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第31話

第三章開始

「そろそろ、少舞踏会(プティ・バル)の準備をしなければなりませんわね……」


 香り高い紅茶を優雅に一口飲み、マリアーネ様は呟いた。

 もうすぐ冬、正確にいうと半月ほどで『雪華祭』の季節になる。


 マリアーネ様が【呪術】に襲われてから一月ほどたった。余程巧妙な犯人なのか、未だ犯人は捕まっていない。

 その間、私達は追撃を警戒していたのだけど、幸いにも何もなかった。いや、気が緩んだ頃に何か仕掛けてくるかも知れないので幸いとは言い切れないかも知れない。

 

 そんな中、私は誕生日を迎えてやっと十五歳になった。




*****

 


 少舞踏会(プティ・バル)


 雪華祭の最中に数度、王宮主催の大規模な夜会が開催される。夜会での社交は貴族の義務でもあるけど、大人たちの冬の楽しみの一つでもある。

 学院では、成人後の社交界入り(デビュタント)を失敗しないようまた円滑に進められるように、予行と準備のためのカリキュラムが組まれている。それが、小舞踏会(プティ・バル)である。

 学院の生徒に為の予行と準備の舞踏会とはいっても、参加者は王族をはじめとする貴族であるし、招待状があれば学校関係者ではなくても参加可能であるので必然的に規模は大きくなる。雪華祭のもう一つの楽しみに数えられているらしい。


 一方、ゲーム(エタ☆プロ)設定では。

 

 少舞踏会(プティ・バル)は、「Etanal☆Promise」の重要な分岐点である。

 ヒロインはここで何とかしてイベントを発生させ、フラグを立てないとルートが消滅する。以降は誰とも結びつかないノーマルエンドまっしぐらとなる。

 各攻略対象とフラグを立てるためにはある程度好感度が必要である。

 更に、逆ハーレムルート解放には、全攻略対象から一定の好感度を保ってないとならない。多すぎても少なすぎてもフラグが折れる。

 

――ユリカ嬢はどのルートを選ぶのだろうか……。


 傍から見ていると、殿下とはあまり接触がない。ヒュイス様は、あからさまにユリカ様を避けてるみたいだし、カミーユ様に至っては目にすら止まってないようだ。


 アーシュは……?

 

 ユリカ嬢に対してアーシュは好意的に見える。呼ばれたくないはずの「フィリス」って呼んでも怒らないし。最近は特に一緒にいる姿をよく見かけるし。

 

 ちらりとアーシュを見てみた。彼は私には気がつかないで、隣のヒュイス様と笑いながら話してる。


――だめだめ、気にしないの、私。アーシュが誰と親しくなっても、アーシュが良ければそれでいいんだから。

 

 ふるふる、と首を振ったら、マリアーネ様に「何かありましたの?」と心配されてしまった……。


 そんなことをいろいろ考え込んでいる間に話は先に進んでしまったみたいだ。

 今は、それぞれの家族が少舞踏会(プティ・バル)に来る来ないの話題になっている。


 今年は、ダングラル様の家から弟君が出席、ヒュイス様の家からは……何だかご兄弟他沢山来られるとか何とか……。

 我が家は残念ながら欠席と父様から連絡が来てる。アーシュのところはブルムスターの小父様が見えるかも知れないらしい。


 さすがに王家の方々の出席はないだろうと思っていたけれど。


「今年は、妹が来たがっているんだ……。カミーユ、悪いな」


 リュスラン殿下が申し訳なさそうにカミーユ様に謝っている。

 殿下には、同母の妹姫に生まれたばかりの異母弟君がおられるけど、何でカミーユ様に謝るのだろう、そう首を傾げていると、当のカミーユ様が苦笑交じりで説明してくれた。


「つまり、殿下は私に妹姫、シャルロット王女殿下のお守りを押し付けようとなさっているのです」


 殿下の妹姫シャルロット・エデ王女殿下は、御年十歳と聞いている。確かに大人の付き添いは必要だけど何で、それがカミーユ様になるの?


「疑問ですか? それはですね、私がシャルロット姫の婚約者だからですよ」


 カミーユ様はあっさり言ってのけたけど、私は本当に驚いた。だって、つい先日、彼の内心を知ったばかりだったし。

 ちらっとマリアーネ様と見てしまい、慌てて何気ないふりをしたけど、こちらを見咎めているカミーユ様の平常を装った視線が鋭すぎて参った……。


「今さ、なんで、殿下の妹姫の婚約者がこんな性格悪いやつだって思ってるだろ、アズリ妹」

「!! ヒュイス様、私、そんなこと思ってません」

「いいって、いいって。カミーユの歪んだ性格はここにいるやつなら誰でも知ってるからさ」

「それは実に心外ですね、ヒュイス」

「ほんとの事だろ。……ま、こいつの婚約は”仕来り”だから仕方ないんだよ」


 ダングラル家は准王家である「黒の公爵家」、カミーユ様はそこの嫡子だ。


 もともと、三公爵家は初代国王の三人の息子の家系に当たる。

 政治を司るディー・ヴィンデュス・ノールのダングラル家、軍事を専門とするディー・ヴィンデュス・ルベラのユーディス家、王家の祭事を熟すディー・ヴィンデュス・アズールのフロワサール家。

 王家との誓約を守る為、また王の血統を守るために、長年に渡り王家から三公爵家へと降嫁が繰り返されてきた。故に、三公爵家は臣下でありながら王家の血を色濃く残し、王族に准じた扱いを受けている。

 王家の後継が途絶えればすみやかに三公爵家から立つ。王族が降嫁するならば、その配偶者が公爵位を継ぐ。また、血の凝集を防ぐためにも王の後継と三公爵家との婚姻は認められない。昔からそう定められている。


 ちなみに、ヒュイス様は「赤の公爵」ユーディス女公の甥である。マリアーネ様は以前言ったとおり「青の公爵」フロワサール公の又従兄妹なので、リュスラン殿下の周りには三公爵家の縁の者が全て揃っていることになる。


 

「正式に決定してはいませんけれどね。ユーディスもフロワサールも世継ぎは女性ですので、独身男子はダングラル家の私か弟。後継にと考えるなら、私が妥当かと」

「本人もカミーユの()は気に入っているしな……。公爵家の独身といえばフロワサール公ご自身も入るがなぁ。さすがに、あのタヌ……いや、父より年上の男性に妹を娶せるのは、考えたくないな」

「あら、お年が離れすぎと言うのは賛成いたしますけど、フロワサールの小父様は素敵な方でしてよ。未だにご夫人方の人気も高くていらっしゃいますし……」

「だが、変人だぞ」

「まあ」

「大体、冬以外は領地に篭って出てこないんだぞ。しかも、自分の私事(プライベート)は徹底的に隠してるし、そのくせ妙に説教臭くて物知りだ」

「その神秘的(ミステリアス)なところも魅力の一つですのよ」

「胡散臭いとしか思えんが。確か、一人娘を溺愛しているとか言っているが、娘の顔すら見せたがらないしな」

「……あれ? フロワサール公って、娘いたっけ?」


 殿下とマリアーネ様の言い合いを呑気に遮ったのはヒュイス様だ。


「フロワサール公は亡き夫人との間に一人娘の姫がいたはずです」

「あー、思い出した。あれだ、フロワサールの『秘せし青薔薇』」

「ヒュイスの頭脳で良く思い出しましたね、えらいえらい」

「何でその扱い酷くね?」


 その姫の事なら少し聞いてる。

 フロワサールのご領主様の奥方は早くに亡くなって、体の弱い姫が残された。姫はずっとご領地で静養され、ご領主様は姫を心配されて一年の大半を王都ではなく姫のおられるご領地で過ごされている、って。


「マリーはその姫にあったことがあるか?」


 そう殿下が尋ねた時、マリアーネ様は僅かに眉を潜めた。


「……いえ、残念ながらございません。わたくしはずっと王都で暮らしておりましたので」

「そうか。……まあ、機会があればそのうち会えるだろう。公が会わせれば、だがな」

「そう……ですわね」


 マリアーネ様の口調が幾分固いものに聞こえた。あれ? とは思ったけれど、殿下達の会話に横入り出来るわけもなく、話題は次へと流れていった。



「ところで、セラフィカ・アズリ。お前、今回が初めての少舞踏会(プティ・バル)だろう? パートナーは決めたのか」

「ええと……」

「私ではどうだ?」

「「「「殿下!!」」」


 すごい、総つっこみ……。


「殿下のパートナーは学長夫人と決まっておりますでしょう?」

「……私にも選ぶ権利くらい……少しはあると思うが? 若い方が、望ましく思っても」

「どなたを選んでも大事になりますわよ」

「……だがしかし……」

「ご自重遊ばせ!!」


 マリアーネ様の勢いに殿下がたじたじになってる。

 ええと、これは早めに宣言しておいた方が良いかな……。


「あ、あの……私のパートナーは兄に頼んでますので」

「え? 嘘……エリーと?」とびっくりした顔をするアーシュ。そんなにびっくりすることかな?

「うん、この前、エリー兄が誰にも誘われないと可哀想だからって気を使ってくれたの」

「……エリーのやつ……」


 あれ? アーシュから冷気を感じるけど……。紅茶が紅茶シャーベットになってる? 平気そうに飲んでるけど冷たくないのかな……?



*****



 ”サロン”からの帰り道、ちょうど女子寮と男子寮の堺に当たる場所にある庭で、私はユリカ嬢の姿を見かけた。

 彼女の側には、あまり見かけたことのない男の人がいた。


「あれ? あの人、誰?」


 年齢的に生徒には見えない。服装その他から教職員にもあまり見えない。なら、出入りの業者さん? それにしては、胡散臭い態度に見えるけど……。

 

 覗いてたら、後ろから急に肩を叩かれた。


「ああ、お前だ、お前。確か一学年のセラフィカ・アズリだったな」


 びっくりして叫びそうになったよ……。

 振り返ったら、上級生の実技担当教官のヨランディ先生が薄笑いを浮かべて立ってた。


「何してる? のぞき見か? どれどれ?」

「な、何でもないんです! あ、やめて」

「ほう、……なんだありゃ?」


 え? と思ってもう一度覗いたら、ユリカ嬢はそこにはいなくて、蒼いスライム状の物体がゆらゆらと揺れていた。


「何、このスライム……」

「あーこれ、悪戯グッズだわ。魔力を流すと、思い浮かべた人間そっくりに変化するヤツ。毎年末の宴会の余興で良く使ったなぁ。……でも、なんだってこんなものがこんな場所に?」

「……悪戯グッズ? 宴会?」

「そう、こうやって……よいしょっと」


 ヨランディ先生が魔力を流すと、スライムがぐにぐに動いて等身大の人型になり、フェルプス先生(半透明の)になって不気味な踊りを踊りだした。


「き、気持ち悪いです……これ」

「あー悪い悪い。こういうのにもセンスっているんだよな。俺には全然ねぇわ」


 ヨランディ先生は笑ってるけど、本当に不気味過ぎて逆に笑えないです。


 でも、その悪戯グッズがここにあるというのは……ユリカ嬢がこのグッズを使って私に悪戯した……とか? あり得そうなあり得なさそうな。


「グッズは落し物として回収しとくわ。で、アズリ、お前に頼み対事があって探してたんだわ」

「な、なんでしょうか?」

「騎士学部の特別教習の手伝いしてみないか? 特別報酬は弾むぜ?」












お読みいただきましてありがとうございました。


2月14日追記) 次回更新日のお知らせ遅くなりすみません。

 次話 第32話は2月16日午前0時に更新予定です。よろしくお願いします。

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