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第12話

遅れてすみません。

予約投稿に失敗しました……。

 


 もう、どのぐらいこうしてるんだろう。

 ほんの十数分かもしれないし、何時間もたってるかも知れない。


 アーシュはこんこんと眠ってる。

 時折、酷く苦しそうない気遣いのアーシュを、ただ見ているしか出来ない。

 だけど。溜まっていた涙を乱暴に拭って、頬を引っ叩いた。


「何やってるんだ私。泣いてないで、考えろ! ここから二人で無事に帰るんだから!!」


 そう叱咤して、深呼吸をしてもう一度当たりを見回す。

 月の光がこぼれてる小窓は、大人では通り抜けられない大きさだけど、ちびの私なら抜けられるかもしれない。あそこまで届けば。

 膝からアーシュの頭を静かに外し、放置されていた衣装箱を引っ張って窓に寄せる。重いけど動かせない重さじゃない。

 それに乗って精一杯手を伸ばす。両手に手枷が付いたままだから難しい。

 僅か、本当に僅かに手が届かない。


――もう少し、届いて!


 後少し、と思った途端にバランスを崩して床に転がった。

「痛い!!」


 外から慌ただしく近寄る音して、「煩い!」と怒号と共に外から部屋の扉を蹴りつけた

 心臓はどきどきしていたけど、そのまま声を抑えて身体を丸める。幸いにも、それ以上踏み込んでくることはなく、程なく足音は遠くなった。


 ほっと息を吐き、再び木箱にのってもう一度挑戦だ。

 手を伸ばす……。届かない。もう一度。

 何度も繰り返しても、最後の数センチが届かない。

 どうして、もう少しなのに。


 挫けかけたその時。私の頭めがけて”何か”が吹っ飛んできて、勢い余って私を巻き込んで倒した。

 あ、こんな大きな音立てたらまた怒りに来る、そう思ったけど今度は何も起こらなかった。ほっと息をつく。

 その私に、小さな鳥が飛び込んでくる。青銀色の羽はチーちゃんだ。でも、何で?


「えっ、チーちゃん? 何でここに……って……クロちゃん? 何で嵌ってるの!?」

「キュゥゥン……」


 誇らしそうに私の頭上を周回しているチーちゃんとは対照的に、クロちゃんは小窓にお腹の所が引っかかって耳を垂らして情けなそうに鳴いてた……。

 その後、無理やり身体をゆらしながらずらして、何とかポン、って音を立てて抜けて、地面で二三回弾んだよ。

 帰ったら絶対ダイエットしようね……クロちゃん……。



「何で、君たちがここにいるの?」

 と聞いたら、クロちゃんが私のポケットをツンツンと突き、その後顔を上に上げて首輪を見せた。そこには、白い石が括りつけてあって、すぐにそれが市場(マルシェ)で買ってもらった魔石だと分かった。確か、これ、双晶で引き合うから迷子の時に使えって言われてたっけ。


「そっか、エリー兄さまが持たしてくれてのね」


 やっぱり見つけてくれた……。エリー兄さまはすごいなぁ……。


 クロちゃん、動かないアーシュが気になる見たいで、何度も匂いを嗅いでいた。


「クロちゃんもわかる? アーシュ、具合が悪いんだ。どうしたら良いと思う?」


 答えを期待したわけではない。ただ、ずっと一人で抱えてたから、少しだけこぼしたかっただけだ。

 だけど、クロちゃん、ちょっと首を傾げてまた私のポケットを叩く。


「何? ここには魔石の片割れしか入ってないよ……」

 再び、トントン。

「この魔石に用があるの……。あれ? そういえば、これって、魔石……だよね……。まだ術式刻む前の……ってことは……」


 術式の刻んでいない魔石は、いわば”電池”のようなものだ。魔力封じの枷のせいで魔力が使えないなら、これで代用出来ない? 元々魔石って、魔力がない人が魔術を使うためにあるんでしょう? なら。


「……ありがとう、クロちゃん。試してみる」


 小さな魔石が二つ。失敗は許されない。使う魔術は【魔力放出】と【解錠(アンロック)】。順番も考えないと……。


 私はアーシュの手を取って、魔石を握り、術式を紡いだ……。



*****



 先ほどまでとは違い、アーシュの呼吸は大分楽になったようだ。よかった……。

 術式を展開してから少しして、アーシュは目を覚ました。


「……ここは……?」

「アーシュ、目が醒めた?」


 彼はまだぼんやりとした表情のままだ。そこか焦点があってない瞳で、私を見てる。


「セラ……? ほんとに?」

「うん、私」

「……ずっと……そばに居てくれたの?」

「うん、居たよ」

「……夢だよね、きっと。今までのはみんな……夢?」

「……違うの……ごめんね。私たち、まだ捕まったままなんだ……」


 そう言ったら、アーシュ、涙をながした。嬉しそうに微笑みながら。


「そっか、夢じゃ……なかったんだ……夢じゃ……」


 天使が泣いてるなんて思いもよらなくて、私はちょっと驚いて暫く声が出せなかった……。




 彼がようやく落ち着いて、私たちが話し合えたのはそれから体感で三十分ほど立った頃だった。

 アーシュは起き上がれたけど、まだ少しふらついてる。結局、彼の魔力飽和状態は完全には解消していない。私の術式では一時的に彼が動ける位にまで放出させるのが精一杯だった。


「魔石は使いきっちゃったけど、最後の最後で【解錠(アンロック)】が上手くいったから、何とか二人とも手枷外せた。魔術も使えるよ」

「そうか……ありがとう、セラ。黒玉くんも……小鳥さんも」


 あー、忘れてた、アーシュにはクロちゃんたちの名前教えてなかったんだ……。ごめん、クロちゃん、チーちゃん、怒らないで!


 で、二人でこれからどうするかを話したんだけど。

 本当は、助けが来るのを待っていたほうが良いのかも知れない。私達は子供だ。何にもできないばかりかむしろ足手まといだ。

 でも、私にはそうすることは出来ない理由がある。


 (アーシュ)攻略対象(フィリス)だ。ということは、今のこの状態は、これは彼の幼少時のトラウマイベントということになる。私は、このイベントだけは、どうしても発生させたくないんだ。だって、このイベントのせいで、「フィリス」はこの先十年も一人ぼっちで苦しむんだよ。何もしないで彼を一人にしたくない、絶対に。


 だから、無謀だって分かっていながら脱出を希望した。

 アーシュは黙ったままだった。けど、最終的には承知してくれた。


 アーシュが、扉に向けて、腕を伸ばした。彼の腕にある青緑色の腕輪から、また澄んだ高音が響いた。


――また、聞こえた。


「アーシュ、それ魔術じゃ……?」

「うん? さあ、そうなるのかな……僕にはちょっとわからないけど……。怪しい術じゃないから今は気にしないでくれる?」

「……うん、分かった」

「ありがとう。……ここは、半地下だね。他にも部屋がたくさんある……。見張りは独りだけ。一階に抜ける階段の横にいる……、あ、今動き出した。……ゆっくり地下を見回りしてる……」


 ああ、だから二回目こけた時には怒りに来なかったんだ。でも、アーシュ。まるで見えてるみたいだよ。凄いね、その魔術。


「できるだけ見つからないようにする。……ごめんね、セラ。僕にはこれしかできない」

「十分だよ。お互い気をつけていこうね」






「【解錠(アンロック)】」

 

 カチリと音がして鍵が開いた。そっと扉を開ける。

 当たりは真っ暗で誰もいない。指先に【灯火】を灯し、チーちゃんを肩に載せ、アーシュの先導で歩いて行く。


 アーシュが「隠れて」と言ったので、脇道に隠れると目の前を男が通り過ぎていく。


「逃げたってばれないかな?」

「何もなければ通りすぎると思うよ。暫くは大丈夫じゃないかな……」


 それから、階段を上りまた隠れながら見張りを躱し、何とか進んでいく。アーシュの指示は的確だ。

 

 外へ抜ける扉は大広間の前の通路を抜け、エントランスに言った先にある。

 大広間は、どうやら大勢の人間が集まっているらしい。

 足音一つさえ立てられないほど緊張しながら、私達はエントランスにたどり着いた。その先は、これまでと同じように隙を見て逃げるだけ。

 そう、一息ついた時。


「きゃあぁぁ」

「セラ!」


 二人同時に身体ごと後方に引きこまれた。


 私の胴体を首には太い大人の腕が巻きついて、持ち上げられている。

 アーシュの鼻先には剣がつきつけられていた。


「坊やは動くな。動くとお姫さまが傷つく。ペットも大人しくさせろ」


 言われて、クロちゃんは低く唸り警戒態勢をとったまま動かなくなった。

 

「子供だと思ってたけど、意外とやるじゃないか? どうやって手枷を外したんだ? なぁ、レドヴィックの天才児」

「……それは……僕じゃない……」

「そうか? レドヴィックの家風にあわない”鬼子”がバカ高い魔力を持ってるつう噂は、お前じゃないのか?」

「……そんなの知らない……」

「まあ、いいさ。あんまり上手く出しぬいてくれたから褒美に見逃してやろうかとも思ったんだがな、お前だけはそうはいかねぇんだ。悪かったな」

「……」

「そうだな……。ちょうど酒も女も飽きた。お前ら、俺を楽しませろよ。それ次第じゃ、お前の言い分も聞いてやらんこともねぇぜ」


























お読みいただきましてありがとうございました


明日23日午前0時に投稿予定です……。

今度は失敗しないように注意します。



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