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第14話

事件の終息の回。


今回、ちょうど良く切れなかったので長めです。

 『聖獣』


 守護獣とは似て非なるもの。

 生物の形体を持った精霊が「守護獣」なら、聖獣は「意思を持つ神霊に次ぐ生き物」らしい。

 守護獣がペットなら、聖獣は相棒って思ってもらうと分かりやすい。


 私が契約したのは、『聖獣』である『月光鳥』のチェルシー(チーちゃん)だった。


 チーちゃんが契約してくれたから、私はまだ習っていない【光浄化】の術式を知ることが出来た。チーちゃんに協力してもらえたお陰で、【浄化】でアーシュを解毒出来た。

 多分、【浄化】ではなく【水属性】の【解毒】だったら、あまりに毒が強すぎて深刻な後遺症が残ったかも知れないって、全てが終わったずっと後に教えてもらったことだ。



――よかった……。


 私は多分、今夢を見てる。

 だって、誰も知らないあの曲が流れてるんだもの。

 「月の光」のピアノ曲。降り注ぐ月の光を音にしたあの調べ。

 そしてチェルシーがいつものちいちゃな小鳥ではなく、蒼い月光のようにほのかに光を湛えた、大きな銀の翼に長い青銀の尾羽根を持つ綺麗な鳥になって、得意そうにさえずり私の周りを飛び交ってる。


 チェルシーの言葉はわからないはずなのに、


『心配なんてしてないんだからね』

『黒玉も待ってるよ』

『早く良くならないと許さないんだからね』


 と言ってるように聞こえる。多分だけど、あってると思う。

 チーちゃん、君はツンデレなの? 


 私は、笑いながら彼女に応える。


「チェルシー。ありがとう。あなたと契約出来てよかった……」 



****


「セラ」

 

 まぶたが重い。もう朝? もうちょっと寝ていたいんだけど。

 

「セラ、もう起きようよ」


 ちょっと焦ったみたいなエリー兄さまの声が再び呼ぶ。薄く目を開けると、兄さまの顔が目の前にあった。


「……エリー兄さま? おはよう」

「……! やっと起きた……!! よかった……」

 

 なんと、いきなり抱きしめられた。って、エリー兄さまが泣いてる……。えぐえぐ泣きじゃくってるなんて、信じられない……。


「……う……うぅ……。ずっと眠ってて、もう起きないかと思った……。うぅ……なんで一人で行っちゃうんだよ……。このお馬鹿!!」

「ご、ごめんなさい……」

「もう、お前は直ぐ迷子になるから、外出禁止! どっか行くときは俺が着いてくから! 一人には絶対なるな!」

 って、エリー兄さまの方が、いつも私をおいて行っちゃうんでしょう! それと、もう少し腕の力緩めて? 背中が痛いよ。あ、また、力が強くなった。もう、背骨が折れちゃううよ~。




 もう、三十分はそのままの状態が続いて、ようやくエリー兄さまが落ち着いたのでお互いのあの後のことを話した。


 エリー兄さまは、私を直ぐに追いかけたんだけど、一足遅く私はいなくなってた。それからすぐに使用人が迎えに来て、エリー兄さまは二次被害を恐れる彼等に強固に止められて私を探せなかったらしい。


「でも、エリー兄さまがクロちゃん達に魔石を渡してくれたのよね? ありがとう」

「あいつが行きたいように見えたから。それに、魔石は偶然に買ったものだし……あいつが選んだんだし……くそ、俺のやったことって何もないじゃん……情けねぇ……」


 そんなに落ち込まないで、エリー兄さま。本当にあの時は嬉しかったんだから。


 で、今の状況はと言うと、なんと、私達が発見されてからもう三日が経過してるみたい。

 聖獣の契約で、どうやら魔力を根こそぎ持って行かれた上にずっと緊張状態が続いてた後遺症だろうって、お医者様は判断したようだ。体力が回復したらそのうち目を覚ますってことだったのだけど、エリー兄さま、このまま私がずっと目を覚まさずに死んじゃうんじゃないかと怖かったって。

 私は丈夫なので、そんなに簡単に死なないよ。エリー兄さま?


「アーシュは?」と尋ねたら、兄さま超不機嫌になった。「なんで、あいつを……」

「兄さま?」

「何であいつばっかり……。納得出来ない! 何で、黒玉、あいつと契約したんだよ!! 俺だって欲しいよ、聖獣。魔力が足りないだろうけど! てかさ、あの黒玉が聖獣? 嘘だろ! ボールみたいな笑える見た目のくせに……」


 あー声が完全に拗ねてる……。兄さまもまだ子供なんだねぇ。


「もう、あいつのことは俺は知らない。本人に聞いたら?」

「家にいるの?」

「いる」

「どうして?」

「さあ?」とエリー兄さまは肩をすくめる。「誰も教えてくれないから知らね」





 まだ、拗ねモードを引きずったままのエリー兄さまを追い出して、急いで着替えた。チーちゃんは、と思ったらちゃっかりポケットに入って居眠りの最中だった。私のポケットはあなたの巣ですか? チーちゃん?


 アーシュは客間にいるらしい。駆け足で向って扉を開けたら、いつものように黒玉が飛びついてきた。


「クロちゃん! クロちゃんも無事だったのね。よかった」


 クロちゃんは最後の転移陣で私達とはぐれたままだったから、心配してたんだ。クロちゃん、心配するなって言うみたいにウォンって鳴いた。


「セラ、起きたの?」

 

 元気そうなアーシュの声が聞こえてほっと安心した。

 そして、アーシュに目を向けると。


 なんと、天使(・・)王子様(・・・)にグレードアップしてた!


 ただ、薄茶色の髪が青味を帯びた黒髪(プルシャンブルー)になっただけだよね? 綺麗な顔立ちも優しいブルーグリーンの瞳も全く変わってないのに、何故、”可愛い”というより”凛々しい”って言葉が似合うようになってる……?。


「え、ええ?……」思わず見とれたて固まった。


 動けない私を訝しく思ったのか、「セラ、まだ、具合悪いの? 顔赤いよ、熱あるの?」と寄ってきていきなり額と額を合わせた。

 うっ、熱、今までなかったけど、何だか上がりそうだよ……。


「顔赤いけど、熱はないかな」とほっとした顔をして、私の顔を覗き込む

「よかった。セラが無事で」

「……うん」

 心臓がどきどきするのでもうそれしか言えなかったです……。



 アーシュは、私よりずっと早く目が覚めたようだ。後遺症もなく、彼を苦しめた魔力飽和も『聖獣(クロちゃん)』のお陰で通常値まで下がったらしい。


 『聖獣』を得ると契約者は様々な特技を習得出来る。契約時に魔力を大量に持っていかれる特典みたいなものかな。

 例えば、私は【光魔術】の最上位魔術の術式が組めるようになったし(”術式が組める”のと、”魔術が使える”のは違うというの前に説明したと思う)。まだ、その聖獣特有の【固有魔術】、私の場合は【広域治癒】とか【広域結界術】。その他、契約者の魔力を消費して、彼等も魔術を使える。(クロちゃんが使った『雷放電(プラズマ)』がこれ。あの時のアーシュでは展開するのは不可能だ)

 それらの中に、特に重要そうには見えないけど本当は尤も必要とされている特技がある。

 それは【魔力圧縮】だ。魔力を圧縮させ本来の量より少なくして魔力飽和を防ぐ、高魔力持ちには願ってもない能力だ。


 「僕の場合は黒玉君……「ガウッ」ごほごほ……クローヴィスと契約して余剰魔力が無くなった。もう魔力飽和はないと思う」

「クロちゃん、クローヴィスって名前にしたのね。可愛い」

「君は? 契約したんでしょ?」

「うん、したけど……。アーシュ、なんで知ってるの? 誰かから聞いた?」


 チェルシーと契約した時にはアーシュの意識はなかったはずだ。


「誰にも聞いてないよ。でも、分かる」といって、アーシュは私の髪を一筋掬い取る。

「セラが契約したのは分かるよ。髪が色変わりしてる」


 彼の手にある私の髪の色は……青っぽい銀色をしている……。


「色変わり……?」

「セラは知らないかな? 『聖獣』と契約すると、身体のどこかにその色を宿すんだって。特に瞳と髪に出やすいみたいだよ。僕は最初の時は目の色だったし、今回は髪かな……。君は髪にでたんだね」

「アーシュ……私の髪、何色?」

「うん? 綺麗な蒼月(ブルームーン)色だけど」


 もう、母さまの髪色じゃない?


 そこにあった姿見に自分の姿を写した。母さまとは似ても似つかない寂しい色味のちびの女の子が映ってる。


「……母さま……いなくなった?」

「セラ? どうしたの」


 ショックを受けてる私は、彼の声が耳に入らない。涙を堪えるので精一杯だ。

 おろおろと私を宥めようとするアーシュを、いつのまにかそこにいた父さまが遮った。


「悪いが、アーシュ君。少し外で待っててくれ。 ああ、気にしなくていい。君のせいじゃない。私にまかせてくれるかな」


 アーシュは振り返りつつクロちゃんと連れて出て行った。






「さて、私の可愛いお嬢さん。なんで泣いてるのか、教えてくれるかな?」

「――アーシュのせいじゃないの……」

「それは、わかってるよ。彼はいい子だ。人の心を傷つけるような事はしない。でも、君は悲しいんだよね。それはどうして?」

「……私……髪が」

「うん?」

「母さまの髪がなくなっちゃったの……」


 私と母さまはそれほど似ていない。二人を繋ぐものは同じピンクブロンドの髪だけだった。

 

 抱きついて声を上げて泣き出した私の背中を父さまは優しく叩く。

 ひとしきり泣いてようやく心が落ち着いた頃、父さまはつぶやいた。


「セラはセシリアそっくりだよ。優しい所も笑顔で思いしないことをやってのけるところも、ね。」

「父さま……。母さまみたいに綺麗な髪に……母さまみたいな素敵な人になれなくてもいい? 好きでいてくれる?」



「もちろん、今の髪も綺麗だよ。私は好きだ、今のセラがね」



*****


 次の日、私はアーシュを探してた。


 あの状態で追い出されたアーシュが傷ついてないか心配だったから。彼のせいじゃないのに。

 やっと見つけた彼は、図書室から中庭をぼんやり眺めてた。


 彼がこちらに気がついたので、すぐに謝る。


「昨日はごめんね。……あの、アーシュのせいじゃないの」

「うん……分かってる。僕もごめん、いろいろ気が付かなくて」


 彼が笑って許してくれたのでこれでお終い。それでいいよね。


「何見てたの?」と訊くと、彼は首を横に振った。


「別に、何も。ただ、いつもすることないと、こうやって外を眺めてたから」

「そっか……外、好き? 遊びに行きたい?」

「そうだね……行きたいけど」

「じゃあ、行こう、兄さまも誘って」

「……いいの……?」

「もちろんよ」


 そう答えたら、アーシュは本当に嬉しそうに微笑んだ。

 そして、両手で私の手を優しく握る。


「セラ。あの……僕と……友達になってくれる?」


 一瞬、彼が何を言ってるのかわからなくて馬鹿みたいに口をあんぐり開けちゃった。だって、私たち、もう友達だよね。


「もちろん。アーシュは友達だよ。これからも一緒に遊ぼうね」

「うん……これからも……一緒にね」




◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆




 その夜、アズリ邸の主人の執務机に分厚い書類が置かれた。主人テオドール・アズリはそれに目を通した後、深くため息をつく。


「では、少年は間違いなくレドヴィック伯の次男なのだな」


 この家の魔術教師を勤めている青年は、無害そうな平凡顔に僅かに嘲笑をにじませる。


「『円環の蛇』の契約者メルローズの息子にして受け継ぎしもの。『聖獣』を持ってなお魔力飽和を起こす高魔力保持者。なのに、その存在を誰も知らないのは何故なんでしょうね」

「魔力測定の義務すら果たしてないとはな」

「ネグレクトですね」


 彼らは少年の保護者であるレドヴィック伯に何度も連絡をいれたのだが、未だに返答はない。おかしく思い調査をすすめると短期間で様々な実態が明らかになった。

 かの少年の母は後妻で三年前に死亡。父親はもとより親子には無関心。長男とは折り合いが悪く、使用人も主に倣い少年に対してほぼ無接触の状態が続いていた。


「彼、エリーさんと同じ年のはずなんですがね。どう見てもセラさんより大きく見えませんね。一時は、リュスラン殿下の側近候補にも名が上がったのですが、このありさまでは……。うやむやの内に話は流れたようです」

「まったく、幾らレドヴィックの【闇属性】を引き継がなかったとは言え……。これほどの才能を有するものを……」


 ふふふ、と魔術師は笑う。


「いいえ、むしろ幸いです。『二聖の聖獣使い』の上、手付かずのまっさらな人材。むしろ、よく放っておいてくれたと賞賛したいですね」

「……他のやつには絶対言うなよ。品位が疑われるぞ」


 アズリ家当主は身震いする。優秀な後輩であるこの魔術教師には時々心底薄ら寒くさせられる。


「……ですが、ちょっと気になる点もございまして」

「何か?」

「少年は【隷属の鎖】を受けていた痕跡があります。どの程度なのかは、セラさんの【光浄化】で解除された為判断出来ませんが」


 【闇魔術】の精神操作系魔術の多くは禁術指定になっている。その中でも【隷属の鎖】は人から意思を奪い、命令に従う人形にする最上位の魔術だ。


「誰が、そんな危険なものを」

「少年の状況を鑑みまして、内部の者の可能性が大きいですね。ましてや、【闇魔術】のレドヴィック家、彼等の中に術者はいるでしょう」

「普通、自分の家族を人形にするか? 胸糞悪い」

「一旦は解除されたものの、今後どのような影響があるのか測りかねますし、このままレドヴィックに帰したら少年の身が危険です。母方の縁者に、ブルムスター伯の名がありますので、かの御仁に相談されるとよろしいかと」

「分かった、早々に繋ぎをつけよう。あとは、任せる」

「お任せください」



◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆



 

 誘拐事件から一ヶ月後。

 王都から『渡りの森』に帰ってきたのだけど。



 何故かアーシュも一緒だった。

 アーシュの大伯父さまがフロワサールの駐屯騎士団の剣術指南役になったので付いて来たんだって。

 住むのは家からちょっと離れた騎士舎の寮らしいけど、魔術の勉強とか剣術とかは私たちと一緒に習うらしい。

 

 ちなみに、アーシュの大伯父様、ブルムスターのおじ様は、現在は引退してるけど名高い騎士様らしく、剣に関してはかなり厳しい指導者で有名なんだって。話を聞いたエリー兄さまが「今度は剣術の鬼教官(スパルタ)かよ」って青くなってた。


 エリー兄さま、頑張ってね!!



主人公視点はここで一端終わりです。

後二回ほど別視点が入り、幼少時編が終わります。



お読みいただきましてありがとうございました。

第15話、第16話は25日、26日の午前0時に投稿予定です。






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