第53話
5日連日更新5日目。
本日は2話更新しております。その一話目です。
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城に入った所で、エリーはアーシュリートと別行動を取る。
アーシュリートの目的は兄と対峙しつつ妹を探す。
エリーも妹を探す事は変わらない。けれど彼は、親友が自由に動けるように敵の目を引きつけ暴れなければならない。
あちこちで切り結んだ。
途中で、追いついてきた”梟”の仲間と合流し、更に派手に動く。
幸い、大した手練はいない。大方どこかの流れ者を雇ったのだろうが。
剣撃を交わしながら奥に進む。
地下へと進む階段の直前に、そいつはいた。
「あれ、お前誰だ? 折角レドヴィックの天才児が来ると思ったのに、拍子抜けだな」
階段をふさいでいるのは、どう見てもまともな生活は送ってこなかったと思える男だ。それなりの修羅場をそれなりに経験しているのだろう。リーを見てなお余裕がある。
「あんたは?」
「レドヴィックの天才児に聞けよ。名乗ってはいないが知ってるはずだぜ」
「……ああ、あんたがアーシュ達をさらった賊の頭か」
「おやおや、察しのいいこって」
「一応あんたらの動きは見張らせてたからな。暫くこの国にはいなかったみたいだが」
「へぇ、何者だよ、あんた」
笑みは崩さなかったが男の顔色が僅かに変わった。
「どこまで知ってる?」
「手札を晒すと思うか?」
「……それもそうだな。で、どうする? 俺を捕まえて口を割らせるか?」
「出来たらそうする!」
剣と剣が激突した。
切りつけ、なぎ払う。受け止め、打ち返す。
十合ほど至近で打ち合って、ほぼ同時に距離を取った。
「良い腕だな」
「あんたもな」
「お貴族様の手下にしとくのはもったいないぜ。俺たちの仲間にならないか?」
「犯罪者はごめんだ」
「っと、そっちじゃなくてだな。もう一つの方」
「あ、何だって?」
「レドヴィックを潰せって命令した奴の方」
「あんた、レドヴィックを潰しに来てたのかよ。じゃあ、なんでレドヴィックの言うとおりに人をさらったんだ?」
「それも、まあ、計画のうち? おおっと、これ以上はいわねぇよ」
男は剣を収めた。
「地下に俺たちがさらってきた子供たちが残ってる。動かぬ証拠ってやつだろ」
「あんた、変な奴だな」
「ああ、好感度上がったか? じゃあ、このまま見逃してくんね?」
「……逃がすか」
再びエリーは猛攻撃を仕掛ける。
男は少々余裕を失いつつあった。
「なんで、黙って見逃してくれればいいのによ!」
「馬鹿か。あんたが妹にやったことを思ったら、できるわけ無いだろ」
「あーお前、あのお姫様の兄貴かよ……じゃあ、しかたねぇな」
大ぶりに振り被った剣をエリーは受け止めた。次の瞬間、逆方向から突きが来る。男が隠し持った剣でエリーの脇腹を狙っていた。
ガツン、と男が仰け反った。
エリーのポケットから高速で飛び出した何かが、男の目を突付いたからだ。
「エセル様、ご無事ですか」
ちょうど、”梟”の仲間も追いつき、視界を失った男を直ぐ様男を拘束する。
「キーラ、城は?」
「ほぼ制圧しました。生き残ったものは拘束して運び出してあります」
「この下に攫われた子供たちがいるそうだ。助けだして騎士団に引き渡せ。あと、こいつは拘束して、情報を引き出せ。多分、例の奴らと繋がっている」
「了解しました」
攫われた子供達が全て退去した後で、エリーは青い小鳥を解き放った。
「アーシュに知らせろ。この城にはもう生きてる人間はいない。おもいっきりやれって」
*****
チェルシーがアーシュとセラを探しに言ってから暫くして、城の中の魔素が変わったのを視た。
そして、吹き出す魔素の気配。【風】【水】【土】の魔素。これは。
「やばい」
防御を展開する。細かい砂かき集めてを幾重にも重ねた【地】の防御魔術【砂塵】。
アーシュが繰り出す魔術は魔素から言って多分【雷魔術】、とすればこの魔術である程度防げるはずだ。
防御壁を張って少し遅れて轟音と振動が来た。砂がパラパラ落ちてきてヒヤリとしたが、どうやら何とかやり過ごせたようだ。
それにしても、あいつ、相当怒ってるな、とエリーは改めて感じた。
チェルシーの残した痕跡を追って行く。チェルシーはセラの聖獣だ。主人の気配は分かるだろう。
階段を登っていくと、今度は魔素が渦巻いてブレた。
「転移、使ったな」
上の階に行く度に、【風】と【土】の魔素が激増する。ため息がでた。
「随分おもいっきりやりやがったな。良かったよ避難が完了していて……」
最上階の城主の居室。ここにチェルシーの痕跡が残っている。多分ここにセラがいたはずだ。
扉を開けると、青い小鳥が飛びついてきて一頻り飛び回ったと思ったら、ポケットに潜り込んだ。
エリーは忍び笑いを漏らす。
「お前、もしかしてご主人様に置いていかれたのか?」
青い小鳥はピィと鳴いてふて寝した。
改めて室内を見回す。思った通り、セラとアーシュの姿はない。転移後の乱れる魔素の気配が残っているだけだ。
そして、部屋の隅にガタガタと蹲って震えている男が残っていた。
今は恐怖で崩れているが、親友によく似た端正な顔立ちをしている。
――こいつが。ライル・ストラトス・レドヴィックか……。
「あんたが、レドヴィックの嫡男か」
「……僕は……僕は」
「しっかりしろよ。情けない」
「……う、煩い。僕は……【闇魔術】のライル・ストラトス・レドヴィックだ」
「そうか、やはりあんたがライル・ストラトスか」
「……き、君は誰だ?」
「俺? セラの兄であいつの保護者」
「……は? 保護者?」
「あいつはアズリ家が面倒見てる。だから、俺は保護者だ」
「……あの子の……」
「あんたさ、あいつに何したんだよ。あんなに苦しめて。おまけに妹にまで手を出しやがって。ほんと、最低な奴だな」
「……煩い煩い!」
ライル・ストラトスは涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をあげた。
「僕は! 僕は【闇魔術】のために高尚な実験に勤しんでいただけだ。君達みたいな只人には分からないだろうが」
「そんな世迷い言、わからなくて結構だよ」
「世迷い言だと! き、君とはもう話したくない。何処かへ消えてくれ」
「俺も、別にあんたと長話したいわけじゃないんだけどな……。騎士団が来るからその前に用を済ませとこうと思って」
「騎士団? 騎士団が来るのか? 僕を守りに来てくれるのか」
「どこをどう考えたらそんなお目出度い答えが出るのか、一度頭の中を覗いてみたいよ」
ため息が出る。
ここまで派手にやらかして置いて、なぜ助けが来ると思えるのか。どうして、自分を捕まえにきたとは思わないのか……。
「あんたはこれから騎士団に捕まって取り調べられる。証拠も証人もあるからな。軽い刑で済むとは思えないな」
「馬鹿な……罪を犯したのは僕ではない」
「それは、取り調べで言いな」
「……ぼ、僕は王妃様に連なる血筋だぞ……その僕を」
「それも、取り調べで主張しな。……で、そっちはもう良い。俺と俺の家族から、あんたに用がある」
「家族? 君の?」
「そう」
今はそんな瑣末なことはどうでもいい。こいつは、エリー達の宝物に手を出した。その報いはきっちり受けてもらう。
エリーは、ゆっくりと術式を展開させる。
混じりけのない漆黒の魔素が渦を巻く。
【闇魔術】の術式。それも世には知られていない術式だ。
それまで恐怖で震えていたライル・ストラトスが、興味深そうに目を輝かせた。
「それは【闇魔術】か? 禁術ではないな……呪術の一種か。見たことないな。どんな効果を持っているんだ? 持続時間は?」
「さあ、どうなんだろう。俺は良く中身は知らないんだよ。罰ならこれがいいって師に言われただけで」
術式が完成した。
黒い魔素はライス・ストラトスに纏わりつく。
「な、何だこれは」
「一応、痛みとかはないはずだぜ」
すぅ、と黒い魔素はライル・ストラトスの額に吸い込まれて消えた。
「……な、何が起こっている?」
「さあ? 考案者に聞かないとわからないな。考案したのはあんたの異母弟だよ。属性違いで組みきれなかったけどな。完成させたのは俺の師匠。で、使用者が俺。初めて使う術式だ。良かったな」
「ぼ、僕を使って試したのか?」
「そうともいうかな。効果は、そのうち分かるってよ。じゃあな、レドヴィックの継嗣様。またがあったらまたな。……そん時は無事で済むと思うなよ」
「な、なに……」
「じゃあな」
最後は思わず本気が入ってしまった。
いけない、妹に聞かれたら嫌われる。
――さて、あいつらを追うか……どこに飛んだかな。まあ、多分……あそこだろうな。はあ、近くの転移陣まで行かないとだめか……俺も真面目に転移覚えるか……。
*****
それから、転移陣を何度か潜って、着いた時には回ってもう朝になっていた。
エリーが多分ここだろうと見当をつけたのは……故郷の館の小高い丘の上だ。
彼等はここで幼少時代を過ごした。そして、彼の親友がここで大切なものを得たのを傍らで見ていた。
案の定、彼等はそこにいた。
草原の上、二人仲良く寝転んで幸せそうに仲良く眠っていた。
「おいおい、さんざん探させておいてこれかよ……勘弁してくれ」
頭を抱えたくなる。
それでも、二人の頬に涙の後を見つけてしまっては、エリーは何も言えなくなった。
彼等の脇に腰を降ろし、妹の頭を撫でる。
「全く、迷子にならないように気をつけているのにいつもすり抜けてどこかに行ってしまって。お前探すの大変なんだぞ。少しはこっちに気を使え」
口ではそう言っても、その実、妹は巻き込まれたばかりだと知ってる。そして、そのことを申し訳なく思って、感謝しているもの。
「……迷惑とは思ってないよ。お前が幸せなら……笑ってられるなら、それでいい」
そして、妹の横にいる同い年の親友の髪をくしゃくしゃとかき回す。
「お前も飛ぶなら飛ぶって言ってくれ。お前まで迷子になったら身体が幾つあっても足りないよ」
そういいながらも、親友の寝顔に苦痛も寂寥もないことを嬉しく思った。
「良かったな、セラが見つかって。それに、もうお前を苦しめる奴はいないからな。安心しろよ」
二人が無事だと知って、やっとエリーも安心できた。
「しかし、よく寝てるな……」
エリーはアーシュリートの額を指で弾いた。ピクリとは動いたが起きる気配はない。
「あーあ。すっかり安心しちゃって。魔獣が襲ってきたらどうするんだよ。少しは警戒しろよ」
そんな言葉とは裏腹に、彼も大分眠気に襲われ、ついに手足を投げ出して横になった。
寄り添って眠る二人を横目で見守る。
この二人は、エリーにとって大切な宝物だ。
泣かせたくない。笑っていて欲しい。
でも……これから確実起こるだろう、とある予想を思うと、胸が痛くなる。
――幸せになってほしい。そのためなら……何を犠牲にしても構わない。
「大丈夫だ。何があろうと、俺が……俺がこいつらを守る……」
もう一度そう決意を固めて、エリーは眠りに落ちた。
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早朝ライル・ストラトスは、すっかり人気の無くなった城を出た。
「ふふ、大丈夫。レドヴィックの没落は計画通り。後は、神官長様の元にいって、”外”に逃げればいいだけだ。まだ、大丈夫」
城の結界を抜けた。ここからなら彼も魔術が使える。
歩いて行くと、大勢の騎士が警戒しているを見た。このまま行けば不審者として囚われる。
「あの男の言ったとおりだな……」
慎重に騎士どもをやり過ごした。
だが、このままではきっと見つかる。見つかって捕縛されて王都に送られ断罪されて一生が終わる。
逃げるためには……ライル・レドヴィックは詠唱し始めた。闇魔術【幻装】。別人になりすまして包囲網を突破する。
「……な、おかしい……なぜ使えない」
何度も術式を展開させたが、必ず途中で術式が霧散した。
「詠唱……は間違っていない。術式も完璧のはずだ。……何故? ここはもう結界の外のはずだ」
焦りを覚える。その為に周囲への警戒を怠った。
「誰か、そこにいるか」
「ひっ」
後ろも見ずに走って逃げる。騎士たちは追いかけてくる。しかも、どんどんその数が増えていく。
ついに追い詰められた。
「ひ、【闇海嘯】」
苦し紛れの魔術。詠唱は簡略化したが十分展開できるはずだ。これが成功すれば、騎士数人なんて、吹っ飛んで終わりだ。
しかし、またもや、術式は途中で空に融けて消えた。
「な、ななんで。僕は【闇】のストラトスだぞ! 十三で禁術を使った禁術使いだ。なのに、何故?」
はっと気がついた。騎士たちの前でなんてことを。しっかり自分の名を口にしているじゃないか。これではもう別人だなんて主張出来ない。
果たして、騎士がニヤリと嘲笑を浮かべた。
「なるほど、貴様がライル・ストラトス・レドヴィックなのか。探す手間が省けた」
「わ、わ【闇球】! 【闇霧】! 【影剣】」
「捕らえよ!」
ライル・レドヴィックはあっけなく捕縛された。
彼は知らなかった。
彼に刻みつけられた呪印は【変綴化】という一風変わった呪術の印である。
この術式により、彼の詠唱は全て変換され、詠唱はその意味を持たず展開以前に破棄される。この呪術を解かない限り、彼は永久に術式を展開不能となる。
ただ、この術式は、本来は表意文字である魔術言語の文字の意味を正しく理解し、詠唱への変換を容易に出来うるものにとっては何の意味もない術式である。
現在、真の意味で魔術言語を理解しうる魔術師はこの国には二名存在する。フロワサールお抱えの魔術師とその忠実な黒髪の弟子である。
お読みいただきましてありがとうございました。




