表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/85

第39話

『みるなよ』

『……さびしいですか』

『さびしくなんてない!』

『……ないちゃだめですよ』

『うぅ、おまえな』



*****





 ひどい頭痛がする。

 寒い。


『このまま出口を目指すか、主魔石探しに切り替えるか……』

『下層に大きな魔力がある。主魔石だと思うけどはっきりは分からない』

『安全を考えるなら、上階で出口を探したほうが良いが……保つか』

『……分からない』


 少しだけ意識が覚醒して、誰かが真剣に話しあってる声が聞こえる。


「おや、セラフィカ・アズリ。目が覚めたのか?」


 金の髪の男の人が目の前にいた。とても懐かしい人のような気がする。どこかで出会ってるけれど、ずっと忘れていた、そんな不思議な感覚。

 懐かしくて、そして、心が痛い。なんで忘れてたのだろう。


「………………わすれてて…………ごめんね……]

「うん? 何をだ?」


 金髪の人が、蕩けそうな笑顔をして私の頭をゆっくりと撫でて……。

 私の顔を覗き込んで眉をしかめた。


「顔色が良くないぞ。まだ時間はある。もう少し寝ていろ」

「……うん……」


 私は再び眠りについた。



*****



 エリー兄に起こされた時は、私以外はすでに出発の用意ができていた。


 頭が重くて悪寒がする。でも、言えない。ただでさえ足手まといになりつつあるんだから、我慢しないと。強烈な頭痛にひたすら耐える。


「セラ? まだ食欲ないみたいだね」

「大丈夫だよ」

「大丈夫そうじゃないけど……。そうだ、これ。口開けて、セラ」

「え? あ、」

「はい。……美味しい?」

「…………………うん」


 食の進まない私を心配したアーシュが、私の好きな飴を私の口に押し込んだ。美味しかったけど……ちょっと熱が上がったかも知れない。主に、凄く満足そうなアーシュの微笑みを正面から見てしまって……。


 エリー兄とリュスラン殿下が、心なしか私達を(特にアーシュを?)苦虫を噛み潰しような顔をして見てた。




*****



 出発して直ぐに、ゲル状の体毛らしきものに覆われた四足獣の魔獣が現れた。

 他に仲間はいない。熊ぐらいの大きさはあるから、単体だからといって侮れない。


「やっぱり出たか……アーシュ」



 エリー兄がアーシュに目配せして、一人前に進みでた。

 アーシュは軽く頷いて、私達を連れて魔獣とエリー兄からかなりの距離をとる。それこそ、魔獣の攻撃が間違っても来ない位置に。


「エリー兄?」

 

 やめて! エリー兄が一人になる。だけど、アーシュは助けにはいかない。

 そしておもむろに透明な魔石を取り出した。

 内包する術式は……まさか、【魔術無効化】? 


「アーシュ、それって!?」

「しっ、少し静かに見てて」


 エリー兄の方はすでに戦闘状態に入っている。鋭い魔獣の攻撃をエリー兄は軽くいなしてた。


「エリー」


 アーシュの合図で、エリー兄が【灯火(ライト)】を消し、アーシュが【無効化】を展開した。


 音だけが響いてる。

 それが、どんなに怖い事なのか知らなかった。

 エリー兄は? 見えてるの? 無事なの? 不安だけが募っていく。

 

 長い時間がたったように思ったけど、実はそんなにたっていないのかも知れない。

 最後に悲鳴のような咆哮が聞こえてすぐ、「もう良いぞ」というエリー兄の声がした。


 【灯火(ライト)】を灯して、エリー兄の元へ駆けていく。

 

 エリー兄は無事だった。ちょっとだけ息が荒いけど、怪我はしていない。

 その足元には、死んだ四足獣らしい残骸と四散したアメーバ状の物体があった。


 ほのかな灯りに照らされたエリー兄は、厳しい表情をしていそれらをにらみつけている。


「予想した通りだった。……【索敵(サーチ)】を封じられた」






 エリー兄が、剣の先の青白いアメーバ状の残骸を見せた。

 昨日、私が見たものと同じものだ。


「アーシュ、こいつに組み込まれている術式がわかるか?」

「ちょっと待って……ああ。一種の【精神操作系】の術式だと思う。与えられた”命令”は消去されてるからわからない」

「そうか。やはりな……」


 エリー兄が「推測だが」と前置きして話してくれた。


 この生物とも無生物とも言えない”もの”は、魔力に反応して予め組み込まれた”命令”を実行する。恐らく、その命令は私達のような”人間”を襲うようにとかなのだろう。

 そして、ここが重要だが、洞窟探索ではセオリーとして【索敵(サーチ)】を使用する。

 【索敵(サーチ)】は、ごく少量の魔力を周囲に流し、物体に当たって反射又は吸収された魔力を感じ取る事で敵を察知する魔術だ。

 その【索敵(サーチ)】ために僅かに流された魔力と反応して、このアメーバは魔獣として活性化する。つまり、敵を避けるために使用するはずの【索敵(サーチ)】が敵をより多くしているというわけだ。


 この推測を確かめるために、エリー兄は敢えて魔力なしで魔獣に立ち向かった。

 四足獣型の魔獣は、エリー兄が魔力を使わなくなってからは目に見えて弱くなった。最後にはその形すら維持出来ずに”核”を貫かれて敗れた。



「この洞窟(ダンジョン)を作ったやつ……とことん悪賢いヤツだな」

 半分呆れたようにエリー兄が呟いた。


「洞窟では【索敵(サーチ)】を使う。それを考えた上での(トラップ)か」

 リュスラン殿下が唸った。


 そのまま、誰もが何も言えずに沈黙してた。


 やがて、エリー兄が重い口を開く。


「……これからは、【索敵(サーチ)】は使わない」

「でも、エリー。それは危険じゃ……」

 

 アーシュがエリー兄の言葉に反応した。でも、エリー兄は首を横に振る。


「アーシュが言いたいことは分かってる。だが、【索敵(サーチ)】して、敵を増やしていては意味がない。消耗するだけ無駄だ。」

「……それは分かってる」

「【索敵(サーチ)】を使わないで進む。幸い最初の【探知(ディテクト)】で、方向の見当はついてる。あとは……精度は劣るが……俺が【感知】を使う」


 確かにエリー兄の【感知魔術】なら、魔力と魔力の流れを視る(・・)だけ。魔力を流す事はないから、アメーバ型の魔獣を起こす事もない。

 だけど、それはエリー兄から普通の視覚を奪う事でもある。こんな魔素の強い場所だと”色彩酔い”も起こしやすいって聞いてる。本当に大丈夫なのだろうか。


「心配するな。俺は頑丈だから大丈夫だ」


 あまりに不安な顔をしていたのだろう。エリー兄が不敵な笑いを浮かべて、安心させるようにぽんと私の頭を軽く叩いた。




*****




 それから随分長く歩いたと思う。


 私の体調は悪化の一途を辿ってる。

 最初は何とかついていけた。でも、どうしても戦闘は避けられない。二回、三回と重ねて戦う内に、どんどん体力を奪われていった。



 最悪の状態で、その魔獣に出会ったのは、何度目の戦闘だったか。

 もうその頃には、足取りもかなり怪しく、常に頭の中に霞が立ち込めているように、考えがまとまらなくなっていた。


 エリー兄達が戦っているその後方で、私は【風壁(ウィンドウォール)】で、周囲への影響を和らげている。

 その目の前に、白くて丸くてふわふわした拳大の生き物がいた。


――白い、クロちゃん? ……クロちゃん元気かな……会いたいな……。


 【防御壁】を維持しながら、そんな場違い事を考えてる。

 普通の状態だったら、私だって警戒したと思う。こんな場所に普通(・・)の生き物なんているはずないのだから。

 でも、その時の私は、何の疑いもなくただぼんやりとそれを見ているだけだった。


――何だろう? これ?


 白い物体が二本の触覚を生やす。カタカタと音を鳴らして仲間を呼ぶ。


――やだ、蟲?

 

 ぎょっとした途端【風壁ウィンドウォール】が揺らいだ。


「どうし……離れろ! セラ」


 エリー兄の警告の声。

 でも遅かった。


 より大きな甲殻類が地中から現れた。地中から呼び寄せられた魔獣は数多に及び、床に深い穴がいくつも穿たれ……。


「床が抜けるぞ!!」

「セラ、こっちへ! 早く!!」


 篭っていた空気が流れていく。これって、どこかに穴が開いたってことじゃないの?


「アーシュ、凍結で塞げ!」

「もうやってる!!」


 ふっ、っと浮き上がるような感覚。

 ほぼ同時に、ガラガラと何かが崩れる轟音がした。


「セラフィカ、手を伸ばせ!!」


 誰かに手を掴まれて抱き込まれる。

 彼の肩越しに、巨大な岩が落ちてくるのが見えて。


――潰される、結界を……結界を張らないと…………。

 咄嗟に、悲鳴のように術式を歌い上げた。


 そのまま……落ちた。

 ぶつかり、弾かれ、更に落下する。


 叩きつけられ、転がって、覆われていく。


 視界も意識も闇に飲み込まれた。










******





――――。


――――。


――――。






 金髪の男の子がいる。

 

 ああ、おにいちゃんだ。

 まえ会った時には泣いてたちょっとだけ年上のおにいちゃん。今日は泣いてないね。良かった、笑ってるよ。


 


『どんなはなしなんだ?』


 好奇心たっぷりな目で、私を見下ろしてる。 


『おーじさまとおひめさまのおはなしです』


 わたし(・・・)が答えてる。


 あれって、私が好きだった絵本だ……。


 

『おうじのはなしがすきなのか?』

『すき』


 そうかと言って、おにいちゃんは私の横に座った

 私は笑う。だって、おにいちゃんが笑ってるのが嬉しかったから。


『おーじさま、つよいのです。わるものぜんぶたおしちゃいます。そして、おひめさまとけっこんしてしあわせになるのです』

『そんなののどこがおもしろいんだ?』

『だって、けっこんすると、ずっといっしょなんです。さみしくありません』

『ずっといっしょ?』

『ずっといっしょです』

『そうか……。いっしょか』

『はい。さみしくないのです』

『さみしくないのか……』


 おにいちゃんは、いつ見ても寂しそうだった。そして……その頃の私も一人ぼっちだった。



『…………のおーじさま、どこにいるのかなぁ』

『なんだそれ。……ぼくが……いるぞ…………』

『おにいちゃんじゃなく、おーじさまです』

『おまえな、いつまでもおにいちゃんじゃなくちゃんと……………ってよべよ』

『だって…………おにいちゃんはおにいちゃんでしょう?』


 父様はいつも忙しそうで……。母様と兄様には会えないの……。私は、いつも一人で遊んでいて……。

 そのころの私には、時々会うこのおにいちゃんだけがお友達だった。


 最後に会ったのはいつだったのか……。



『またあそびにこいよ。やくそくだ』

『はい、やくそくです』


 帰り際はいつも寂しそうにそう言ってたっけ。



「…………おにいちゃん?」



 貴方は誰? 

 今どこにいるの?

 わたし、約束 守れなかったのかな……。


 おにいちゃん、貴方はまだ寂しいまま?

 まだ、わたし(・・・)を待ってるの?







 


お読みいただきましてありがとうございました。


次回は3月5日午前0時を予定しています。よろしくお願いします。


6/8追記) 回想部分の主人公の口調を一部変更しました。大筋に変更はありません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ