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第9話

エリー視点その二 です。

 俺はずっと家に閉じ籠もってるのは苦手だ。

 勉強の魔術の練習もそれなりに楽しいけど、それがずっと続くのは願い下げだ。でも、飽きたら脱走する。目の前にはちょうど良く感じに危険(・・)な森があるし。奥まで行かない入り口付近で危ないと思ったら逃げてくる。

 って感じで何回か繰り返したら、使用人達の監視の目がキツくなった。最近では、脱走する前に捕まってしまう。……対策考えとかないとな……。


 それに比べてセラはと言うと。


 これがまた大人しいんだよな……。「敷地の外は危ない、一人で出てはダメ」って言いつけをちゃんと守っている。息がつまらないかと兄さまは心配だよ。




 

 その日、セラの姿が見えなくなった日は、何故か魔素が乱れる”騒がしい”日だった。


 授業は先生方の不在と不調でなくなったのはいいが、俺はもはや恒例となりつつあった「脱走」の為にキーラ達の目を掻い潜り作戦を実行していて、逆にそのため余計に監視が俺に集中し、結果として俺たち全員、セラがいないのに気がつくのが遅れた。


 一番最初に気がついたのは、幸運にも俺だった。

 セラの、どこか青い月の光に似た魔力の”色”の残滓が、あいつが絶対近づかない森の方に流れていってるのが見えたから。


 


 俺の目は、”精霊”による”加護”を受けていて、この世界にあふれる魔力や魔素、魔獣たちの淀んだ瘴気、みたいなものが形のない”色”として視える(・・・)


 最初にそれに気がついたのは、最初の課題で氷室に行った時だ。

 何がどうやって切り替わったのか覚えてないが、目の前の光景が一瞬で違うものに変化した。

 青系統と銀色の、様々な明度と彩度を持った形のない塊がそこら中に渦巻いてた。後からそれは【水】と【氷】【風】の魔素だと分かったが、突然のことに驚き、情けないが気持ちが悪くなって、食べたもの全部戻した。ああ、課題はなんとかこなしたよ。そこだけは誇れるかもな。


 色が様々に入り混じってグチャグチャな光景。これが本当に”精霊”の”加護”なのか、そもそも”精霊”ってなんだと、そのからずっと疑問を持ってる。根本的な事は良く分かっていないが、俺の”目”はとにかく普通でないものを捉えられる。便宜上【異能】の【感知魔術】と言っているが、全然別物だ。


 その俺の”目”が、セラは森に行った事を視た(・・)


 あいつが黙って”森”に入った? あり得ない。セラはそんな子ではない。

 では、何故、セラの魔力が”森”につながっている? セラの意思ではなく、誰かに連れ去られたのか。


 助けに行かなければならない、と思った。

 

 大人に頼るべきと一瞬頭を掠める。その方が安全且つ確実だ。

 でもそうしたら、さらに大事になりあいつは叱られる。そして、平気そうな顔をしながら人知れず傷ついて悔やむんだ。

 だから、俺一人出迎えに行こう。あいつを探して連れ帰って「俺が連れだした」って言えば、あいつの罪は軽くなるから。咄嗟にそう決めた。







――後からよくよく考えれば愚かな判断だったと思う。よく無事にセラを連れ帰れたと思うよ。




****




 セラの魔力の”色”を追って「森」に入った。

 

 一歩足を踏み入れて、気持ちが悪くなって視るのを止めた。魔素が濃密且つ撹拌されたように飛び交っていて軽く気持ちが悪くなったからだ。視覚酔い状態になるなんて、マーク師から制御を教えてもらって以来だから随分久しぶりだ。


 落ち着くまで目を閉じ、深呼吸を繰り返すして、ふと気付く。

 静かすぎる。自分自身の呼吸音しか聞こえないなんて、普通じゃない。


「―――なんだ、これ?」


 『渡りの森』が、普通の森ではないのは知ってる。それでも、こんな異常さはなかったはず。


――やばいかも。


 急いで【風壁(ウィンドウォール)】を張る。空気の壁を作り、振動を最小限に抑え気配を薄くする。 こちらの気配を知られない方が良い、と何の根拠もなく思った。

 そして先ず一つ目の【標の石】を置く。迷子を探しに行って迷子になったら洒落にならない。


 時々、視覚を切替えて視ながらセラの魔力を辿り一時間ほど歩くと、小さな窪地にでた。元は多分池か何かがあったのだろう。ジメジメとして薄暗い。

 その真中に、魔素が直径2メートルほどの円になってグルグルと渦巻いてた。

 魔素がこういう状態になった事を一度視ている。あれは、駐屯騎士団に常設された”転移陣”の使用後だった。


――「転移陣」が使われた? こんなところで?


 よく見ようと一歩近づいた時、【風壁(ウィンドウォール)】に何かがぶつかり跳ね飛ばされる。そのまま、地面に叩きつけられた。


「いってぇ」


 大部分の衝撃は【風壁(ウィンドウォール)】が吸収してくれたからさほど怪我はないが、その衝撃で術式が途切れて【風壁(ウィンドウォール)】は消えた。


 ぼとり。


 何もない空間から茶色の物体が現れた。咄嗟に【風剣(エアブレイド)】を形成してなぎ払う。体液を撒き散らしながら物体は二つに分かたれる。

 体液が付いた場所の草は、じゅう、という嫌な音を発して溶けていった。


「何だよ、これ!?」


 汚れた黒い魔素、魔獣を形成する力によく似た”色”が当たりいっぱいに現れだした。幸いに、不意さえ付かれなければ奴らの動きは遅い


「蛞蝓かよ!!」


 三十センチほどの巨大な蛞蝓。切り裂けば体液が飛び散って当たりを溶かす。なら、【炎魔術】で焼き尽くすしかないが……。


――森の中で火って、まずいだろ。火事になったら大変だし。


 仕方がない、ここは退散しよう。


 【風壁(ウィンドウォール)】を張って慌てて、その場を逃げ出した。


*****


 それから。


 やっとセラの確実な”色”を掴んだのは、森に入って三時間もたったか。

 青銀色のセラの”色”を辿っていくと、かすかに明滅する【光魔術】の”色”が視える。見覚えのあるそれは、セラのアレンジ魔術【ホタル】だ。だが、同時に無数の”黒い色”を伴った魔獣の気配も。


――魔獣に囲まれてる?


 セラの所に行くまで、目の前に群がる魔獣を【風弾(エアブリッド)】で打ち抜き、【水刃(アクアカッター)】でなぎ払い。やっとセラを視認できるところまで行き、助けようと【風刃(エアスライサー)】を放とうと――したはずだったのだが。




「百本なんて、いやっーーーーーーーーー!!!!」」


「――え?」




 セラカラ溢れだした光が俺ごと魔獣を吹き飛ばした。









****







よく寝てるなこいつ、と思いながら


「セラ?」


 気を失ってたセラがもぞもぞ動いきだした。


「……セラ、気がついた?」

「兄さま?」

「怪我はない?」


 虚ろだった目がいっぱいにひろげられる。


「兄さま!! …ム、ムカデのお化けが………蟲がたくさん…いやっ」


「はいはい、とりあえず落ち着いこう、セラ」


 パニックを起こしたセラを抱きとめて、背中をあやすように叩く。


「もうムカデなんていないよ。というか、この辺りに魔獣いないんじゃないかな」

「……ほんと」

「うん」

「エリー兄さまが助けてくれたの?」

「う~ん。そうだと俺恰好良かったんだけどさ。セラが自分で吹き飛ばしたの」

「えっ」

 

 ついでに俺もな。え? なんて可愛く驚いても知るか。


 おい、そこの黒ワンコ、噛むんじゃねぇ。また、教育的指導受けたいのかよ。



「で、話戻るけど、セラが気にしてたムカデって、そいつだろ」

「なんで、バラバラ?」


 こっちが聞きたいよ。あれ、攻撃魔術か? 結界か?

 【風壁(ウィンドウォール)】は空気の壁で攻撃を跳ね除ける。

 【光結界】は光の壁で魔獣を寄せ付けない。でも、弾き飛ばして滅殺する効果なんてあったっけ? それに……俺は魔獣じゃないぞ。



「俺もさ、よくわからないんだよな~。なんか、森が変だったから来てみたらセラがいて、ムカデの魔獣に襲われてたから助けようとしたら、俺ごとバァーンって飛ばされた。周りにいた奴らは粉々か散り散りって感じでさ。で、一番近くのムカデはこうなった」

「……」

「魔獣以外はなんともないから、【光魔術】だな。結界術?」

「……私、そんなの習ってない……」

「だよな、俺もしらねぇし。俺は【風刃(エアスライサー)】で首落とそうとしたんだけどさ、ここまでバラバラには出来ないなー。結構センスあんじゃね、セラ」


 本当に思いもつかない魔術と使ってくるよな、お前は……。



 その後、セラから今日の経緯を聞き頭を抱えた。この黒玉ワンコに呼ばれたって? そんな話、誰が信じてくれる? って俺は信じてるけどさ。こんなわけのわからないのにに引っかかっちゃってお馬鹿な妹だよ……。

 

 そして、どうやら腰が抜けて動けないセラを背負って帰路についた。


 俺が帰り道確保のために置いていた【標の石】をみて、セラは感心していたな。探検の基本だぞ。知りたいなら後で教えてやるよ。


「兄さま、ごめんね」


 途中、すっかりしおらしくなったセラの小さな声が聞こえた。俺は、苦笑交じりで応える。


「いいよ。帰ってから、一緒に怒られような」



―――お前が無事で笑っていてくれればそれでいいんだよ。







****





 その夜、偶然俺は父と師の密談を聞いてしまった。



『……森の内部で使用後の転移陣の痕跡が発見されました』

『追えるか?』

『残念ながら、【即時消去】の術式も組こまれておりましたので。もう少し時間が早ければなんとかなったのですが』

『例の奴らか?』

『恐らくは』

『……”梟”に警戒を強化するように連絡を入れろ』

『了解しました。それと、こちらは”例の者”とは関係ないと思いますが、転移陣の影響からか幾つか空間がねじれて高レベル魔獣が入って来ているようです。また、セラさんが保護した犬と鳥ですが……どうやら異なる空間より引きづりこまれたのではないかと推測されます』

『魔獣ということか?』

『いいえ、瘴気は確認しておりませんし、少なくとも鳥の方はセラさんの魔力に反応しておりますので、魔獣ではなく、どちらかと言えば、守護獣に近い生き物の可能性が高いですね』

『……未確認の守護獣の……形体からすると、幼生か?』

『断定はできかねますが恐らくは。この異空間と森がつながったままかは、今調べさせておりますので。調査のためにも『森』の出入りは暫く禁じてください。エリーさんも当分近づかけないように細工致します』

『……あれの悪戯にもほどがあるからな。徹底的にやってくれ』

『承知しました……。しかし……まだ先王が亡くなって二年しかたっていないうちにこれですか』

『……まだ、先が見えてる分まだましだぞ』

『全くですね。あと十年、なんとかもたせませんと』

『……あの子に押し付けるのはしたくないのだが』

『”押し付けたくない”、”誘導も嫌”、”だけど選んで欲しい”とはどこのわがまま娘ですか、先輩?』

『仕方がない。それが一番だ。見極めるのはあの子だからな』

『お人好しですね、先輩』


エリー兄さまはかなりのマセガキです(笑)

次回から主人公視点に戻ります。






お読みいただきましてありがとうございました。

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