中で、先生がチョークで黒板を擦る音だけが教室内に響いている。
そんな中で声を出したら周りに聞こえてしまう。
私は時々、思考が口からこぼれてしまう。
この間は、家で思わず「しにたい」と呟いてしまった。
そのときは家族から心配されて、結構面倒だった。
「気をつけよう」
やばい。
言ってるそばから言ってしまった。
大丈夫、小声だ、聞こえてない。
ごまかすように、私は窓の外に目を向け遠くを眺める。
外は雨だ。
雲ひとつ無い青空から、激しい雨が降っている。
「変な天――」
あぶない……。
変な天気だ。
雨に混ざって、ときどき人が空から降ってくる。
見慣れたはずのその景色に、私は何故か違和感を覚えた。
「小柿」
先生の声で名前を呼ばれ、前を向いた。
私の顔面にめがけて、青のチョークが飛んできていた。
今時、よそ見をしている生徒にチョークを投げるなんて、時代錯誤な教師だ。
私は素早く口を開けて、青のチョークを受け止めた。
「うえぇ……まずい。また、思考が口からこぼれる。前を見ると、先生は何事も無かったかのように授業を再開していた。第一、こんなに寝ている生徒がいるのに、なんで私だけチョークを投げられなければいけないのだろう。しかも青色の。居眠りより、よそ見の方が悪いなんてことは無いはずだ。……ん?気づくとほとんどの生徒が顔を上げて私を見ていた。……え。なんなんだいったい。……あぁ、めんどくさい。」