ある少女の、夢の話し
興味を持ってくれた方、誠にありがとうございます。この作品は少々暗い内容なので、ご了承のうえ、お読み下さいませ。
―――青空はいつだって遠くて……。
届くことはない……私の夢。
◇ ◇ ◇
輝く海辺。
頬を撫でる、柔かな風。
ふりしきる雨、真っ白な雪……。
全て、私には無いもの。
例えば土曜日の午後も、日曜日のあったかさも……。
私には遠すぎた……。
私に与えられたものは、白いベッドと白い天井。
1つだけの窓と、徐々に弱っていく体……。
たった、これだけ。
これだけの為に、私は他の全てを失った。
どんな病気なのか、それすらも知らず……。
いつ尽きるとも解らない命を抱え、日々を恐怖し生きている……。
最初はただの検査入院のつもりで……。
行ってきますって家を出て……それが、最後になった……。
たぶん、もう、家には帰れない。
医者と両親の態度で、なんとなくそう思った。
重ねてきた15年も……美容師になる夢も……。
『死』の前では、無意味に変わった。
そうして生きる意義を失ったその晩。
私は、一人病室で泣いた。
◇ ◇ ◇
ある春の日……。
私はいつものように、窓から外を眺めていた。
特に何を見ているわけでもなく、ただ『外』を見ていた。
なんの感傷も、感情もなく……ぼんやりと……。
過ぎていくのは静かな時間だけ。
そこには楽しい思い出も、心に響く感動もない。
言うならば、限りなく無意味に近い平和。
人間は慣れる生き物だって、誰かが言ってたけど。
確かにその言葉は的を得ているなって思った。
だって、何もかもが白いこの部屋は、とても普通とは言いがたい。
けれど、いつの間にかその異質の空間は……。
私の日常に、為り果てていた。
◇ ◇ ◇
ある春の日。
自分で起き上がれなくなった今でも、私は窓から空を眺めている。
それは、介護用のベッドを操作するのにも慣れた私の日課。
空は一面の青で、雲の白さとのコントラストが映えていた。
流れる風や、暖かい陽の光を感じる事は出来なかったけど……。
その時だけは、今の現実を忘れる事が出来たから。
だから、私は夢想する。
いつか、あの空の下を歩く。
たとえそれが叶うことのない望みだったとしても。
願わずには、いられなかった。
◇ ◇ ◇
ある夏の日。
蝉の鳴き声を、窓越しに聞いていた。
どことなく寂しさを含んだその歌は、一瞬を生きるモノ達の叫びなのだろう。
首を動かすのも辛いけれど……私は外を眺める。
光に満ちた世界を夢見て。
◇ ◇ ◇
ある夏の日。
流動食すら禁じられ、私の口は役目を終えた。
腕に繋がれた細いチューブ……そんなか細いチューブが、今の私を生かしている。
その日、私は決意した。
白い部屋にやって来て、初めて私が抱いた決意。
それは、きっと、最後の望み。
◇ ◇ ◇
ある春の日。
私が白い部屋に移り住んで、一年が経とうとしていた春の日。
もう動かないと思っていた腕を動かして、私は窓を開ける。
いや、正確には窓を『叩き割った』。
勿論、素手で、ではない。
病室に備え付けられていた花瓶を、窓に向かって振り下ろしたのだ。
たったそれだけの動作で、私は悲鳴をあげそうになった。
それを堪えられたのは、窓から吹き込んできた風を感じたからだ。
あぁ……こんな何でもない事が、何故これほど愛おしいのか……。
伸ばし放題になっていた髪の毛がフワリと舞って……。
ホロリ、と、涙が溢れた。
さぁ、行こう……。
それが私の最後の望み。
筋肉は衰え、関節は軋む……壊れた人形みたいな体に鞭を打って、窓から顔を出した。
地上九階の景色は……圧巻の一言に尽きる。
……生まれ変わったら、鳥になりたい……。
そんな事を考えた。
鳥になって大空を飛べたら……どんなに素晴らしいんだろう。
今の私は人間だから、落ちることしか出来ないけど。
次はきっと、鳥になって。
さぁ、行こう。
私の心は、これまでにないくらい澄みきっていた。
ふっ、と息を吸い込んで……。
私は、重力に引かれた。
一瞬が、まるで永遠の様に感じられた。
私は今、どんな顔をしているんだろう?
笑ってる?
それとも、泣いている?
うん、多分私は泣いてる。
ごめんなさい、
ごめんなさい、お母さん。
ごめんなさい、お父さん。
ごめんなさい、
ごめんなさい、私。
今まで、ありがとう。
永遠の様な時が、一瞬に収束されて―――
私は空へと手を伸ばす。
今なら掴めるかもって、そう思ったけど……。
あぁ、やっぱり届かないや……。
―――私は地面へと墜落した。
後にはただ、静寂だけが残った。
読んでくれた方、ありがとうございますm(__)m正直なところ勢いで書きました故お見苦しい箇所が多々ありましたかと思いますが、それも作者の力不足です。 精進して行きたいと思っていますので、機会がありましたら、是非読んでやってくださいm(__)m