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第17話

魔術学院編はじまりです。

 『ヴィンデュス王立魔術学院』


 正式名称は「ヴィンデュス王立高等研究学院魔術学部」である。王立高等研究学院には他に、一般教養及び専門分野を学ぶ総合学部と王国の防備の要となる騎士を育成する騎士学部がある。王国の中枢にいる者はこの三学部いずれかの出身者が多いというエリート養成校の側面もある。


 どの学部も十四歳前後で入学し、最初の二年間は基礎及び教養を、その後の二年間で専門分野を学び十九歳から二十歳前後で卒業する。また、全寮制で学院内では身分を問わない自由な交流を持つことが出来る画期的な教育機関でもあった。



*****



 夏の暑さが去って木々が黄色の色を僅かに帯びる初秋を迎えた。

 今日、私、セラフィカ・アズリは魔術学院に入学する。


 今から入学式に向かうと思うと緊張で手が震える。私、同年代がこんなに沢山いる所初めてなんだ。

 今日は新入生及び学院関係者のみしか出席できないから、エリー兄達の力は借りられない。自分でなんとか乗り切らないと。




 すでに三日前から寮生活は始まってる。最初の二年は一人部屋はもらえない。三人部屋が普通だ。

 同室の子達とは昨日までに顔を合わせているけど、偶然なのかなんというか、補正力でも働いたのかなという印象だ。


 同室者のうち一人はサジェトゥリア・レナ・フォルトナ。


 綺麗な巻き毛のポニーテールの小柄な女の子だ。目が悪いようで、ちょっと厚めの眼鏡をかけてるけどとても可愛い。魔術系のフォルトナ子爵家の令嬢だけど、いい意味で貴族らしくなくって気さくで優しい。第一声が「サジェって呼んでね、よろしく」だった。

 彼女は兄妹のうちでは一番魔力が高いらしく、本当は音楽家になりたかったらしいけど魔術学部に進学させられた、とぼやいてた。機会があったら転学部をするのが今の望みだとか。


 あっけらかんと自分の事を話すサジェに私は好感を覚えた。サジェとなら二年間上手くやっていけそうだ。



 あともう一人が問題だった。

 なんと主人公(ヒロイン)、ユリカ・アリス・アーベンスだったんだ。

 

 「Etarnal☆Promise」のヒロイン「ユリカ」。

 ゲームの設定に「小動物をイメージして」とあるように、人懐っこくて愛らしい容貌をしていた。元は平民で、後に魔術系の男爵家に養子に入り学院に入学してきた、というのがゲーム上の彼女の背景だ。


 で、実際の彼女(ヒロイン)はというと。


 ゲーム通りの小動物系の可愛らしい外見は変わらない。にこにこ笑っているし。でも、気のせいかな、どこか私やサジェを見る目が冷たいように感じる。

 ゲームと違って一代男爵家ではあるけれど、列記とした貴族生まれのお嬢様だ。


「ユリカ・アリス・アーベンスです。二年間よろしく」

「セラフィカ・アズリです。よろしくお願いします」


 と言って挨拶したんだけど、ユリカ嬢は微笑んだまま「セラフィカさん? お名前それだけ?」と聞いてきた。ああ、私が貴族じゃないからかなと思いながら「はい」と返した。

 貴族って同格の名前を二つ持っている。双子名(ツインネーム)と言われるそれは、平民では絶対持てないから身分の証ともなる。


「そうなの?」とそれだけ言って彼女は部屋に戻っていったけど、ユリカ嬢とはその後必要最小限しか会話してない。もしかしたら避けられてるかもしれないな……。

 主人公(ヒロイン)ってもっと人懐っこかったんじゃ、と首を傾げたけど、「フィリス」の例もあるしどこかでちょっとずれっちゃったのかな……。



*****


 

 そんなこんなで入学式が始まった。


 人数が多いので入学者のみ。前世と違って保護者の姿はない。と言うのは、学院そのものが王城の離宮の後宮部分を払い下げられて使用しているので、機密と警備の都合上一般人は入れないんだそうだ。

 元は離宮の建物を改装して使用しているので、入学式が行われる大広間は豪華絢爛の一言しかでない。

 

 その大広間は今、三種類の色に分けられた少年少女でひしめき合っている。


 シルバーグレーの腰丈ジャケットの男子と同色の足元丈ドレス(ただし派手ではない)の制服の女子は総合学部の生徒かな。総合学部はほぼ貴族で占められているのでどの人も上品そうに見える。

 

 濃紺の騎士服タイプの制服は、騎士学部だと思う。銀の剣帯が凛々しい。きっちりしてるけど意外と動きやすそうだ。騎士学部にも女子はいるそうだけど見当たらないなぁ。残念。女子の騎士服見たかったのに……。

 

 そして、深いモスグリーンの制服が我が魔術学部だ。

 魔術学部男子は長めのコートタイプの制服に濃茶のベルトに同色のブーツ。落ち着いた感じだけど着る人によっては地味に見えるかもしれない。

 女子の制服は、膝下丈ワンピースに同色ボレロ、白の飾り襟に深臙脂色のリボンがシックだ。男子と同色の靴は編み上げショートブーツ。動きやすくて可愛い。

 これはどの学部も共通だけど、左袖の二の腕部分には金糸銀糸で学院の紋章が刺繍されている。この紋章は王家の紋章をアレンジしたもので、学生の間の身分保障証代わりとなっている。つまり、この制服なら王城内を歩けるってことだ。許可が出ればだけど。


 

 これから同級生となる生徒達は見知った人たちでグループを作ってる。私のように平民出身のお一人様は見当たらない。サジェのグループなら入れてもらえるかもと探したが、人が多すぎて見つけられなかった。


「あら、一人? セラフィカさん?」

 

 声をかけてきたのは、同室のユリカ嬢、つまりヒロインだ。


「え、そう……です。知り合いいなくて」

「そうね、あなたの身分だとそうなるかしらね。そのうちどこかに入れると思うわ。でも、気をつけてたほうが良いわよ。身分の低い人達を気に入らない方々もいるから。……あの方みたいに」


 ユリカ嬢が指し示した先にいたのは、華やかなシルバーグレーの集団の中に一人だけモスグリーンの制服を着ている薔薇のように艶やかな少女だった。


「あの方は?」

「エルセーヌ公爵のご令嬢、マリアーネ・フラン様。青の公爵(フロワサール公爵)の又従姉妹で、王子殿下のご学友のお一人よ」

「殿下のご学友……マリアーネ様……」


 その瞬間、ガン、と金槌で殴られたような頭痛がした。同時に脳裏に前世の記憶が再生される。


 悪役令嬢「マリー姫」。

 リュスラン王子の婚約者で、王家出身の誇り高い高位貴族のご令嬢だ。薔薇のような赤毛で華やかな容姿をしているはず。


 だけど、目の前のご令嬢は本当にマリー姫なの? 


 彼女は「薔薇のような」赤毛というよりは赤みがかった金髪(ストロベリーブロンド)をしているし、高慢で華やかというよりは上品で綺麗なといった雰囲気を持っている。王家の直系ではなく准王家(フロワサール公爵家)の縁者というのも違ってるし……。


――でも、アーシュも結構違ってたし……。


 この世界とゲーム内の世界では結構齟齬が出てきていると思う。アーシュは「フィリス」ではないし、目の前のユリカ嬢だって完全にはゲーム内ヒロインとは一致しない。

 

 では、あのマリアーネ嬢はやはり悪役令嬢なのか。


――なんとも言えないなぁ。


 あんなに優しそうに笑っている人が、ヒロインを虐めるなんてちょっと考えられない。だけど、この後のユリカ嬢の言葉が私のその考えを否定した。


「まだ、正式に発表はされてないけどリュスラン王子の婚約者はマリアーネ嬢らしいわ」

 



****




 入学式が終わると、クラス選別のための魔力測定がある。

 

 事前の書類審査でだいたいは決定しているのだが、成長期の子供の魔力は変動し易い。そのため、入学後にも何度か魔力測定が行われる。その初回がこの入学直後の測定だ。


 ちなみに、アーシュはこの測定で過去最高記録を出したらしい。聖獣二体の【魔力圧縮】があってそれだから、元はどれだけあったのかな……。


 やり方は属性の判定と魔力量の測定を両方を一辺に出来るという最新式のものだ。魔力の数値もはっきり分かる。


 最初の生徒達が測定機の水晶に手を差し伸べている。

 程なく横の石版(モニターらしきもの)に魔術言語が浮き出た。


『属性【炎】、 等級【上位】、 魔力量 六万』

「あー、この前より低い……」

「魔力量は日によっても増減する。気にするな」


 落ち込んだ生徒に先生が声をかけてた。この学校の平均値は七万ぐらいだそうだから、ちょっと低めかな。でも、魔術師全体の平均って二万ぐらいだからそれに比べたら多いんじゃない?

 何人かの結果を見てたけど大体七万から十万の範囲で収まってる。上限は二十万だけど、そこまでいく生徒は今のところいない。


「次、セラフィカ・アズリ」


 前にでて手を水晶に当てる。


『主属性【光】 副属性【風】、 等級【最上位】及び【中位】、魔力量 十二万』


 うん、ちゃんと魔力圧縮されてるみたい。私の魔力は二十万の限界近かったはずだから、約八万分圧縮されてるってことだね。チーちゃんありがとう。

 ちなみにアーシュは、十八万だったって。単純に比較計算すると約十五万以上も圧縮されてるんだね。今でも少しづつ伸びてるみたいだし。凄すぎる。


「十二万って、魔力高いのね~、セラちゃん!!」

「そんなでもないよ。サジェは終わったの、幾つだった?」

「わたし? 七万五千のど平均よ~」と、なぜだか胸を張った。 


「あ、次あの子よ」

 

 見れば、ユリカ嬢。ヒロインは確か全属性持ちの高魔力のはず。


『主属性【水】 副属性【地】【闇】、等級【上位】及び【中位】【下位】、魔力量 十四万』


――あれ、全属性じゃないの? 魔力ももうちょっと高いイメージあったけど……。これだと「高すぎる魔力を持つ生徒」の設定が崩れる……?


 当のユリカ嬢は非常に悔しいらしく、眉がちょっと寄ってて可愛らしい顔が険しくなってる。


――やっぱり、ちょっとづつ、ゲームと違って来てるなぁ……。


 そんなことを思ってたら、不意に会場に歓声が沸き起こった。


「さすがはマリアーネ様ですわ!」「すげー、マリー嬢」「殿下も惚れちゃうよね」


 石版を見ると。


『主属性【光】【闇】 副属性【炎】【風】【地】【水】、等級【上位】、魔力量 十八万五千』


「全属性の、十八万五千! ……ほんとに?!」


 魔力量、圧縮した後だけどアーシュの記録抜いてる?! しかも全属性の上位魔術使い? どんだけ高スペックなの……。ていうか、こんなにスペック高かったけ、悪役令嬢?


 皆の歓声に薔薇を連想させるマリー姫は、恥ずかしそうにそしてちょっと嬉しそうにしてた。


 ふと気になってヒロインを見ると、ユリカ嬢はらんらんとした目でマリー嬢を睨んでいる。口が動いているから何か言ってるみたい。


(悪役令嬢のくせに)


 歓声にかき消されて何を言ったのかは聞き取れなかった。 




お読みいただきましてありがとうございました。


次回は1月9日を予定しています。よろしくお願いします。


(注)1月11日、本文の誤字脱字を訂正、及び、ユリカの現在の身分を「(ゲームと同様の)貴族の養子ではなく、貴族生まれの令嬢」の一文を加えました。

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