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第3話

魔力測定その一

 このヴィンデュス王国では、六歳の誕生日より魔力測定が義務付けられている。そして、先日誕生日を迎えた私は、今日測定を受けるんだ。





 

 この世界は剣と魔法の世界。

 

 

 魔王はいないけど、魔獣はいる。

 勇者はいないけど、冒険者はいるしギルドもある。

 男の子は多かれ少なかれ剣の修行をするし、女の子でもやろうと思えば、騎士にも剣士にも魔術師にもなれる。

 

 エリー兄さまは、剣術が好きだ。男の子らしく冒険がすきで大きくなったらギルドに登録して冒険者になるのが夢だと言ってる。

 そのエリー兄さまの影響からか、私も少しは憧れてた。けど、私はちびで痩せっぽち。剣術の修行をしても、子供用の木剣は重くて支えられない。耐え切れなくて取り落とせば、地面に跳ね返って足に青あざつけっちゃったりとかして、早々に諦めた。というか、止められた。使用人全員で「お嬢様が怪我するのを見てられない」って嘆かれたら諦めざる得ないよ……。


 と言うわけで、まだ、エリー兄さまにくっついていくのを諦めない私は、もう一つの方法「魔術」に期待してる。


 うん、我が家の使用人、魔術使える人が多いんだよね。

 例えばキーラ。私より年上だけど、どう見ても華奢で可愛らしい外見なのに、酒樽を三つ四つ重ねて運んじゃう。凄いなぁって言ったら、【風魔術】で下から支えて重さを軽減してるんだって。

 その他のメイド達も、花瓶の水が足りないなぁ、って思ったら掌からじゃーって水出したり、厨房の陽気なシェフが歌いながら豚の丸焼きを火達磨にして炙っていたり、庭師の小父さんは毎朝、一斉に蕾を開かせたりしてて、いつも羨ましいなぁって思ってた。


 

 六歳の魔力検定で規定値に達してれば、”手から炎”とかの魔術を教えてもらえる。それが一番の希望だけど、もし魔力が欠片も無くて自分じゃ魔術が使えなかったとしても、平気。だって、ここはヴィンディス王国、別名「魔法の王国」なんだもの。

 

 このヴィンデュス王国は、結界で守られた王国内にいる限り誰でも(・・・)、魔力もなく術式も知らない一般人でも、魔術の恩恵に預かれる唯一の国なんだ。






 初歩の初歩の魔術の指導書にはこう書かれている。 


 『この世界には危険な動植物(魔獣、魔物)や危険な場所、現象が数多に存在する。それ故にそれらの現象に対応できうる能力、『魔術』は必須である。

 

 しかしこの世界においても、魔法は標準的(ポピュラー)なものではない。

 魔力を持つ者は人口の半分にも満たず、魔力を持つ者のうち魔術の技術を習得できうる者は更に少ない。 それら、自らの魔力と魔術を操る能力を総称して【自助魔術】といい、それを持つものを「魔術師」と称する。彼らはどの国でも人工の一割に満たない人数しか存在せず、また、基本的に「魔術師」以外では魔術は使えない。それが大前提である。



 しかし、ヴィンデュス国内(・・)に於いては。



 その昔、建国王レヴィニスの時代、王が神霊と契約し王国中に自助魔力をは異なる魔力の元となる魔素を満たした。更に次代の聖女王エアリアーナがその生命を代償に王国を【広域結界】で包み外界と遮断した。王国内部には外界からの魔獣や瘴気の侵入が阻まれ低下し、更に豊富な魔素を利用し【付与魔術】が発展した。

 

 付与魔術とは、人が持っている魔力を使わず自然に漂う魔素のみで魔術を発動する術式の総称である。

 それらは、魔素を貯め術式を刻む魔石付与とその場の魔素を広く利用する魔法陣付与に分かれているが、概ね同様の効果を生む。

 この付与魔術の発展により、【魔力】のない一般人でも魔術を使用可能となり、ヴィンディス王国の魔術研究は躍進した。


 誰もが魔術を使える国、それがヴィンデュス王国の現在である』



「ふぇ〜」

 小難しい言い回しを読んでいる内に頭が沸騰した。前世分の知識あるし、中二設定どんと来いだけどお勉強は今ひとつだったんだよね……。


「セラ、頭から湯気出てる。大丈夫?」

「……兄さま、もう難しくてわかんない……」

「大丈夫ですよ、セラさん。今のポイントは、『ヴィンデュスなら誰でも魔術が使えますよ、ヨカッタですね』ですから」

「……ハイ、ワカリマシタ……」





 『魔術師の国、ヴィンデュスであっても、【自助魔術】を使用する「魔術師」の総数は他国と変わらない。魔素はヴィンデュス国外、結界の『外』に於いては存在が希薄で、付与魔術は『外』では使用困難である。現在、ヴィンデュスの魔術研究機関『魔導塔』の研究者は、いかに「魔石」内に魔素を溜めこめるか、また、希薄な魔素をいかに効率良く取り込めるかの研究がなされているが、実現はまだ遠いと考えられている』



「これ短いからわかります」

「そうですか?、ではポイントは?」

「魔石と魔法陣は『外』じゃ使えない!!」

「よく出来ました」





 『この世界の国々はほぼ例外なくどの国も巨大な外壁または結界によって、『外』と隔てられている。

  国々の間には、魔獣、魔物が蔓延する広大な『外』が存在し、魔術抜きで生活するのはほぼ不可能であり、国々の防衛外交に魔術と魔術師は不可欠である。「魔術師」は総じてどの国でも需要が高い。』



「ポイントは、魔術師は貴重です」

「惜しいですねぇ」

「えー。正解じゃないの?」

「はい。もう一声です。エリーさん分かりますか?」

「えーと。『外』には魔術師じゃないと行けないよ、かな?」

「正解です」



 とまあこんな具合に、ほぼ二時間近く魔術についての講義を受けた。


「まあ、他にもいろいろありますが、今回のポイントはこんな所でしょう。わかりましたか? セラさん」

「……はい」

「それはよかった」

「……でも先生? ちょっと疑問。魔術師じゃないと『外』には行けないんだよね。テルノ村の商店の息子さん、魔術師じゃないけど、『外』のお土産持ってきてくれるよ」

「いいところに気が付きましたね、エリーさん。では、セラさん。魔術を使えない一般人が『外』に行くにはどうしたらいいと思いますか?」

「強い人に守ってもらう?」

「そうですね。自分で魔獣を倒せないなら魔獣を倒してくれる人を雇うのが一般的ですね」

「だから、冒険者の需要が高いんだよね。いいなぁ~俺も早くギルドに登録したいよ」

「おや、エリーさんは冒険者志望ですか? 『外』で活動できるのBランク以上ですよ。十歳でEランクに登録出来ますから、死なない(・・・・)程度にがんばってくださいね」

「……ハイ」

 

 上機嫌のマーク先生とは対照的に、エリー兄さまの顔が引き攣ってる。別に不穏なこと何も言ってないよねマーク先生?





****




「それでは、お待ちかね、魔力測定はじめましょうか。魔力次第では、魔術学院の奨学生になれますからね」


 魔力の高い者は、十四歳になると王都ザフィルで専門的な魔術を教えている王立魔術学院に入学を許可される。入学者のほとんどが貴族だけど、平民でも入学は可能だ。ただ、費用が馬鹿にならないぐらいかかるらしいとは聞いてる。奨学生の資格を取れれば、父さまに負担かけないで魔術習えるかな?


「大いに期待してますよ、セラさん」

「うぅ。プレッシャーかけないで、先生……」

「何か、おっしゃいましたか?」

 先生、笑顔黒いって、怖いって……。




 それから、マーク先生は変わった道具をテーブルの上に並べた始めた。


 古ぼけた羊皮紙。

 キラキラした水晶がついてる測り。

 ふわふわの綿菓子みたいなもの。


「簡易魔道具だと一度に測定出来ないのがもどかしいですねぇ」と先生が呟いてた。




「さて、こちらが”属性の有無と等級”調べる魔道具です」


 と先生は羊皮紙を指差した。 

 結構古くて大きくて、中央に大きな魔法陣が描いてある。その上に等間隔で六つの濁った宝石が並んでる。上から時計周りに、白蛋白石(ホワイトオパール)炎柘榴石(パイロープ)黄水晶(シトリン)黒曜石(オプシディアン)藍玉石(アクアマリン)翡翠(ジェイド)の順だ。それぞれ、光、炎、地、闇、水、風属性と対応しているらしい。

 オパールとパイロープの間が大きく焦げてるのがちょっと気になった。


「コレはですねぇ。この家に来る前に測定した子なんですけど、炎属性と光属性が強すぎて、勢い余って焦がしちゃったんですよ。あわや火事か大火傷って騒ぎだったんですがね。よくある失敗談ってことですね、ははは……。ま、多少焦げちゃってますが、性能的にはまったく問題ありませんので、気になさらないように」


 って、気になりますよ! 同じ失敗したらどうするんですか!! 火事なんていやです!

 どうやら驚いて呆然としてマーク先生を凝視していたらしく、エリー兄さまが「多分大丈夫だよ。セラは【炎】は少なそうだし」となだめてくれたけど。どうしてわかるの? てきいたら「【炎属性】は熱血漢で几帳面って言われてるし? セラはぼんやりでズボラだろ?」って返ってきた。それ、何の血液型ならぬ属性占いだよ!!





「こちらの魔道具は”魔力量の限界”を予測測定します」


 先生が指し示したのは、掌サイズの水晶がついた測り。レトロなミニ体重計みたいな形をしている。水晶は透明な真球。測りにはゲージがついていて、底より少し上の位置に青線、それより上のラインに緑の線、はるか上限近くに黒線が引いてある。


「残念ながら数値はでませんが、緑のライン以上あれば魔術学院入学です。これを目指してくださいね」


 だから、先生。余分なプレッシャーはイクナイヨ……。




 先生は最後にふわふわの毛玉を取り上げる。と思ったら、先生の掌の上でぽんぽんと生き物みたいに撥ねた。


「普通はこの二つで終わりですが、セラさん達にはおまけです。これで魔術特性や加護の状態を調べましょう。……おや、なんだか機嫌が悪そうですが……」


 と言いながら、マーク先生毛玉をぎゅうって握りしめた。


「ふふふ……逆らうつもりかな……。良い根性ですね……」


 って、毛玉ぐったりしてるみたいに見えるけど……いいの? ってそれより、毛玉、生きてるの? 違うの? どっち~?




《追記》

作中で、パイロープ・ガーネットの和名を「炎柘榴石」としていますが、正しい和名は「苦礬柘榴石」です。字面がちょっと合わないかなぁ、と思い造語しました。



お読みいただきましてありがとうございました。

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