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第7話

今回、戦闘あり。

少々残酷表現ありですのでご注意下さい。

 首に押し付けられた銀色の凶器(ナイフ)

 見間違いであって欲しかった。だけど、これは間違いなく本物だ。それを握ってるのは、私よりも少しだけ年長の子だった。フードを被ってるので顔は見えない。僅かにこぼれ落ちた髪色は見事なプラチナ・ブロンドだった。

 クロちゃんが一声吠えて彼に飛びかかかっていった。だけどその瞬間に”何か”に弾かれて、地面に叩きつけられ、大きく何度もバウンドしてそのまま動かなくなった。

 多分、属性はわからないけど防御の魔術が使われてんだと思う。魔力が動いてたのは感じたから。


「クロちゃん!!」

「動くなよ。……正直に答えな、アンタ、どこの手の者だよ」

「……」

「黙ってないで何か言えって」


 口を開けて何か言おうと思ったけど、何も出てこない。それでも、やっとの思いで「わ、わた……、わたし……」ってだけ。

「!! な、何で、泣いて……って、そんな目でこっち見んなよ!!」

 私、泣いてるのか……。そういえば目元が熱いかも。

「わ、私、迷って……森……帰れなくて……」

「……?! アンタ、ただの迷子?」

「……うん……」

「近所に住んでんのか?」

「……そう」

「……なんだ……見かけ通りの迷子の子供かよ……緊張して損した……」とナイフを下ろした。


 何だか良くわからないけど、どうやら納得してもらえたらしい。よかった……。



「勘違いして悪かったな」 

 彼もまた近所に住む村の子供だと言っていた。この森にある特別な薬草を狩りに来てるんだって。狩場は貴重なので内緒にしたくて、後をつけてきた(・・・・・・・)私を脅したとか。私には怪我はないから良いけど、クロちゃんがね。どうやら傷はなくて気を失ってるだけだからまだ許せる。


「本当に悪かったよ……」


 半眼で睨んでたら、再三謝ってきたからまあいいか。


「で、アンタ、迷子なんだろ? どこから来たのかもわからないって?」

「……う……ん」


 正真正銘迷子だけど……あまり認めたくないんだよね。一応中身は成人してると思うし。言えないけど。


「森の外まで送ってやるのが一番だけど……」と、彼は言いながらちらりと繁みの奥の方に目を向ける。最初の矢が飛んできた方向だと思う。ということは、あっちに彼の仲間がいるんだろうな。


「……いい。そこまで迷惑かけられないし。道だけ教えてもらえれば」

「悪いな。……ほら、あそこに細い道みたいの見えるだろ。あれを辿ったら森の縁まで出られる。分かれ道とかはないはずだ。それと」 

 

 彼は枯れ草みたいな香りのする小さな巾着みたいな袋をくれた。


「冬前だから、まだ魔獣はおとなしいはずだけど、念のための魔獣よけ、持ってけ! 弱い魔獣ならよってこないだろうさ。後は……そうだな、できるだけ音を立てながら歩け」

「気づかれて襲われない?」

「逆だな。この時期は繁殖期じゃないから、人の気配がしたら逃げるんだよ」

「うん、分かった」

「それと、暗いからって無闇に灯り付けるなよ。光に刺激されて攻撃してくるのもいるから」

「凄いね、熟練のハンターみたいにいっぱい知ってるのね」


 私と変わらない年で、随分と慣れてるんだな、と思って、素直に賞賛したら、彼はちょっと照れてたみたいだ。


「アンタ、名前、聞いてもいいか?」

「うん? セラだよ。あなたは?」

「ディー」



「そろそろ、いかなきゃな……」

「そうだね、ありがとう。ディー。また会えると良いね」


 そう言ったら、彼、何だか寂しそうに笑った。小声で何か言ったみたいだけど

(覚えてたらね)


「じゃな!!」


 そう言って彼は森の奥へ消えていく。


 私は彼とは違う道へ踏み出した。






「また、会えるといいな。あの子……えっと、名前何だっけ……」


 あれ、私今まで誰かと会ってた? 

 あれ、何でクロちゃん寝てるの? 

 あれ? あれれ?




「……多分、この道行けば、森の縁にでられる……はず? あれ」


 どうしよう、私、今日一日いろいろありすぎて思い出せないことばかりだ。

 きっと疲れてるんだ。早く帰って、早く寝よう……



*****



 私が選んだ道は獣道だけど、一本道だった。


 下草が結構繁殖しているので、草を避けながら進む。私はまだちびなので、それだけでも結構大変だった。必然的に歩みは鈍く、秋のなので日が落ちるのもすごく早い。

 もともと昼間でも薄暗いのに、時間が立つに連れて闇に濃くなっていく。


「う〜。怖い……。苦手なんだよね、暗いの……」

 

 途中で目を覚ましたクロちゃんが率先して前を歩いて行ってくれてるのでなんとかなってるけど、一人だったら泣いちゃってたかも……。

 

「灯りは駄目って言われた……(誰に言われたんだっけ? エリー兄? キーラかなぁ?)けど、暗いの怖いし、道が見えないとまた迷子だし。……しょうがない、【灯火(ライト)】」


 指先に直径一センチほどの光を灯す。ぼんやりと明るくなったけど、これだと、手元は見えても足元は見えない。


「これじゃ、逆に危ないね。足元を照らすしたほうがいいかな……だったら【ホタル】!」


 淡い小さなオレンジの光が三つ、私の足元に纏わりつくように展開させた。

 私が知らないで初めて使った属性魔術で、【光球(ライトボール)】アレンジ。後から先生に術式を整えてもらった私だけのオリジナル魔術だ。

 ちなみに、この世界に”蛍はいないんだって。「発光する生物は、魔獣しかいないと思いますが?」って先生言ってた。


 というわけで、私の足元は明るくなり歩みも少し早まった。この分なら、完全に日が落ちる前には家につけると思って安心してた。


 


 今思い返すと、どんなに暗くても【ホタル】を使うべきではなかった。舐めてたんだ、森の住人(魔獣)を。

 私は知らなかった。

 【ホタル】の淡い光は、こちらの世界のある発光する魔獣のメス繁殖期に出す光に近いものでオスの魔獣たちを惹きつけ、その魔獣はより強い魔獣を惹きつける餌になり、その魔獣は……の連鎖が起きることを。


「あれ?」


 足元の三個の【ホタル】ホタルの光がいつの間にか数が増えていた。【ホタル】に纏わりつくように激しく飛び回る。彼らのおかげで、すっかり明るくなっていた。


「見やすくなって助かるね、クロちゃん」


 なんて、のんきにクロちゃんに話しかけたら、クロちゃんはすでに警戒の唸り声を発していた。


 そこで初めて、私は周囲の異変に気がつく。


――――。


 何も見えず何も聞こえない。むしろ、奇妙なほど静かだ。


――……カサ


「何?」


 かすかに翅音のようなものが聞こえた。


――カサカサ


 次第に数を増す翅音。

 

――ガサガサガサガサ


「キィーーーーーーーー」


 人の頭ぐらいの甲虫の複眼が目の前に。

 次の瞬間には頭を半分無くしてぼとりと足元に落ちた。

 あまりのことに頭がついていかない。


 私を襲ったのは、甲虫型の魔獣。それを襲ったのが巨大なコウモリ型の魔獣だ。コウモリの口からは甲虫の脚が一本はみ出ていて、その脚はまだ動いてる。


 ヒッ、と息が止まった。


 二匹目のコウモリがこちらに突っ込んで来るのが見えてるのに固まったまま動けない。


 ウオーン――……ギャン!!……

 

 コウモリに飛びかかったクロちゃんが飛ばされていくのが見えた。 それでも捨て身の攻撃に怯んだコウモリが飛行コースを変える。


 飛ばされるクロちゃんを見て、やっと私は我に返った。


「に、逃げなきゃ……!!」


 暗い森の中を闇雲に走った。

 走って走って、何かに足を取られて転ぶ。

 秋上がると、暗い闇の中に赤く光る沢山の目が私を見てた。


「コ、(コオロギ)? 」


 鼠サイズのコオロギが私を見ていた。コオロギって肉食?

 じりじり後ずさると背中に木が。




―――カサ


―――カサ…カサ


―――カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ


 見上げる。


 頭上にアナコンダより大きい蟲がいた。カサカサ聞こえるのはその蟲の無数の足が蠢いて擦れて出されていた音だった。


「む、ムカデの……お、おばけ」


 シャラシャラ……。足を鳴らして近づいて来る。


「……やだ……」


 鼻声になってる。


「蟲……キライ……足が四本以上はダメ」



 きっと私の顔、鼻水と涙でぐちゃぐちゃだ。













「百本なんて…いやーーーーーーー!!!」

――――キィィィィーーーーーーーーーン――――











****






「……セラ」


 まだ朝じゃないよ。もう少し寝かせて


「セラ、気がついた?」


 気がついたら、目の前にエリー兄さまがいた。どうして兄さまが部屋に?

 

「兄さま?」

「怪我はない?」


 怪我? しないよ、兄さまみたいに悪戯してないし。

 平気と言おうとして、思い出した。


「兄さま!! …ム、ムカデのお化けが………蟲がたくさん…いやっ」

「はいはい、とりあえず落ち着いこう、セラ」


 エリー兄さまはパニック起こした私を抱きしめて、背中をあやすようにぽんぽんと叩いた。


「もうムカデなんていないよ。というか、この辺りに魔獣いないんじゃないかな」

「……ほんと」

「うん」

「エリー兄さまが助けてくれたの?」

「う〜ん。そうだと俺、恰好良かったんだけどさ。セラが自分で吹き飛ばしたの」

「えっ」

 

 私が吹き飛ばした? うそ?!


「よく見えるように灯り少し大きくしてみるね」


 兄さまはオレンジの【光球(ライトボール)】を大きくして見やすく照らした。

 私達の周りに魔獣はいなかった。蟲もコウモリもホタルも。

 

 エリー兄さまに歯を向いて唸り声上げてるクロちゃんだけ。


「こいつ、セラから離れないんだけど何? 飛ばされなかったから魔獣じゃないんだろうけど」

「この子はクロちゃんよ。なんだかは知らない」

「あんまり正体不明なの懐かせるなよ」

「クロちゃん、無事でよかった……って、何で怒ってるの?」

「いやー。そいつ、あんまりセラから離れないから、ちょっと教育的指導を……って、痛っ!! 噛むなよ!!」

「だめ、クロちゃん、兄さまはおいしくないから」


 なんだか、私の知らない間にクロちゃんとエリー兄さまが仲良くなってた……。


「で、話戻るけど、セラが気にしてたムカデって、そいつだろ」


 指さされた所を見ると何かの蟲の死骸……というか、残骸があった。すでにカラカラに乾いててちょっと触ったら崩れちゃいそうな感じの残骸。欠片にあのムカデ剛毛見たいのが生えてるから、私を襲ったやつだとは思うけど……。


「なんで、バラバラ?」


 エリー兄さまはポリポリと頭を掻く。


「俺もさ、よくわからないんだよな〜。なんか、森が変だったから来てみたらセラがいて、ムカデの魔獣に襲われてたから助けようとしたら、俺ごとバァーンって飛ばされた。周りにいた奴らは粉々か散り散りって感じでさ。で、一番近くのムカデはこうなった」

「……」

「魔獣以外はなんともないから、【光魔術】かな。結界術?」

「……私、そんなの習ってない……」

「だよな、俺もしらねぇし。俺は【風刃(エアスライサー)】で首落とそうとしたんだけどさ、ここまでバラバラには出来ないなー。結構センスあんじゃね、セラ」


 兄さま、言葉遣いが変。アナ先生がいなからって、気を抜いちゃだめよ。


「で、なんでお前、ここにいるの?」


 私は、ここに来た経緯を簡単に兄さまに話した。兄さま、お馬鹿だな、って頭抱えたけど。

 語り終えると兄さまは「じゃ、帰るか」とあっさり言った。


「帰るの?」

「もう夜だぞ。きっと今頃大騒ぎになってるよ。皆、カンカンに怒ってるぞ」

「そうじゃなくて、私たち迷子だよね? 帰れるの?」

「そっちか! まあな、お前は迷子、でも、俺はそうじゃない。ほら帰るぞ。おぶってやるから、おいで」


 実は、まだ腰が抜けてるんだ。エリー兄さま鋭い、そして優しい!!

 

 エリー兄さまはしっかりした足取りで暗い森を進んでいく。


「暗いね、何も見えない」

「俺は見えてるよ。大丈夫」


 暗いのは怖くて嫌いだけど、兄さまがいると怖くない。

 少し行った所で、エリー兄さまが立ち止まった。


「どうしたの?」

「ちょっとな、……あ、あった」


 と、エリー兄さまはきょろきょろと探してそれを見つけた。白くて淡い光を放つ小さな石だ。


「あれは何?」

「迷子防止の【標の石】。屑魔石に【灯火(ライト)】の術式を組み入れただけの簡単な魔道具だけどさ、今回みたいな迷いやすい場所に行くときは必須の道具だよ」

「ああ、パンの代わりなのね」

「何でパン? パンなんか置いたって何の役にもたたないじゃん?」


 兄さまが不思議そうな顔してる。

 そうだよね、兄さま「ヘンゼルとグレーテル」知らないもん。今の私たち、あの童話の中の兄妹と同じなんだよ。無性に懐かしくて、ちょっと切なくて兄さまの背中に寄り掛かる。暖かいね、兄さま。


「兄さま、ごめんね」

「いいよ、帰ってから、一緒に怒られような」


――兄さま、ありがとう。大好き……。








 森から無事に帰還したら、屋敷の中は大騒ぎだった。


 父さまには半泣きで抱きしめられ、息が止まるかと思った……。

 アナ先生には涙混じりの(アナ先生の涙なんて初めて見た……)お説教をくらい、駐屯騎士団の隊長さまからは大きな手で頭なでられて髪がぐちゃぐちゃなった。

 マーク先生はいつも通り。面白そうに森の様子を聞いてたけど、クロちゃん、チーちゃんを見て、眼の色が変わった。(人が豹変する様を見たのも初めてだ……)どうやら、魔獣とかではないけど、普通の獣ではないらしい。


 とにかく、私にとっては大冒険の一日がやっと終わりを告げたのだった。








 

お読みいただきましてありがとうございました。

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