プロローグ
初投稿です。よろしくお願いします。
薄暗い通路の中、幼い少年と少女の笑い声が響く。
「ははは……ほら、こっちだよ。はやくおいで」
「まって」
彼らの足音に反応して、埃の積もった火灯が次々に光を宿していく。
柔らかな光に浮かび上がる幻のような、それ。
「すごいです……」
少女は賞賛の声をあげた。
「だろう? でも、まだまだ、めずらしいものがあるんだ。ほら、こっち」
金色の髪の少年は誇らしげに応え、また足を止めがちの少女に焦れたのか、彼女の手を取り強引に引っ張っていく。
「……ころんじゃうよ。おにいちゃん。ゆっくり、ゆっくりよ」
少女は戸惑い窘めながらも、楽しそうに笑っている。
やがて、彼らは古い小さな扉につき、鈍く光る取っ手に手をかけた。
カチャリと鍵が解かれ、重たい音を立てながら扉が開いていく。
「ほら、あれ。……が、見たがっていたのだろ?」
少年が自慢そうに指差した。
その指先には、ステンドグラスからこぼれ落ちるとりどりのやわらかな光。
光の中央に、澄み切った透明な水晶の、その中に封じられた一冊の古い本。
「これが……おーじさまとおひめさまのごほん?」
「そうだよ。”ちかいのしょ”っていうんだって」
――こんなふしぎなものはじめてみた。
――ああ、私はこれを見たことがある。
少女の頭の中で、二つ思いが交差する。
「ほら、さわってごらんよ。ここにこうして……」
少年の声が遠くなる。少女の耳にはもう届かない。
少女の瞳に映るのは、今ここにはあらざる光景。
頭の中に渦巻き反響する大勢の人の声、顔、姿……。
薄ぼけたそれはやがて鮮明さを増し。
衝撃と共に少女の脳裏を冒し始める。
金色の光の中に佇む青年が。
『……俺だけを見ていろ……』
銀色の髪の青年は物憂げに髪をかき上げ。
『……もう……離しません……』
炎のような彼には固く抱きしめられて。
『……お前を守らせてくれ……』
翠色の瞳を愛おしそうに細められ。
『……僕の側にいて……』
ああ、私は彼らを知ってる
でも、わたしはかれらをしらない
――あれは、誓いの書。
――だいじなやくそくのほん。
わたししらない。
ここは、わたしのせかいなんだ
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆◇◇
「これは……」
「まずいですね……限りなく」
「……起きてしまったのは仕方がない。隠せ、可能なかぎり」
「了解しました」
「……まさか、今、この時にこんな事になるとは……。先が思いやられるな……」
「それでも、私達のすることは一つですよ……。我らは見守るだけですから……」
「……そう、もはやそれしか出来まい……。後は”天のみぞ知る”……か」
ありがとうございました。