12話 怒りの狐舞
ナトは先に零狐の目的の敵である謎の召喚士カランと遭遇していた。
ナトは自分より上空にいるカランに向かって能力を使い、向上させた身体能力で右手を勢い良く振りかぶりカランの頭部目がけ殴った。しかしナトは何が起こったか分からない内に背後からカランによって斬り捨てられていた。
「えっ...。」
ナトは状況を呑み込めないまま、無防備のまま地面に自由落下していた。
カランのいた場所は人間であれば即死、妖怪だとしても骨は5、6本は折るだろうかなりの高所だった。
カランはそのまま骨を折り動けなくなるだろうと油断してナトを嘲笑うかの様に見下ろしそのまま背を向けてどこかに歩いて行こうと地上に降りた。
そのまま案の定、どこかへ繋がる洞窟の入口へと歩き始めた。
なんとナトは元々持っている自分の瞬発力と衝撃に対する耐性で骨を折る事は無く、上手く受け身を取っていた。なるべく気配を消すようにしてカランに向かって腹を貫く勢いで攻撃を仕掛けた。
次の瞬間、ナトは首を掴まれて持ち上げられていた。
「かっ...はぁっ!は、はなせ!この...」
ナトは辛うじて息が出来る程度で苦しみに悶えていた。
カランは気味の悪い笑い方をしていた。
顔は上から何か古い絹のようなものを羽織っていたため分かりにくいがナトの苦しみの表情を楽しんでいるということはナトでも容易に感じることはできた。
カランはナトに向かってなぜ攻撃が受け止められるか説明し始めた。
「私が速いわけではない。お前の速さが遅いんだ。」
ナトは驚いた様子だったが睨んでいる表情を辞める事は無かった。
「能力で速度を上げたはず...と思っているのか。ならば教えてやろう。お前は最初の一回を使ったあと、一回も能力は発動していない。いや発動していない、と言ったほうが正しいな。」
ナトはその時点でカランの能力を見抜き、絶望した。
「私の能力は『すべての能力を永続的に消し消された対象に新能力を強制的に与える程度の能力』だ。」
カランはそう告げた後すぐに、ナトを自分の背後の壁に投げて、壁に打ち付けられた反動で前に倒れる瞬間にナトの頭をつかんだ。
「それと私は妖怪だ。つまり妖怪としての本来の能力もある。」
ナトは何が言いたいか分からないが必死に抵抗した。
しかし次の瞬間ナトは頭の中をかき回されているような激痛が走った。
「あぁぁぁっ、ぐっあぁぁっ!?」
ナトは精神が狂いそうな感覚と吐き気を覚えた。
カランは気味悪く笑いながらナトに話しかけていた。
「ほう、なるほど。お前は外から来た人間か。...お前は外の世界に会いたい奴がいるのか。なになに、その会いたい奴は...なるほど恋人か?名前は『詩音』(しおん)か。」
カランはいきなりナトの頭を離しまた首を掴んだ。
それほど強い力ではなくナトは、吐き気や狂いそうな嫌悪感は頭を離された時には消えていた。
ナトはカランを睨みつけ言った。
「はぁっ...はぁ...カラン、お前、俺に何をした?」
カランは特に何の悪びれもなく答えた。
「記憶や心を覗かせてもらっただけだ。一つ聞こう。」
ナトは疑問の表情を浮かべ、カランを見上げるようにしてみた。
「お前は外の世界に帰りたいか?」
ナトはその言葉を聞き、驚いた表情を見せ明らかに動揺していた。
カランは小さく笑って見せ衝撃の言葉を口にした。
「俺が外の世界に帰してやろう。」
ナトは何か言おうとしたが、カランに遮られた。
「ただし外に帰すには二つの方法しかない。まず一つは結界を破る事だ。そして他のもう一つの方法は零狐の持つ宝玉を使う。しかしお前がこっちに来る際に壊れてしまったようだな。」
ナトは軽く頷きその投げかけに応答した。
カランは話を続けた。
「あの宝玉の原料、いや元の素材を教えてやろう。」
ナトは息を呑んでカランに疑問を投げかけた。
「それはなんだ?」
「あれは...」
「狐ヶ崎の血が流れる狐の寿命を削って作ったものだ。」
ナトはその事実に驚きながらも無意識にもカランのペースに持っていかれていた。
カランは話を続けて、ナトを欲望に引きずり込む。
「あれは本当は、自分が今すぐ行きたい場所や会いたい人物を思い浮かべながら使うことで効果を発揮する物だ。つまりお前がこっちに来る時あの宝玉を使っただろう?その宝玉は誰の寿命か教えてやろう。」
ナトはカランの話にすっかり聞き入っていた。
「あの宝玉は、零狐の5年分の壽命だ。...話を戻すとまず結界を破るには、厄介な奴らを倒さなければならない。それなら宝玉を作ったほうがはるかに簡単だ。」
カランはナトを見下ろし仕上げにかかった。
「もうお前がどうすればいいかは分かるな?ナト。」
ナトはもはや欲望に飲まれ、一つの事しか頭にはなかった。
「零狐を殺す。」
カランは高笑いをしていた。
しかしその時だった。
ナトは今までの演技を辞めカランに自分の全力の殴打をカランの腹部に命中させていた。
カランは思い切り吐血して壁に打ち付けられていた。
「確かに外の世界には帰りたい。だけどな。零狐を殺してまで行くことはしたくないんだ!」
ナトはカランに勇敢にも立ち向かっていった。
その頃、零狐達はナトの位置を追っていた。
「彩音どうだ?ナトは近いか?」
零狐がそう尋ねると彩音は簡単に「近いですよ。総大将。もうすぐです。」とだけ答えた。
零狐は移動している間ナトの事を考えていた。
(俺はナトは外の世界で生きた方があってるんじゃないか?あいつにも彼女くらい向こうにいるはずだ。そうするとナトはかなりつらいだろうな。)
零狐がそんな考え事をしてると、咲がこちらを覗き込むようにしてみていた。
咲は何も言わないが心配してるのは零狐にも手に取るように分かった。
「すまないな。咲。大丈夫だ。」
二人が見合っていると、彩音が二人に告げた。
「ついたよ総大将。」
「この先にナトが...」
零狐は二人の前に立って先陣を切るように進んだ。
神殿の光が差し込む入口へ。
しかしその先は零狐を憤慨させる光景となっていた。
「遅かったじゃないか?零狐。こいつはもう始末しておいたから。さぁ遊ぼうぜ?」
そう言ったのは倒れているナト上空から見下ろしているカランだった。
零狐は俯いており咲と彩音に小さくつぶやいた。
とても低く恐ろしい声だった。
「ナトを頼む。」
咲はひるみながらも頷き彩音の手を引きナトを洞窟へと運んでいった。
零狐は二人がナトを連れ去ったのを確認してカランを睨みつけ質問し始めた。
「まず、ナトは生きてるのか?」
カランは睨み返しながらも、さも面白そうといっているかのように答えた。
「生きてるが...重症だしな。死ぬかもな?アハハハハハ!」
零狐はそれに動じず質問を続けた。
カランはその反応に少しむかついたようだ。
「お前の本当の目的を教えろ。レミリアと俺が目的じゃないだろう?」
カランは少し驚いたような表情を見せたが、説明し始めた。
ちょうどそこに咲が戻ってきて、話を聞いていた。
「ここらで種明かししておくか。まず俺の顔を見せてやろう。」
カランはそう言うと羽織っていた布を取った。
その顔は零狐の見覚えのある顔だった。
「なるほどな。全部わかったぜ。まさかお前らだったとはな。」
「カラン。もとい黒田坊。なぜ裏切った?そしてもう一つ。レミリアはどこだ?」
黒田坊は零狐に向かってはっきり言った。
「妖怪特有の妖気がちっとも出しておらず、妖怪の本文である人々を恐れさせるようなこともしない貴方のような妖怪が長というのは気に入らない。だから私はあなたを殺して長になる。...あと吸血鬼はこの奥の最後の神殿で気を失って横たわっている。助けたければ今ここで自害して私に座を譲るか。それとも私を殺すか。どちらかです。」
零狐はそれに反論した。
「その考えを改めレミリアを返せば罪に問わない。今一度聞こう。お前はそれでいいのか?」
黒田坊は零狐を見下すよう目をしながら頷き、それが答えのように能力を発動した。
「分かってますよね?私の能力。あなたの能力はもう変わっている。」
零狐は咲に優しい顔で言った。
「下がっててくれ。何があっても」
「分かったよ。死なないでね総大将」
零狐は戦闘態勢になり黒田坊に恐ろしい声で言った。
「俺が妖気を出していないのは人間が怖がるからだ。そして俺が能力だけで長をやっているとでも?」
次の瞬間、零狐はその場から消えたと思ったら黒田坊の腕を切り落とした後、黒田坊の腹部を蹴り地面に叩き落としていた。地面が揺れひび割れた。
黒田坊は大量の血を吐き、右腕を再生させた。
そして零狐をその目にとらえ刀で右肩から左腹に抜けるように斬ったーーーはずだった。
しかし煙のように消え去り気づけば背後に零狐のこの世のものとは思えない程の殺気と妖気を感じ、黒田坊は刀で背後を斬りつけた。
しかしその零狐も煙のように消えて行った。
「俺はここだぜ黒田坊。」
その声は自分の真上から聞こえた。
黒田坊は上を向いたころには遅かった。
右肩と左足を恐るべき速さで抜刀術により斬られていた。
「これが俺の強さだよ。確かに俺は妖怪としては駄目な奴かもしれない。妖怪としての本分を果たしていないかもしれない。それでも俺についてきてくれる奴らはいる。」
黒田坊は中途半端に傷つけられた為再生に時間がかかる足で立ちあがり刀を構えた。
「すまない。黒田坊。お前はここで殺さなきゃならない。」
黒田坊は俯いていたかと思えば、いきなり叫びだした。
「俺は長になるんだぁぁぁぁぁあ!!!!」
黒田坊は零狐の刀を受け止め零狐の左目を斬った。
零狐の左目があった場所から鮮血がしたたり落ちる。
「くそっ...。目をやられたか。」
黒田坊はその状態から三匹の鬼を召喚した。
「覇鬼、悪鬼、屍鬼。やれ!奴を殺せ!」
黒田坊は恐らく再生するため安全な場所に行く必要がある。
黒田坊はその場から悪態をつきながら逃げた。
「逃がすかっ!」
零狐の前に鬼が立ちはだかる。
零狐は怯むことなく鬼に斬りかかった。
零狐は覇鬼の右からくる拳を左に避け覇鬼の胴体部分に傷をつけた。
「浅いか...!」
そこから可能な限り胴体を斬りつけ後退した。
しかし背後には悪鬼がおり斧を振り下ろしていた。
「あ、しまっ」
次の瞬間。その場には「ザクッ」と鈍い音と鮮血が噴き出していた。
鮮血は悪鬼のもう切り落とされた手のあった場所から出ていた。
「グガ...?ガァァァァァ!!!!」
悪鬼は痛みで絶叫していた。
それを見下ろしながら零狐の背後に背中合わせという形になっているのは「月心姉妹」だった。
「全く。危なかったですね?総大将。」
「本当に、私たちがいなかったら今頃はミンチになってたわよ?」
「すまないな二人とも。悪鬼は任せた!」
零狐はそれだけ言って走り出した。
しかしまだ覇鬼と屍鬼が残っており、零狐は可能な角度から攻撃を避けてなるべく足を攻撃していた。
その攻撃も鬼の厚い装甲によりあまり深くダメージは入らず効果が薄いものとなっていた。
「くっ...早く追いかけないと行けないのに!」
その時だった。一つの巨大な影が鬼二人を後方に投げ飛ばし零狐に道を作った。
そこにいたのは黒い色の覇鬼などより二回り大きい鬼だった。
「ナト様のご命令によりこの戮鬼参った。ここは我に任せて行くがよい。」
覇鬼と屍鬼は起き上がり雄たけびを上げながら襲い掛かってきた。
戮鬼は覇鬼と屍鬼の攻撃を耐え戦い始めた。
零狐は礼を言って振り向かず走った。
奥は地上の空から光が差し込んでいる神殿だった。
そこにはすでに再生を終えレミリアを見下ろしている黒田坊がいた。
「総大将...いやクソ狐。お前を殺して俺は長になる。」
零狐はまっすぐ黒田坊を見据えて言った。
「やってみろよ。黒田坊。レミリアも返してもらうぜ」
13話へ続く
疲れたよー(狂)
ついに黒幕が明かされましたな。
ちなみに迅雷などの話は最終話に出します。




