第4話
魔力測定その二
「では早速測定はじめましょうか。セラさん、こちらの”属性判定紙”の前にいらしてください」
先生に促されて、羊皮紙の前に立つ。
「そのまま、両手を魔法陣の上に広げて…そう、そんな感じです。ではそのままちょっと待っててください」
私が魔法陣の上の空間に両手を広げると「【判定開始】」とマーク先生の低い声が聞こえた。
声と同時に六個の魔石が一斉に眩い光を放ち、数瞬後、一気に光を失って元に戻る。
光が消えた後の魔法陣を覗くと、濁っていた白オパールが透きとおった強い光を湛え、ジェイドが半透明のなまろやかな光を放っていた。
「白と緑ですか。二属性持ちですね。主属性が【光】、副属性が【風】。光属性は上位魔術、風は中位魔術まで習得可能です。残念ながら、光と風では属性強化はありませんね。……主属性が特殊属性なのは珍しいですね」
魔法属性は炎、水、風、地の主要四属性と、光と闇の特殊属性の合わせて六属性に別れる。
主要と言われるだけあって、普通は地水風炎の四属性のうちどれか一つのみの属性持ちになる場合が多いそうだ。二属性持ちは少なく、三属性以上の多属性持ちは更に少ない。
光と闇の属性は、他の魔法に比べて特殊な作用をする魔法が多いので特殊属性と呼ばれている。光属性が炎属性の効果を相乗強化する作用を持つものその一つ。闇は水属性を強化する。私は光と風なので特に関係はない。
等級とは、作用の強度から最上位、上位、中位、下位とされていて、どの等級まで使えるようにある程度まで分かる。あくまで使用可能の資格である。
これはちょっと説明に難しいのだけど、上位までの魔術が使えるからと言って全てが使えるわけではない。魔力や、術式との相性や様々な要因によって同じ等級でも使える魔術と使えない魔術があるらしい。つまり、術式を読んだり組めたり出来ても、展開するにはまだ段階があるとのことだ。等級はその”術式を読んだり組んだり”する事のできる単なるクラス分けらしい。
「へぇ、二属性かぁ。すごいじゃん」
「ほんと兄さま?」
「普通は単属性だからね。特殊属性持ちも少ないし」
「私珍しいの?!」
嬉しがってたら、まあまあかな、とエリー兄さまはにやりと笑った。
「俺は全属性持ちでどれも上位魔術まで使えるみたいだけどね」
驚いた。エリー兄さまって全属性持ちだったんだ……。って、エリー兄さま、人持ち上げといて落としてくれたな~。酷いよ~。
「そうですね、全属性持ち珍しいですが全くいないわけじゃないんですよ。
エリーさんの場合はどれも均等に主属性といえるのが特徴ですね。普通はどれが主ははっきりしている場合が多いですから。それと、多属性で相反する属性を保つ場合、制御に問題が出ることもありますから、一概に多属性がいいとは言い難いのです。エリーさんもその辺苦労していますし」
「……ばらさないでよ、先生!!」
「妹に自慢したいのはわかりますがね」
エリー兄さまが見る間にしぼんじゃった……。
「――では、次に行きましょう。その”魔力量測定計”の水晶球を軽く握ってください」
私が水晶を握ると「【測定開始】」の声。同時にビリッと静電気が起き、電流が体の中に駆け巡るような感覚がした。
「うっ、いたッ」と思わず水晶から手を離した。
――痛いなんて聞いてないよ。
涙目になってマーク先生を睨んだら先生はちょっと不思議そうにしてた。
「痛みはないはずなんですがねぇ……ああ、これは」
測定器の針が青と緑の線飛び越えて、黒に所を指していた。。
「上限値近くまで来てますね。もしかして痛みは上限超えて魔力が跳ね返って来たせいかもしれませんね」
測定器の青の線は自助魔術が使える許可が出る規定値で、それ以下だった場合は魔力を封印されて生活魔術も使えない。でも、守護石と呼ばれる魔石をもらえるので、普通に生活するのには問題ない。
緑の線は魔術学園に入学許可が出る値。
青以上緑以下の場合は、各地方の教育機関で魔術の初等教育を受けられる。
緑の線以上の者は、要するにエリート要員ということだ。魔術学院を卒業すれば王都の魔術研究機関への就職や政府の官僚に抜擢されることも多い。
で、私が超えそうになった黒の線は。
人間が健康を維持できる限界値。誤差はあるけど、これを超えてしまうと魔力が逆に健康を損なう要因となるらしい。いわゆる魔力飽和状態というのがこれだ。この計器では数値はでないけど、限界値は20万と言われている。私は限りなくそれに近いらしい。
「魔力量は上下しますし、セラさんは超えてはいないので過剰に気にする必要はありませんが、飽和状態の解消方法は早いうちに習得しましょうね」
「――すげぇ」
エリー兄さまの声が聞こえたので振り向くと、呆けたような珍しく暗い表情のエリー兄さまがいた。
マーク先生が兄さまの肩をぽんと叩くと、エリー兄さまは我に返ったように私を見返してきた。その顔にはもう暗さはなかったので少しほっとした。
「セラ、すごいじゃん。使い方次第では、ドッカーンって爆発魔術いけんじゃね」
「えー、でも私、炎属性は使えないよ」
「あ、ごめん。じゃ、あれだ、竜巻!! ビビューンって」
「……擬音語多すぎ!! それに、私、破壊魔じゃないし!!」
「魔力量は十分すぎるほどありますので、制御を誤ると通常の何倍もの効果がでますよ。低位でも侮れませんね。セラさん、制御はしっかり覚えましょうね。でないと『破壊の魔王』になりますよ。まぁ、それはそれで面し……いえ、大変ですねからね」
「うぅ……ハイ。ガンバリマス」
何気に『魔王』に出世させないでください、先生……
最後の一つふわふわのの毛玉を手に持たされた。軽くちょっと暖かい。綿の塊みたい。
でも触ってみても、これが生き物なのか、無生物なのかさっぱりわからない。
「これは”付与特性”の有無を調べるものです。”特性”について説明が必要ですか?」
特性って確か、それぞれの属性が持つ特殊な効果や精霊の加護の有無とかじゃなかったっけ。それと、守護獣や聖獣の契約に付帯する固有魔術も当てはまるかな。
「まあ、その程度の認識で問題ありません。厳密には更に細かいのですが、どうせこの子では測れませんし」
この子って言った!! じゃ、生き物決定?
「【調査開始】」の声。
あれ、何も起きない? と思ったら。私の体が発光して、毛玉がすりすり懐いてきました。
「か、かわいい……」
「光属性の特性『癒やし』効果ですね。ほうほう。なかなか面白いです。興味深いですねぇ。そうそう、『癒やし』の効果は人に因っては良くない結果になりかねないので、これもまたしっかり制御を覚えましょうね。……崇拝者が常に後ろに付いてくるのを嫌だと思うなら」
せ、先生。怖いことこと言わないで……。それってストーカーだよね。そうか、「癒やし」効果ってストーカー製造機だったのか……。凄い衝撃。
あーあと先生、毛玉寝ちゃったみたいですけど。どうするのこれ? と言うか、これ生き物なの違うの? いい加減教えて〜。
で、総合すると、
私は、
――主属性【光】、副属性【風】の二属性持ち。等級は”上位”と”中位”。魔力量は多。光属性の特性「癒やし」を持ってるらしい。
ちなみに2年前のエリー兄さまの結果も教えてもらった。
――すべて均衡の【全属性】持ち。等級は”上位”。魔力量は大。驚くことに「精霊の加護」を持ってるって。
「セラさん、おめでとうございます。このまま頑張れば『魔術師』になれます。また、王都にある『王立魔術学院』に入学資格を取得しました。これからも精進してくださいね。期待してます」
「はい!!」
****
せっかくだから、ちょっと使ってみましょうか、ということで急遽臨時の魔術の授業が始まった。
魔石や魔法陣の魔術を『付与魔術』。術式展開は魔石に組み込んであったりするので不要。
自分の魔力を使うのが『自助魔術』。そのうち属性の有無によらず術式の展開無しで使用できる魔術を『生活魔術』。火種を作ったり、荷物の荷重を変えたり、非常用「飲料水を出したりするのがこれ。
魔力の属性により、術式を展開して使用する魔術を『属性魔術』。
属性に関わらず術式展開で使用できるのが『無属性魔術』。転移魔術や感知魔術等「異能」と呼ばれるのがこのカテゴリーに当てはまる。
無属性魔術と生活魔術は同じように見えて違うカテゴリーらしい。
魔術を使う上でのカテゴリーを教えてもらったうえで、詠唱や術式展開を必要としないイメージ重視の『生活魔術』を試してみることにする。
「そうですねぇ。セラさんは主が【光属性】ですので【灯火】の魔術にしましょうか」
「はい!!」
「え、ちょっと「エリーさん」……ハイ」
エリー兄さまが何か言いかけたのを、マーク先生が笑顔で止めた。
「では、イメージしてみて見ましょう。指先に光を灯す感じで……」
エリー兄さまが心配そうにこっちを見てるのが気になるけど……だめ、だめ、集中!
指先に光……光……あれ?
「【灯火】!」
出ない。もう一度。光……光……。
「――【灯火】!」
やっぱり出ない…。
「先生。出ません〜」
「コツをつかめばいけます。『生活魔術』ですからね必要なら直ぐにできるはずですよ」とマーク先生はにっこり仰った。
「あの、先生? もう少し後のじ「エリーさんはあちらで、”属性魔術における術式展開の速度”に関してのレポートを仕上げて下さいね」……なにそれ、う、うそ」
エリー兄さま、半泣きだ。って、聞くからに難しそうなレポート、八歳児にやらせるの? 先生、意外とスパルタ? 私、顔引き攣ってる、絶対。
「【灯火】!」(何もなし)
「【灯火】!!」(上に同じ)
「【灯火】〜」(ほぼやけくそ)
「【灯火】……」(泣きが入る)
結局何百回繰り返そうがとちっとも光らず授業は長引き、気がついたらアナ先生のマナー講座開始の時間を大幅に越えていた。
お読みいただきましてありがとうございました




