クレヨンの怪獣
世界が巨大な怪獣に襲われている。
明るい緑色で塗りつぶされたカラダ、
黄色いトサカと黄色い背びれ、
わざとらしいほどにとがった歯、
白い三角形を黒でふちどった目、
赤とオレンジと黄色の雑な炎をクチから吐く。
怪獣は、クレヨンで描き殴った子供の落書きそのものだった。
二本の後ろ足で立ち上がって前足をたらしぎみに立っている、その姿だけならかわいげもあった。
だが、怪獣はあまりにも巨大すぎたのだ。
地を裂き山を砕き海を燃やす、すでに世界中が甚大な被害をこうむっている。
怪獣にとっては歩き回っているだけだが、地球規模の凶悪な破壊活動以外のなにものでもなかった。
そうなってしまうともう放っておくことはできない。
落書きの怪獣は人類の敵だ、という意識を作り上げ、多くの国々が陸海空を問わず全勢力をもちいて戦いを挑んだ。
現存の武器はなにひとつ通用せず、ことごとくが敗戦を喫した。
いまだに攻撃を続けているが足止めにすらなっていない。
絶望的なチカラの差を思い知らされた人類は諦めるしかなかった。
そんな人類対落書き怪獣の戦いを、テレビ越しに見ている。
どうみても下手な冗談かなにかにしか見えない。
ボクはコタツに座ってみかんを食べていた。
一度、うちの近くを通ったらしい。
寒くて外に出たくなかったため直接怪獣を見たわけではない。
『すこし揺れたかな』程度の振動と、カビの生えた鏡餅から橙が落ちたという被害しかなかった。
みかんの最後のひとかけらを食べながらティッシュで手を拭う。
報道番組では朝から晩まで怪獣のニュースしかながれていない。
特に目新しい情報もなく、さすがに見飽きていたためチャンネルを変える。
何度も変えていくうちに、見たことのない芸人が件の怪獣のつまらない物真似をして、それにあわせた馬鹿みたいな笑い声の付いた映像へと切り替わった。瞬間、ボクはテレビを消した。
寝転がり、座布団を枕にして肩までコタツへもぐりこんだ。
すると、すぐに睡魔が襲い掛かってくる。
朦朧とした暖かい夢うつつの中で、ふと思い出す。
あの怪獣の絵は、ボクが小学校のころに同級生だった女の子にあげたものだ。
当時流行っていたアニメに出ていた怪獣を図工の時間にクレヨンで描いていたとき、隣に座っていた彼女が「欲しい欲しい」とせがんできたのだ。
その後一月も経たないうちに体調不良を理由に彼女は学校へ来なくなった。それ以来一度も見たことはない。
怪獣は元気なようだが、彼女は今も元気なのだろうか。
以前にも寝る前にこのことを思い出していたような気がする。今まですっかり忘れていた。
目が覚めたとき、彼女のことも怪獣の落書きのことも、きっと忘れているだろう。
ボクは心地よいまどろみにつつまれながら彼女の現在の姿をクレヨンで思い描いていた。




